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2009年11月28日

言論NPO設立8周年にあたって

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 言論NPOは2009年11月21日、設立8周年を迎えました。言論NPOの8年間の活動と、今後の取り組みについて、言論NPOの監事である大学評価・学位授与機構准教授の田中弥生氏が工藤にインタビューを行いました。


言論NPO設立8周年にあたって

田中: 工藤さん、こんばんは。11月21日で言論NPOは8周年を迎えたそうですが、この間、言論NPOは何を目指して、そして今までに何を達成してきたのでしょうか。

工藤: 健全な社会にはきちんとした言論の役割が必要ですが、8年前、私たちには、しっかりとした議論をするという空間が非常に小さくなってきているという危機感がありました。私が目指したのは、その空間を広げるということです。真剣な議論から、政治や政策が動くような流れをどうしてもつくりたかった。それは既存のメディアでは限界があるので、私は非営利組織として、そういうことに挑戦したかったのです。

田中: 具体的にはどのような活動をしてきましたか。

工藤:  大きく言えば2つあると思います。ひとつは、きちんとした議論をする舞台をつくらなければいけないと思ったことです。当時気になったのは、日本の議論を見ていると議論のための議論というか、批判のための議論ばかりだった。日本の将来や未来に向けていろんな議論が行われて、政治が国民に対して何かを提案し、国民がそれを判断するというような、将来志向の議論というものが本当に少なかったわけです。

 それで私がまず取り組んだのは、将来に向けた議論です。そのための会議をつくり、その中で日本の実力の評価(パワーアセスメント)をしたり、日本の将来選択をどうするのかといったことについて議論を行ない、各党の政調会長を呼んで、どのようなビジョンを持っているのかを問うてみたり、その議論のプロセスを公開するといったようなことを行ってきました。そのような議論を行っているときに、ちょうど中国で反日デモが起こり、日中関係が大変な緊張状態になったわけです。私はこの状況を議論の力で解決したかった。アジアの中でもきちんとした議論の舞台をつくるため、私たちは北京に向かい、日中の民間対話を実現したわけです。

 もうひとつは、強い民主主義を実現するための言論です。そのために、私たちは市民側に立ち、その目標に向けた議論をつくりたかった。やはり強い民主主義というのは、市民が強くなっていかない限り実現できないと思うのです。本当の言論の役割というのは、日本の将来に対していろんな問題提起や議論をしていくということだけではなくて、市民が自分たちで自分たちの人生なり未来を決定するための判断材料や議論の場を提供する、ということも重要なのではないかと。そこで私たちが考えたのが、マニフェスト評価だったわけです。マニフェスト評価は、政治が、国民が何でも政治にお任せするような政治から、自分たちが当事者意識を持って、自分たちで政治を判断していくというような大きな政治の変化の流れのひとつだろうと思います。そのために、私たちはこのマニフェスト評価というものを立ち上げたのです。

田中: パワーアセスメントと、アジアの戦略についての議論から始まった日中の議論、それからマニフェスト評価という、3つの大きな柱で、言論NPOは活動されてきたということですね。工藤さんは実際に評価を行う立場でいらっしゃるわけですけれども、今の3つの柱を軸に振り返ってみたときに、ご自身の言論NPOでの8年間を何点だと評価されますか。

工藤: 51点くらいですね。

田中: 51点ですか。その心は?

工藤: つまり、その1点が大きいわけです。次に向けた手がかりが見えてきたということです。やはり、議論を継続していく中で、日本の社会の中で健全な議論をつくるということが日本の未来にとって非常に重要だということを実感したわけです。次の目指すべき方向もはっきりしてきたということで、そういう面では51点だと。

田中: 次の課題が見えてきた、展望が見えてきたということですが、ではこれから具体的に何をしたいのか、抱負をお聞きしたいのですが。

工藤: 言論NPOは12月にホームページを全面的にリニューアルするんですね。これからは「4つの言論」で、議論をさらに発展させようと思ったからです。

 これも、次の展望に関係するところですが、やはりこれからは「市民が強くなる言論」ということを重視しなくては、と思いました。日本では政権交代が実現しましたが、本当の意味でこの国を変えるためには、強い市民社会が必要だと思うからです。ここでは市民を強くするための様々な議論をするために、NGOやNPOの皆さんだけではなくて、田中さんにも協力してもらっていますが、いろんな学者さんに編集委員になってもらって、多くの人が参加できる議論の舞台をつくり、その議論を広く発信したいと思っています。それだけではなくて、やはり私たちは「政治に向かい合う言論」ということで、市民がきちんと政治に向かい合えるようにするために、マニフェストの評価をはじめ、様々な政策課題について学んだり議論ができるような言論をつくろうと思っています。それから、政治の評価をするだけではなくて、みんなで日本の将来を考えようというのが、「次の日本をつくる言論」です。その中では様々な日本の課題解決に向けて、期間を設けて議論をし、その結果をもとに政府や政党に対して提案をしていくということを考えています。4つ目は「世界とつながる言論」です。アジアや世界が多極化する中で、日本はどのような存在感を発揮していけばいいのか、つまり大きな意味での外交ということを民間が語っていくと。実は、国際社会の中で日本の針路を語り合う議論の場は私たちの初心なのですが、それは次の3年で必ず実現しようと思っているのです。

 今度のリニューアルでは、サイトをこの4つの言論というカテゴリーに分け、そこで議論が回るだけではなく、活動が動き、それが見える形にしようと、全面的につくり変えているところです。急ピッチで作業を進めていますが、おそらく12月中旬には公開できるのではないかと思っています。

