言論スタジオ

政府予算案と日本の財政再建の可能性

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2014年2月14日(金)
出演者:
内田和人(三菱東京UFJ銀行執行役員)
高田創(みずほ総合研究所常務執行役員チーフエコノミスト)
鈴木準(大和総研調査提言企画室長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用したアンケート結果はこちらでご覧いただけます。

 2014年度予算が史上最大規模に膨れ上がる一方、日本の財政状況は悪化の一途をたどっている。日本経済を立て直しつつ、財政再建への確かな道筋をつけていくために求められることは何か。日本の財政問題に詳しい3氏が話し合った。


工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。今日は「政府予算案と日本の財政再建の可能性」というテーマで、議論を行っていきます。衆議院の予算委員会が2月10日から始まり、予算に関する議論を行っています。今まさに、日本政府の予算が決まる状況ですが、これについてどう考えていけばいいのか。また、日本は財政再建という非常に大きな課題に直面しています。財政再建を前提として、日本の経済を立て直さなければならないため、今回の予算について考えながら、日本の財政再建について議論をしていきたいと思っています。

 それではゲストの紹介です。まず、三菱東京UFJ銀行執行役員の内田和人さんです。続いて、みずほ総合研究所常務執行役員チーフエコノミストの高田創さんです。最後に、大和総研調査提言企画室長の鈴木準さんです。皆さん、よろしくお願いします。

 では、議論を始めていきます。今回も言論NPOにご参加いただいている多くの有識者にアンケートを行いました。今回の予算は、一般会計が95兆8823億円となり、過去最大だと言われていますが、「この予算についてどのように評価していますか」と尋ねてみました。意外に思った点は、「どちらかといえば評価していない」との回答が27.3%、「評価していない」との回答が31.5%と、合わせて6割近い人が今回の政府予算について厳しい評価をしている点です。逆に、「評価している」という回答は4.2%、「どちらかといえば評価している」という回答は13.3%と、合わせて17.5%しか肯定的な評価がありませんでした。今回は、評価の理由についても皆さんに書いていただいたのですが、「赤字が非常に多く垂れ流しになっている予算」という構造が変わっていないのではないか。それに対して、きちんと体質を変えていくという動きが弱いのではないか、などの意見が寄せられました。また、一度ムダとされた予算が補正でまた戻ってきているなど、予算の作成プロセスに対しても批判もあります。これについて皆さんはどのようお考えでしょうか。


史上最大規模の予算と財政再建への懸念

鈴木準氏鈴木:約96兆円という史上最大規模の予算ということで、アンケートでは有識者はあまり良い評価をしていない、ということですが、今回、特別会計を一部、一般会計に統合して財政全体の改革を行っていますし、従来は補正予算で入れているものを当初予算に入れるなど、若干テクニカルな要素によって当初予算が膨らむ要因がありました。その点は申し上げておかないと公正な議論にならないかもしれませんので、はまず指摘させていただきます。

 ただ、4月に消費税を増税することで、一般会計ベースで税収が4.5兆円ほど増え、税収が去年の当初予算と比べて6.9兆円増える予算になっています。それにもかかわらず、国債発行が4.2兆円しか減らないということですから、一言でいえば歳出が増えているということになります。社会保障関係費は1.4兆円くらい増えていて、その中身はこれまでの引退世代、高齢者向けだけではなく、若者や女性向けにもシフトしてはいるものの、全体として見れば歳出が構造的に増え続けているということは厳然たる事実です。したがって、財政健全化という観点から見ると、その道筋は見えていません。

 さらに、問題なのは、来年度予算が2013年度の補正予算と一体的になり、いわゆる第2の矢の機動的な財政運営がなされるということです。13年度の補正予算は、4月からの消費税率引き上げとのパッケージとして、5.5兆円を歳出として上乗せするというものです。消費増税前の駆け込み需要があるため、この1~3月期は少し経済がよくなっているかもしれませんが、4~6月期には当然反動減が出てきます。駆け込み需要というのは、ある意味、需要の先食いですから、必ず反動減があるわけですが、その反動減の需要不足の部分を財政政策によって埋めようとしています。今回、当初予算に関しては一般会計のプライマリーバランスで4兆円の赤字を削減しないといけないということが、中期財政計画で決定されていたのですが、5.2兆円を削減し、4兆円を上回る基礎的財政赤字の縮小になったことを政府は胸を張っているわけです。しかし、13年度の補正予算は新年度をまたいで支出されていきます。当初予算にばかり注目が集まりますが、補正予算を合わせて、実際に支出された金額を見ていかないと、ますます歳出が大きく膨らむという状況になり、財政再建の道筋が見えにくくなっています。

