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【vol.1】 北城恪太郎×横山禎徳 対談『企業のガバナンスをどう構築するか』

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■■■■■言論NPOメールマガジン 
■■■■■Vol.1
■■■■■2002/09/03
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
                      http://www.genron-npo.net

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●INDEX
■ 北城恪太郎×横山禎徳 対談『企業のガバナンスをどう構築するか 第1回』
■ 榊原英資インタビュー 『政治の介入を排除し規制緩和を徹底せよ 第1回』

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■ 北城恪太郎×横山禎徳 対談『企業のガバナンスをどう構築するか 第1回』
  北城恪太郎 (日本アイ・ビー・エム会長)
  横山禎徳 (元マッキンゼー・アンド・カンパニー・ディレクター)
                       司会 工藤泰志・言論NPO代表
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小泉政権の改革は一言でいうと、肥大化した官のシステムを壊し、民間の経済を立て
直すところにあります。ところが、株式市場を初めとしたマーケットはこの間、逆に
縮小し、民間経済の活性化は進んでいません。私たちはこの原因の一つは企業経営の
ガバナンスの問題にあると考え、この7月から議論を行ってきました。4月のみずほ
フィナンシャルのシステム障害も相次ぐ企業の不祥事もそこに論点があります。日本
アイ・ビー・エムの北城恪太郎会長とマッキンゼーの横山禎徳元代表はこの「みず
ほ」の問題を題材に具体的なガバナンス構築のあり方を提言します。


●「みずほ」システム障害の背景

工藤 この4月の「みずほフィナンシャルグループ」の混乱は、日本のコーポレー
   ト・ガバナンス(企業統治)のあり方をめぐる議論を深める貴重な題材、レッ
   スンになると私は考えています。言論NPOでは25人ほどの専門家の方々にご
   協力いただいて、またみずほの数多くの行員たちにヒアリングを重ねて、なぜ
   相次ぐシステム障害を起こしたのか、経営のガバナンスはどのようにして失わ
   れたかを明らかにするリポートを6月にまとめました。その後、そのリポート
   を踏まえて7人の論客から寄稿もいただきました。

   リポートでは、大きく3つの原因があるとしました。1つは、第一勧業、富士
   銀行、日本興業銀行の3行が統合されたものの経営の新しいガバナンスの構築
   が遅れていたことです。現場から経営陣に情報があがりにくく、主導権争いが
   続き、経営の問題をチェックするシステムもほとんど機能していなかった。2
   つ目は、銀行におけるコンピューターシステムの重要性を経営陣が十分認識し
   ていなかったことです。そして3つ目が、持ち株会社という制度がもつ不完全
   さもあって、経営をチェックする仕組みも、顧客や株主に対する責任もあいま
   いにしたままだったということです。

   6月半ばにみずほが金融庁に提出した報告書や、金融庁による検査結果に書か
   れた内容は、残念ながらそういった経営のガバナンスという問題の核心には踏
   み込んでいなかった。むろん、ガバナンスの問題はひとりみずほだけ、金融界
   だけにかかわるものではなく、日本のあらゆる企業にも共通するものだと考え
   ますが、ここではまず、今回のみずほの混乱をどのように見ているか、その論
   点から入りたいと思います。

横山 まず指摘したいのは、企業統合において「合併」というのは最もまずい形態だ
   ということです。本来なら「買収」の形態がとられるべきなのに、みずほは合
   併によって統合され、しかも第一勧業・富士・日本興業銀行が「3行対等」の
   立場をとるという。そんなことは株主価値から言うと、あり得ない。そもそも
   最初からボタンのかけ違いをしている。