田中: 楽しみにしています。それから8周年を記念して、パーティーを開催されるとのことですが。

工藤: はい。私たちの運動は、いろんな人に支えられて成り立っているんですね。そして、健全な社会には健全な言論が必要だと、日本の将来にとってきちんとした議論が必要だという思いを持っている人はやはり多いのだろうと思います。そういう方々にはぜひ、私たちの議論に参加してもらいたいし、こういう議論づくりに協力してもらいたいと思っています。そういう意味で12月22日、次の動きに向けてパーティーをやろうと。年末の大変な時期ですが、今年はやはりパーティーで締めくくって、新しい2010年には、私たちは本当の議論をやっていきたいと思っています。

田中: 私も参加させていただきますが、頑張ってください。

工藤: どうもありがとうございます。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

投稿者 genron-npo : 19:55 | コメント (0)

2009年11月20日

「事業仕分け」前半戦をどう見るか

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「事業仕分け」前半戦をどう見るか

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)



「事業仕分け」前半戦をどう見るか

田中: 工藤さん、こんばんは。事業仕分けに関して、工藤さんは新聞やテレビで発言なさっていましたけれども、紙面や時間が限られている中で、全体の真意が伝わりきらなかったところもあるのではないかと思います。そこでもう一度、事業仕分けについておうかがいします。前半戦が終わったということですが、今回の仕分けをご覧になってどのようにお考えですか。

工藤: 予算査定の一端がオープンになったということで、国民にとっても「予算とはこういうものなのか」ということがわかったという意味では良かったと思います。また、無駄に切り込むということで、いろんな手法を活用して政権が取り組んだということは、政権交代があったからこそ実現できたことですから、これは評価できると思います。しかしやり方が荒っぽい。何がムダなのかよくわからない。ルールなきショーを見ているような感じがして、違和感を覚えましたね。

田中: 確かにこの点については、インターネットなども含めて他の報道を見ていても、プラスの評価と同時に批判も出てきているように思います。ただ、問題の本質というものはそれ以外にもあるような気がしますが。

工藤: 私は3つあると思います。ひとつは、「無駄を査定する」ということそのものに問題がある。本来、無駄という場合には短期的な効果が見られないとか、社会的なニーズに応えていないとか、もう終わっている事業にお金がついているといった問題があるのだろうと思います。しかしこれらは本来、財務省の査定の中で解決すべきものであって、これまでそれを解決できなかったということのほうが問題です。にもかかわらず、今回の仕分けは、財務省の主計局がお膳立てしたメニューの中で、議事の進行が行われています。中には良い議論もありましたが、個人的な主観だけのヒステリックな議論が目立った。そうなってしまうと、この先、査定というものをどう考えていけばいいのかということについて、大きな課題が残ったように思います。
 2つ目は、そうは言っても、これまでのきちんとした査定ができなかった背景には、要求官庁の後ろに政治や利害当事者の既得権益の問題があるなどの理由で、なかなか予算を切れないということがありました。切るといっても「前年比~%」というくらいが精いっぱいで、結果的には何かのかたちで残ってしまうという構造的な問題があったのだと思います。しかしそれを改めることができるのは、政治しかないわけです。鳩山政権は政治主導を謳い、これまで官主導の中で生じてきた構造的な無駄や不都合を改めたいということで、取り組んでいるわけですが、今回のこの問題について、なぜ政治主導で取り組まないのかと。逆に、政治主導ということで各省庁に入ったはずの副大臣や政務官が、仕分け結果について「問題がある」と言っているのは、どういうことなのか。つまり、これは政治主導による改革に動きに限界があるということを示しているのでしょうか。私が一番気になるのは、こうした民間の力を借りての査定を行うことで、これまでの自民党政治がもたらしてきた構造的な問題を解決することについての政治の責任を、回避することになってしまうのではないかということです。
 3つ目に、政府が抱える課題の中には「無駄」という基準だけでは答えを出せないものもあるわけです。たとえばスーパーコンピュータなど科学技術にかかわるプロジェクトの中には、確かに疑わしいものもありますけれども、20分や30分という時間の中で「無駄だ」とか「国益上の問題は意味がない」などと言って判断してしまうのは、やり過ぎだろうと思います。いっぽうで、国と地方との関係や官と民との関係などはまさに、行政刷新ということで取り組まなければいけない問題ですが、それは「無駄かどうか」という基準で判断できることではないでしょう。行政刷新のための政策手段として、「無駄」ということだけをベースにしてやるということには、明らかに限界があります。

田中: 確かに今回の仕分けについては、「査定プロセスが透明化された」という切り口で見て評価をしている人が多いように思いますが、その背景には、これまで弱まってきた財務省の査定機能をどう考えるのか、そこをリードする政治主導の問題をどう考えるのかという、かなり本質的な課題が残されているというわけですね。

工藤: そうです。仕分け人の方々がどういう基準で選ばれたのかよくわからないですが、今回はその「民の力」を借りて、旧来の構造を変えていくという手法をとったわけですよね。しかしそれは本来、政治主導でやるのが鳩山政権の狙いだったのです。今回の一連の仕分けについては、そのプロセスをオープンにすることが目的なのではなく、結果として本当の無駄をどれだけ削減できたかということが、評価の対象になるわけでしょう。「廃止」とされたものが、今後の予算編成の中で復活するということはあまりないと思いますが、「一部削減」や「見直し」とされたものが、これから行われる査定官庁と要求官庁との間の調整の中で復活する可能性はあります。ですから結果に関して、政府は責任を持たなければなりません。事業仕分けを行う人たちは、言ってみれば責任がないわけです。予算に関しては、査定官庁と要求官庁が決め、内閣として予算書を決定することになるわけですから、この決定について、政府にはきちんと国民に対して説明してほしい。なぜその事業が無駄と判断されて廃止されたか、あるいは復活したかについて説明する必要があるということです。

