日本の民主主義を考える

2012年10月17日

2012年10月4日(木)収録
出演者:
増田寛也氏(野村総合研究所顧問)
武藤敏郎氏(大和総研理事長)
宮内義彦氏(オリックス株式会社 会長兼グループCEO)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


代表制民主主義を立て直す

工藤:本当にその通りだと思いますが、先ほど宮内さんの言ったように政権与党が長く政権をやったからといって果たして答えを出せるのでしょうか。つまり、確かに落ち着いて政策運営をやらなければなりませんが、落ち着く政党そのものがバラバラだという本質的な問題があります。

武藤:それよりは日本の政治の基本である政党にガバナンスがないということが問題である。党首選を見れば明らかであるが、どういう原理でやっているのか、次の選挙に負けそうだとか、長老が応援しているとか、こういう議論しかなかった。企業ならばおかしくなっている。政治家のキャリアパスも極めて曖昧である。こうなると政党もきちんとした提案が難しい。

工藤:増田さん、民意はそんなに無責任なものですか。確かに民意はぶれやすいが、日本の中にもある程度賢明な判断の出来る人はいると思いますが、その点についてどのようにお考えですか。

増田:私は民意が無責任というのはいい過ぎであって、それはあくまでも有権者の意思であると思う。しかし、本当に気をつけなければならないのは、よく有権者とか、選挙権とかを権利で捉えるけれども、あれは権利ではなく義務であるということだ。先日の地方選挙だが、あれだけ話題になった山口県知事選挙も投票率がわずか45%だった。要は、権利の上に眠っている人が55%おり、一部の意思によって全体の民意が形成されているような状況だった。かかる問題が良いのか悪いのか以前に、そういう権利を使わずに、一方で、選びだした政権を少し時間が経つと引きずり下ろす、飽きて次を求めたがるという問題がある。国政の場合、衆議院解散があるにしても一度選んだからには、地方選挙と異なり、リコール制度がないので、その選挙の一回だけが勝負である。決して手に唾することは言いたくないが、最近民意がやや安易に考え過ぎていると思う。

工藤:民意と言った場合「世論」と「輿論」は異なっています。一般的な「世論」は、とにかくサービスが重要であり、何かあれば勇ましい人を求め、毅然とした態度を取れとか、そういうことがないと軟弱だとか、そういう風に動きます。一方で、「輿論」はきちんとした議論に基づいた責任ある意見です。本来後者の「輿論」が民主主義の前提となっていますが、実際には大きな乖離があるという問題があります。

 一方で、このアンケートに答えている人たちはかなり意識が高いです。その人たちが今の課題解決を政治が出来ないということに対しておかしいのではないか、つまり宮内さんのさきほど言ったポピュリズム的な改革色を競うようなスローガンというより、政治家の課題解決力を見ようとしている声があります。この二つの民意の展開、せめぎあいをどのように考えていけばよいかを、宮内さんにお願いしたい。

宮内:そのために代議制の民主主義がある。いちいち世論調査をして決めるわけにはいかない。やはり、選ばれた人が何か物事を動かすという時に話し合いをし、すり合わせをし、妥協に妥協を重ねて、中をとる。中の取り方はいろいろあるが、何かを作り上げて物事を進める、そこの集結度合いが日本の政党間で非常に弱い。連立をしないと動けない。それでも動かなくなったら、選挙で対立した一番目の政権与党と、一番目の野党が大連立を組むという全く民主主義を破壊するような論が出る。そうではなく、一つ一つのイシューに関する政策協調がどうして出来ないのか。これが出来ない限り何のために政治家を選んだのかとむなしい思いを抱く。政治家は我々の負託を受けて代表になったのだから、何が何でもいいから物事を動くように妥協を図って、日本国を少しでも前に進めろという気持ちになる。それをやらない政治家を怠慢というか、何のために政治家になったのかと叫びたくなる。

武藤:政治家が選挙のために政治をするという風になっている。その状況から、政治家が国家のために政治を行い、政策を実行し、その結果を選挙で問う、という風にしたいし、しなければならないと思う。この原因は、政治のルールに問題があるからだ。選挙の回数は一年半に一回あるように出来あがっている。衆参の問題で物事が解決出来ない状況に出来あがっている。政党も二大政党といいながら、その価値観は5つ、6つ、7つ、のように多様な意見に分かれている。そういうことを前提にやるしかない。


マニフェストを軸とした政治サイクルの実現

工藤:さて、またアンケート結果に戻ります。日本の民主主義を機能させるためにどんなアイデアを持っていますか、という設問では、有権者の問題を問う声が非常に多かったです。43.9%と半数近くの方が「有権者、市民の当事者としての自覚」と答え、最多となりました。これと連動しているのは、22.1%の方が回答した「マニフェストを軸とした政治サイクルの確立」と19.5%が回答した「有権者と政治とのより緊張感のある関係」でした。つまり、有権者の自覚と政治家との関係を再構築することが非常に重要だという声が非常に多い。それに関連して、20%程度の方が「首相公選制」や「直接民主制の導入」などを求め、有権者の参加を求める声も多数ありました。これは一つの解決策として有権者と政治との関係に対して問う必要性を感じているということです。

 他方で、制度改革を求める声もあります。例えば、31.1%が「参議院の廃止など両院制の改革」、21.8%が「定数削減」、18.5%が「一票の格差の是正」と答えていました。投票という行為自体に関しては、「投票の義務化」に私も賛成だが、有識者の13.5%も同様な意見を持っています。この「投票の義務化」と関連して、「最低投票数の厳密化」という、どれくらいの政治家が代表制を維持しているのかという本質的な問いかけもしている。その他に、「政党助成金の廃止」あるいは「政党自体の外部監査制と政党助成金のリンク」などが10%ほどあります。解決策は有権者と政治との緊張関係と制度改革、政党改革に集約されています。こうした状況についてまず増田さんから意見を伺いたい。

増田:まず参議院のあり方を変えるとか、首相公選制とかのいろいろなアイデアがあるけれども、やはり私はものすごく時間がかかるし、難しいと思う。当事者が変えないと出来ない仕組みをやる時はなかなか変えられない。直接制度、例えば国民投票などで最後に有権者の意見を聞いてみる。これは世論調査と同じようなものである。そういう風に安易にそういう所に戻すな。選ばれた以上そこでこらえて、結論を出しなさい。原発の問題にせよ、何にせよ、難しいからこそ有権者に選ばれた代表者が徹底的に議論し、自分たちの中で決めるべきだと思う。

 しかし、そういう仕組みにどのようにしていくかということだが、やれば出来ると思ったのがこの間の3党合意である。政党間の合意は今まで非常に難しかったけれども、本当にごく一部、曖昧な部分はたくさんあるが、何とか3党でまとめ上げた。だから、本当に追い込められて真摯にやらなくてはならない時は党を超えて合意をするという実績がある。これを他の政策でも行なえばいいと思う。

 最後に、アンケート調査にもあったが、「マニフェストを軸とした政治サイクル」を政党はきちんとやってほしい。民主党政権でマニフェストという言葉が汚れたが、民主党のマニフェストはマニフェストもどきで、ああいう天から降って来たものをごく一部でやっているというのはマニフェストではない。そうではなく、本当に真摯にマニフェストを下から積み上げて党内議論をし、少なくとも党員から支持されるマニフェストを作ってほしい。その上で政党間が譲ることは譲って、最後は妥協も必要になる。それでマニフェストのサイクルが実現していけば、今の政治に対する信頼を取り戻せると思う。

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放送に先立ち行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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