世界の課題に挑む

「東京会議2019」の評価と、来年の会議に向けて何が必要か

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日欧が協力すれば、国際標準やルールの形成者になることができる

d.jpgフォルカー・ペルテス
ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長

工藤:3回目の東京会議で、ペルテスさんに初めて参加していただきました。出席されていかがでしたか。

ペルテス氏:招待してくださり、有難うございました。大変興味深く、意義深い会議でした。この会議を準備、運営してくださった工藤さんと、言論NPOのスタッフに感謝します。特に興味深かったのは、工藤さんが学者だけを招待したのではなく、学者と実務家を一同に集めたことです。日本、アジアそして、アメリカからもパネリストを招聘していて、非常に有意義だったと思います。米中対立と日本やヨーロッパが受けている対立の影響というトピックも非常によかったと思います。

工藤:言論NPOは独立のシンクタンクで、非営利で責任ある議論を作りたい、多くの市民が課題を考えるための資料を作りたいというのが目的です。私たちの、「メンバー」は、我々に寄付をして、議論に参加する。そういう知的なコミュニティが日本にあるのです。この人たちが一番気にしているのが民主主義であり、このアジアの平和であり、世界における人権や法の支配。そうしたグローバルな大きな秩序というものを守るだけでなく、新しいものに変えていく必要があるかもしれない。その中で、日本というのは受け身だけでなく、積極的に世界に貢献しようという流れを、ようやく日本で作り上げてきて、こうした動きを世界の人に知ってほしいと思ったのです。日本がそういうことに取り組んだのは、非常に新しいことです。

 世界が変化している中で、我々はテーマを設定したのですが、これは単なる議論をして、知的に、色々なことに刺激を与えるのではなく、その中でどのように日本は行動するべきか、世界と協力すべきか、という問題意識だったのです。今日の話も、「アジアを平和にしたい」という前提の思いがあるわけです。こうした取り組みはどうでしょうか。ようやく日本がそういう段階に来たと感じますか、それとも新しい変化というふうに思われたでしょうか。フォルカーさんの感想を聞きたいのですが。

ペルテス:日本の経済力、またG7・G20のメンバーである日本の政治力に比例した、大きな役割を果たすためのとても大きな発展だと思います。これは、私たちの国ととても似ているところがあります。日本も、私たちの国も、国際的なフィールドではとても消極的です。またどちらも大きな経済的なプレイヤーです。私たちは積極的に経済的な利益を追求しますが、地政学的なプレイヤーとしてはとても消極的です。私たちが感じている世界の不安や、ある意味ではトランプ大統領の行動によって、日本とドイツが自国の安全保障、経済、そしてアジアやヨーロッパという地域に対して負うべき責任というのはより比重が増していると思います。

 ドイツはEUの主要国ですが、東アジアにはEUに相当するようなものは存在していません。ヨーロッパの幾つかの中小国は、ドイツがEUでより大きな役割を果たすことを期待しています。アジアのパートナー国も、日本に対してそのような期待を持っていると思います。中国やロシアという2つの大きな隣国に関していえば、経済的な機会や挑戦だけでなく、政治的・地政学的な機会や挑戦も考えなくてはなりません。日本とEUは、共通の関心や利益を持っているという認識を強めています。最近の日本とEUの戦略的パートナーシップ協定の合意は、より緊密に動いていくということを決断したということです。正直に申し上げますと、ドイツやヨーロッパの議論では、日本の存在は忘れられていました。アメリカや中国についての話はしますが、日本についての話はそこまでされていませんでした。日本がドイツよりも大きな経済でありながらも、忘れられていたのです。

 しかし、日本について再び議論されるようになり、日本の役割が再発見されています。私たちはいまプライドをもって、「EUと日本は一緒になって、世界で一番大きな自由貿易圏を作った」と言うことができます。そしてこれは、より政治的に重要なものである可能性があります。市民の権利を念頭に、私たちは世界で一番大きなデータフロー圏の形成とデータ保護標準の合意に達しました。これはとても大きな達成だと思います。それは、日本やヨーロッパのようなミドルパワーの国は共に、世界で国際標準やルールの形成者になれるということを意味するからです。

