【論文】政官業の利害共有体質を乗り越える

2002年3月16日

hasegawa_t020327.jpg長谷川徳之輔 (明海大学教授)
はせがわ・とくのすけ

1936年生まれ、1959年東北大学法学部卒。建設省、(財)建設経済研究所常務理事などを経て、1995年より現職。2000から2001年までケンブリッジ大学土地経済学部客員研究員として、『80年代と90年代の不動産金融危機』の国際比較を研究する。主な著書に『東京の宅地形成史』『不動産金融危機最後の処方せん』等。

概要

今回の鈴木宗男代議士問題では、日本の政治決定プロセスの機能不全、政官業の癒着構造をまざまざと見せつけられた。特に後者の問題では、官僚の操り人形から脱却できない政治家や、いまだに政界に跋扈(ばっこ)する族議員たちの存在があらためてクローズアップされたにもかかわらず、鈴木氏の自民党離党で追及は急速に沈静化しつつある。自らも官僚の経験をもつ長谷川徳之輔明海大学教授が、政官業の暗部に追及のメスを入れた。

要約

鈴木宗男代議士の問題では、日本の政策決定のプロセスと行政の意思決定システムの問題点が露呈した。戦後の日本では、シナリオは官僚が書き上げ、政治家は官僚の操り人形として国会に参加するだけという政策決定のシステムが当然のように機能してきた。あらゆる情報が官僚の下に集まったからである。

そもそも、日本の政官業は対立構造になっていない。立場は違えど、内政問題や公共事業に関して利害をともにする3者が集まり、利益を追求するための、いわばギルド社会を形成している。政治家と官僚の接見を禁じたり、官僚の代替組織を作るなど、対策はちらほら出始めているが、解決までの道のりは長い。最近では幹部官僚の在任期間が急減していることもあり、族議員が官僚を抑え、勢力を回復しつつあるが、3者の役割が入れ替わっただけで構造は何ら変わっていない。彼らは中央省庁に働きかけて公共工事の「箇所付け」を行い、選挙区の票を獲得する。それに加えて、具体的な業者の選定でも、自分にとって都合の良い業者が指名されるよう行政に圧力をかける。しかし、国でも地方自治体でも、公共工事の入札には一定のルールがあるから、恣意的に入札に関与するのは基本的に難しい。

外務省にはそういった利権がないというのは正しいが、利権に関係がないというのはおごりである。そのおごりこそ、鈴木氏のような陳情型議員や族議員がつけ込むスキを生んだのである。「ムネオハウス」も然り。入札業務に慣れない外務省の官僚は、鈴木氏のような族議員にとって、言ってみれば格好のカモだったに違いない。今回の件では、外務省は完全に鈴木氏の操り人形だったわけである。これを機に徹底的な追及をせねば、同じような問題が再び起こるのは火を見るより明らかだと、長谷川教授は危惧している。


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