言論スタジオ

メディア報道のジレンマ -メディアは戦争を止められるのか

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2013年10月18日(金)
出演者:
会田弘継氏(共同通信社特別編集委員)
倉重篤郎氏(毎日新聞専門編集委員)
加藤青延氏(NHK解説主幹)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用した調査結果はこちらでご覧いただけます。


工藤:さらに、アンケートでは、「現在の日本の世論に対してどのような認識を持っているか」ということも尋ねています。「右寄りだと思う」の10.0%と「どちらかといえば右寄りだと思う」の39.2%の回答を合わせると、49.2%と半数近くの人が日本の世論は右寄りだと思っています。一方で、「左寄りだと思う」2.5%と「どちらかといえば左寄りだと思う」の5.0%の回答を合わせると、7.5%ですから、明らかに右寄りだと感じている人が多いことが分かります。

 また、メディアのジレンマが生じている状況の中で、「メディアが持つオピニオンという役割に期待していますか」、と聞いてみました。これまでの議論からすると、メディアのオピニオンの役割はあまり期待されてないのかと思ったのですが、驚いたことに、「期待している」という回答が37.5%で、「どちらかといえば期待している」という回答が32.5%ですから合わせて7割くらいの有識者が期待していることになります。

 そして、最後に今日の討論のテーマになりますが、「あなたはメディアが戦争を止められると思いますか」、と聞いてみました。客観的ではない、不公平と評価であれば、「止められない」と思うのが当然だと思うのですが、「止められると思う」という回答が36.7%で最多でした。「止められないと思う」という回答も32.5%ありますので、拮抗はしていますが、「止められると思う」という期待を有識者は持っています。

 これらの回答結果について最後にお聞きしたいと思います。まず日本の世論の状況について、現在、日本の世論は右になっているのでしょうか。


政府とは異なる選択肢を示すメディアのオピニオン

倉重:はい。私もそういう感じがしますし、実際そう指摘する人も多いです。やはり、領土問題を抱えていると、韓国に対しても中国に対しても、その背景は色々あるにせよ、右傾化の傾向は出てくると思います。また、日本がアジア第一の経済大国であった時代が終わって、中国に追い抜かれてしまったショックや、長期にわたる経済の低迷という閉塞感の中、どうすれば日本人としてのアイデンティティーを確立できるのか、という端境期にあるから、ますますそういう右傾化の傾向は出てきていると思います。

 ただ、その中で、日本メディアのオピニオン形成には期待があります。オピニオンには、政府が取り組んでいることを評価しながらも、それとは違う選択肢を提示するという役割があると思います。その時に、日本の右傾化しつつある世論との心理的な戦いという、まさにジレンマみたいなものを感じながらやっていくことになります。そういう意味ではメディアにはこれから非常にやるべきことが多いし、大変な作業が残っていると思います。

工藤:ある新聞の記者に話を聞いたら、何か少しまじめな議論をすると右寄りの人から抗議の電話がたくさんある、ということを聞いたことがあります。それくらい世論の右傾化という問題が新聞報道に対するプレッシャーになっているんでしょうか。

倉重:そうですね。右寄りなネット世論からの攻撃は多少あると思います。ただ、領土問題に関しては毎日新聞もそれほど踏み込んだ論説は書いているわけではないので、今のところそういうプレッシャーを感じたことはありません。むしろ、靖国報道において多いような印象があります。

工藤:たぶん現在、問題になっている「右」というのは愛国というよりも、何か復古的な色彩を帯びている、あるいは、他国を攻撃するようなナショナリズムのあり方、なのではないでしょうか。

会田:元来、アイデンティティーと復古主義は密接な関係にあるものです。自分たちのアイデンティティーを探すとなると過去に行くのが一番手っ取り早いのですから、これはもう表裏一体の話ですよね。それから、グローバリゼーションの進展に伴い、あらゆるところで国境が見えなくなってきていますが、これに抗う時、人が最初に求めるものが国民としてのアイデンティティーということになるわけです。ただ、これは、日本に限らず、色々なところで起こっている現象です。だからそれでいい、と私は言っているのではなくて、それを乗り越えるのはどういう方法があるのかをみんなで考えていかないといけない。そういう問題をどうやって乗り越えるのか、まだ答えが見つかっていないところに私たちはいるのだと思います。

加藤:私の実感としては、日本社会が右寄りになったというよりは、左がいなくなったという感じです。やはり、日本は左になっても右になっても、とにかく社会全体が一つの方向に一直線、一辺倒に進んでしまう、ということが一番怖いと思います。色々な意見が百家争鳴していて、考えられる選択肢がたくさんある社会が、私は日本の世論にとって幸せな状況ではないかと思います。そういう意味では、現在ちょっと偏っているところがあるかもしれませんので、色々なものの見方や情報がもっと出てきてもいい。そういう意味では、私たちメディアももう少し努力しなくてはいけないと感じています。


人々に針路を示すことがオピニオンの役割

工藤:日本には冷静なところはあると思います。ただ、何となく、一部にそういう右寄りで過激なことを言う人がいるにもかかわらず、なかなかその言説を批判しにくくなってしまう雰囲気があるような気がしていますが、そういうことを考えるとなおさら先程のオピニオンという、メディアにおける言論の役割が非常に重要になってきていると思います。メディアの持つオピニオンという役割に7割の人が期待しているというアンケート結果ですが、まさにその当事者である皆さんはこの回答結果をどう受け止めましたか。