 以上のようなことを反映したアンケート結果ではないか、と感じました。

内田和人氏内田:まず、昨年の12月に安倍政権が「好循環実現のための経済対策」というもの掲げました。これは、2014年度の予算だけではなく、13年度の補正予算を含めた15カ月予算を組むことによって、消費税の引き上げに伴う駆け込み需要の反動を緩和させる、ということと、14年度以降も需要を中心とした政策でデフレ脱却を目指す、ということが軸になっています。そうした観点から見ると、今回、本予算では95兆円ですが、補正予算ですでに5.5兆円が支出されますので、両方合わせると100兆円を超えることになります。昨年も同様に100兆円を越えた15カ月予算でしたので、2年連続でかなり景気刺激的な政策になっています。その中身を見ると、技術振興や設備投資の促進等々もあるのですが、特徴的なのは公共事業が13%増加している等、ある程度公共事業主体の予算が組まれていることです。加えて、社会保障関係費について、4月の消費税の増税を加味しているということもあり、初めて30兆円という大台を突破し、予算の歳出の中で社会保障関係費のウエイトがきわめて高くなっている、という特徴もあります。以上のように、公共事業と社会保障関係費の増大が反映されて予算の規模自体が拡大していますが、安倍政権は現段階でまず、経済成長を軸にデフレ脱却、すなわち、名目成長率を高めて税収を上げるという政策をとっているので、この100兆円予算というのは、今年も昨年同様にさまざまな好循環が生まれてくれば、15年度のプライマリーバランスの半減という目標達成に向けた道筋をつけることができる、という不退転の予算でもあるのかな、と思います。

 ただ、アンケートの結果を見ると、こういった景気刺激の予算に対して、財政再建はどうなっているのか、増大する社会保障関係費に対してメスを入れなくてもよいのか、という点について有識者は懸念を示しているのだと思います。さらに今回、概算要求の段階から、ほとんどの主要歳出が増額申請だったのですが、ほとんど通ったという予算の決定プロセスに対しても、やや厳しい見方が反映されているのではないかと思います。

 したがって、どのようにして財政再建と景気の刺激を上手く両立するのか、という点についての説明責任がこれから問われてくるのだと思います。

高田創氏高田:今回の2014年度の当初予算は、13年度の補正予算と一体となった15カ月予算という形です。消費税の引き上げに対応して、それを補う景気刺激的、景気の押し下げ要因を抑制するという性格をかなり持っている、という観点からすれば、それなりの対応策といえますが、なかなか支持が得られていない。やはり、支出面のところが大きいと思います。社会保障関係費が前年に比べて1.4兆円増え、公共事業関係費も0.7兆円も増えています。特に、社会保障関係費は中期的な財政健全化のカギになりますので、これに対する中期的な展望が示されていないのではないか、というところに対して有識者の不安感が大きいのではないかと思います。ですから、今回のアンケート結果を見ても、とりあえず消費税の引き上げを実現した、ということにはある程度の評価もできると思いますが、その先、特に中期的な展望があまりにも示されていない、もしくは、メッセージが不足しているのではないか、という点について有識者の懸念が強く出て、このような結果になってのではないかと思います。

工藤:リーマンショックの時に、経済状況がかなり厳しいので財政支出をかなり増やすことで景気を支える、ということがあり、財政規模がかなり膨らみました。その後、リーマンショックの影響が薄れて景気がかなり回復したにもかかわらず、財政規模が膨らんだままずっと続いている点に疑問があります。

 それから、消費税のマイナス効果を下支えするために、公共事業も含めた形でまた財政を膨らませるというのは、そもそもの政策目的から見て何か矛盾しているような印象を受けます。つまり、国民をごまかすために財政を膨らましているように思えるのですが、いかがでしょうか。

