世界の課題に挑む

3日間にわたる「東京会議」が開幕 ~「東京会議」初日 非公開会議報告~

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 3月3日、東京都内の国連大学において、世界10カ国のシンクタンクの代表が東京に集まり、3日間にわたる「東京会議」の議論が開幕しました。初日の3日は「東京会議」創設を記念した公開セッションを翌日に控え、各国間で非公式会議が行われ、ざっくばらんな意見交換が行われました。

 会議ではまず、3カ国のシンクタンク代表から基調報告が行われました。


リベラルな秩序の未来を守るために、それぞれの国の首都で「賢明な政策選択」を

MHI_3193.jpg 最初に発言した、アメリカ・外交問題評議会(CFR) シニアバイスプレジデントのジェームズ・リンゼイ氏は、グローバリゼーションの恩恵を最大限に享受し、空前の繁栄をしてきたアメリカの中で、取り残された人々の不安が高まり、それを上手くすくい上げたのがトランプ氏の大統領選勝利の要因だったと振り返りました。そして、国際関係を「ディール」の視点でしか見ず、マルチラテラリズムに価値を見出していないトランプ大統領の登場は、「これまでアメリカが75年にわたって守り続けてきた、自由と民主主義を基調とするリベラルな世界秩序を弱体化させるのだろうか」と懸念を示しました。

 一方で、リンゼイ氏は、アメリカの政府内部や議会においても「既存の秩序を再復興すべき」と考えている人が多いことを指摘。この数週間の動きを見ても閣僚がトランプ大統領の発言をチェックし、修正しようとしていることから、アメリカがこのまま既存の秩序の担い手から撤退するかどうかは分からない、としました。

 さらに、「リベラルな秩序の未来を守るために重要な点」として、アメリカ以外の国々が、リベラルな価値や規範が重要であることを再認識し、それを守るための努力をしていくことを挙げました。そしてリンゼイ氏は最後に、「リベラルな秩序は必然ではなく、政策選択の結果」とした上で、「リベラルな秩序の将来がワシントンだけで決まってはならない。それぞれの国の首都で『賢明な政策選択』をしてほしい」と呼びかけました。


民主主義のプロセスで答えを出せない限り、非現実的な政策を掲げるポピュリストたちがますます台頭する

MHI_3264.jpg 続いて、ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)調査ディレクターのバーバラ・リパート氏が。「移民、難民とヨーロッパにおけるカオス」と題して報告を行いました。リパート氏はまず、中東から大量の難民が押し寄せた2015年の夏が、欧州にとって新しく、大きな転換点になったと回顧。対応をめぐって欧州内で意見が分かれ、締約国間での人の自由な移動を保障し、欧州統合の一つの要でもあったシェンゲン協定が危機に晒され、EUの政治的結束に大きな打撃をもたらし、ひいては安全保障問題にも影響が出てきていると説明しました。

 また、各国が「カオス」から市民を守るために対策を強化し、当初は難民受け入れに積極的だったドイツも「オープンな抑止」というスタンスに転換してきたものの、欧州の市民は政府が対応に失敗したと見做していると解説。そのように課題を解決できなかったエリートに対する反発が高まり、反リベラルが勢いを増し、それがブレグジットや極右政党の台頭につながったと語りました。そしてリパート氏は最後に、「だからこそ民主主義のプロセスで答えを出せない限り、非現実的な政策を掲げるポピュリストたちがますます台頭してしまう」と警鐘を鳴らしました。


グローバルな課題は山積みされている中、やはりマルチラテラリズムは不可欠

MHI_3289.jpg 最後に登壇した、カナダの国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁であるロヒントン・メドーラ氏はまず、現在の国際的な自由経済秩序の動揺は、トランプ大統領の誕生やブレグジット以前にすでに問題の萌芽があったと指摘。具体的には、グローバル化に伴う生産拠点の拡大多様化の下、スキルがないけれど人件費が安い新興国の労働者が、スキルがないけれど人件費が高い先進国の労働者を「追い落とした」ものの、先進諸国の政府は、そうした労働者のスキルを高めるための教育充実などの手当てをしてこなかったと解説。そうした政府の対応失敗が国内でグローバル化に対する不満を高めたと語りました。特に、現在の経済は単なるモノづくりではなく、アイディアが何よりも価値を生み出す構造になっていることも、そうしたスキルのない先進国の労働者を取り残すことを加速させていると述べました。そしてその結果、WTOに対して先進国が消極的、新興国が積極的な姿勢になっているなど、従来とは国際経済秩序が真逆の構造に転換していると語りました。

 その上でメドーラ氏は、そのようにグローバル化に対する反発が高まる中、マルチラテラリズムを守る上で、重要な役割を担うのが、G7やG20だと主張。リンゼイ氏が言うように、アメリカ国内でうまくチェック&バランスが働くことだけを期待するのではなく、他の国々も努力をしなければならないとしました。

