【毎日新聞】 日本の選択: 自民の「政権公約」検証 マニフェスト、進化途上

2004年5月13日

2004/05/13 毎日新聞

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昨年11月の衆院総選挙の際のマニフェスト(政権公約)は、どの程度実行に移されたのか。また、「日本の選択」としてどれだけ妥当な公約だったのか。政治・政策研究会「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)が12日、初めて開いた小泉政権のマニフェスト検証大会。賛否両論が続く中、「検証作業をさらに活性化」することについては、各団体、政党ともに一致、マニフェスト運動は、7月の参院選に向け再び動き出した。各団体の検証内容と課題をまとめた。

 


■年金――抜本改革見えず

昨秋の総選挙で最大の争点だった年金改革。政府提案の年金改革関連法案が11日、衆院を通過したが、自民党の政権公約とその達成度をめぐる各団体の評価は、極めて低い。数値評価をした2団体のうち言論NPOは100点満点のうちわずか20点とし、経済同友会も5段階評価の「2」とした。「抜本改革を行うと公約しながらも、考え方すら提起できなかった」(言論NPO)のが理由だ。

自民党が掲げた政権公約は、(1)基礎年金の国庫負担率割合を2分の1に引き上げる(2)年内に改革案をまとめ、04年の通常国会に法案を出すことは示したが、これ以外の具体的内容はほとんど書かれていなかった。

このため、経済同友会は「抜本改革の具体案、国民負担の数値が明記されていない」と指摘し、言論NPOは「保障すべき社会保障の水準や規模、そのために国民はどの程度負担すべきか、思想やビジョンが描かれていない。本当の争点を避けている」と批判した。

自民、公明の両党は政権公約を反映させて年金制度改革の大枠を決め、国会に年金改革関連法案を国会に提出した。このことは確かに公約を履行したもので、法案では「将来の負担の上限と給付の下限」を示してはいる。

だが、その個別の内容には、日本総研がさまざまな疑問や批判を投げかけている。

自営業者などが加入する国民年金の保険料未納率が37・2%(02年度)に達するなど、深刻になる「国民年金の空洞化」については「政権公約に言及がないこと自体が重大問題」と批判、「世代間の不公平の是正」についても「目標として掲げていることは評価するが、今回の改正案では格差是正効果は限定的」とし、若年世代の年金制度に対する信頼回復は不透明とみる。さらに「現役世帯の50・2%を確保」とうたった厚生年金モデル世帯の給付水準にも、「経済低迷や少子化で前提条件が崩れると割り込む懸念が大きい」と疑問を投げた。

連合も、基礎年金の国庫負担の2分の1への引き上げについて「先送りとなっており、有権者に対する約束違反」と断じた。財界や労働界は基礎年金を全額税金で賄う「税方式」を提唱しており、現行の仕組みを前提とした自民党の政権公約や政府案に評価が低いのは当然とも言えるが、全国知事会も「財源としての消費税をどう考えるか、早急に国民的議論をしていくべきだ」と提唱する。

国会議員の国民年金未納問題が与野党に広がり、有権者の政治不信を増幅している。与野党合意を踏まえ、どういう形で一元化するのか、他の社会保障制度との調整をどうするのか、最終的な負担と給付をどう考えるのか、今度こそ、参院選に向け政党としての責任を果たしてほしい。各団体の検証報告からは、そういった悲鳴が聞こえるようだ。

 


■経済――不良債権処理は進展

経済は、国内総生産(GDP)、株価などの経済指標の改善により、結果オーライ的論評が目立つ中、小泉改革の成果とは無縁であり、雇用、財政はこれから、とする論評が多かった。

金融機関の不良債権処理は、進展していると評価された。小泉政権は「04年度末までに主要行の不良債権比率を半減し、不良債権問題を終結させる」との数値目標を設定したが、達成も可能と前向きに受け止めている。

主要行の不良債権比率は、02年9月末の8・1%から03年9月末に6・5%まで低下した。これに対し、日本総合研究所は「不良債権比率の低下は期待以上に順調に推移」と評価し、経済再生の重しとされる不良債権問題が改善傾向にあると指摘する。目標達成の可否も「ほぼ確実」(言論NPO)との分析だ。

ただ、不良債権処理が進展したのは、景気回復によって不良債権の新規発生が抑制されたり、企業再生の取り組みの成果が見え始めた結果で、すべて小泉政権の実績とは言えない。この点について、日本総研は「景気回復により、不良債権の新規発生に歯止めが掛かったことも寄与」と、景気回復の影響を強調。言論NPOは「不良債権比率の目標が達成しても問題は終結しない。ペイオフ(預金の払戻保証額を元本1000万円とその利息とする措置)の全面凍結解除後に、地域金融機関をどう立て直すかなど、最終的な絵姿は提起されていない」と、解決の道筋が示されていない別の問題を提示し、楽観的な見方にクギを刺す。

