【国と地方】斉藤惇氏 第1話:「地方は本当に自立を求めているのか(1)」

2006年5月02日

saito.jpg斉藤惇 (株式会社産業再生機構代表取締役社長)
さいとう・あつし
profile
1939年生まれ。63年慶應義塾大学商学部卒業後、野村證券株式会社入社。同社副社長、スミセイ投資顧問顧問を経て、99年住友ライフ・インベストメント社長兼CEOに就任。2003年より現職。主な著書に『兜町からウォール街─汗と涙のグローバリゼーション』 『夢を託す』等。

地方は本当に自立を求めているのか(1)」

 地方は自立を求めていると言いますが、私はこれまでいろいろと地方を歩いて見てそうした見方にかなり疑問を持っています。

 たとえば、地方の首長を見ると、県知事などかなりの方が、国の役人出身者です。人材が国の役人に揃っているという見方はありますが、選挙では、地方の人々は国の役所とつながることしか考えていない。そう思わざるを得ないことが何度もありました。

 道州制の議論も、九州州、北海道州という形で色々と出ていますが、本当に地方からそうした構想を具体化し、地元がわかるような人たちを代表として選んで自分たちで自らやろうという動きは感じません。

 確かに、国と地方の関係は変化が始まっています。今の地方のシステムをそのまま維持することは難しいという認識は皆が持っています。九州経団連でも、道州制で例えばアジアを中心とした発展をしようという動きも少しは出てきています。東京に頼らないで九州が生きる方法を考えるべきだと思いますが、しかし、現実的にはなかなか難しい。九州の中でも、福岡中心の考え方もあればそうでない違う考えもあるからです。

 そして、地方はどこも金がないのです。地方で勝手にやりなさいと言われても、交付金のカットには異常な抵抗をする。むしろ、財源の移譲こそしてほしい。つまりお金がほしいのが本音なのです。交付金カットは財政再建を考える財務省からみれば喫緊の課題だとしても、このような状況ではなかなか大変に思えるのです。

 私がまず言いたいのは、今の国と地方の問題は机上の議論になっていないかということです。理想は分かりますが、議論は実態と乖離していないか。さらに本当に地方が自立を求めているのか。さらに国も本当に地方を自立させたいのか。その現実的設計が提起されているのか。そのいずれにも私は疑問を持っています。

 たとえば、地方の行政は大部分が国の予算や行政指導を伴っており、国の官僚の計画しているとおりにしかある意味で動きません。それよりも、国交省や経産省や自治省から地方自治体へ来ている人を選んで、役所とリンクした方が、やはりお金は取れるということになる。
だから、そういう人が選挙で通ることになります。

 その政治を選んでいるのが国民ですから、ある意味では自業自得です。だから、地方の自立、分権と言っても私には地方が文句だけを言っているように見えてしまう。

 また地元では、例えば代議士はそれほど強くなく、地元のボスという人々が政治家を動かしています。国からただの金を引き出してくる代議士をポンプとして使うわけです。引き出してくればくるほど、優秀な地元の代議士と評価されるシステムにあっては、どれだけ中央の部屋で将来の日本のあり方をディスカッションしても、何の効果もありません。

 だから、小泉改革が空回りだといわれる。なぜなら、机の上で考えて言うから、そんなもの受けられるかと地元が言うと、どこかで妙な妥結、妥協をするわけです。


※第2話は5/4(木)に掲載します。

地方は自立を求めていると言いますが、私はこれまでいろいろと地方を歩いて見てそうした見方にかなり疑問を持っています。