田中: 今の時点では、仕分けの結果を見て「何兆円削減できたか」というところだけで評価をしがちですが、私たちが本当に着目すべきは、その後に出てくる予算書であり、それについて政府がどういうふうに説明できるかということなのですね。

工藤: そうです。マニフェストを軸とした政治のプロセスにおいて、予算書というのは約束を実現することを目的とした政策決定メカニズムの中の、ひとつ目のアウトプットなのです。だからこそ、予算書には非常に意味がある。しかし残念ながら、言論NPOでもこれまでのマニフェスト評価の中で、この予算書というものを評価しようと何度も試みてきたわけですけれども、非常に難解です。省庁別になっていて事業別に体系化されていない。ひとつの事業に関するものがいろんなところに入ってしまっていて、目的と、何のためにその手段を使うのかということが体系化されていないわけです。ですから、国民に対して開かれた予算のプロセスを実現したいというのであれば、まず予算書の改革をすべきです。国民にとって評価可能なものに、予算をつくり変える必要があります。同時に政府として、それを自己評価するしくみをつくらなければなりません。そうなれば、私たち言論NPOも含めて民間側がそれを評価できるようになるのです。それが本当の、国民に開かれた政治のあり方だということになるのだと思いますが、いかがでしょう。

田中: おっしゃる通りですね。マニフェスト評価を行ってみて、私たちが最後に突っ込みたいところはやはり予算書ですよね。逆に言えば、予算書を見ると、政権が何をしたいのかということがわかるのではないかと思いつつ、今のしくみではそれができないということですね。それが機能別の予算書などと言われているところだと思います。ここまでの制度改革には時間がかかると思いますが、ぜひ新しい政権に期待したいところですね。

工藤: 極端に言えば、政治の意志さえあれば、予算を変えたり、過去の政権が行ってきたものの中で無駄だと判断できるものをなくすことはできるわけです。それを、政治主導で行政刷新に取り組もうとしている鳩山政権に期待したということはあったと思います。それが果たして今回、十分に発揮されているのかどうかという点も重要でしょう。いっぽうで、今回の話は、麻生政権までの自民党政権の中に、既得権益に支えられたかたちでの構造的な無駄があったので、これを正さなければいけないということが前提となっているわけです。仕分けについては今、大騒動になっていますが、これを乗り切って来年予算編成を行ったとして、その後の査定はどういうしくみでやっていくのでしょうか。そこでも絶えず効率を考えていかなければならないでしょうし、無駄を削減するという視点で吟味していくことが必要になりますよね。今回と同じように、査定が不十分だということで、民間を巻き込んで仕分けを行うつもりなのでしょうか。それをしないというのであれば、政治主導の中で、今後査定機能をどのように強化していくのでしょうか。それらが今後の課題になっていくと思います。

田中: いずれにせよ、こういうしくみを導入したことによって、予算編成や査定といった政府の最も重要な機能の本質的な課題が、見えてきたということではないでしょうか。

工藤: そうですね。国民との約束を軸とした政治のプロセスが始まったという視点で、厳しく見ていかないといけないと思います。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

投稿者 genron-npo : 10:13 | コメント (0)

2009年11月13日

「北京‐東京フォーラム」で学生たちは何を思ったのか

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 先日開催された「第5回 北京‐東京フォーラムin大連」には、日本から5名の学生インターンが参加しました。学生たちはこの歴史的な舞台に参加して何を感じたのでしょうか。フォーラム閉幕直後の11月3日深夜、会場のホテルで彼らに話を聞いてみました。

<発言者(学生インターン)>
石田由莉香、楠本純、河野智彦、角陽子、水口智
<司会>
工藤泰志(言論NPO代表)

政治家は「言葉」で時代を動かせるのか

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工藤: 皆さん、ご苦労さまでした。「北京‐東京フォーラム」も無事終わりました。インターンの皆さんやボランティア、大連市民の方々には運営のお手伝いをしてもらったのですが、その支えがなかったらこのフォーラムは成功しなかったと思います。
 この対話は毎回、それぞれのテーマがあります。たとえば今回は、日中関係やアジアが、大きな転換点を迎えていると思います。中国の経済的な台頭はすさまじく、日本では政権が交代し、鳩山政権が誕生しましたね。東アジア共同体、という話もあります。そういう変化もあって今回、僕たちはアジアの未来に向けて本気の議論をしようと思って臨んだわけです。それがインターンの皆さんにはどう映ったのか、それを今日はぜひ聞かせてほしいと思います。ではまず、石田さんどうでしょうか?

石田: 私は今回初めて参加したのですが、特に渡部恒三さんが印象深かったです。壇上に上がってスピーチを始めた瞬間に、その場の人が全て引き込まれるというか、みんなの目線が集中したじゃないですか。そこに「やっぱりすごいな」と。「政治家ってこういう人なんだな」と思いました。40年以上政治家をやってこられたということで、中国とのエピソードも話されていましたが、やはり一人が壇上に上がるだけで場の雰囲気が…

工藤: 政治家というのは日本ではあまりパッとしないイメージですが、何がこれほどまで大きなインパクトを与えたんでしょうね?あの存在感は、完全に会場の空気を変えてしまいましたよね。角さんはどう思う?