財政改革に対しては、実現性のシナリオの不備などを理由に低い評価にとどまった。

小泉政権は「歳出抑制を進め、10年代初頭にプライマリーバランス(財政の基礎的収支)の黒字化達成」を掲げているが、日本総研は「達成は困難」と明言、その理由として、深刻な税収不足▽社会保障関係費の増勢持続▽不徹底な三位一体改革を挙げた。経済同友会は「具体的な工程や期限が示されていない」と指摘、進ちょく度も5段階で下から2番目の「2」をつけた。言論NPOも「目標実現への手段が見えず、積極的に評価できる部分は少ない」として30点(100点満点)を付け、不合格とした。

全国知事会は「地方公共団体に比べて、国家公務員の人員削減や国の歳出削減が不十分」と、国に注文を付けた。

名目成長率を「06年度に2%以上」と掲げたことに対しては、言論NPOが「2%目標は実現しそう」としたものの、「景気回復は中国などの海外要因。構造改革の成果ではない」と外的な要因であると強調した。

530万人雇用を増やす雇用プログラムに対しては、一定の評価と、批判とに分かれた。言論NPOの評価点は50点。「理念や目標、政策体系は適切。内閣府のビジョンが掛け声で終わる中、関係省庁にまで計画を落とせた意義は大きい」と評価、その上で「実質的な成果は限定的」とした。

日本総研は逆に「200万人の雇用増加は改革や政策効果の結果かは疑問」と首をかしげる。連合はさらに厳しい見方で、「雇用対策強化の具体策はない」と批判。プログラムは「単なる見通しで、政府与党としての主体性がない」と断じた。

 


■道路――「骨抜き」に辛らつ

道路公団改革については、「05年度から4公団を民営化する法案を04年の通常国会に提出する」という公約通りのスケジュールで改革は進んでいるが、各団体の評価は辛口だった。そもそもの目的だった、無駄な高速道路を造るのをやめ、40兆円の債務をこれ以上増やさず、債務の返済を確実にすることが、法案化の段階で骨抜きにされたことが理由だ。

言論NPOは「政府の法案では、民営化が道路建設を抑制する手段にはなっていない。既存の整備計画を最優先にしたスキーム(枠組み)で、民営化が当初目指したものを形がい化させている」と指摘する。総合評価は40点(100点満点)にとどめた。経済同友会も辛らつだ。「表記の充実度」は5段階評価の4と高かったのに対し、「達成度・進ちょく状況」は最低のゼロ。政権公約の「道路関係4公団民営化推進委員会の意見を基本的に尊重」という表現を引き合いに出し、「法案の内容は、その趣旨に反する」と切り捨てた。

日本総研は「計画通りに債務返済できないリスクが大きい」と警鐘を鳴らした。

一方、全国知事会は「高速道路は早期に整備されることが重要で、地方の意見も十分反映されるべきだ」と、建設推進の立場から注文をつけた。

 


郵政――具体的姿明示を

郵政改革も、民営化の具体像がいまだに示されていないことに、いらだつ評価が多かった。

自民の公約は「郵政事業を07年4月から民営化するとの政府の基本方針を踏まえ、日本郵政公社の経営改革の状況を見つつ、国民的議論を行い、04年秋ごろまでに結論を得る」だ。

経済財政諮問会議は4月26日、郵政民営化に向けた中間報告を提出した。秋には最終報告をまとめる。民営化推進室も同日設置された。郵政民営化は小泉首相が「改革の本丸」と強調する看板政策だけに、道路公団改革と同様、「形式的には進ちょくしている」(言論NPO)。

だが、自民の公約の中身は党内の抵抗勢力に配慮し、あいまいな表現にとどまった。中間報告でも、郵便貯金や簡易保険の扱い、組織や雇用をどう見直すかなど基本的な問題が先送りされた。

経済同友会はこうした状況に、「民営化の具体的な姿が明示されず、結論が先送りされている」といらだちをあらわにする。評価は表記3、進ちょく度1(いずれも5段階評価)だった。言論NPOも「民営化というキーワードだけが躍っている。中間報告でも克服されておらず、成果としては評価できない」と手厳しい。総合で20点(100点満点)の低い評価になった。

外交・安全保障には、国家戦略の丁寧な説明を求める声があがった。ただ、取り扱いが難しいテーマだけに、評価をしたのは、言論NPOと経済同友会の2団体だけだった。

北朝鮮問題は、評価が分かれた。同友会は表記4、進ちょく度3(いずれも5段階評価)と比較的高く採点したが、言論NPOの総合評価は10点(100点満点)で、全項目中、最低だった。

