【vol.48】 藤森克彦 論文『英国にはマニフェストをベースにした「サイクル」がある』

2003年9月30日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.48
■■■■■2003/09/30
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●INDEX
■ 論文『英国にはマニフェストをベースにした「サイクル」がある 第1回』
  藤森克彦 (富士総合研究所 主任研究員)
■ アンケート『マニフェストおよび政策評価についてのアンケート vol.3』


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■ 論文『英国にはマニフェストをベースにした「サイクル」がある 第1回』
  藤森克彦 (富士総合研究所 主任研究員)
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次期総選挙に向けて、各党が「マニフェスト」作りに力を入れている。「マニフェス
ト」とは、英国の選挙戦などで政党が発表する政策綱領のことである。そこには全体
的なビジョンと共に、任期中に達成すべき政策について、数値目標、達成手段、財源
等が掲げられる点に特徴がある。

筆者は、マニフェストを軸にした選挙戦は閉塞感の強い日本の政治状況を変えていく
可能性があると考えている。これまで日本の政党の公約は、「財政再建をします」
「福祉の充実を目指します」といった抽象的な内容が多かった。そのため、選挙時に
有権者は、各党が政権獲得後に導入する具体的な政策パッケージを知ることなく、一
票を投じてきた。この結果、選挙で示される民意と、選挙後の具体的な政策が結びつ
かず、政治不信の大きな要因となってきたように思う。マニフェストを軸にした選挙
戦を行えば、国民は各党の政策の大枠を知り、それを見比べて支持政党を決めていく
ことができる。国民が主体的に選択した「改革」となるため、マニフェストは有効な
手段になると考えられる。

また、公約をマニフェストに掲げることにより、政権党が実現に向けて強いインセン
ティブをもつことになる。具体的な内容であるために、マスコミなどによって事後的
に達成度の検証が可能となるためだ。達成度が低ければ野党やマスコミから厳しい追
及を受けて、次の総選挙のマイナス材料となる。達成度の検証は、政権党をマニフェ
ストの実現へ向けて動かし、様々な改革を進めていく推進力となるように思われる。

本稿では、労働党が一八年ぶりに政権を獲得した九七年総選挙の状況を紹介して、日
本への示唆を探っていきたい。


●マニフェストは「構造改革の設計図」

英国のマニフェストを考察するに際して注目したい点は、諸改革を実現するプロセス
にマニフェストをべースにした「サイクル」がみられる点である(図)。

※(図)英国にみるマニフェストをベースにした改革の進め方
https://www.genron-npo.net/debate/contents/030926_a_01.html#pic

まず、総選挙の際に政党ごとにどのような改革を行う予定であるのか、という点が
「マニフェスト」に示される。いわば、マニフェストが「構造改革の設計図」となっ
て、選挙期間中、政党間で競われる。英国民は選挙戦を通じて、各党の構造改革の内
容を把握し、主体的に支持政党を選択していく。 九七年総選挙の主要政党のマニフェ
ストはA4版で40~50ページにまとめられ、全体的なビジョンと共に、経済、社会保
障、外交などの分野ごとに具体的な政策を網羅的に示す。マニフェストの準備は総選
挙の二年前から始まり、党幹部、政策スタッフなどが外部の研究者の協力を得ながら
作成する。 これは、日本の政党の公約にみられがちな、美辞麗句を並びたてたいわゆ
る「作文」ではない。多くの政策で、目標、達成手段、財源などが示されているのが
特徴だ。


●目標・手段・財源明示がポイント

例えば労働党の失業者対策(97年総選挙時)をみると、政策目標として「若年失業者
の25万人減少」が掲げられている。そしてそれを達成する手段としては、民間企業で
の職業訓練など四つの選択肢を示して、若年失業者に半年間の教育・職業訓練の機会
を与える。この財源は、余剰利益を得た民営化企業への一回限りの課税による、とし
ている。

このように目標、手段、財源などが明示されているため、選挙期間中、マニフェスト
を軸にした討論がなされる。例えばテレビでは、現役の社会保障大臣と「影」の社会
保障大臣などを呼んで社会保障政策を議論させる。またマスコミやシンクタンクは、
マニフェストの実現可能性、矛盾点、曖昧な点を追及する。このような議論によっ
て、有権者は各党の構造改革の内容を知り、支持政党を決めていく。


●なぜ政党本位の選挙戦になるのか

他方、選挙期間中、各候補者は選挙区で、戸別訪問、電話勧誘といった地味な活動を
行なう。興味深いのは、候補者が訴えるのは主に所属政党の公約であって、選挙区に
道路や橋を作るといった候補者個人の公約ではない。英国では日本よりも、政党本位
の選挙戦になっているが、これはなぜか。

