【vol.38】 座談会 『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第4回』

2003年7月22日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.38
■■■■■2003/07/22
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●INDEX
■ 座談会 厳浩×劉迪×周牧之
  『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第4回』


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■ 座談会『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 第4回』
   厳浩(イーピーエス株式会社代表取締役社長)
   劉迪(早稲田大学国際地域経済研究所客員講師)
   周牧之(東京経済大学経済学部助教授)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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日本経済の長期にわたる停滞とは対照的に、中国の台頭が著しい。中国から留学生と
して日本に来て、その後も日本で活躍している厳浩、周牧之、日本に留学中の劉迪の
3氏に、日中関係の変化や日本が進むべき道について議論してもらった。3氏は、中国
をはじめアジア諸国の経済発展でかつての日本の輝きは失われたものの、アジアとの
関係を深めることで活力を取り戻すことは可能だと指摘する。


●落ちたのは日本の国家イメージ実質的な日中交流は拡大基調に

厳  80年代のジャパン・アズ・ナンバーワンの発想はやめて、一方では、アジアで
   の位置づけと言うけれども、では、日本人が思っているほど、本当にジャパン
   パッシングになっているかというと、そうは全然思わない。

工藤 日本は無視されていないと。

厳  実際、私の田舎は蘇州、江蘇省だけれども、日本人を連れていくと、大歓迎す
   る。昔と違い、政治的な大歓迎ではないですよ。その人が投資してくれる、工
   場をつくってくれる。それは常に歓迎するし、まだまだ日本人には実力があ
   る。ほとんどの人はそう思っていると思いますよ。

周  ここで整理しなければいけないのは、何が落ちたかというと、国家イメージが
   落ちたんです。国家の発展モデルというイメージが落ちたわけです。ただし、
   資本の交流、個人の交流、情報の交流のレベルでは、これは拡大しているんで
   す。

厳  技術を含めてですね。周信頼感も増している。だから、国家的な議論はやめた
   ほうがいい。むしろ交流を促進する、健康的にやっていく。こういうことを邪
   魔するような動きを見せてほしくないんです。


●歴史問題が日本の重荷に

劉  周さんがおっしゃったことは、すごく大事なことだと思います。つまり、日本
   は今、複眼的にアジアとの関係をもう1回見直すことです。アジアはもう変
   わったんです。外交関係から見ても、中国とロシアは戦略的なパートナーシッ
   プに進んできているし、さきほど厳さんもおっしゃったように、中国と韓国は
   今すごくいい関係、パイプを持っている。

   ここ十何年間、日本のイデオロギー、考え方は変わっていない。日本はまだ冷
   戦構造から脱却していません。正直に言えば、日本は意識的に脱却しようとし
   ているが、脱却する方法も気力もないようです。現状は日本にとって不利で
   す。

   日本と周辺国との間で、歴史認識についての意見相違がときどき問題になる。
   歴史認識の問題については、中国にとっても、韓国にとっても、中日関係、韓
   日関係は一隣国の問題に過ぎないが、日本にとってはそれが2倍、3倍の大きな
   問題です。なぜかというと、地縁政治学から見れば、日本周辺のロシア、韓
   国、北朝鮮と中国の中で、歴史認識については、日本とうまくいっている国は
   少ないからです。

   現状を打開するためには、東アジア諸国は、近代の原点に戻ってわれわれ共有
   の共通のものを温める必要があると思います。

工藤 中国から見れば日本は隣国の1つにすぎないけれども、日中間に何かがあると
   日本は過大に、感情的に騒いでいるということですか。

周  第二次大戦が終わって半世紀以上も経ちましたが、日本はその終止符をまだ
   打っていないんですよ。中国では終わった途端に打ってしまった。戦争は終
   わった、正義が勝ったと。悪いやつは打倒された。悪いやつとは誰か、軍国主
   義だと。天皇だとは言っていないですよ。

   しかし、日本に来てみたら、軍国主義を賛美する言論が目に余ります。民間の
   言論は「言論の自由」ということで理解できますが、政府代表者の首相まで
   やっていると説明がつかないですね。ある意味では日本の戦後は終わっていな
   いんです。アジアから見ると、これでは収拾がつかない混乱状況ですよ。ま
   た、この日本の混乱状況が中国、アジアに波及している。


