【vol.37】 座談会 『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第3回』

2003年7月15日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.37
■■■■■2003/07/15
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●INDEX
■ 座談会 厳浩×劉迪×周牧之
  『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第3回』


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■ 座談会『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第3回』
   厳浩(イーピーエス株式会社代表取締役社長)
   劉迪(早稲田大学国際地域経済研究所客員講師)
   周牧之(東京経済大学経済学部助教授)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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日本経済の長期にわたる停滞とは対照的に、中国の台頭が著しい。中国から留学生と
して日本に来て、その後も日本で活躍している厳浩、周牧之、日本に留学中の劉迪の
3氏に、日中関係の変化や日本が進むべき道について議論してもらった。3氏は、中国
をはじめアジア諸国の経済発展でかつての日本の輝きは失われたものの、アジアとの
関係を深めることで活力を取り戻すことは可能だと指摘する。


●自分たちはアジアの中で特殊な民族という日本人の思い込み

工藤 今の20代はアメリカが......。

厳  あえて言いますと、何かと言うとアメリカと比べたがるのは、日本人も若干意
   識過剰だと思う。それはさておき、周先生もおっしゃったように、その後、中
   国にとって選択肢は増えたんですね。ドイツもありイギリスもありフランスも
   あり、もっと重要なアメリカとの経済関係もどんどん深まった。そういう中
   で、今トヨタの話が出ましたが、日本の企業などはやや戦略に欠けた。時とし
   ては見下したような、日中友好と言う場合、日本人が余裕を持って上からもの
   を見てきたわけですよ。(笑)

   日本人は「アジアの中で、うちだけは特殊な民族ではないか」という、優越感
   と言うよりは一種の思い込みがあって、過去の成功体験から、隣国にはできな
   いことをわれわれはやっている、比べられるのは欧米だけだよと、こういう感
   覚が濃厚にあった。しかし、90年代に入って、その思い込みが揺らぎ始めた。
   これはこれからの日本を考えていく上で決して悪いことではないんですよ。

   私の解釈では、そういう思い込みは明治維新の影の部分だと。日本も不幸だっ
   たのは、日本だけが成功してしまった。しかし、今は中国に限らず、やればで
   きるということはみんな分かるわけです。日本は唯一、品質が良かったと言っ
   ても、やってみると、半導体なども結構みんなつくれてしまった。そうする
   と、100年以上の間に培われてきた、引きずってきた一種の感覚を早く変えて
   いかないといけない。

周  一部の日本人は欧米人に対してコンプレックスが、アジア人に対して優位感が
   あって、その中で自分がぶれていることは、いろいろな場面で実感している。
   中国の文化の中では、本来、人間はぶれてはいけない。上司と付き合うとき
   も、部下と付き合うときも同じ感情、フェイスであれと。そうでない人は尊敬
   できないんです。

厳  どこの国にもあるとは思うんだけれども、日本では顕著なんですよ。ランキン
   グが大好きですよね。国内でも、あの会社は1位、あの会社は2位とランキング
   付けして、いつの間にかその1位の会社にいる人間まで1位みたいに思ってしま
   う。大学とかも全部そう。


●小悪を大義にしたら進歩の原動力なくす

工藤 今はちょっと崩れましたけどね。

周  これはなかなか、まだまだですよ。

厳  そういうランキングを国にまで適用するのが好きなんです。

周  このランキングのどこに問題があるかというと、社会に活力をもたらすことが
   できない。東大に入ったやつは自負して、自慢して、それで活力を失う可能性
   がある。入っていないやつも意気消沈なんです。

工藤 中国にはそれはないんですか。

周  ないです。

厳  ないと言うより、日本は顕著なんです。

周  なぜ田中角栄がやられたかというと、彼がやられたことによって日本の活力は
   失われてしまった。大学卒でもなくバックラウンドもない人がのし上がってき
   たということで、日本のジャーナリズムがそれを叩こうとしたんです。なぜ田
   中角栄に焦点を絞ってやったのか。焦点を絞ってやった結果はどうかという
   と、その後の不祥事事件を見ると、全部新規参入して台頭してきた人がやられ
   るようになったわけですよ。むしろこういう人たちはヒーローと言っていい。
   大義はヒーロー、ヒーローの小悪は小悪で整理すればいい。小悪を大義にして
   しまったら社会の進歩の原動力がなくなる。社会の進歩にとっての大義は、新
   興勢力をどんどん生み出すことですよ。