 

国と地方を通じた税財政の「三位一体改革」に対しては、全国知事会が今年度予算で補助金や地方交付税の削減額が税源移譲額を大幅に上回ったことを自民党の「重大な公約違反」と猛反発している。その一方で、地方交付税の大幅削減を評価する団体もあり、立場の違いで評価も異なった。また、「国と地方の関係の具体的議論がない」と国家のビジョンをどう描くかの視点が欠落している点への不満も強い。

自民党の政権公約では、06年度までに、補助金約4兆円の廃止・縮減、地方交付税見直し、地方への税源移譲の「三位一体改革」の具体化が盛り込まれた。改革初年度となる今年度は、補助金は約1兆円、地方交付税も約1兆2000億円削減される一方、税源移譲は所得譲与税など約6500億円にとどまった。補助金や地方交付税の削減額が税源移譲額を大きく上回ったことに対し、「三位バラバラ改悪」(全国知事会長・梶原拓岐阜県知事)といった皮肉など地方自治体からは批判の大合唱となっている。

こうした現状を受けて、与党の政権公約に対しては全国知事会の評価が最も厳しい。補助金削減を「地方の裁量権拡大にはつながらない数字合わせ」と国の権限が温存されたことを批判。税源移譲についても「所得譲与税等による移譲で、移譲額も補助金削減額に比べ大幅に下回っている」と昨年の「骨太の方針」に盛り込まれた基幹税(所得税、消費税など)が移譲対象に含まれていないことなどに不満を表明した。「地方財政自立改革の本来の理念から大きくかけ離れた」と総合評価も極めて辛らつだ。

地方自治体の不満が噴出していることを受け、麻生太郎総務相が3兆円を先行して地方に税源移譲する「麻生プラン」を打ち出し、地方の不満の鎮静化を図っているが、早速、財務省が反発するなど政府内での調整は難航しそうな情勢だ。

経済同友会も、政権公約の進ちょく度について5段階評価の「2」とし、「補助金の期限と数値目標が示されたが、交付税、税源移譲については具体性がない」と指摘した。

しかし、今回の改革について否定的評価ばかりではない。言論NPOは、100点満点で自民党40点、公明党についても25点と点数自体は決して高くはなかったが、地方交付税について「1兆円の削減が実現したことは画期的な進展」と評価したほか、「削減は一定の評価」(日本総研)と、膨張を続けてきた地方交付税にメスを入れていることに一部肯定的な見方をしている。

 


■未成熟、だが可能性示す

マニフェストを掲げた政権選択選挙は、果たして成功したのか。今回の検証大会に参加した7団体のリポートがそろって指摘しているのは、初めての試みとしてのマニフェストが、極めて未成熟、不十分なものであったということだ。しかし、同時にこれらのリポートは、過渡期の時代の政策選択の手段としてマニフェストが有用である、という認識も共有している。

中身についての各団体の評価は厳しかった。「国のあるべき姿が見いだせないのが非常に残念だった」(経済同友会)▽「全体的に抽象的。事後検証可能なものにしてほしい」(全国知事会)▽「各論のみの提示、基本理念が見えにくい」(連合)。マニフェストに盛り込まれた125項目の政策を逐条的に徹夜作業でチェックした、という言論NPOは、「スローガン的な項目や施策の羅列が目立ち、評価に堪えられるものではない」として、「参院選に向け書き換え」まで求めている。

マニフェスト選挙というスタイルに対しては、評価、賛同の声が多かった。「わが国民主主義の進化、構造改革推進の強力なツール(道具)」(日本総研)▽「政策本位の政治実現の第一歩」(同友会)。日本青年会議所(JC)は、市民、地域運動とつなげた「ローカルマニフェスト」運動の展開を提唱している。

取材班は、今回の検証大会に、二つの意義を見いだした。第一に、七つの団体(オブザーバー参加の日本経団連も入れれば8団体)が参加、それぞれの立場から工夫を凝らした論評を加え、マニフェスト選挙の限界と可能性について「発展途上」という共通認識を得たことだ。

経済同友会は、「表記の充実度」「達成度・進ちょく状況」「同友会提言との合致度」の三つの尺度で5段階評価、言論NPOは、「政策としての重要性・優先性」を50点、「形式的・実質的進ちょく度」を30点、「アウトカム(成果)」を20点とする100点満点方式で採点した。青年会議所は傘下団体対象にアンケートを実施、知事会は利害関係の深い「三位一体」改革の評価にウエートを置いた。