角: やはり、それだけの経験を積んでいて、色々なこと、状況を全てわかったうえで発言した、という感じがしました。

工藤: 「政治対話」の司会者だった松本健一さんが大連に来る前に、中曽根さんと話をしたとおっしゃっていました。そこで政治家の話をしたときに、「政治家にとって一番大事なのは言葉だ」と中曽根さんが言ったと。確かに、政治家の発する言葉の重さは、その中身うんぬんは別として、その一言が状況を変えてしまうということがある。今までは何となくそうなのかなと思っていたけれども、本当にそうだということがわかりましたね。やはり政治家の言葉には重みがある、渡部さんは会場の雰囲気を読みながら、場を全てコントロールしていましたね。あれは「すごいな」と僕も思いました。すごいだけじゃなくて、やはり日本で新しい政治が動いているときに、その方向性やなぜ日本の政治が変わったのか、それを、非常に正確に伝えられたなと思った。日中の対話にとって非常に大きかったと思います。男性陣の皆さんはどうですか。

水口: 僕は「政治対話」の後半部分の担当で大連理工大学に行ったんですが、そこでも渡部さんは完全にスターでしたね。お話なさったのは全体会議と大体同じエピソードだったんですが、学生の方は日中国交正常化の詳しい歴史をやはり知らないんでしょうね。そこにああいった生の体験、それこそ具体的な話から始まって、どこからどういった道を通って周恩来さんに会って、国交正常化の道筋をつけたというお話があった。
 あともうひとつは中国残留孤児の話ですよね。厚生大臣のときにハルビンに行って、日本の残留孤児を育ててくれた中国の方にお礼を言ったという話です。そこから、確信を持って、「どんなことがあっても日本と中国は一緒になって世界に貢献すべきだ」ということを断言するわけです。何の躊躇もなく。それで学生がみんなわーっと盛り上がり、パネリストの人たちも前向きの議論を始めたんです。東アジア共同体の議論とか、今まで中国はあまり相手にしなかったり、あるいは「何か裏があるんじゃないか」と疑っていたような態度から、それを実現するにはどうしたらいいか、EUやフランスとドイツの例をどう考えるのか、あるいは「それを実現するためにあえて問題点を言いたい」とか、すごく未来志向の議論になっていった。

工藤: 政治は言葉で時代を変えますよね。今までの日本の政治家を見ても、そういう人はあまりいなかった。「この国の政治家はどうしようもないな」と。でも考えてみれば、二大政党制の中で鳩山政権に政権が交代して、ひとつの政治が変わったということで、何というか、アジアに対して、大きな展開を始められるんだな、と期待が膨らみました。

河野: 渡部さんのことで言うと、日本にいると日本の人もメディアも、政治家を信用していないというか、政治家の言葉の意味もわからないし、「どうせ自分の利害だけ考えているんだろう」みたいな見方が多いと思うんです。でも実際に同じ場所にいて話を聞いたら、やっぱり空気も変わるし、やはり日本の政治家である渡部さんが発言したということを中国側も重く受け止めている。それを見て、政治に対する信頼感が上がったというわけではないですが、その重要性の認識は変わりました。
 あと、イメージと実際が違うな、と感じたのは、世論調査もそうですが、普通に日本で生きていると、中国のイメージはそんなに良いものではない。でも、「安全保障対話」では、パネリストの人たちがすごくやり合っているわけですね。具体的な協力の可能性を探りつつ、対立点については議論を戦わせていた。そういうのを見ると、うわべじゃなくてちゃんと議論している場があったんだな、ということを、近くで見ていて感じました。


地域間では具体的な協力が始まっている

工藤: なるほど。今回、色々な日系企業の北京の総代表の人たちと話をしましたが、この「北京‐東京フォーラム」という対話のチャネルをみんな知らない。だけど、こうした対話の存在を知ってみんなびっくりしているわけです。日中間でこんなに本気で議論する場があるということを知らなかったと。でもね、こういうチャネルをつくっていかないと、アジアの将来はもうどうしようもないわけです。そういう意味では今回のフォーラムは、かなり成功したなと僕は思うんですね。
 「地方対話」はどうでした?今までは日中の政府間の動きを民間の議論で補強しようとしてきたんだけど、国同士の議論と地方間の議論は車の両輪なのではないかということで、前回からこの対話を始めたんですが。

石田: 国だとやはり漠然として大きすぎるというのと、距離としては今一歩遠いという感じがします。でも、いろいろな方が強調されていたのですが、地方では、国と比べてサイズが小さいので、生活に肉薄していて、交流が点ではなく面的なものになると。地方での交流は、ひとつその地域に関わる交流、たとえば経済交流を始めたとすると、その地域の政治や文化などにも関わっていくことになる。そういったことをすごく感じました。そして、そういう都市は日本と中国にはたくさんある。でも、地方の交流は深化しているのに、国と国との関係になるとずいぶん感じが違うのはどうしてかなと思いました。

工藤: 角さんは、僕と一緒に視察に行ったじゃないですか。 大連市のハイテクパークを視察してみて、どう感じましたか。

角: ああいうことを中国でやっているということを今まで私は知らなかったので…あのパークが日本の企業、大企業だけじゃなくて中小企業ともつながっているということを会議室で説明されたときに、そういうレベルでの交流があるということを私自身は生活の中で感じていなかったので、驚きました。

工藤: でもたとえば、電話で104をダイアルしたらインドのバンガロールに世界中からアクセスできたり、日本からも104を回したら大連市のコールセンターにつながったりするみたいに、ひとつひとつが世界中とつながっていくような時代になっているわけだよね。それは今回の大連市の説明にあったんだけど、世界経済というものは、日本と中国も含めて、つながっているじゃないですか。国と国がどうだという理想的な議論よりも、完全につながっちゃっているわけです。環境問題についても、「環境問題をどう解決するか」という大きな議論よりも、具体的な環境技術協力の話とか、大気汚染や水質汚濁をどう改善していくかとか、そういう動きがもう地域間では具体的に始まっている。日中間ではすでにかなり大きな、無視できない動きが始まっているわけです。でもそれが議論の世界になると、どうしても期ズレが生じてしまって、なかなかそれは報道されない。
 水口君も視察に一緒に行きましたが。

