世界の課題に挑む

「リベラル秩序と多国間主義の未来-G7・G20に問われた役割-」公開フォーラム第2セッション報告~

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 第1セッションに引き続き、「リベラル秩序と多国間主義の未来-G7・G20に問われた役割-」をテーマとした第2セッションが行われました。

 この第2セッションから司会を日米協会会長で元駐米大使の藤崎一郎氏に交代し、ゲストスピーカーに内閣副官房長官の西村康稔氏をお迎えして議論が行われました。


国際的注目を集める2019年、日本が新たなルールづくりでリーダーシップを発揮する好機

_DZB1731.jpg その冒頭で講演した西村氏は、合意に至らなかった米朝首脳会談、交渉期限が延長された米中交渉などを例に挙げながら、トランプ米大統領が多国間(マルチ)よりも2国間(バイ)の交渉を志向しているのは事実だとしつつも、「決してマルチを全否定しているわけではない」とし、それを示す昨年のG7シャルルボワ・サミットでのエピソードを披露しました。そこでは、首脳コミュニケをめぐる協議の際、「ルールに基づく国際的貿易体制」という表現をめぐって、"the rules-based international trading system"を主張する欧州各国首脳と、"a rules-based international trading system"を主張するトランプ氏の間で論争があったことを紹介。

 欧州側は"the"、すなわちWTOという特定のシステムを意識していたのに対し、トランプ氏は"a "、すなわちWTOに限定せず、一般的・網羅的に国際貿易システムの重要性を語ればいい、と主張していたと回顧。西村氏は、この議論の際にトランプ氏がWTO自体は否定していなかったことに着目し、「WTOルールも現状に即したものにすれば従う意思はある」と分析。その証左として、トランプ政権もWTO改革に関する日米欧三極貿易大臣会合には積極的に乗り出していることを挙げました。

 同様に、インド太平洋構想をめぐってもトランプ政権は日米豪印というマルチの枠組みを重視していると指摘し、「マルチでも良いものは利用していこうという発想はある」との見方を示しました。

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 こうしたことを踏まえ、西村氏は日本がとるべき針路について語りました。データの流通に関するルールの未整備など、WTOをはじめとする既存のシステムが時代の変化に対応していないことに不満を抱いている国は米国に限らないとした上で、そうであるならば「多くの国が合意できるような枠組みを新たにつくっていくしかない」と指摘。その上で、「それをリードする力があるのは、TPP11などを主導してきた日本である」と主張。特に、2019年はG20大阪サミットだけでなく、皇位継承に関連する行事やアフリカ開発会議(TICAD)、さらにはラグビーW杯に至るまで日本が国際的な注目を集め続ける1年であるため、日本が新たなルールづくりでリーダーシップを発揮する好機であると語りました。さらに、安倍首相のG7サミットへの出席が7回を数え、G7の重鎮として各国のリーダーとの信頼関係が強固になっていることも日本の強みであるとし、改めてこの2019年にかける日本の意気込みを強調しました。

 続いて、各パネリストの発言に入り、まず4カ国のパネリストから問題提起が行われました。


現状に追いついていないルールをアップデートすべき

_DZB1761.jpg まず、ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長のフォルカー・ペルテス氏は、西村氏と同様の見方から、トランプ氏に限らず既存の秩序やシステムを声高に否定する"衝動的な人"は多いとし、さらに地政学的な対立の再燃なども相まって国際秩序は分断されつつあると懸念を示しました。

 その上で、こうした状況にあたっては、「リベラルな国際秩序やルールベースのシステムの方が利益になる」ということを人々が実感できるようにする必要があるとし、そのための方向性について提言。まず、TPP11やイラン核合意維持に向けた独仏英のように志を同じくする国々が多国間の連携を強め、離脱した国々がいつでも戻ってこられるような状態を保っておくようにすべきと主張。また、米国もWHOなど分野によっては多国間協力にとどまる意思は見られるため、こうした動きも後押しする必要があるとしました。

