【座談会】ビッグバンのシナリオはどこで狂ったか

2002年7月11日

nishimura_y020710.jpg西村吉正 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)
にしむら・よしまさ

1940年生まれ。63年東京大学法学部卒、同年大蔵省(現財務省)入省。経済企画庁総合計画局計画課長、大阪税関長、大蔵省財政金融研究所長、大蔵省銀行局長等を経て、97年より現職。主な著書に「金融行政の敗因」、「世界の中心は回り持ち」等。

sheard_p020710.jpgポール・シェアード (リーマンブラザーズ証券東京支店マネージングディレクター・チーフエコノミスト)
Sheard, Paul

1954年生まれ。オーストラリア国立大学にて博士号取得。スタンフォード大、日銀金研、阪大等在籍、経済審議会部会委員を歴任。著書に『メインバンク資本主義の危機』(サントリー学芸賞受賞)、『企業メガ再編』。

rouyama_s020710.jpg蝋山昌一 (高岡短期大学長)
ろうやま・しょういち

1939年生まれ。63年東京大学経済学部卒。65年同大学院修士課程修了。東京大学助手、大阪大学経済学部教授、同大学院国際公共政策研究科を経て、 98年国立高岡短期大学学長就任。主な著書に「日本の金融システム」(毎日新聞社エコノミスト賞受賞)、「金融自由化」等。金融庁金融審査会委員、金融広報中央委員等を務める。

概要

1996年に日本版ビッグバンが打ち出されてから6年。今年4月のペイオフ解禁でその仕上げに入ったが、不良債権処理のメドがつかず、金融改革への道のりは遠い。ビッグバンのシナリオはどこで狂ったのか。今、必要な手立ては何か。現在、「将来ビジョン懇話会(柳沢金融担当相の私的勉強会)」座長を務める蝋山昌一・高岡短期大学長、旧大蔵省銀行局長の西村吉正・早稲田大学教授、リーマン・ブラザーズ証券のポール・シェアード・チーフエコノミストの3人は「市場原理を中心とした金融の将来像を示せ」と指摘する。

要約

1996年11月、橋本首相が「日本版ビッグバン」を打ち出した時、これで金融界の再編・淘汰は必至と思われた。確かに98年の外為法改正から今年 4月のペイオフ解禁までさまざまなメニューが実施されてきたが、しかし、「ビッグバンはまだ成功していない。いかに『舞台』を立派にするかということばかりにかまけていて、市場の専門的な『役者』を育ててこなかったからだ」(蝋山)といった見方が強い。金融システムが必ずしも安定していない状況の中で、来年4月に予定されるペイオフ全面解禁を延期すべきだとの議論まで最近では噴き出す始末である。

一体、ビッグバンのシナリオを何が狂わせたのか。原因と結果への考察は一様ではない。「住専問題が片づいた後、一時期はこれで不良債権問題も山を越えたという楽観的なムードになり、前向きに問題に取り組んだが、二兎を追ってしまった感もある」(西村)。そのために、4大金融グループなどは構造的な低収益体質をいまだ改革することができないのだ。あるいは「銀行預金の全額保護という政策が続く限り、家計部門の金融資産に対するリスクを政府が負っていることになる」(シェアード)ために、フリーでフェアな市場の規律が生まれないのだ。

だが、ビッグバンの最大の桎梏となったのは、「改革の明確なビジョンがまず必要なのに、政策責任者がこれまで描いてこなかった」(蝋山)ことではないか。柳沢金融担当相の私的な勉強会「日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会」はこのほど、その報告書に「金融をマーケットの原理に沿った仕組みに変えるビジョンを描いた」(蝋山)という。そのビジョンの中には銀行の存在も「銀行業」の概念すらもない。それぐらいの荒療治を施さない限り、日本の金融再生はおぼつかないということであろう。


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 1996年に日本版ビッグバンが打ち出されてから6年。今年4月のペイオフ解禁でその仕上げに入ったが、不良債権処理のメドがつかず、金融改革への道のりは遠い。ビッグバンのシナリオはどこで狂ったのか。今、必要な手立ては何か。現在、「将来ビジョン懇話会(柳沢金融担当相の