鈴木:まず、財政が膨らんでいるというのはその通りで、リーマンショック以降の補正予算は当初予算比で10%を超える年が多く、かなり大きい予算が続いています。東日本大震災もありましたので、やむを得ない部分もあると思いますが、景気対策をかなり行った1990年代当時と比べても、ここ数年の補正予算は規模の大きいものになっている。その効果というのは、例えば、大規模な補正予算が続くことによって、地域経済の構造や、家計所得の構造が政策依存となり、そのまま定着してしまう。つまり、結局、補正予算がないと経済が維持できない状態になってしまっている。これは構造を変えて成長戦略をやっていこう、という政府の方針とある意味で逆行しかねない問題だと思います。

 もちろん、一時的に心配がある部分について、補正予算で手当てするとか、リーマンショックや東日本大震災など非常時に補正予算で手当てをするというのは、まさに補正予算の機能ですから、正しいものですが、あくまでも一時的なものです。しかし、補正予算で維持される構造を続けてしまうと、恒久的なものになってしまいます。一方で増税をして、一方で歳出拡大をすると、政府の規模が大きくなり続けて、非効率は是正されません。結局、収支としては変わらないので、財政再建ができないという状況に陥ってしまう。やはり今、惹起されている問題というのは、消費税を上げて、それをどう使うか、ということです。今回、社会保障に全額使うということで消費税を上げるわけですが、お金に色はついていないので、どこかに余裕が生まれることは間違いない。その生まれた余裕を不要不急なものに使ってしまう、というリスクがある。したがって、何に使うのか、ということをきちんと見ていく必要があります。これは今、増税によって景気がどうなるのか、という問題より、さらに重要な問題になってきているのではないか、と思っています。

高田:結局、リーマンショック以降、企業マインドが相当落ち込んでしまった中で、世界的に経済が氷河期というか、有事に対して備えるための冬籠り的な状況になってしまった。そういう状況の中で、需要が急速に落ち込んでしまったので、それを何とか支えてきたのがこの補正予算を含めた政策対応だったと思いますが、その中で企業はまだ前向きな支出マインドに転じていないのだと思います。ですから、持続的な動きに転じるような状況になれば、ある程度使われたものが乗数効果として、それなりの意味を持ってくると思うのですが、なかなか乗数効果が働くような状況ではない。要は、付け火にしたものが、なかなか火が付かないような状況になっていて、そのまま着火剤だけが燃えているような状況です。現状ではその分だけは需要を押しとどめていますが、今後はもう一段、良い景気の循環に乗せるための触媒にあたるような成長戦略と、いかに財政再建など中期的な課題とを併せて考えていくか、という視点がないと、単にお金を無駄にしてしまうという状況になってしまうのではないかと思います。


アベノミクスの現状はどうなっているのか

工藤:経済の下支えとしての財政政策の役割の重要性と、それがどこまで続けられるのか、という問題はあるのですが、やはり経済そのものが今どうなっているのか、ということを見ておく必要があると思います。安倍政権の下で、アベノミクスという経済パッケージが動いていますが、そのアベノミクスが本当に目標達成に向けて動いているのか、「アベノミクスの前途を現時点でどう評価していますか」という質問をしてみました。言論NPOの政策評価の過程では何度も同じような質問をしているのですが、徐々にネガティブな評価が増えてきています。今回は「順調に推移し、成功に向かって動いている」という回答がわずか9.1%でした。「成果は出始めているが、成功できるか現時点で判断できない」という回答が41.8%で、「成果は出始めているが、異次元の金融緩和や財政政策に頼った回復に過ぎず、成功は難しい」という回答が40.6%でした。この結果についてはいかがでしょうか。

内田:アベノミクスの始動から一年が経ち、3本の矢のうち、金融緩和と財政支出という第1、第2の矢については、かなり世の中のマインドを変えました。それが賃上げにもつながり、好循環が始まってきている、ということについては、一定の評価をしてもいいと思います。ただ、アンケート結果でも見られるように、この状況が本当に持続的な好循環につながるのか、というところについて疑問が出てきているわけです。その中で2点ほど指摘をしていきたいと思います。