   では、何の理由でそのようなことをしたのか。規模の経済によってコストを下
   げるつもりなのか。しかし銀行の規模の経済というのは、資産規模で20兆円以
   上の場合、コストは規模に関係なく、フラットなんです。第一勧業も富士も日
   本興業銀行も20兆円を超えているから、3つ合わせたところでコストが下がる
   わけがない。むしろ、これはアメリカであったことですが、システム統合に
   よってコストが上がるケースもある。今回のみずほの場合で言うと、3つの銀
   行の間に決済系システムなど事務プロセスに大きな違いがあるから、結果的に
   コストが上がるケースも見られるかもしれない。規模の経済は効かないという
   のに、いったい何の戦略的目標があるのか、ともかく志がはっきりしなかっ
   た。

   まずホールディング・カンパニーありきという発想はおかしい。世界的に見
   て、ホールディング・カンパニーは全く方便に使われているのであって、シ
   ティバンクもグラススティーガル法とマクファーディアン法を抜けるために、
   1バンク・1ホールディング・カンパニーという法律の抜け穴を見つけてつ
   くったわけです。みずほのトップは、そのあたりを勘違いしていた。

   次に指摘したいのは、事が起こったときのリスク対応が銀行では非常に遅いこ
   とです。実際に中をのぞくとわかりますが、銀行というのは「分・秒」の世界
   で物事が動いているのではなく、時間の最小単位が「1日」の世界なんです
   ね。だから反応が鈍い。銀行は巨大なサービシング組織であって、そのサービ
   シングはシステムによってセカンド・バイ・セカンドで動いているのに、その
   実感をもっている人は経営の上層部には来ない。なぜかというと、それは事務
   管理部の世界だからです。銀行は巨大なサービシング会社であるということを
   本当の意味で理解している経営者は、ほとんどいないでしょう。

北城 たしかに昨年のさまざまな問題をきっかけに個々の企業の経営者の判断や経営
   の仕組み、情報伝達の仕組みがどうだったかと、いろいろ議論が出ています
   ね。私は、コーポレート・ガバナンスの視点から、経営の仕組みに問題がある
   と考えています。

   本来、企業は株主のものです。もちろん、お客様、従業員、地域社会、取引先
   といった、いろいろなステークホルダーの満足を得られないと、結果として企
   業の業績が上がらず、株主にとっても価値が出ないということになります。

   しかし、企業は株主のものであり、経営者は株主から企業の経営を委託されて
   いるのです。そして、その経営者が行っている経営の内容が適切かどうかを監
   督し、大きな方向づけをし、評価をするのが取締役です。日本では、経営者が
   「社外取締役」について、「外部から1人、2人が入ってきて、社内の人たち
   とは違った多様な意見を聞けるから非常に参考になる」などという見方をする
   けれども、それはおかしいと思います。会社の持ち主は経営者であるという発
   想から出た見方だからです。

   今一度、企業はだれが本来所有しているのかを明確にし、経営を執行するとい
   うことと、それを監督・評価し大きな方向づけをすることという機能の違いを
   はっきりさせるべきではないでしょうか。どんな組織も、その中のだれかがま
   ずいときは更迭する仕組みをもっています。例えば国会だって、総理をダメだ
   と思えば解任できるわけですし、議員も選挙を通して選ばれています。では、
   日本の企業はどうか。社長、会長を解任する仕組みがあるか。実質上ありませ
   ん。倒産するぐらいおかしくなれば、金融機関や監督官庁が圧力をかけること
   はあるにせよ、通常の企業では株主が自分たちの意向で社長、会長、取締役を
   解任することは現実にできませんし、日々の経営がうまく行われているかどう
   か、あるいは個々の件がどうなっているかについて、株主は意見も何も言うこ
   とができません。このように、株主の意向から会社を見る仕組みのない状況で
   は、企業がこういったガバナンスの議論をいくらやっても、うまくいかないの
   ではないかと思います。


                           ──次号へつづく──


●上記の記事はウェブサイトにも掲載されております。
http://www.genron-npo.net/jp/summary/frameset/0207_c_2.html