 特に、金融危機が起こらないようにするためのリスク管理や、少子高齢化、財政問題、環境問題からサイバーセキュリティに至るまで、グローバルな課題は山積みされているのだから、そうした課題に取り組むためには「やはりマルチラテラリズムは不可欠」と主張するとともに、居並ぶ10か国のシンクタンク代表者たちに各国での取り組みを求めました。

 基調報告に続いて、意見交換に入りました。ここではトランプ政権誕生による世界情勢への影響などについて話し合われました。


トランプ大統領の誕生によって世界秩序の何が変わるのか

 まず、安全保障に関しては、トランプ氏の発言が選挙時と比較してかなり変化が見られるため、楽観的な見通しを示す参加者もいました。

MHI_3233.jpg 一方で、貿易に関しては、3月1日に出された通商政策課題に関する政権初の年次報告書では、WTOルールに従わないことが明言されていたため、「WTOルールに基づく既存の通商秩序が壊れてしまうのではないか」と深刻な懸念も寄せられました。

 こうした秩序の破壊については、他にも、「民主主義ではリベラルな価値観を守れず、リベラリズムというのはもう存在していないのではないか」、「民主主義がうまく機能している、と思っている人は減り続け、民主主義への見方が変わってきていることは大きな変化ではないか」、「トランプ氏は大統領選挙で、国のパワーが弱体化し、雇用も縮小して、国全体が内向きになる中、『一体、何が起きているのだ』と声を上げていたが、その言葉通り、今は"不確実性の時代"と言える」との発言が飛び交うなど、将来を不安視する声が多数寄せられました。また、「これまでのような米国のリーダーシップが失われ、多くの発展途上国は不安定化し、今後、ASEANなど地域組織の役割が重要になってくるのではないか」、「EUでは大西洋間の問題が議論になったことはないが、これからは対米国の政策を考えなければいけない。米国の指導力が期待できない中で、EUの力、一体性を見せていかなければならず、同様の価値観を持っている国々と同盟していくことも必要だろう」などの意見も出されました。

 さらに、トランプ大統領については、その資質についても疑念があがり、「トランプ大楼超アは新しい産業がわかっておらず、ゼロサム・ゲームをやっているようで、上手くいくはずがない」、「NAFTA交渉でメキシコに圧力を掛ければ、いろいろな影響が出てくる。貧困化が進み、反米主義も生まれるだろう」と懸念する声が寄せられました。

 そうした中、「米国第一主義」を掲げる大統領を制約する方策はあるのか、について議論が移ると、「非現実的な政策は、議会が承認せずストップをかけ、世論の影響も出てくる。トランプ大統領は不人気な大統領だが、米国の世論は分断されており、民主党支持者の90%が不支持でも、全国的には40~45%の支持があり、共和党支持者の80%が支持している。今後は、支持率を全国平均で見るのではなく、共和党の支持が減ったら問題であり、トランプ大統領も無視できなくなるだろう」との見方が示されました。
また、増税をせず、社会保障の給付をカットしない、という政策がどこまで可能なのか。赤字が増え続けるだけでは、共和党だけでなく"草の根"運動として支持を集めるティーパーティーから非難が集中する、との指摘もありました。


トランプ登場は中国を利する面はあるが、中国自身の課題も大きい

MHI_3257.jpg 続いて、トランプ政権の対極として、中国についても議論が交わされました。「今は米国につくか、中国を取るかというオプションが限られており、地域的にも近いため東南アジアの国々は中国に傾くしかなく、これが中国を利することにもなっている」との声や、「EUは地域的複雑さを抱えており、グローバル・パワーになるかどうかわからない。米国に対する全体的な懸念が、中国のメリットをより大きくしているのではないか」と、現実的な視点が指摘されました。

 一方で、多くの人たちが人口動態としての高齢化、経済モデルの永続性、官僚機構の腐敗、中国人自身が信じていない政治制度、政治が煽る偏狭なナショナリズムなどを中国の弱点として挙げ、今後は、米中二国間の世界での役割を見ながら、その対応を工夫することが重要、との声も上がりました。

 その他にも、欧州情勢や北朝鮮問題、さらには自由が制約されていく貿易とは対照的に、「自由すぎる金融」に対して、どうグローバルガバナンスに基づく管理をしていくか、など多面的な議論が展開されるなど、3日間にわたる「東京会議」の初日の議論では、活発な意見交換が行われ終了しました。


3月4日「東京会議」インターネット中継のお知らせ

 3月4日の公開セッションの模様は、USTREAM(日本語)とYouTube Live(英語)で中継いたします
  USTREAM(日本語中継):http://www.ustream.tv/channel/genron-npo-live
  YouTube Live(英語中継):https://www.youtube.com/user/genron/live

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