 一つは、アベノミクスへの期待を生んでいる大きな要因は、海外からの資金が相当入ってきていることです。具体的にいうと、日本の国際収支統計の資本収支の項目を見ると、証券投資の項目は昨年1年間で日本から海外に出ていく投資が、5~6兆円くらいだと想定すると、中に入ってくる投資は30兆円ぐらいです。つまり、アベノミクスという政策に対して海外から相当な期待があり、資金が入ってきた結果として株高や円安になってきているのです。今後の海外の動き次第でアベノミクスの成否というものも決まってくる、ということが一つ目のポイントになります。

 もう一つ持続性という観点からいうと、第2の矢の財政政策は消費税増税もあって来年度から急速に落ちていきますので、第1の矢である金融緩和をもう一度行うということを今、マーケットはすごく期待しています。昨年の第1の矢がうまく効いたのは、ショック・アンド・ゴー、すなわち、びっくりするほどの大胆な金融緩和を行ったからであって、2回目も同じように効果があるかというと微妙です。したがって、アベノミクスが持続性を持ちつつ進むためには、第3の矢によって、どれだけ構造改革と成長戦略を進められるか、ということがポイントになります。今回の予算の中にも、イノベーション改革ということで、グローバルな中小企業の海外進出や、ベンチャー企業の立ち上げの支援なども施策として入っているのですが、これを着実に実行できるかどうか。それから、年金改革、雇用の流動化に向けたプロセスなどがうまくいかないと、先ほど申し上げた好循環がまわらない、特に海外からの資金の流出が加速する可能性があるので、まだアベノミクスの足元は脆弱であると思います。

工藤:当初は、異次元の金融緩和と財政のかなり大がかりな出動は一回限りで、その後は第3の矢によって経済成長が動き出す、と日銀も財務省も言っていました。ただ、今のお話を聞くと、マーケットの状況によっては、異次元の金融緩和をまたやらないといけないということですが、初期の見通しと食い違ってきているのでしょうか。

鈴木:今、新興国が不調の中で、アメリカがいわゆるテーパリングに入ってきており、外的環境が大きく変わってきたので、国内政策をどう調整していくのか、という非常に難しい局面になってきていますが、第1の矢で円安になり、マーケット関係者あるいは、企業経営者のマインドが明るくなったということは間違いないわけです。そして、第2の矢では、2012年度補正予算で13年度前半の景気が支えられたということも間違いないし、今回の13年度補正予算で14年前半の景気も支えられることもおそらく間違いない。しかし、先程から議論になっているように、第1の矢、第2の矢によって明るい中長期的な展望につながっているかというと、見えてきていない。もちろん、去年の臨時国会で、産業競争力強化法、国家戦略特区法、あるいは薬事法、一部電力システムの改革法など色々と手は打っています。それから、経済財政諮問会議でも、アベノミクスを中長期的な発展につなげていくということを、今年の一大テーマとして取り組もうとしていますから、まったく駄目だということではないのですが、中長期的な展望までは見えていない。結局、やっていることは足元の対策、例えば、簡素な給付措置を、今回の13年度補正で入れましたが、年金生活者の方には5000円上乗せして、生活の安心を確保するなど、どちらかというと細かいことをやっています。

 また、マクロ的には財政赤字というのは、結局、民間の資金余剰の状態と鏡の関係にあります。現在、政府しか借金する人がおらず、民間は十分設備投資をしていないし、消費もそんなに活性化していない。こういう状況が続く限りは、財政健全化も当然、起こらないわけです。そういう意味では第3の矢、成長戦略というものがないと、財政再建もできない、ということになります。つまり、財政再建と成長戦略というのは、本来一体的なものなのですから、安倍首相は成長志向も加味した財政健全化を打ち出していかないと、成長戦略の方もうまくいかない、という状況だと思います。

工藤:確かに、安倍さんはかなり「成長」ということを言っています。ただ、今回の通常国会の論戦を見ていると、去年の秋の臨時国会でもそうだったのですが、「経済成長国会」と言っていたにもかかわらず、ほとんどそういう議論にならなかったし、現在も経済の先行きが非常に不透明な中で、アベノミクスをぐいぐいと推進していくような迫力が出ていないような感じがします。アベノミクスの進め方に何か変調なり、大きな変化があるのでしょうか。それとも、これは予定通りの動きになっているのでしょうか。