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■ 榊原英資インタビュー『政治の介入を排除し規制緩和を徹底せよ』
  榊原英資 (慶應義塾大学教授)
                       司会 工藤泰志・言論NPO代表
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日本の民間経営は本来、株主や顧客などのプレッシャーに晒され、それに応えようと
して経営を行います。97年に始まった「日本版ビックバン」はそうした市場規律を
生かした経営に転換するための市場改革でした。いわば、経営のガバナンスとビック
バンは表裏一体のものです。ところが、日本版ビックバンは昨年、その最終年度を過
ぎたのにも関わらず、むしろ個人投資家は市場から離れ、大阪ではナスダックが撤退
しました。金融庁の検討部会でも新しい金融市場の構築について議論が進められ、提
言も出始めましたが、いわばビックバンは成功していないのです。その原因はどこに
あったのか。当時、財務官としてその議論の中心にいた榊原英資・慶応義塾大学教授
が再評価しました。


工藤 ビッグバンを総括し、建設的な議論をすべき時だと思っています。基本的に
   ビッグバンはやって良かった。しかし、その後の状況を見ますと、日本はかな
   りの貯蓄をもつ国であるにもかかわらず、期待されたほど個人投資家の参加が
   増加したわけではありません。間接金融についてのビジョンがなかったことが
   原因であると僕は考えています。まず、ビッグバンに何が足りなかったのか、
   そしてこれからどうしなければいけないのかということを、榊原さんからお話
   しいただきたいと思います。

榊原 ビッグバンでやった「自由化」は予定通りいったと思っています。例えば、銀
   行業ではソニー銀行やイトーヨーカ堂(アイワイバンク)をはじめとした新規
   参入がありました。外国勢の参入もあった。問題はその後にある。例えば、ペ
   イオフ解禁を延期したこと。自由化の後は、ある種の混乱を伴うのは仕方のな
   いことです。そこで改革を徹底しなかったから、いまだに旧態依然とした経営
   を続ける銀行が残っている。それでも、外国系の金融機関がリードする形で、
   なんとか変革は進んできた。ところが、今度はその反動として、外国勢排除と
   いったナショナリスティックな動きが出てきた。金融業界では特に顕著です。

   また、もう1つ問題があります。それは、金融が政治化されてしまっているこ
   とです。金融庁を創設し、財政と金融を分離したところまでは良かったんで
   す。ところが分離後、金融庁は極めて政治的になってしまった。先進国を見て
   みると、金融監督・検査は、たいてい政治から独立しています。本来であれ
   ば、中小企業対策と金融監督を同じ機関が行うことに問題がある。中小企業対
   策をやるのは否定しない。政府の公的金融でやるとか、財政でやるとかすれば
   いいわけです。けれども、私企業である金融機関に、中小企業に金を貸せと
   か、融資を引き揚げるなとか命令するのはおかしい。金融庁の行政のかなりの
   部分は、政治の圧力で護送船団行政に戻っていると言わざるを得ない。


●経営者の資質が問われる金融業界

工藤 間接金融におけるビジョンの欠如という観点についてはどうお考えですか。つ
   まり、ビッグバンによって描かれていた金融業の未来予想図の問題です。ま
   ず、外為法の改正という起爆剤によりおカネの流れの自由化が進んだ。そうな
   ると、今度は魅力ある証券市場をつくらなければならない。そのためには例外
   なき規制緩和が必要になる。その結果として、競争が始まり、金融業界からも
   魅力的な商品が生まれるようになり、顧客がそれに対して利便なり魅力を感じ
   て、おカネが集まる。当初はそういう予想図を描いたわけですよね。

   まず、外為法改正という最初の関門は突破した。予想通り、流れを一気に変え
   るきっかけになりました。それから証券分野に入っていった。ところが、そこ
   で馬脚が露れた。期待通りに顧客が集まらなかったわけです。それはやはり、
   金融業をこうしていくんだというビジョンが足りなかったからではないので
   しょうか。

榊原 そんなことはないと思います。新規参入を認めたし、銀行法だって改正した。
   自由化のプロセスの中で、ある種の危機的な状況が生じるのは仕方がないこと
   です。

