【座談会】金融再生に向けた道筋は描かれたか

2002年11月07日

anzai_t030822.jpg安斎隆(アイワイバンク銀行代表取締役社長)
あんざい・たかし

1941年生まれ。63年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。85年新潟支店長、89年電算情報局長、92年経営管理局長、94年考査局長を経て、同年日本銀行理事就任。98年日本銀行理事を退任、同年日本長期信用銀行(現・新生銀行)頭取就任。2000年同行頭取を退任後、イトーヨーカ堂顧問に就任。01年より現職。

kawamoto_y030822.jpg川本裕子(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンシニア・エキスパート)
かわもと・ゆうこ

東京大学文学部社会心理学科卒。オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。旧東京銀行を経て、1988年にマッキンゼー・アンド・カンパニー入社、 95-99年パリに勤務、99年から日本勤務。主著に『銀行収益革命』等。金融庁日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会委員、国土交通省社会整備審議会委員等兼任。

nemoto_n030822.jpg根本直子(スタンダード&プアーズ、主席アナリストチームリーダー金融サービス格付け担当)
ねもと・なおこ

早稲田大学法学部卒業。シカゴ大学、 IL 経営学修士(MBA)。日本銀行に入行。金融産業調査などに従事。1994年、スタンダード&プアーズに入社。金融機関グループヘッドとして、日韓の金融機関の分析を担当。著書に『韓国モデル─金融再生の鍵』、共著に『日本の金融業界2003』『銀行経営の理論と実務』。

概要

ペイオフ延期やゼロ金利の継続の中でモラルハザード状態にある銀行は、自立的に自らの将来を描けなくなっている。その中で金融改革はどう進めるのか。安斎氏は、現状を危機と認識し、公的資金で決着をつけ、全体の国民負担を明らかにすべきだとする。根本氏は、原則の徹底とスピードを強調し、再生不能な銀行にはスムーズな退出を求める。川本氏は、甘い現状認識を捨てた上で、混乱を恐れないリーダーシップ、市場規律や政策全体の整合性が重要と強調する。

要約

不良債権処理を最優先課題に掲げる小泉改革の下で、銀行の健全化は果たして進んでいるのか。

安斎隆氏は、不良債権が残存する状態では全体も前に進まないのであり、公的資金を入れてもこれに早めにけりをつけ、金融全体が動き出す目処を明確化すべきだとする。根本直子氏は、不良債権処理は7合目まで来たが、この2年間、金融行政は一貫性がなく、銀行の財務内容も悪化していると現状を厳しく評価する。川本裕子氏も、特にペイオフ延期がモラルハザードの慢性化をもたらし、地銀と大手行とのダブルスタンダードの行政など、銀行の自助努力が促されない現状を問題視する。公的資金については、根本氏は、20~30兆円の投入で危機回避が可能と試算するが、川本氏は、現状での資本注入は繰返しになるだけだとし、追い込まれた状況での経営努力に向けた環境整備として、ペイオフ解禁に加え、ゼロ金利や過大な流動性供給の停止の方を主張する。

りそな銀行の処理については、川本、根本両氏は、そのプロセスには疑問が多く、株主責任も不明確など問題はあるが、新経営陣の今後の不良債権処理への徹底した取組み如何でプラスの評価になり得るとした。竹中大臣の「金融再生プログラム」については、川本氏が主要行への業務改善命令を大きな変化として評価した点以外は、3氏の評価は低く、安斎氏は、全体的に計画の実行に時間をかけ過ぎており、抜本解決に向けて関係者の対応が曖昧なことを強く批判する。様々な異常な措置でシステミックリスクを回避している現状は正に危機であり、多少の混乱はあっても長期で見れば早い解決の方が公的負担は小さいこと、これと同時に着手すべき公的金融の改革をも併せれば大きな国民負担が一時的に生じることを明らかにすべきことを、安斎氏は最後に強調した。根本氏は、原則とスピードを重視し、再生不能なところのスムーズな退出が再生可能なところの発展の上で不可欠とした。川本氏は、確かな現実と実行可能なプランを示して行政をリードする公約と、市場規律、そして政治化した金融問題を金融問題に戻すことの重要性を強調した。


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 ペイオフ延期やゼロ金利の継続の中でモラルハザード状態にある銀行は、自立的に自らの将来を描けなくなっている。その中で金融改革はどう進めるのか。安斎氏は、現状を危機と認識し、公的資金で決着をつけ、全体の国民負担を明らかにすべきだとする。根本氏は、原則の徹底と