第一に、国会議員が選挙区に利権誘導することが難しい仕組みになっていることがあ
げられる。英国の国会議員も、選挙区民から公共事業の陳情を受けることがある。し
かし英国では、官僚の政治的中立性を保つため、閣外の国会議員が官僚と直接接触す
ることが原則的に禁止されている。このため国会議員は、所轄大臣に手紙を書くな
ど、基本的にはメッセンジャーの役割を負うにすぎない。

第二に、選挙費用の規定が政党本部を主体とした選挙戦を想定している点だ。各候補
者の選挙費用の上限は、概ね130万円程度に抑えられている一方で、政党本部の選挙
費用には何ら制限がない。このため政党本部は、大量の資金をテレビや新聞広告など
につぎ込んで、政党宣伝を行なうことができる。こういった仕組みによって、候補者
個人よりも政党が前面に出る選挙になる。

日本では政党本位の選挙に対して批判もあるが、政党を媒介にして議会に民意を反映
させるために、これは不可欠な仕組みとなっている。


                          ──次号へつづく──


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■ 言論NPO政策評価委員会
  アンケート『マニフェストおよび政策評価についてのアンケート vol.3』
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言論NPOでは、政策評価プログラムの一環として、会員・一般の方々から広くアン
ケート調査を実施します。調査は全5回(予定)に渡って行われ、結果は今後の議論
形成や、「政策フォーラム」「ネット会議」の連動コンテンツに反映されます。


──公共事業の改革について
公共事業改革については、小泉内閣では公共投資の規模(名目GDP比率)を中期的に
欧米諸国の水準を念頭に縮小させるとともに、「道路特定財源」の見直し、公共投資
基本計画、分野別長期計画の見直し、公共事業の効率性・透明性を高める仕組み作り
(第三者評価機関による事業評価、PFIの活用、公共投資のコスト縮減等)を進めて
きている。

 Q8 小泉内閣が進めてきた公共事業の改革について、
    あなたはどのように評価しますか。

──国と地方に関する「三位一体改革」について
国と地方との関係については、2002年の骨太の方針第二弾に基づいて、同年6月に閣
議決定がなされ、国の関与を縮小し、地方の権限と責任を大幅に拡大することとし、
国庫補助、地方交付税交付金、税源の地方への委譲を含む税源配分のあり方を「三位
一体」で検討することとされています。現状は、その具体的な輪郭がようやく見えて
きた段階ですが、(1)国庫補助金については概ね4兆円を目処にその廃止、縮減を行う
こと、(2)交付税について算定方法の簡素化や地方債の元利償還金への算入の見直しな
どの改革を行うこと、(3)義務的な事業に対する補助金については徹底的な効率化を
行った上で、全額税源を地方に委譲することなどの方向性が示されるに至っていま
す。

 Q9 こうした「三位一体改革」など、国と地方との関係の改革について、
    あなたはどう評価していますか。

──税制改革について
小泉内閣は、税制については、「骨太の方針」第一弾で、例えば、(1)個人、企業の経
済活動に対して中立的な税制の構築、(2)貯蓄優遇から投資優遇に向けた税制改革、
(3)租税特別措置の見直し、(4)外形標準課税の導入などを掲げ、その後、(1)について
は、相続時精算課税制度の創設や配偶者特別控除の縮小が、(2)については、金融・証
券税制の軽減・簡素化が、(3)については、試験研究税制やIT投資促進税制の見直し
が、(4)については、資本金1億円以上の企業に対する導入が行われました。

 Q10 小泉内閣の税制改革について、あなたはどのように評価しますか。

──特殊法人改革について
小泉内閣の改革の考え方を表す言葉として、「中央から地方へ」とともに「官から民
へ」が唱えられ、民にできることは民にやらせるべく、特殊法人について、原則とし
て、民営化、独立行政法人化、あるいは廃止のいずれかの選択を迫ることで改革の徹
底が図られているところです。具体的には、「集中改革期間」を設定して改革の先延
ばしを阻止しつつ、特殊法人等整理合理化計画において改革・改善すべき事項を個々
の法人毎に明記することにより抽象的な改革を阻止し、特殊法人等改革推進本部参与
会議において進捗状況をチェックし、その結果を公表することにより改革の停滞を回
避しようとしています。

 Q11 小泉内閣による特殊法人改革に関して、
    あなたのご意見は以下のいずれの考え方に近いですか。

 Q12 小泉内閣は、郵貯や公的金融機能について、「骨太の方針」第一弾におい
    て、「郵政事業の民営化問題を含めた具体的な検討、公的金融機能の抜本
    的見直しなどによる民間部門の活動の場と収益機会の拡大」を掲げました
    が、これについてのあなたのご意見は以下のいずれの考え方に近いですか。


○回答はこちらでお願いします。
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