水口: 視察で感じたことでいいなら、「中国はすごい大国になるな」と思いましたね。ITパークではなくて郊外で、203高地から東鶏冠山に移動している時に、道端に工事現場があったんですね。何かの柱がたくさん立っていて、たぶん鉄道の高架の支柱をつくっていたんでしょう。どうして何もない野原というか原野に、いきなり高架の鉄道をつくろうとしているのか。市街地から30分もかかるところにまで広げて、しかも地面に線路を引けばいいのに高架にするというのは、そこまで市街化するということを予定しているということでしょう。だから、大連という地方都市ですらそこまで広げて電車をつなげているわけで、「一体どこまで成長するのかこの国は」と感じました。

工藤: 建設中のビルもたくさんあって、あの状況を見ていると大連市は東京を超えると思ったよね。世界経済がそこまで大きくなっているのかということを感じた。日本はどうですか。

水口: そういうマインドが日本にはないですよね。

工藤: それはまずいな、ということでしょう。

水口: そうですね。大きなインフラをつくろうというマインドはもういらないと思いますが、うまく軟着陸して収めようというか、経済とか色々なものが縮こまるのを、激変緩和をしてうまく小さくなっていこうという雰囲気を最近の日本に感じるんですね。何というか、国としてプラスの政策を打ち出すのではなくて、マイナスの問題を何とかうまく処理しようということばかりで、年金でも医療でもそうなんですけど、日本として何か新しい政策を打ち出すことが、まあ政権交代で少し変わったのかもしれないけど、そういうことを感じてなくて…


中国の大国化への歩みと日本の閉塞感

工藤: 203高地や旅順から帰るときに、大連市では、照明も違った。日本の、東京の街が明るすぎるのではないかと、このくらいの暗さでいいんじゃないかなと思いました。しかし、街はそう明るくなくても、大きな勢いを感じました。一方の日本は当然、このような経済成長というレベルではなくて、もっと高度なかたちで新しい時代を考えないといけない状況になっているわけです。でも今はその方向が見えない。国としての方向性が見えないのに、中国がかなり明確な、具体的な成長を見せてきていると。そう感じたわけですね。

楠本: 僕が疑問に思っているのは、日本で国全体としての目標のようなものを設定することが、果たしてこの先可能なのかどうかということです。中国の方が、そういうことをやりやすいという面はあるでしょうけれども。

工藤: でも、その経済成長の先にある姿をどう考えているのかということがわからないから、隣国は不安になっているわけです。ただ、実際に北京や大連に来てみると、間違いなく成長し、発展しているのが、わかる。この状況を、皆さんはどう思いますか。
 
水口: 僕が考えたのは単純な話で、中国が成長しているといっても、たとえば大連のITパークなどでは「もっと日本企業に来てほしい」と言っていたり、今日のフォーラムでも日本の技術とか進んでいるところを教えてほしいと、中国側は何度も何度も言っているわけじゃないですか。それを日本の方が曲解というか、くせ球として考えすぎているのではないかなという気もします。勘ぐったりしないで、単純に協力してあげればいいじゃないかと。

工藤: 狭い発想ではなく、国境を越えろということね。

水口: そうです。別に深いことを考えずに。学問的にはバンドワゴン、勝ち馬に乗るということなのかもしれませんけど、「協力してほしい」と言ってもらっているうちが華ですよ。「いらない」なんて言われたらそれこそ終わりですよ。「日本の技術なんて必要ない」なんて言われないうちに協力して、切れないくらいの絆をつくる、そっちの方向でいいんじゃないかなと僕は単純に考えていますが…

工藤: 河野君はどうですか?

河野: そうですね。さっきの話とも重なりますが、やはり国と国とで対立しているというのではなくて、たとえば経済の分野では対立だけではなくてウィン・ウィンの関係でいけることも多いので。それならば別に政府と政府でやらずとも、たとえば大連市という地方政府と日本の地方政府との関係から築きあげていくということで、最終的には国として良い関係を築いていった方がいいのではないかと思いますね。

工藤: 確かに今回は地方のトップが大勢、この大連市に集まりましたよね。しかも議論が非常に具体的になってきた。「日中関係をどうするか」という総論的な話や、「地球環境をどうするか」とか「低炭素社会をどうするか」という理念的な話よりも、地域間は具体的な話をしている。だからもっと現実の、リアルな状況に対して具体的な議論にした方がいい、ということですね。

河野: そうですね。

工藤: しかしこれは意外に大変だぞ。石田さんはどうですか?

石田: 私は「地方対話」に出たのですが、「地方対話」ではさっきの水口さんや河野さんが言ったみたいな話になっていたんですね。実際にそういう話は地方の現場レベルでは動いていて、日本国内だと高齢化とかで市場が縮小していくので、外に市場を求めるということで中国とかに出ていきたいという中小企業がいる。それを地方政府がバックアップすることが必要な役割になる、ということがひとつ、両国がウィン・ウィンでいくためのテーマだったんです。「それはそうだな」と思ったのですが、でも、さっきも言ったのですが、なぜ地域レベルの話になると逆に具体的な話になるので、あまりこう「日本」の国益とか「中国」の国益という話よりも、「どっちにとってもウィン・ウィンになるからからつながろう」となるのに、なぜ国のレベルになった時にはそういう話にならないのか。そこが、いくら地方でつながって根を張っても、幹とか枝とか花の段階になった時、というのは国のレベルだと思うのですが、歴史問題など解決しない問題があるせいで、日中関係はコンフリクトを起こしているなと。地方の現場の知事さんの話を聞いていて、逆に地方はものすごく進んでいるということがわかったぶん、どうして地方と国では乖離が出てしまうのだろうかと…