 さらに、サイバーをはじめとして、世界は変わっているのにルールが追い付いていない分野は多いとし、ルールをアップデートする必要性についても指摘しました。

 その上でペルテス氏は最後に、求められる心構えとして、「自己満足の改革で終わってはいけない。リベラルな価値とは何か、真摯に問い直し続ける必要がある」と居並ぶパネリストや聴衆に対して語りかけました。


G7は対ロ、G20を金融危機への対応を怠ってはならない

_DZB1796.jpg イタリアの国際問題研究所(IAI)副理事長のエットーレ・グレコ氏も、トランプ政権の多国間主義に背を向けた姿勢を問題視した上で、G7とG20の役割について提言。まず、WTO改革について日米欧三極貿易大臣会合の進捗を評価した上で、これをG7とG20でもフォーローアップしていくべきと発言。また、G20については2008年11月、リーマン・ショックを契機に発生した経済・金融危機に対応するために開催された緊急会合が格上げされ、現在の首脳級会合となったという経緯を踏まえ、「その原点に立ち返り、経済的なグローバルガバナンスの回復に責任を持って取り組むべき。特に、金融危機の対応は忘れてはならない」と戒めました。さらにG7に対しては、その政治的性格からロシアへの対応を忘れないように注文を付けました。


揺らぎは「内からの脅威」が原因

_DZB1816.jpg インドのオブザーバー研究財団(ORF)理事長のサンジョイ・ジョッシ氏は、現在の国際秩序をめぐる様々な懸念は、中ロなどの権威主義的な国家の影響力増大が原因なのではなく、リベラルな民主主義国家における「内からの脅威」であると問題提起。背景には、所得の格差や雇用の問題など、社会問題に対する人々の不満をリベラルな民主主義システムが解決できていないことがあるとの認識を示しました。

 また、AIをはじめとして急速な技術の進展は世界の大きな変化をもたらし、世界は過渡期を迎えているとした上で、既存の様々なルールがその変化に即応していないと指摘。西村氏やペルテス氏と同様に、現実に即した新たなルールの整備が不可欠であると訴えました。

 またジョッシ氏は、既存のルールは既存の大国がつくり上げたものだが、インドをはじめとして新興国が台頭する中ではステークホルダーが多極化しているため、そうした観点からも、やはりルールを現状に即した形でアップデートする必要があると主張。そのための対話をすぐにでも始めるべきと語りました。


リベラルな価値とは何か、ということについて各国の認識を統一しておくことがまず必要

_DZB1840.jpg イギリスの王立国際問題研究所(チャタムハウス)米州プログラム責任者のレスリー・ヴィンジャムリ氏は、"リベラル"といった場合、法や制度をつくる際に自ずと人権尊重など価値を盛り込むことが求められる。すなわち制約が多いため、そういった価値に配慮する必要がない権威主義体制などと比べると、「維持をしていく上で様々なハードルがある」と指摘。もっとも、ジョッシ氏と同様に、リベラル秩序動揺の原因は権威主義体制の台頭だけではなく、米国の経済力の相対的な低下や格差をはじめとする各国の国内問題が背景にあると語り、ブレグジットで揺れ続けるイギリスでもその傾向は顕著であるとしました。

 ヴィンジャムリ氏はさらに、リベラルという概念は西側で生まれ、西側だけで共有してきたものであるとした上で、この概念を西側の外にまで普及させようとする試みは実は「新しい発想である」と指摘。多極化し、様々なアクターが存在する現在の世界において、リベラルを国際秩序の基軸としていくためには、何らかの共通ルールを策定し、リベラルな価値とは何か、ということについて各国の認識を統一しておくことがまず必要になってくると述べました。もっとも、そこでの懸念要素はやはりトランプ大統領の動向であるとし、米国の同盟国が連携して、米国をリベラルな秩序に引き戻すことの重要性も強調しました。