工藤:私も同じ認識を持っています。4~5年前に初めてベルリンに行って講演した時に、会場の方々が日本のことをほとんど知らなくて、日本の戦争時代のことくらいしか質問が出ないことに驚きました。また、読まれている日本の書籍も、日本からするとすごく古いものなのです。今の日本の社会とは全然違う、少し驚きました。これは日本の政府間の外交努力とか外務省の問題ではなくて、民間レベルの議論交流が決定的に不足していると思いました。

 今日のパネリストを見ても分かるように、日本の社会には、かなり戦略的に熱い気持ちを持ち、勇気ある発言をする人たちがたくさんいるのです。そういう人たちを多く集めてきました。その人たちは、自国、日本のことだけを考えてはいません。世界のことを考えようとしています。こういう人たちが、世界の中で交流しなければならない。そして、その人たちのアンケートをとると、やはりドイツの名前が出るのです。日本は世界に貢献する、だけどドイツにもその役割があるだろう、と。私はそういうことを考えると、ドイツという国を特別な目で見ています。今回フォルカーさんにどうしても来ていただきかったという意味は、まさにドイツと日本が、こうした問題の議論にきちんと参加しているという形が重要だと思っていたのです。この関係を今後も継続させてもらいたいと思っています。

 一つ質問なのですが、ドイツに行った時に、ドイツの政治家には優れた政治家が多くて、こうした議論に参加したいと思っていることがわかりました。世界を回って、そういう議論があったのはドイツだけでした。つまり、世界の秩序が変化する中で、いろいろ発言をしたいという人たちがいるのだ、ということに気づきました。こういう声をどのようにして、僕たちのシンクタンクレベルでの議論と連携させるのかということに非常に関心があるわけです。世界が大きく変わろうとしている時に、発言をしようという人達が出てきている。それは多分、他のヨーロッパの国々にもいるのだと思います。こういうことをどういうふうに考えればいいのかということと、来年以降の東京会議に期待することをお聞きしたいのですが。

ペルテス:日本とドイツが世界の今後について前向きな議論を主導するために、私たちの国が持っている共通点や共通の利益についてまず申し上げたいのですが、世界秩序に関して、ヨーロッパと日本の状況は非常に似ていると思います。私たちは今まで、ルールに基づくリベラルな多国間主義の秩序から、とても多くの恩恵を受けてきました。そして、私たちはその秩序がこのまま維持されるものではない、という認識を共有しています。そのため、私たちはこの秩序を維持し、改革し、可能であればより安定した秩序を再構築することに非常に大きな責任があります。私たちのような国が、多国間主義2.0を作り上げるべきです。安全保障でも、私たちはアメリカの戦略的な盾に依存しています。私たちの国はどちらも「アメリカは1番重要な同盟国である」と言うでしょう。そして同時に私たちは、トランプ大統領のアメリカは、もう最も頼れる同盟国ではないということに気づいています。

 これが、ヨーロッパでの議論の中心が「戦略的な自立したヨーロッパ」、「ヨーロッパ主権」に動いている状況を作り出しています。私たちのシンクタンクで、「戦略的なヨーロッパの自立性」とは一体何か、という広範なポリシーペーパーレポートをつくりました。「戦略的な自立を目指す」と言う政治家もいますし、それを望む人々もいますが、それはもちろん代償を伴います。とても多くの政策選択があり、多くの政策的トレードオフが伴います。それだけではありません。安全保障や経済の問題もあります。これが今、ヨーロッパで起きている議論です。このうち幾つかは、日本でも議論されているかもしれません。「より自国の強さに頼る」。これが意味するのは、同盟国との同盟関係を続けても、以前より同盟に依存している価値を感じなくなっているということです。これは、日本とドイツ間での議論において、とても重要なテーマだと思います。私たちのシンクタンクの間だけでなく、日本とドイツの二国間や日本とEUの間でも重要な論点です。

 来年の会議に関しては、来年はまだ世界秩序について議論することが必要だと思います。これに関しては、まだ収束していないでしょう。また、「多国間主義2.0」というのは、来年の会議のコンセプトのヘッドラインになり得ると思います。

工藤:今回は、本当に来てくださって有難うございました。

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