「東アジア共同体」に対する中国の反応は

工藤: なるほど。現実的な経済協力や具体的な協議が始まっているのに、上のレベルで、日中がどうしたいのかということがなかなか見えない。今回は、鳩山さんが東アジア共同体という議論を始めたので、フォーラムではその議論ばかりになっちゃったよね。多分、民間の対話では共同体の議論が行われるのは、初めてだったと思うけど、分科会の議論はどうだったのかな。

楠本: 全体会議ではそういうことを感じるところがあったけれども、分科会の中ではあまり感じられなかったように思います。

工藤: 分科会の中でそれほど大きな展開にならなかったというのは、アジア共同体というアジェンダ設定が分科会にはなかったからだろうね。

楠本: 僕は「経済対話」の担当だったんですが、ドル機軸通貨体制や人民元レートの切り上げなど、通貨制度に関するテーマはよく議論にのぼるけれども、日本と中国では基本的に主張が違う。お互いに「違いますね」ということは、対話をすればわかるわけです。でもその先をどうすればいいのかなと。

工藤: 冒頭に「政治の言葉が重要だ」と言ったけれども、政治の一言が、今までの積み上げ的な議論を超えてしまう場合があるわけです。今はそういう局面に入れるかどうかの瀬戸際になっている。だから最後に行われた記者会見での中国の新聞記者の質問は「東アジア共同体」ばかりだったでしょ。

石田: 4分の3というか、4分の3.5くらいがそうでした。

楠本: 分科会は下から議論を積み上げていくという発想が強くて、政治が唱え始めた「アジア共同体」という大きな理念と、そこでの議論がつながっていない部分もあったのかなと思います。


民間対話の意味とは

工藤: 今までの議論が、フェーズ的にも大きく変わり始めているよね。でも、政府間で東アジア共同体を議論するよりも前に、民間でこういう議論が始まっているということの意味はすごく大きいと感じませんか。

角: 特にメディアの分科会だから感じられたことかもしれないですが、民間だからこそ、そういうことを気にせずに本音で議論できるというか。特に分科会の後半がすごくて、本音で相手にぶつかるというか、かなり率直な質問を相手にぶつけていて、こういうことは政府間ではなかなかできないなと思いました。

工藤: 僕も「メディア対話」の前半に出たけれども、あまりにどうしようもなくて、絶望的な気分で会場を後にしたわけですよ。ただ後半に出た人たちの顔がみんな輝いていて、口々に「すごく良かった」「感動して涙が出た」と言っていたので、「一体何が起こったんだろう」と思いました。司会の国分先生が議事進行をかなり厳格にやってくれたこともあると思うけれど。

角: 「そんなことを言ってもいいのかな」と思うようなことを質問したりしていて。聞いていて面白かったです。

工藤: 本音で何でも言い合えるようなチャネルが、国際関係においては必要だということですね。

石田: 私の場合は地方だったので。外交の場合はどうしても「国と国」という話になりがちですけれど、地方の場合は、私も全然知りませんでしたが、本当に身近なレベルでの交流があって、身近な生活の延長が外国につながっているんだろうなということを、本当だったらかなり実感できるのだと思いました。海外と自分との間で肉体的な実感というか、肉薄している実感というものがあるんだなということ自体に、感動したというか。それから、国という話になったときに、それと比べてまだすごく差があるというか。

工藤: 今まで外交というものは、外務省とか国家がやっているものだと思われていた。でもそうではない展開が、民間とか地域レベルで始まっているということだよね。そういう重層的な関係の中で外交が行われている。

石田: はい。知事さんとかもみんな、東アジア共同体というものをつくっていくときに、都市と都市とか地域と地域との交流が基礎になるということをすごくおっしゃっていて。それがすごく印象的でした。

工藤: 良かったね、そういう話が聞けて。

石田: はい。なかなかそういうチャンスはないので。

工藤: 最後に河野くん。

河野: そう言われると緊張しますが・・・
 民間側が動いているというのは外交以外でも同じだと思います。言論NPOでは非営利組織の議論などもやっていますが、政府の限界ということが言われていて、それに対して市民が動かないといけないと。

工藤: まさにこの現実がその局面でしょう。

河野: 国際関係でも、基本的には安定的な関係が続いていくので、その中で何かを動かすというか、好転させないといけないというときに、民間がそれを担えるというのはすごくいいことだなと思います…


未来は自分の手で切り拓く

工藤: つまり「参加」こそがこの対話の全てなんですね。「偉い人たちが何か議論をして、自分たちは手伝っている」という思いではだめなんですよ。みんながこの時代を動かす流れの中に参加している。その感じが、このフォーラムの意味なんですよ、本当は。
 外交も経済も、全てのドラマは誰かがつくるのではなくて、自分でつくれる。それを若いときにみんなに知ってもらいたい。外交も同じです。その困難は大きくても、そういう状況に本気で向かい合うことが、時代に参加することになる。人生は一度しかないし、僕たちは同じ時代に生きているわけだから、頑張ろうな。それが僕の今の気持ちです。

水口: インターンがいなくてもフォーラム自体は確かにつぶれないかもしれないけれど、議論は日本に伝わらないでしょう。ボランティアの留学生も含めて、キーボードの打ちすぎで手が痛いのを必死に我慢して伝えていた。議論の内容をリアルタイムで伝えることがこのフォーラムの目的の半分くらいだったわけだから。

工藤: この対話をやはり伝えたいよね。

水口: それに参加することができた…という一方で、こんなにいい議論をしているのに、手で打った文字を画面で見ると「何てつまらない文章になってしまうんだろう」という葛藤もあって。