高田:みずほ総合研究所では、政権発足から一年経ったところで、アベノミクスの点数をつけて、金融、財政、それから成長戦略の項目に70点を付けました。もとは75点だったのですが、財政健全化が進んでいない点や、近隣諸国との摩擦の問題を踏まえた上で、マイナス5点にして、70点にしました。この一年の評価としては、よくやっているのではないかと思います。そもそも、アベノミクスに対して過度な期待があるのではないかと思っています。私はアベノミクスというのは波乗りみたいなものであって、アメリカを中心に海外の経済環境が良くなってきたところで、国内経済の好循環を後押しするという意味なのではないかと思います。ただ、まだ民間企業のところまでは歯車がまわっていないため、民間の投資が出てくる状況になるまでの場つなぎを今、やっているということです。しかし、まだまだ成果が見えていないので、当然、成長戦略を打ち出すことによって好循環を持続的なものにしていかなければならない、という課題は残っています。


財政政策で経済を下支えする構造は今後も必要なのか

工藤:民間企業が経済の歯車をまわすことを待っているわけですが、待っている間ずっと財政政策で下支えするということが、今後も可能なのか、という問題もあると思います。今回のアンケートでは「景気の下支えのために弾力的な財政政策を引き続き実施していく必要はあると思いますか」ということを聞いてみたのですが、意見が分かれました。「引き続き必要だと思う」という回答が41.2%、「必要ないと思う」という回答が42.4%でした。「引き続き必要だと思う」というのは、高田さんがおっしゃったように、民間企業の歯車がまわらないから、財政による下支えがある程度ないと息切れしてしまうのではないか、そこまで追い詰められているから財政の役割も必要なのではないか、ということのようにも見える。

 一方で、「必要ないと思う」というのは、もう財政で支えるのではなく、ある程度、自律的な経済の発展に期待するしかない、むしろ動かすしかない、と言っているように感じます。いずれにしても有識者は現状がうまくいっていないように感じていると思います。3本の矢を組み合わせながら、経済のどこかに着火し、発火させていくという点で見ると、まだ民間経済に火が付いていないため、そのしわ寄せが財政に来ているのです。今後、民間経済は本当に発火していくのか、それまで財政が下支えしなければいけないのでしょうか。

内田:おそらく日本の経済がデフレを脱却するほどの安定的かつ持続的な成長、具体的にいえば、政府目標の名目GDP3%成長を安定的に達成するのは難しいので、消費税増税の後は、しっかりと財政でサポートする。景気浮揚に対して財政政策が引き続きスタビライザー的な役割をしていかなければいけない、と思います。財政政策に頼らざるを得ない背景には、民間企業に前向きな好循環がなかなか生まれてこないという点があります。銀行の立場からいうと、資金需要がなかなか本格的に立ち上がってこない、ということを意味します。この理由はやはり、絶対的な需要不足であり、高齢化、そして人口減少の問題があります。その状況の中で、経済を成長させていくためには、規制など成長の妨げとなるものを取り払っていく必要があります。具体的にはTPPを推進することが挙げられます。例えば、日本の競争相手であるドイツ、韓国などは、非関税比率が貿易の取引の約40~50%なのに対して、日本はまだ2割です。これではどう考えても海外の需要を取り込めません。したがって、日本の需要不足を、貿易の非関税化などを軸に拡大していく形で対応しないと、なかなか財政支出だけでは好循環は作れないし、一時的にできたとしても、すぐに息切れしてしまう、という状況ではないかと思っています。

