日本の課題を考える

2019年参議院選挙 マニフェスト評価(環境・エネルギー)

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<評価の視点>

 これまで原子力発電を基幹エネルギーとして位置付けてきた日本のエネルギー政策は、2011年3月の福島第一原発事故を機に、大きな変容を迫られている。政府は、2014年4月閣議決定の「エネルギー基本計画」の冒頭では、「原発依存度を可能な限り低減する」と明記し、翌2015年の「長期エネルギー需給見通し」で、2030年の電源構成の見通しとして、原発の比率を20~22%と決めた。この比率は2018年の第5次エネルギー基本計画でも維持されている。

 そのような状況の中、各党はマニフェストで原子力発電をどう位置付けているのか。再エネ、火力発電等原子力以外のエネルギーをどう位置付けているのか。そして、自党のエネルギー政策の構想を実現するために、どのような政策体系を打ち出しているのかを見ていく。

 そこで特に重要な評価の指標となるのが、工程表の提示である。原発をやめるにしても、利用し続けるにしても工程表の提示は必須である。原子力・エネルギー政策は20~50年先を見据えなければならない。どのような政策を採用するにしても、その影響は広く大きくかつ長期に及び、また、プラス面とマイナス面がともに存在するため、その全体像がわかりにくい。単なるスローガンや目先の話だけでなく、有権者に対して、政策の直接的効果のみならず、波及的効果、副作用、コスト負担、出口戦略など、様々な要素も含めて工程表を提示し、将来の見通しを説明していくことが求められる。

 一方、環境問題とりわけ地球温暖化対策も重要課題である。2015年に「パリ協定」が採択され、日本は「2050年までに80%の温室効果ガス削減」という目標を打ち出している。こうした状況の中、党としてどのようにこの目標を実現しようとしているのかを見ていく。そこでは、エネルギー政策と温暖化対策との両立可能性も検証していく。そして、ここでも目標達成に向けた工程表は必須であるので、その提示の有無をチェックしていく。


<評価結果>

与党(自民党・公明党)

 2018年の「第5次エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成における原発比率を「20~22%」と定めている。政権与党として自ら定めた以上、自民、公明両党の原子力政策はこの比率をエネルギーミックスのベースにするものと思われるが、原発の運転期間40年の原則にのっとれば、2030年には15%程度となる。目標との5~7%差の部分は、最長20年の運転延長、または新増設やリプレース(建て替え)を行わないと確保できないということになる。

 しかし、これまでの政府の議論を見ても、新増設やリプレースについては議論していないが、公約でもこうした現状と計画の齟齬をどう埋めていくのか、方策や、その実現に向けた工程表をまったく示していない。

 また、再生可能エネルギーに関しても、「主力電源化」を目指す旨を明記したことは評価できるが、やはり普及拡大に向けた具体的な道筋が示されているわけではない。長期的なビジョンが求められるエネルギー政策において、目標実現に向けた工程表が示されていないのは公約として失当であると言わざるを得ない。

 公明党の場合、段階的な「原発ゼロ」という方針を明確にしているものの、同党は政府与党の一員として、「第5次エネルギー基本計画」における原発比率「20~22%」に同意している。すなわち、これまでの政策遂行と公約の間に齟齬があることになるが、どのように整合性を持たせるつもりなのか示していない。こうしたことからも責任あるエネルギー政策を果たしていくための公約にはなっているとはいえず、点数で評価することもできない。

 温暖化対策についても、「2050年までに80%削減」など目標は明確だが、上記のようにエネルギー政策の将来像が見えない中では、その達成の成否も見えなくなっている。また、政府・与党は選挙前の6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を提示し、そこではCO2を資源として捉え、建設資材や燃料などに再利用する技術(CCU)を目玉としており、これは公約でも掲げているが、この技術が社会的に実装されるのは2050年よりも後になる見込みのため、2050年目標を達成する上でのインパクトはない。したがってやはり、温暖化対策の公約としての体を成していないと評価せざるを得ない。

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野党(立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、共産党、社民党)

 野党各党の公約も具体的な目標やそれに向けた道筋を示していないという点で点数による評価以前の問題を抱えている。

 立憲民主党は、原発も石炭火力もゼロという公約を掲げているが、その両方ともゼロという国は現在のところ主要国の中には存在していない。それほどドラスティックな方針を掲げる以上は、その実現に向けたプロセスを丁寧に説明すべきであるが、それは全くないため、説得力が皆無となっている。付言すれば、この「エネルギー・環境ビジョン」には、「犬猫殺処分ゼロ」、「東日本大震災からの復興、災害への対応に取り組む」などの政策も混在しており、エネルギー・環境政策としての一貫性もみられない。

 国民民主党の公約は、「2030年代を目標として、できるだけ早期に」原発ゼロ社会を実現するという一方で、エネルギー構成としては再エネの比率を30%にするとしているのみであり、その他を何によって賄うのか言及は見られない。原子力がゼロで再エネが30%となると、火力発電が大きなウェイトを占めてくると思われるが、公約内に火力発電に関する記述は一切見られない。その結果、エネルギーを安定供給した上での原発ゼロ社会をどう実現していくのか、その道筋はまったく見えない公約となっている。そもそも再エネ比率30%に向けた具体的な工程も示されていない。

 日本維新の会の公約は、原子力に関して、「脱原発依存」としているものの、「原発再稼働責任法案」など原発の稼働を前提とした政策があるために、少なくとも「即時ゼロ」ではないと推察される。もっとも、将来的にゼロにするのか、今よりも割合を減らした上で使い続けるのかは明らかではなく、原子力政策の着地点は不明である。そして、「脱原発依存」かつ「脱炭素」であるならば、石炭火力ではなく再生可能エネルギーの拡大を図るのかと思いきや、この点についての言及はなく、同会のエネルギー政策ビジョンは判然としない。

 日本共産党、社民党の公約も、「2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」(共産党)、「再生可能エネルギーの割合を2050年までに100%」(社民党)などというようにきわめて高い目標を掲げながら、やはりその実現への道筋や政策手段も示しておらず、評価対象とならない。

 温暖化対策でも、各党は高い目標を掲げながら、その実現に向けた手段や工程をまったく示しておらず、単なるスローガンで終わっている。以上のことを踏まえ、言論NPOの評価基準による採点は不可能と判断する。

5.png



主要政党の政策項目数

 
自民党
公明党
立憲民主党
国民民主党
日本維新の会
共産党
社民党
経済
65 55 8 78 13 14 13
財政
8 10 1 13 4 2 2
社会保障 36 34 5 55 15 17 13
外交・安保
38 24 10 40 7 19 10
環境・エネルギー
17
21
7
24
4
8
7
農業
21
8
1
23
0
4
3
憲法改正
3
3
1
14
7
1
1
その他(復興、地方、教育)
94
60
7
86
9
16
14
総計
282
215
40
333
59
81
63
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