厳  言い方を変えれば、日本は成り上がり者は嫌いなんですよ。もっと本質的に言
   えば、その成り上がりが本当に力をつけて成り切ってしまえば、今度はその秩
   序は崩れる。それは場合によっては国対国の関係、日本と海外の関係でさえそ
   う思えるときがあるんですね。水平関係を結べない、対等関係を結べない。日
   本人は本当に負けたと思ったときは、結構ぺこぺこする。まだ相手のほうが下
   だと思うときは、ちょっと見下す。


●輝きを失った日本モデル

周  これは大事な話で、武士の志と関連があるかどうかは分かりませんが、切るか
   切られるかということで、僕から見ると、切られたときはあまり文句を言わな
   いのが日本人なんですね。だから、アメリカに占領されたときも、GHQ(連合
   軍総司令部)の政策に反対するとか、鉄砲を撃ちまくるようなやつはいない。
   中国だったらそういうやつはいっぱい出るわけですよ。

   中国の近代化の歴史は、私は「へそ曲がりの歴史」と言っているのですが、な
   かなか素直にならない。一時期、日本モデルは非常に輝いて見えた。アメリカ
   モデルと違う、アジアモデルだから、勉強する価値があると。最近はようやく
   素直にアメリカがいいというふうになってきて、僕は逆にこれは危険かもしれ
   ないと思っている(笑)。

工藤 一時期は日本モデルも輝いて見えたけど、今はアメリカモデルのほうがいいと
   思い始めたということですか。

周  そうではなくて、日本モデルがばれたのです。日本のことを勉強してみると、
   日本では「アメリカに追随すればいい、追随したからこそよかったじゃない
   か」という言論が意外に多い。こうした日本発の言論が海外にばれてしまった
   から、日本モデルの輝きはなくなってしまった。

工藤 日本を相手にしなくても、直接アメリカとやればいいではないかと。

周  留学生も直接アメリカへ行ってしまう。だから、僕たちは間違えて日本に来
   ちゃったんじゃないかなどと言われてしまうんですよ。

工藤 皆さんは間違って日本に来た、アメリカへ行ったほうがよいのではないかと。

周  僕はそうは思わない。ただし、人から言われるんです(笑)。


●過去の栄光へのこだわりを捨てよ

劉  私が中国にいたときの日本のイメージは、ここ十数年でかなり変わりました。
   日本が外に見せた部分と内実は違っていたと。あるいは、最初は日本の生産性
   は高いというイメージがありましたが、それは日本のごく一部の企業であっ
   て、本当に国際競争力のある企業は13%しかないと。そういう競争力のある企
   業が外国に製品を出し、外国に進出し、あるいは日本の商社ビジネスマンが世
   界を走り回る。それが世界で日本と思われていた。日本へ来たら、路地裏の工
   場やサービス業、行政でもかなり非効率的なやり方をしているのを見て......。

工藤 そういう非効率的なところが中国へも動いている。

周  いや、動いているのは効率的なところですよ。モビリティーが高い人間や企業
   はみんな有能なんです。そこが問題なんですよ。

厳  中国で、アメリカモデルが良いのではないか、あるいは80年代前半には日本モ
   デルが良いのではないかと、こういう話は常にあると思いますよ。ただし、こ
   れから中国がアメリカモデルに行くとは、個人的には余り思えない。何モデル
   でもないんですよ。結局、中国は何モデルかを適用するには広過ぎるし複雑過
   ぎて、発展の格差も大きい。上海では、あるいはホワイトカラーの企業運営で
   は一種のアメリカモデルかもしれません。しかし、田舎へ行けば全然アメリカ
   モデルではないわけです。

   そういう中で、相対的に日本への支持や存在感は、20年前に比べれば落ちてい
   る。そもそも日本全体のプレゼンスが落ちているし、さっき言ったように中国
   の選択肢は増えてきましたから。

   今、中国は世界中から情報を取り入れている。世界各国に華僑、華人が散ら
   ばっていて、日本のような総合商社はなくても、情報はそういうネットワーク
   でとれるわけですよ。アフリカなどになると、日本よりもはるかに情報を持っ
   ているという話になる。だから、まず日本人はそういうことに慣れて、あの栄
   光よもう1度という考えは......(笑)。

周  いや、なかなか慣れないでしょうね。例えば、私は日本のあるODA(政府開発
   援助)のシンクタンクに8年ぐらい在籍したのですが、初めての出張はカンボ
   ジアや、ラオス、タイに行かされた。一研究員にもかかわらず、大臣などの高
   官が出てきて説明する。そのプレゼンスはやはり大きい。そこから目覚めるの
   は大変なんですよ。


                          ──次号へつづく──

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