鈴木:日本経済は15年間のデフレ、そして失われた20年からの病み上がり状態であり、急に財政による下支えを減らすということは難しいかもしれない。一方で、常に補正予算などで下支えすることが前提となってしまうと、民間はそれをあてにし、あてにできる間は支出をしなくなる。政府は民間からの動きが出てくるまで待ち続け、その間は補正をするということでは、この構造はいつまでも変わらないわけです。ですから、本来は長期的なビジョンをきちんと示して、財政健全化をどうやっていくのかというルールを作り、限られた予算の中で、どこに重点的に配分していくのか、ということを考えていくべきです。補正予算は非常に短期間で、しかもあまり重要性のないものでも計上されてしまうということがありますが、それでは成長にも結び付かないし、財政の悪化にもつながる。したがって、補正予算も含めた財政運営のルールを作らないと、今の問題に対しては答えが出てこないのではないかと思います。

高田:ちょうどこの1年間ぐらいで、過去20年間のデフレに陥った状態を戻そうとしています。そこで、集中的に、全精力を傾けて企業構造や、民間のマインドを変える。ただ、第1の矢、第2の矢、第3の矢、と全てやって何とか実現できるかどうか、だと思います。だから、少なくとも13年度、もしくは14年度くらいまではやっておかないと、これまでやってきたことも無駄になってしまう。それから、消費増税は、長い目で見ればどうしてもやっていかざるを得ないと思いますから、ポリシーミックスとして、一定の財政支出はやむを得ないのではないか、と私は今の段階では思っています。


重要なのは財政再建のための成長戦略

工藤:「日本の財政再建は可能なのか」ということについても、アンケートで質問しています。まず、「安倍政権は2015年度のプライマリー赤字の半減、2020年度のプライマリーバランスの黒字化を目標に掲げています。あなたは、これらの目標が達成可能だと思いますか」という質問です。これに対して「両方の目標の達成は難しいと思う」と回答した有識者は49.1%と半数近くに上っています。今まで私たちが行っているアンケートと比べると、かなり高い比率です。一方で、「両方の目標の達成は可能だと思う」という回答は10.9%でした。そして、「2015年度の目標達成は可能だと思うが、2020年度の目標達成は難しいと思う」という回答が13.3%ですから、基本的に2020年のプライマリーバランスの黒字化については合わせて62.4%の人たちが難しいと考えていることになります。また、別のアンケートの質問では「安倍首相は、来年10月から消費税率を10%に引き上げるかどうか、経済状況を見ながら今年中に判断することを表明しています。あなたは、消費税の増税についてどのように考えていますか」ということも尋ねています。これに対して「経済状況いかんにかかわらず、必ず引き上げる必要がある」との回答が32.7%、「経済状況を見ながら柔軟に判断する必要がある」との回答が43.0%という結果でした。

 これまでの議論では、民間経済のスイッチが入り、民間経済の成長の歯車がまわるまでは、ある程度の下支えが必要だという議論がありました。ただ、現在の民間経済にとってこの1年が正念場であり、本気で民間経済を立て直さなければいけないという状況だと思うのですが、そのシナリオは本当に上手くいくのでしょうか。

 また、マーケットに依存する今の状況で、世界の投資家は何を今、日本の経済成長や日本経済の今後に対して、何を求めているのか。そして、万が一、財政再建の目標を達成できなかったら、マーケットはどのような反応を示すのでしょうか。

内田:リーマン危機以降のヨーロッパのように、財政再建策として単に歳出を削減したり、増税をしたりして対応すれば景気がどんどん悪くなるという状況に対して、アベノミクスは、完全にコペルニクス的な転回を見せました。つまり、景気を刺激するために、一時的に財政を拡大して、税収を上げるということを実施したのです。これが新たな政府の経済政策ということで、海外投資家に受け入れられています。この政策が成功するかどうかですが、少なくとも昨年度は成功していて、税収もかなり上がってきています。これが消費増税後も続くということが確認されれば、アベノミクスに期待した資金が流入して株高、円安という流れが続き、その期待感がいずれ実体経済に反映されていくという展開になると思います。ただ、現実的に厳しいのは、先程も申し上げましたが、来年度は消費税だけではなくて、これまで積み重ねてきた財政支出の反動が出てきます。GDPに換算して大体1%ぐらいのマイナス要因になってきます。これを民需で跳ね返せるかどうか、ということにかかってくると思います。そこで重要になってくるのが、6月に出す予定になっている第二弾の経済成長戦略です。海外投資家もこの中身に非常に期待と警戒を持って臨んでいるという状況だと思います。