 問題提起を経て、フリーディスカッションに入りました。


米国がリーダー役から手を引いても、各国は自らの責任を果たしながら秩序を守っていくべき

_DZB1369.jpg トランプ大統領を抱え、今回の「東京会議2019」でもしばしば肩身の狭い思いをしている米外交問題評議会(CFR)バイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏は、世界史的な観点から「いかなる国際秩序も永遠に続いたことはなく、それは現在のリベラル秩序も例外ではない」と指摘。リベラル秩序は世界の繁栄をもたらしたが、国境を越えて生じるようになった新たな問題には対応できていない結果、人々の疑念を招き危機にさらされていると語りました。

 しかしリンゼイ氏は、だからといってリベラル秩序をすべて放棄してしまうという選択は誤りであるとし、「必要なのはもっと良い秩序をつくることだ」と強調。もっとも、これまで秩序を擁護してきた大国、とりわけ米国がそのリーダー役から手を引きかねない状況の中では、既存の秩序を「もっと良い秩序」にアップデートしていくことは大きな課題であるとも語りました。


_DZB1859.jpg ブラジルのジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV) 総裁であるカルロス・イヴァン・シモンセン・レアル氏は、これまで世界を支えてきた米国はその相対的な経済力が低下し、「担い手のコスト」を負担し切れなくなっているとし、そうしたことが手間のかかる多国間主義から背を向け、比較的交渉のしやすい2国間主義に走らせていることの要因になっていると分析しました。

 しかし同時に、リベラル秩序の動揺は米国だけの責任でなく、各国の国内問題への対応にも原因があるとの見方ではジョッシ氏やヴィンジャムリ氏に同意。米国の責任をあげつらうよりも、まず各国がなすべきことをなすべきだと主張しました。


中国主導の「新G20」に対し、もう一度G7がその役割を果たすべき

_DZB1390.jpg 多国間主義の今後について、フランス国際関係研究所(IFRI)中国研究担当ディレクターのアリス・エクマン氏は、中国の観点から予測。既存の様々な国際機関に対して大規模に財政支援をするなどして影響力を行使するとともに、アジアインフラ投資銀行(AIIB)など自ら国際機関を創立していくことで、多国間協力の枠組みを変容させつつあると指摘。その上で、こうした事態は中国を中心とする「新G20」を誕生させかねないと警鐘を鳴らしました。

 エクマン氏は、この背景にはG20が、各国が直面する課題に対して答えを示してこなかったことにあるとした上で、対策としては価値を共有するG7がリーダーとしての役割を再び果たし、議論を主導していくことであると主張しました。

 エクマン氏は最後に、昨年11月の「第1回パリ平和フォーラム」などフランスの取り組みを紹介しながら、「フランスはまだ多国間主義を信じている。日本もそうだろう。信じている国が多いのであればまだ大丈夫だ」と今後についての期待を口にしました。


世界の構成の変化に対応した議論が必要。同時に、市民レベルへの向き合い方も再考すべき

_DZB1273.jpg 第1セッションでゲストスピーカーを務めた元米商務省審議官で米経済戦略研究所所長のクライド・プレストウィッツ氏は、このセッションにも急遽参加しました。

 2050年にはインドのGDPが世界第2位になること、4億人のナイジェリアをはじめとして、アフリカで人口1億超の国が続々誕生すると見られていることなどを踏まえ、世界が今後ますます多極化していくと予想。既存の国際秩序を支えてきたEUが、その結束を維持できなくなったことも、そうした多極化をさらに加速させていると語るとともに、世界の勢力図の変化に合わせるように、多国間協力の舞台を再構成することも必要であると指摘しました。

 一方でプレストウィッツ氏は、中国については高齢化と人口減少に加え、巨額の債務問題に苦しむことが予想されるため、その将来的な影響力についてはやや懐疑的な見方を示しました。

 ただ、多国間主義の揺らぎの原因としては、「国民国家への過小評価があった」、「市民の国に対する愛着についても過小評価していた」といった要因もあるため、枠組みの再検討だけで解決する問題ではなく、人々の感情に向き合い不満を解消することも求められるとしました。