●アジアとの付き合いをどう深めるか

厳  繰り返しになりますが、日本は光り輝く存在ではなくなりつつある。しかし、
   それは日本が努力しなかった、日本人がその間怠けていたということだけが原
   因ではないと思います。周りの変化がそれをもたらしている部分が結構ある。
   日本人はすぐに欧米と言いますが、実際の生活面、ビジネス面では、どう考え
   てもアジアは欧州をはるかに超えている。そことどう付き合っていくかという
   ことになると思うんです。

   これからも日本はある程度の力をキープしていけるだろうと思っているんです
   よ。キープしながら、アジアの中でどのようにやっていくかということを考え
   たときに、僕は大きく分けて2つの分野があると思う。

   1つは具体的な分野、ビジネスライクな分野です。一例を挙げれば、日本と中
   国のビジネスマン同士の交流を阻害しているビザの問題があります。中国の民
   営企業家、3000億、4000億円の売り上げを持つ会社の社長が、商用で日本に
   来るたびに何ヵ月も審査されるとか、こういうミクロな問題があるんですね。

   たまたま僕の友達で、経済産業省の経済産業研究所にいる人が、日中経済シン
   ポジウムを開き、経済産業省の課長保証ということで外務省にかけ合って、来
   る人みんなに3年間のビザを出した。それは当然少数の人ですが、ビザを出し
   たら、TCLという大きな会社の李東生など、その後みんなちょくちょく日本に
   来る。そうやって来て、今度は松下電器と提携を始めたわけです。

   つまり日本のために考えた場合、アジアが重要であり、こういうミクロ的な政
   策のところで、発想を変えなければならない。もちろん不法入国の問題はある
   のですが、日本と商売をする人は、場合によっては日本に投資してきますよ。

周  これはすごく大事です。


●アジアから資金、人材を呼び込め

厳  日本人は、投資と言ったら日本がアジアに投資するのだと思い込んでいる。し
   かし、5年、10年後のことを考えた場合に、多くの中国企業なり、韓国ではサ
   ムソンなりが投資してくるでしょう。それを阻害する発想は、世界広しといえ
   ども、やはり特殊だと思う。

   どこの都市建設でも外資をいっぱい導入していますよ。上海なんて、香港資本
   を入れれば外資が半分以上でしょう。われわれが見ていると、東京の丸の内、
   大手町に外資系のビルはない。八重洲口の香港資本だけで結構話題になってし
   まうぐらいです。これからアメリカ資本だけではない、アジアの資本とも付き
   合う時代が来るんです。

   もうひとつは、われわれは留学生だったから言うのですが、日本の留学生政策
   は援助のための政策なんです。あなた方は貧しい国の学生だから援助をしてあ
   げますと。アメリカは援助ではない。優秀な人が来たら、アメリカにとどまっ
   てアメリカの人材として頑張ってくれという政策です。留学生は援助の発想だ
   けだとだめなんです。ODAもそうですね。何で国民の税金を使って援助するの
   かと。

   中国の留学生は日本をパッシングしてアメリカへ行くとか、そういう議論がマ
   スコミに横行しているけれども、では、日本のプライドを守るために来てほし
   いと言っているんですか。そうではないはずです。そういう人材に来てほし
   い、日本の発展に寄与してほしいはずです。

   日本で会社を上場すると、特殊だからといろいろな人が取材に来たりするけれ
   ども、私からすると、日本で創業して、日本で上場して、日本で活動するのは
   ある意味で普通のことです。それがアジアとの距離感において、現実は変わり
   つつあるのに、その辺のメンタリティーがまだあまり変わっていない。それ
   が、ビザの問題もそうですが、いろいろなミクロ政策に反映している。僕は変
   えなければいけないと思います。

   今度は周さんと劉さんの話に関係してくるけれども、アジアとの精神的な距離
   感をどう縮めるかです。そのひとつに歴史問題は含まれます。そもそも今日の
   こういう課題でも、日本とアジアというふうに常に対峙しているんですよ。

   例えば靖国神社について、日本には日本の考え方があり、中国には中国の考え
   方がある、それはいいと思う。しかし、そういうものをちゃんと解決していく
   ことが日本のためなのだという基本認識が必要なんですよ。最近のマスコミが
   ひどいと思うのは、あおるのが自分たちの責務だと思っていて、彼らは本当に
   日本に対して責任をとろうとしているのかと。一種のうっぷん晴らしなんです
   よ。

劉  毎日、そういうニュースばかりで、なぜ一斉に同じような論調があふれるの
   か、われわれはどこの国にいるのか、言論の自由がある民主主義の国とは思え
   ないほどです。


                          ──次号へつづく──


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