それぞれの団体が、自分たちの立場、信条を明らかにした上で、そこに引きつけた形での政策評価を加える。もっぱら「経済成長か分配の平等か」が問われた55年体制下では、考えられなかった多元的空間である。と同時に、冷戦終結に伴うグローバリズムの進展、情報革命、超高齢化社会の出現、といった外部環境の激変に対応する、国家としての骨太の理念、方針の提示が政治に強く求められていることも浮き彫りになった。

二つ目の意義は、「策定・提示→選挙→政策実行→政権政党による自己評価」とのマニフェスト・サイクルを、日本の政治風土に定着させる一里塚になったことである。検証・見直しを繰り返すことで、マニフェストは進化する。同時に問題を解決するのに最も必要な政策、選挙での争点が明確になってくる。

大会を主催した21世紀臨調の狙いは、マニフェストを一回限りのお祭りに終わらせることなく、有権者が自らの将来を選ぶかけがえのない手段として活用する運動をスタートさせることであった。この運動が、さまざまななシンクタンク、各種団体、民間企業、地域に広がっていくかどうかが、ポイントだ。

有権者に「自分たちを救うためには、政策が重要だ。そのためにはマニフェストをきっちりチェックして、その実現ぶりを次の選挙で評価しよう」と思わせるかどうか。政党側にも大きな課題を投げかけている。【日本の選択取材班=倉重篤郎、及川正也、大平祥也、松田真、瀬尾忠義、前川雅俊】

 


■民主、「年金」で自民評価上回る--経済同友会実施

今回は政権公約評価では、経済同友会が、民主党の政権公約についても数値を入れた具体的評価を実施した。政権与党ではないため、進ちょく度についての評価はされなかったものの、公約の書き方に関する全体的評価では、5段階評価で「3」と公明党と並び、自民党を上回った。政権公約導入に前向きに取り組んだ姿勢が、評価にも表れた形だ。

年金改革では自民党の「2」を上回る「4」と、2階建て年金制度の内容を具体的に明記していたことが評価された。三位一体改革でも、補助金と税源移譲の記述に具体性があることで、評価は「4」と自民党を上回っている。

道路公団改革では、「高速道路原則無料化」と改革後の提案をし、財源も詳細に明記したことで、自民党と同様評価は「4」だった。郵政民営化については、個別の施策は書かれているが、経営形態が明記されていないため、「2」にとどまった。

総合評価では、示されたほとんどの政策に具体的手段の内容、当面の財源を明記したことが評価されたが、財政上の整合性と政策の波及効果に詳細な記述を求められている。

また、構想日本は、直接の評価はしなかったが、野党に対しては「マニフェストをゼロベースで見直して次回選挙に臨むのが原則」と指摘している。

 


■日本青年会議所 構想日本の検証

民間シンクタンク・構想日本は、達成状況(4月28日時点)を、各党のホームページや新聞記事を材料にして数値化した。

自民党の場合、方針・計画などを作成したかどうかでは「38%」の達成と評価。しかし、法案の国会提出や予算に反映されたかでは「20%」にとどまり、法律の制定などで実現されたについては「10%」だったと総括した。

日本青年会議所は、メンバーへのアンケート形式で自民党政権公約への評価を試みた。アンケートは政権公約の中の「小泉改革宣言」について、政策に取り組んでいるかどうかを聞いた。

福祉施策などについては「思わない」の46%が「思う」の38%を上回った。道路公団、郵政民営化は「思う」66%、「思わない」27%で改革への認知度は高かった。

 


■検証を実施した7団体

「政権公約(マニフェスト)検証・第1回大会」に参加した7団体は次の通り。

▽言論NPO 01年設立。ネットなどを通じ政策評価・提言をしている非営利組織(NPO)。アドバイザリーボードに評論家の山崎正和氏や佐々木毅東大学長ら。工藤泰志代表。

▽経済同友会 46年創設。企業経営者が個人として参加し、各分野の調査・研究を実施。会員数約1400人。北城恪太郎代表幹事。

▽日本総合研究所 69年創設。三井住友フィナンシャルグループを株主とするシンクタンク。従業員数約3400人。奥山俊一社長。

▽全国知事会政権公約評価研究会 全国知事会長の私的諮問機関として03年に設置。メンバーは増田寛也岩手県知事(座長)や片山善博鳥取県知事ら9人。

▽連合(日本労働組合総連合会) 89年に旧総評系と旧同盟系が統合して発足。日本最大の労働組合組織で組合員数約700万人。民主党の有力支持基盤。笹森清会長。

▽構想日本 独立・非営利のシンクタンク。運営委員には飯尾潤政策研究大学院大学教授らがおり、政策委員は大学教授が中心。加藤秀樹代表。

▽日本青年会議所(日本JC) 51年創立。全国739会議所、会員数約4万6000人を擁する青年企業人らの集まり。200人を超える国会議員を輩出。

 

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