 議論では、大きな世界課題となったインターネットやデジタル経済、AIなどの新技術とそのルールのあり方についての論及も相次ぎました。

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新技術は国際協力を再興させる好機

_DZB1930.jpg オブザーバーとして参加していた韓国・ソウル国立大学教授の李根氏も発言。その中でまず、デジタル経済に関しては近い将来に技術的に先行する米国、中国、欧州などに分かれてブロック経済化が起こると予測。現状で技術を持たない韓国としては、そのどこかに属することになるが、中国を選んだ場合、独裁者による監視社会を描いたイギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説「1984」のように、"ビッグブラザー"に社会が監視され続ける事態が起こることを懸念。したがって、韓国としては米か欧のルールベースのシステムに頼るしかないと語りました。


_DZB1945.jpg カナダのセンター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI) 総裁であるロヒントン・メドーラ氏も、李氏と同様にデジタル経済やAIなど新技術をめぐって複数のブロックが誕生するとの見方を示しつつ、これらを相互にどう調和させるかは難題になるとの懸念を示しました。

 メドーラ氏はその一方で、昨年のG7サミットでは自国カナダがAIについて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)を参考としながらルールづくりの議論を開始したこと、さらに安倍首相が今年のダボス会議において、「データ・ガバナンス」について国際的なルールづくりを議論する枠組みの創設を呼びかけるとともに、G20での主要テーマとする方針を示したことなど触れ、国際的な議論はすでに始まっていることに期待を寄せました。

_DZB1437.jpg シンガポールのS.ラジャトナム国際研究院(RSIS)副理事長のオン・ケンヨン氏は、ASEANの中では世界秩序よりも地域秩序を優先させるべき、という議論があることを紹介。その背景には、世界レベルでは新技術の発展スピードに即応したルール整備がなかなか合意でいないため、合意に至りやすい地域の枠組みを優先しようという発想になっていると分析。したがって、世界を分断させないためにも、技術の観点から世界秩序を再検討していくべきだと語りました。


 今年のG7サミットでも、新技術は主要な議論テーマになるとの見方を示した開催国フランスのエクマン氏は、議論の際の留意点として、「新技術をめぐっては、国ごとに定義が異なるということもあるのではないか」とし、まず定義の統一を優先させるべきと主張。そこで合意できれば共通のガバナンスの構築もスムーズに進むとし、さらに協力が深化すれば、それが引いては多国間協力の再興にもつながっていくと語りました。


G20大阪サミットに臨むにあたって

 議論を受けて、最後に再び西村氏が登壇しました。西村氏はまず、ルールに基づく秩序を維持・発展させていくことが世界全体の発展のためには不可欠であるとした上で、「しかし、そのルールとは決して固定化されたものではなく、不断のアップデートが不可欠」とし、G20大阪サミットでもデジタル経済やWTOなど様々なルールに関する議論を実施していくと語りました。同時に、既存のルールへのチャレンジが各国国内の不満から生じている「内からのチャレンジ」という各パネリストの指摘に対しても、「そうした不満に対する手当てをどのようにしていくべきか、という議論もしていく」と応えました。

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 西村氏は、「外からのチャレンジ」である中国との向き合い方については、AIIBとの協力事例を紹介。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などの枠組みを通じて、「質の高いインフラ」という条件を満たしているのであれば、協調融資の実績を積み重ねてきたとしつつ、今後もこうした関与を通じて変化を促していくと説明しました。

 最後に米中対立については、バイで解決できる部分もあるとの見方を示しつつ、知的財産権やデジタル経済など新たなルールが求められる部分に関しては、「これは中長期的にマルチで議論すべき事柄であるため、米中と議論しながら積極的に働きかけていく」と強調。改めて6月の大阪での日本のリーダーシップ発揮への意欲を示しつつ、白熱した「東京会議2019」を締めくくりました。

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