倉重:ありがたいことです。それと同時に、やはり有識者は「メディアに期待するしかないのではないか」、と思うところがあるのでしょう。特に主権が絡む、尖閣問題というのは、政府ベースの外交に任せていたら戦争に至るかもしれない。そういう不安の中で、勇ましい言説だけではなく、日中関係の大局的な見地に立った冷静な意見も出てくるような言論の多様性の基盤の構築をメディアに期待しているような気がします。

加藤:特にオピニオンに対する期待が高まった理由はインターネットにあるのではないかと思いました。インターネットの高度化によって情報があふれる時代になったので、情報は自分から探しに行けるようになる。すると、自分である方向性のものを知りたいと思ったならば、どんどん知ることができる。だから、右でも左でもどちらかに走ったらどちらでも行けるようになっています。ただ、逆にそういう時代には、「では、どういうふうに考えたらいいんだろうか」、という一種の先生、リーダーみたいな存在がいないのですね。そこで、メディアに対してある程度一つの考え方を規範として示してほしい、という気持ちが出てきているのではないかなと思います。

会田:先程の話にもつながりますが、現在は端境期であり、色々な面で人々がアイデンティティークライシスに直面しています。だからこそ、安易なナショナリスティックなアイデンティティーにすがろうとする人が出てくるわけだし、そこまでいかなくても多くの人が迷っている。だから、そこでオピニオンを読みたい、という欲求が出てくるのだと思います。オピニオンを読むことによって新しい指針を求めている、という人が多い。それは事実だろうと思います。実際、明らかにここ数年、新聞、あるいはテレビの放送を見ても、オピニオン欄、あるいはオピニオン的な番組が増えていますので、メディアのオピニオンに対する社会の要請は非常に強くなってきています。

 しかし、それが本当に良いことなのか、というと少し怖いところがあると思っています。つまり、オピニオンばかり見ていて、それを形成する下地となるファクトについての意識が薄れているような印象を受けます。事実をきちんと押さえずに、オピニオンだけが勝手に動き回っているような傾向は良くないのではないかと思っています。


メディアは戦争を止められるか

工藤:今のオピニオンに対する期待も含めて、有識者には現状に対する危機感があるのではないかという気がしています。その危機感を解消するために、メディアが本気でやってくれないと駄目なのではないか、という意識があるのではないでしょうか。

 なぜそう思ったかというと、アンケートで「メディアが戦争を止められると思いますか」と尋ねたところ、意外にも「止められると思う」との回答が36.7%と最多だったからです。このような人は、「メディアはもう駄目だ」と突き放しているのではなくて、尖閣問題も含めて危機管理ができていない状況の中で、偶発的な事故があった場合に、どうなるかわからないという不安感があり、その中でメディアに対して期待をしているのだと思います。つまり、この回答結果は、メディアのオピニオンに対して、ある意味で激励、一方で警告だったりするのではないか、という感じがしました。

 そこでお尋ねしたいのですが、メディアは戦争を止められますか。

倉重:非常に難しい問題ですが、止めるための一助にはなると思います。全面的な戦争に突入する、という状況を抑え切れるかというと、過去の歴史を見る限り、あらゆる戦争の時に色々なメディアが戦争を阻止しようと論陣を張りましたが、結果は歴史が示す通りですので、難しいと思います。

 しかし、なぜオバマはシリアに侵攻しなかったのかというと、やはりメディアが過去の戦争の失敗を徹底的に検証して、問題提起をした。それを国民が広く知るところにいたり、その代表者である議会が消極的になったという意味では、メディアが役割を果たしたのだと思います。ですから、日本でも戦争という経験をしているわけですから、日本のメディアもそれなりの役割を果たせるのではないかと思います。

加藤:止めたいと思います。だけど、止められるかと言われると、その自信は大きくありません。戦争になる前というのは、政府からあまり情報が出てきませんし、突発的に起こるかもしれないわけです。そうなった場合に、一旦やられてしまったら、「仕返しをするな」という冷静な世論があるのだろうか、と疑問に思ってしまいます。

 ただ、私たちも第二次世界大戦以降、平和主義をずっと守ってきて、平和の尊さというものを受け継いできたわけですから、これを何としてでも受け継いでいきたい、という気持ちは非常に強い。そういう意味からも、戦争の悲惨さというものを、強く訴えかけていきたいと思います。

会田:昔以上に言葉やイメージの力というものが国際政治の中で大きくなったのは間違いありません。現在、国家はほとんど戦争が出来ない状況になっていると思います。その中で、小さな紛争が起きる可能性があったとして、それを止めるためには、正当性やイメージが非常に重要になってきています。それを世界に向かって主張したり、声をグローバルに伝えることは、まさにメディアの役割だと思います。

工藤:だからこそ、メディアのオピニオンの役割ということが本質的に問われている局面に来ているのではないか、という感じがしました。

 ということで、今日はメディア報道と日中関係について議論してきました。今回のテーマは、本質的な問題を抱えているのでまだまだ十分ではありませんが、その重要性の一端を少しは垣間見えたかと思います。10月26日には今度は北京で、中国のメディアも交えながら、メディアは戦争を止められるのか、を本気で議論してみようと思います。この議論の内容は、言論NPOのホームページで公開しますので、ぜひご覧いただければと思います。今日は皆さん、ありがとうございました。

   


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