工藤:マーケットが納得する成長戦略が本当に出てくるのだろうか、という疑心暗鬼の声がよく聞こえてきますが、高田さんは、マーケットの声をどのように判断していますか。

高田:我々も外国人投資家と話をしますと、第3の矢が出てこないのではないか、ということを言われます。一方で彼らも本音では、そんなに簡単に出てこないとも思っています。日本経済と海外環境が、ここ1、2年間で正常化してきた。つまり、日本の場合は、「失われた20年」からの脱却にようやく目途がつきそうになってきた。世界的にはリーマンショック以降、もしくはサブプライムの2007年以降の失われた6、7年ぐらいの状態が、ようやく正常化してきた。そして、大きな波に乗ってきたというところに合わせて、日本が本気を出して第1、第2、第3の矢、ということを打ち出してきたので、その流れに乗ってみようか、というのが、多くの外国人投資家の感覚だと思います。もちろん、第3の矢が出てきて、成長が持続的になればいいと思っているでしょう。そういう意味でいうと、海外投資家は、日本の追加金融緩和に注目しています。

工藤:成長戦略はうまくいくのでしょうか。かなり骨抜きになっている部分もあるので、どこに力点があるのでしょうか。政府は成長戦略の実行によって、何かスイッチが入るような政策を動かそうとしているのでしょうか。

鈴木:今、政府と日銀は一生懸命頑張っていますが、政府と日銀だけが頑張ればうまくいくのかというと、そうではないわけです。成長戦略の主役は本来、企業です。その企業が、本当に活動しやすいような内容の経済政策が打たれるのかどうか。そこでは、お金をつかうということよりもむしろ、規制改革やTPPのように市場を開放していくことなどが必要だと思います。しかし、第2の矢に依存しているという状況が続いてしまうと、企業が本当の意味で価値を上げ、長期的に資産価格が上がるような見通しにはなっていかない。今後は、そのような経済政策ができるかどうか、という点がポイントになってくると思います。

 先ほど、財政再建と成長戦略は車の両輪、あるいは鏡の関係だということを申しましたが、いくら負担増と歳出削減をやっても、財政再建はできません。なぜかというと、やはり景気が悪くなるからです。その際に何が必要かというと、政府はお金をたくさんばら撒くということを止める。しかし、止めると何らかの問題が出てくるので、その問題を解決するような新しいビジネスが起こってくるような環境をつくりだす。例えば、最低限の国民皆保険や皆年金というのは守るけれども、今よりも充実した企業年金や医療保険が民間で出てくれば、民間の新しいビジネスになり得ます。あるいは、様々な医療に関する厳しい規制を改めていけば、健康産業のようなものが広がっていき、医療費が減って政府の支出が減る、ということが起こり得ますから、民間の新しい産業への投資が起こるわけです。そういうことを組み合わせていかないと、日本経済はどんどん活力を失って、また失われた20年に戻ってしまいかねません。この点について、安倍政権はまったく何もやっていないというわけではありませんし、過去の政権に比べて課題に着目しているという点では、格段に上だと思います。しかし、まだそれが具体的には見えていない状況だと思います。


達成が困難な2020年度の財政再建目標

工藤:プライマリー赤字の2015年度半減、プライマリー赤字の2020年度の黒字化という政府が掲げた財政再建の目標は、予定通り達成できると思いますか。

内田:来年度の景気次第ですが、2015年度については今の計画ベースでいけば達成は可能だと思います。2015年度の目標については、安倍政権の国際公約にもなっていますので、必要があれば金融緩和も含めて対応してくると思います。一方で、2020年度の目標については、厳しいと見ています。

 財政再建の可能性についてですが、正確に申しますと、日本は財政が肥大化している、すなわち、支出が過大になっている、ということではないと思います。というのは、政府の総支出のGDP比率は、OECD諸国の中でもそれほど高くありません。高いのは、社会保障関係費です。それ以外の項目については、OECD諸国の中では、経済規模の比率からすると最低にあります。したがって、予算の策定プロセスをもう一度見直すことが財政再建のために、一番必要なことだと思います。