工藤: みんなの原稿はそんなにおかしくなかったよ。

水口: テクニカルな問題もありますが、僕らが頑張って頑張って伝えているのが今の段階だけども、10年後もこの段階ではいけないんだろうなと思います。もっと市民が気軽に議論に参加できるようになってほしい。テクノロジーはあるわけだから、それを使う意志のある人にもっとたくさん出てきてほしい。国際会議だけではなくて国内の会議でもいいけれども、こういうことを試みない主催者にも、それを要求しない国民にも問題があるのではないか。それが今、言論NPOのような団体が取り組んでいる市民の活動みたいなかたちでもっと広がっていって、10年後にその道が国家や外務省の行う外交とクロスすれば、日本の外交にとっても、盛り返すチャンスになるのではないかと思います。

工藤: 自分たちの人生にどういう可能性があるのか。大きな展開が始まっているわけだからね。それをぜひ考えてほしいと思う。僕はもう歳だから、日本の社会を変えたいと思うけれど、間に合わないかもなぁ…

角: そんなこと言わないでください!

工藤: でも何とかしたいと思っていて。何らかの世界的な役割を果たしたいと思っています。その役割とは何なのかという合意形成から始まって、どうしていきたいのかということに関して、日本の市民も本気で考えないといけない局面に来たな、と感じているんです。

水口: 大連理工大の政治対話で、中国側のパネリストの方が「中日関係を良くするためにあえて問題点を指摘したい」と言ったんですね。ひとつは歴史問題だったのですが、さらにお互いのコアの利益を洗い出したうえで、それを尊重し合えるような関係になるべきだという話をしていました。それで、中国の利益は何かといったときに、いろいろあるけれども主に領土的なこととか台湾関係などが挙げられていたわけです。それで、じゃあ日本の利益は何なのかといったときに、「何を言うのかな」と思ったら、「日本はこれから経済的な存在感は落ちるけれども、国際社会の中で何らかの政治的なリーダーシップをとりたいと考えているのではないか」と。それを聞いて、図星というか「バレてる」というか。指摘されてしまっている、向こうから期待されているのかもしれませんが。そこまでわかっているのに…自分としてもそうしたいと思いますが、その先どうすればいいのかという思考は自分の中でまだ整理されていないです。

工藤: 大連理工大学での学生との対話はぜひ、全文を公開しなくてはと、思うね。日本の閉塞感は、この国が世界の中で何をしたいのかという合意がないということにあると思う。政治は未来を国民に語ってないし、先送りだけを繰り返している。それなのに、そんな日本を横目に、中国がかなり大きな展開を見せ始めた。
 マラソンで言えば、第1中継車が日本とアメリカを追っていたのに、気づいたらトップはアメリカと中国になっていて、「第2中継車の工藤さん、どこにいますか?」といったらずっと後ろを走っていたと…そういう状況ですね。それもしょうがないのかもしれないけれども、日本が国際社会の中で今後どうしていくのか。それを、市民が考え、政治を突き動かしていくしかないね。帰国したら、まず言論NPOで考えよう。そうしないと、少なくとも日本の政治からはその提起がまだないわけだから。今回はこういうかたちで、僕たちがまずアジアの現実を知って。しかも中国の地方都市においてもそういう現実があるということを知ったわけですが、日本側がどう考えていくのかということが今問われていると。
 今回の参加で、自分の未来を見つける手がかりをつかんでくれたのだとしたら、皆さんを大連に連れてきた甲斐があった、というものです。夜も遅くなりました。今日の座談会を終わりたいと思います。ありがとうございました。

投稿者 genron-npo : 11:09 | コメント (0)

2009年11月 4日

フォーラム全日程を終えて

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 フォーラムを終えてまず感じているのは、ようやく折り返し地点に来たなということです。日中関係が最悪のときにフォーラムを立ち上げて、当面は10回開催することを中国側と合意しています。これを軌道に乗せるまでに5年かかりました。次の5年はこの成果の上に立って、さらにこの対話を前進させなくてはなりません。これからは抽象的な議論でお互いの考えをぶつけ合うのではなく、具体的な課題解決や、日中やアジアの未来に向けて具体的な何かが動き出すような対話をつくっていかなければいけない。これは「大連宣言」にも盛り込まれたことです。

 一方で この対話が何かの価値を生み出していくようにするためには、議論のあり方や方法について、いろいろな改善しなくてはなりません。たとえば、この対話を年に1回で終わらせるのではなく、継続的な議論を経て、このフォーラムに結びついていくようなかたちにできないだろうか、あるいは言論NPOや中国日報社の発信媒体を利用して、そうした議論をつくれないだろうか。いろんな可能性があると思います。

 私が嬉しかったのは、まさに予算委員会が行われている大変な時期に、日本の政界から、渡部恒三さんを含め4人の政治家の皆さんが参加してくれたということです。かなり困難な局面であったにもかかわらず、それを乗り越えてこのフォーラムを発展させなければいけないという思いが、両国の中にきちんとある。それを今回は再確認できたということも、嬉しかったですね。

 もうひとつ、私が説明しなくてはならないのは、このフォーラムは手作りで行っているということです。北京での大雪が原因で、政府関係者が来られなくなったり、しかしそんな中、通訳の方々が深夜にマイクロバスを乗り継いで駆けつけてくれたり。大連市からもたくさんの市民ボランティアの方々にご協力いただきました。日本人留学生も参加してくれました。皆さんの思いに、今回のフォーラムは大きく支えられたのだと実感しました。

