【国と地方】 増田寛也氏 第7話(最終話): 「自立に向けた変化の動きをどう創り出すか」

2006年6月29日

増田寛也氏増田寛也 (岩手県知事)
ますだ・ひろや
profile
1951年生まれ。77年東京大学法学部卒業後、建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部交通産業立地課長、建設省河川局河川総務課企画官、同省建設経済局建設業課紛争調整官等を経て、95年全国最年少の知事として現職に就く。「公共事業評価制度」の導入や、市町村への「権限、財源、人」の一括移譲による「市町村中心の行政」の推進、北東北三県の連携事業を進めての「地方の自立」、「がんばらない宣言」など、新しい視点に立った地方行政を提唱。

自立に向けた変化の動きをどう創り出すか

 地方の自立のためには、自治体が自ら経営するという意識が必要ですが、この意識については、自治体は大きく二つに分かれると思います。

 本当に自立してがんばろうというのは、恐らく、かすかすの貧乏な自治体で、本当に窮して、背に腹は代えられないというところまで追い詰められて、「やっぱり、やろうではないか」ということになった自治体です。

 しかし、逆に、そうだから完全にあきらめてしまい、大変なのだから公共事業に依存するしかないという自治体も多い。むしろそちらの方が多いかもしれません。他方で、大都市の富裕団体は、自立しようというモティベーションは全然働かず、まだ雑巾ズブズブの状態だと思います。給料も高いです。そういうところは本当はかなり自立できるのですが、そこまでのインセンティブは、追い込まれていないから起こらない。

 ですから、本当に自立しなくてはと覚悟を決めているのは、そこまで貧乏団体で追い込まれているところでしょう。それを経営しようとすれば、今はもう政府資金で借金することはできませんから、いかに借金についてのコストを安くするかといったことを色々と考えなければならない。そうすると、行政の規模を大きくするとか、他県と手を組んでやろうといった話も出てきます。

 そうした経営の意識がないところは、哲学の違いというか、国にはしの上げ下げまで面倒を見てもらうのは、民主主義ではないと思いますね。これからの地方は住民が、地方で自分たちで地域づくりをしていこうという気構えを持つかどうかで、決まってくると思います。

 市町村にも変化の動きは出てきていると思います。市町村合併でも、単に形だけ合併したというところもありますが、本当に共通部分をスリム化して何かやっていきたいということが出てきていますし、最近の状況を見ていると、ポツポツではありますが、随分すばらしいマニフェストを出して当選する首長も出てきました。飲み込まれる小さい自治体の首長がマニフェストをきちっと書いて、それで、もっと大きいところの市長を破って当選するという動きも出ています。北海道恵庭市の市長選のマニフェストのように、ここ、という点に的を絞ったマニフェストを出す首長が出てきています。こうした基礎自治体の動きも始まっているわけです。

 大事なのはやはり経営です。そうすると、本当に自分たちで、どのように地域の良いところを出していこうかと考えるようになります。ただ、それで地方が自立をするためには、相当の努力が必要なのも、自覚をしています。

 東北6県も自立しなければいけないし、できると思います。考えれば、観光なども良いものがたくさんあります。自立のためには、想像力とか発想といったものが大事で、今の制度を前提としていると、皆さん、こういうことがあるからできないという発想になりますが、「いや、できる」という前提に立って、想像力を働かせて、「じゃあ、ここをこうすればできるじゃないか」ということで順次頭を切り換えてやっていかなければ駄目だと思います。

 そういう意味では、言論NPOも北海道で自立的な地域再生の議論を興すことに成功したようですが、東北でも、宮城県なども巻き込んで、東北の自立の案というものを構想し、議論していくことが重要だと思っています。


※本テーマにおける増田寛也さんの発言は以上です。

 地方の自立のためには、自治体が自ら経営するという意識が必要ですが、この意識については、自治体は大きく二つに分かれると思います。本当に自立してがんばろうというのは、恐らく、かすかすの貧乏な自治体で、本当に窮して、背に腹は代えられない