「モーニング・フォーラム/ゲストスピーカー ブルース・ストークス氏(ピューリサーチセンター・ディレクター)」報告

2016年11月09日

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 アメリカ大統領選を数日後に控えた11月4日(金)、言論NPOは都内ホテルにてアメリカで最も著名な世論調査シンクタンクであるピューリサーチセンターのディレクター、ブルース・ストークス氏をゲストスピーカーにお迎えしてモーニング・フォーラムを開催しました。今回、ストークス氏には、「アメリカ国民の世論にみる米大統領選と日米関係の行方」と題して、アメリカ大統領選に関する米世論の動向や外交政策の今後についてお話しいただきました。


アメリカの現状から読みとく大統領選挙

23.jpg ストークス氏はまず、アメリカの有権者層の多様化が進んでいることや年齢・人種・エスニックグループ別に異なる支持傾向をピューリサーチセンターのデータを基に説明し、特にトランプ支持層の中心である白人男性が、アメリカの人口構成の多様化に不安感を高めている現状について解説しました。また、歴史的に見れば抑圧されてきた女性やマイノリティーの社会的地位が向上や収入が向上する一方で、白人男性の相対的な地位が低下し、実際にこの層の収入が過去50年間減少し続けており、クリントン支持層である女性・マイノリティーと、トランプ支持層である白人男性のアメリカ経済に関する現状認識に大きな差が生まれていると語りました。さらに、社会的な不平等さや経済格差の現状認識について、年齢・人種・エスニックグループ間、また党派支持層間の認識に大きなギャップがあることを指摘IMG_0962.jpgしました。その上で、共和党支持層が、より国際的にアメリカの力が後退していると認識しているデータを紹介し、最もグローバライゼーションによる競争にさらされている白人男性層の内向き傾向を浮き彫りにするなど、世界中から注目されている今回のアメリカ大統領選挙について、アメリカの現状を分析しながら、詳細な解説を行いました。


既存の民主主義の仕組みに不信感を持つ一般大衆を、
今後どう民主主義制度の中で統治していくかが今後の鍵

IMG_0950.jpg その後、論NPOの代表の工藤から、知識層や主要メディアがクリントン支持を表明する中でも、トランプ支持が伸びている事実を指摘した上で、「これまで一般大衆が感じている社会的な課題解決に挑んでこなかったため、メディアや知識層が信用力を失っているのではないか。その結果、アメリカのみならず、国際的にも同様のポピュリズムの傾向が高まり、民主主義そのものが危機を迎えているのではないか」と指摘しました。

 工藤の発言を受けてストークス氏は、ヨーロッパやアメリカのポピュリズムの背景として、反エリート感情や、知識層や議会、政治家など民主主義の既存の構成機関・要素への不信が高まっているという調査データを紹介しながら、「エリート層や既存の機関が、平均的な国民に対して役割を果たしてこなかったことに起因する」との見解を示しました。

2.jpg また、こうした現状が、民主主義に対してどのような意味を持つのかという点について、ストークス氏は、ヨーロッパで議会制民主主義ではなく、直接民主主義に対する期待が高まっている状況を指摘しました。その背景として「インターネットに代表される情報化によって、民衆がエリート層と同じ情報を持っているという認識を作り出しており、それが議会制民主主義への失望とともに、直接政策決定に民衆がかかわるべきという期待感に直結している」と語りました。続けて、トランプ氏の政策公約については、実際には支持が高くなく、大統領になってもおそらく公約を実行しないのではないかという認識が一般的である現状を指摘。にもかかわらず、支持が落ちないということについて、「トランプが政治家として何を実行すると表明をしているかではなく、支持者らがそれぞれ考える別々の夢や希望、期待感が、トランプに投影されている結果ではないか」と指摘しました。その上で、真の課題としてストークス氏は、「既存の民主主義の仕組みに不信感を持っている一般大衆を、今後どう民主主義制度の中で統治していくことができるのかが、問われている大きな課題だ」との見解を示しました。

 その後、参加者から、今後の日米関係に関する米国民の認識などについて、質問が相次ぐなど、活発な意見交換が行われ、盛況のうちに本フォーラムは終了しました。

※モーニング・フォーラムは、言論NPO会員、および会員からご紹介いただいた方のみの限定イベントです。各界からゲストスピーカーをお招きして開催します。

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