 それから、もうひとつ、今年のフォーラムのタイミングが私たちの思っていた以上に歴史的なものだったということです。建国60周年を迎えた中国が経済大国として台頭しつつある中、日本では政権交代によって政治が大きく変わりました。しかし、一方で私たちが行った世論調査では、この5年で政府間関係は改善したにもかかわらず、お互いの相互理解が進んでいない、つまり、変わらないものと変わったものが共存しているのです。

 次の5年ではこの問題に取り組みながら、このフォーラム自体が未来志向でアジアの将来や課題の解決に取り組む必要があります。これはチャンスだと思います。実際、大会期間中の議論を聞いていて、このフォーラムが新しい日中関係やアジアの未来に向けて具体的な議論を始めるためのきっかけになるのではないかと思いました。

 鳩山政権が提唱した「東アジア共同体」についてはフォーラムでも活発な議論が行われていて、このメッセージが中国社会に想像以上に伝わっていることがわかりました。中国側は明確な発言を避けるようなところもありましたが、中国のメディアは高い関心を示しており、記者会見での質問もこの話題に集中しました。

 共同体の議論は始まったばかりで、まだまだ見えてこないところも多いですが、これまで過去を議論してきた日中が、新たな関係に向けて同じ土俵で議論していこうという動きが始まっているのだと感じました。また「気候変動の問題には取り組まないのか」と中国の記者から聞かれた時には少し驚いたのですが、このフォーラムがアジアや世界の課題の解決に取り組むことへの要望や期待は、かなり高いわけです。次の5年ではそれに応えないと、と思ったわけです。


 皆さんにはインターネットを通じてこの議論を見ていただいたと思います。議論は毎日、公表しましたが、これは30人を越す、現地の日本人留学生や日本からのボランティアが、議論を一刻も早く伝えたいという思いで徹夜で努力した結果です。皆さんに知っていただきたいのは、アジアの将来に向けた議論が民間の力で動き出していると、いうことです。

 また大連理工大学で行われた「政治対話」には300人以上の学生が駆けつけ、会場に入りきらなかったと聞きました。次々に質問が出たと。中国の若い層が日本の政治の変化や、アジアの未来に向けた対話に強い関心を持っている。私たちはこの勢いを来年の東京大会に結びつけたいと思います。東京でもぜひこのような学生との対話の機会を設け、若い人たちの熱気にも支えられた対話をつくりたいと思います

 言論NPOでは今回のフォーラムの報告書も発行する予定ですので、ぜひご期待いただきたいと思います。


投稿者 genron-npo : 22:01 | コメント (0)

2009年11月 2日

開催直前!工藤が意気込みを語ります

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新しい日中関係の構築に向けた一歩を踏み出せるか
―開催直前!工藤が意気込みを語ります

今年のフォーラムでは何がテーマとなるのか。両国に問われる課題とは何か?
開幕を直前に控えた工藤が、会場から語ります。

投稿者 genron-npo : 08:15 | コメント (0)

2009年11月 1日

いよいよ今夜、フォーラム開幕です

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左・チャイナデイリー高岸明氏

 工藤です。いま、大連にいますが、こちらはとても寒いです。北京では大雪が降っていて、飛行機の運航状況にも影響が出ているようです。そのような中、私たちは第5回目となる日本と中国の対話を、今日の夜から始めます。

 今回のフォーラムは、政権交代があり政治状況が大きく変わっている日本と、経済的な台頭がますます高まっている中国が、アジアの未来に向けて新しい関係をつくることができるか、あるいはそのための準備を始められるか、ということが大きなテーマとなります。

 私たちはこれまでこのフォーラムを4回開催してきました。ちょうど5年前は、日中関係が最悪で、中国の学生がデモを行うなど、緊迫した状況でした。そのようなときに、日中関係をなんとか改善するというだけではなくて、民間レベルで本気の議論をし、アジアの未来に向けてひとつの流れをつくりたいという大きな思いがありました。
 4回のフォーラムを開催する中で、いろいろ課題が見えてきました。それは、政府間関係は良くなってきたものの、国民間の意識はそれほど大きくは変わっていないということです。それがはっきり分かってきました。
 この5年間、私たちは毎年、日中共同世論調査を行い、両国民の意識を把握してきました。その調査によると、政府間関係の改善に伴って、国民の対中感情や中国の対日感情がある程度は改善しましたが、なかなかその先に進まないのです。進まないだけではなくて、お互いに対する認識がまた悪くなってきている。

 この構造は何なのかと考えると、中国が依然日本のことを過去でしか見ていないということがひとつあるでしょう。中国国民の中には、日本を軍国主義だと思う人がいまだに半分近くいます。一方で、世界は大きく変わっていて、中国も大きくなっている。そのような隣国の台頭に、日本国民は不安を募らせているのです。つまり過去と未来について、お互いの認識に距離、ギャップがあるのです。この2つの大きな国が同じ土壌で議論がなかなかできないということは、大きな問題です。

 アジアの未来を考えるときに、政府間関係はもちろん重要です。が、それだけではもう前には進めません。民間が本当の意味で語り合い、議論をし、交流をして、新しい環境をつくるための努力をしなければ、次のステージには進めないのではないでしょうか。

 今回のフォーラムは、そのために日中のキーパーソン約100名を集め、政治、安全保障、地方間対話あるいはメディアについて、幅広い議論を展開していきます。
 いま日本では国会が開かれていると思いますが、民間主体でアジアの将来に向けてこのような対話が民間ベースで自発的に動いていることをぜひ皆さんにも知っていただきたい。大連で繰り広げられる議論は、言論NPOのサイトで順次公開していきますので、ぜひご覧ください。

 それにしても大連は本当に寒いです。皆さん風邪をひかないように。

投稿者 genron-npo : 19:08 | コメント (0)