工藤 最初から予想していたということですか。

榊原 ええ。事実、4大銀行グループの完成という形で、再編は成功しました。外国
   勢も参入しました。メリルリンチのように撤退した例もあるけれど、シティバ
   ンクのように展開中のところもある。ですから、それほど期待に反したことが
   起こっているとは思っていないです。

工藤 そういった外資系の銀行では、システム投資を含めたIT革命が始まっていま
   すよね。

榊原 ええ。例えば、新生銀行のシステムは非常にうまくいっています。おそらく普
   通の都銀に比べたら数分の1のコストでシステムをつくっています。なぜかと
   いうと、システムを外注しているからです。

工藤 それは経営ビジョンがきちっとある経営者であれば......。

榊原 できますね。経営者の問題なんです。新生銀行は「アイ・フレックス」という
   インド・バンガロールにある会社にソフトを外注しています。また、システム
   に強い専門家のインド人を10人ぐらい雇っています。当然、コストは非常に安
   い。八城政基社長がシティバンク時代に築いたコネクションを使い、うまく
   いっているわけです。

工藤 経営者の問題はやはり大きいわけですね。ただ、その前に、ガバナンスの不在
   についても考えねばならないと思うんです。公的資金が資本の30%近くを占め
   ている日本の銀行は、自己規律がないというか、ある意味で管理依存している
   ところがある。市場のプレッシャーによって何かするという形になっていない
   ので、そもそも経営者の力を発揮する土壌がない。

榊原 私はそれも経営者の責任だと思います。そういった現実に慣れるしか道はな
   い。環境が変わったんだから、ビヘイビア(態度)を変えるのは当然の話で
   す。繰り返すようですが、問題なのは政治と行政です。新生銀行のような改革
   を進めている銀行に対して、金融庁が「中小企業におカネを貸せ」という。そ
   れはおかしいですよ。金融と中小企業行政を一緒にするなと。自由化・規制緩
   和したんだから、公的な役割を銀行に担わせてはいけないんです。補助金を出
   してやらせるというなら話は別ですよ。そうではなく、「貴社は社会的責任と
   して中小企業に資金を貸さねばならん」なんて言われたら、商売なんかできな
   いです。


●金融に対する政治の介入を排除せよ

工藤 では、そういう現状をどう変えていけばいいんでしょうか。

榊原 単純ですよ。そういう規制を排除すればいい、それだけの話です。行政指導を
   やめろと。要するに、金融に政治が入り過ぎているんです。今までは、間接的
   に大蔵省が裁量行政をやっていたわけです。もちろん政治の意向も入れながら
   やっていた。しかし、いまや金融庁は大蔵省から離れたわけです。それなの
   に、今度は政治の意向が大臣を通じて伝えられる。それでは意味がない。

工藤 でも、銀行は収益を上げていないから、独立して裁量を発揮しにくいという現
   実もある。

榊原 中小企業保護をさせられているから収益が上げられないんです。銀行の業務と
   して、信用のないところに対しては、当然金利を上げなければいけない。

工藤 適正な利ざやが必要ですよね。

榊原 そう。それが自由化なんです。かつてはいろいろ規制していたわけでしょう。
   それが、いまや銀行が自由に金利を設定できるわけです。

工藤 しかし、まだまだ間接金融の度合いが強い。

榊原 いや、間接金融が直接金融にならなければいけないとは必ずしも言えないです
   よ。それはマーケットが決めることです。強引に直接金融に持っていくといっ
   ても、インフラが整っていなければできない。それに、おそらくアングロサク
   ソン型とアジア型システムは違う。むしろ金融業務と証券業務を兼ねるユニ
   バーサルバンキング(日本の場合には持ち株会社)のように、銀行がマーケッ
   トにかかわっていく形になるかもしれない。必ずしもアメリカモデル、アング
   ロサクソンモデルが正しいとは思いません。


                           ──次号へつづく──


●上記の記事はウェブサイトにも掲載されております。
http://www.genron-npo.net/jp/summary/frameset/0207_i_2.html

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