工藤:加えてお尋ねしたいのですが、消費税の10%への引き上げについてはやるべきだと思いますか。

内田:当然やるべきだと思います。その理由は、先程の話にも関連しますが、歳出規模をある程度OECDの平均水準に上げる、今、日本の社会保障は低負担・中福祉ですが、それを少なくとも中負担・中福祉にしていくためには、消費税は15%程度をみておかなければいけないと思っています。

工藤:つまり、消費税をそれぐらいまで上げても、2020年のプライマリー赤字の黒字化というのは難しいと考えているわけですね。

内田:繰り返し申し上げますが、増税で財政再建が達成されることはほとんどありません。すべて歳出サイドの問題です。財政再建のために必要なことの一つとしては「予算策定プロセスの見直し」です。これはカナダとイギリスでうまくいきました。もう一つは、「民営化」です。ネットアウトして、今、政府債務はGDP比230%ぐらいあり、純債務で見るとGDP比130%ぐらいですから、どんどん民営化していく必要があります。

工藤:つまり、そこまでドラスティックに変えていかなければダメだ、ということですね。鈴木さんは日本の財政再建の可能性と消費税の問題についてどう考えていますか。

鈴木:今、内田さんがおっしゃったように、社会保障が最大の問題だと思います。日本が諸外国と比べて特殊なのは、もの凄く高齢化しているということです。こんなに高齢化が進行している国は他にはありませんし、この先もそうだと思います。先ほど、「ルール」と申し上げましたが、今あるルールというのは、「中期財政計画」において社会保障関係費については総額を極力抑制するということしか書いてありません。評価はともかくとして小泉内閣の時は、増大し続ける社会保障関係費をどうするのかについて、総額をコントロールするために金額を明示した議論があって、社会保障関係費の自然増分の2200憶円を削減するということをやっていました。そういった社会保障関係費の削減については、今の政権では何もない。むしろ低所得者対策などで社会保障関係費を増やすという話になっています。日本は超高齢社会ですから、やった方がいい社会保障政策というのは無限にあるわけです。しかし、その中でも特に何をやっていくのか、ということをきちんとしたルールの中で決めて、実行していかなければいけない。

 それから、消費税に関しては「10%への増税を先送りしてもいいのではないか」という議論が一部に聞かれますが、この意見は極めて危険だと思います。この超高齢社会を乗り切るためには、オールジャパンで負担する税である消費税の増税が不可欠です。所得税や法人税の増税で財政需要を賄おうという主張は例外的でしょうし、世代間格差の是正という点を考えても、経済に比較的中立的な消費税の増税は必要だと思います。すでに、消費税率10%への増税を盛り込んだ法律は施行されています。余程の経済状況の激変がないにもかかわらず、増税を先送りすることになってしまうと、それを財源にしてやろうとしている政策との関係でも問題が出てきます。そして、仮に上げないとすれば、ではその先どうやって諸課題を解決していくのか、ということを明確に示さないと、日本は消費税を上げられない国である、と国際社会からみなされるということになりかねないと思います。


財政再建の決め手とは

工藤:今回のアンケートの最後の設問で「日本が財政再建を果たすために、何をやればいいのか」と質問しました。一番多かった回答は「ムダの削減など、歳出の見直し」で51.5%でした。それに「成長戦略の着実な実施による経済成長」が35.2%、「公共事業をベースにした財政出動から民需主導に向けた政策への転換」が32.7%、「社会保障費の抑制」が26.7%、「消費税10%以上への更なる増税」が16.4%で続きました。「もう打つ手はない」との回答も7.3%ありました。

 私は、財政再建は非常に大事だと考えています。高齢化社会に伴い、社会保障関係の支出増大が不可欠になる状況の中で、本当に持続可能な国にしていくためにも、今の状況を大きく変えないといけないと思っているのですが、そのための議論が活発に行われていない。国会でもそういう議論はなくて、予算委員会ですら別のことを議論している状況です。皆さんは財政再建を行っていく上で、決め手になるものは何だと思いますか。

内田:一つは先ほども指摘しましたが「予算の策定プロセスの見直し」です。カナダやイギリスでは、予算の査定は非常に厳しい。日本の場合は、当初予算を組んだ後に補正予算を組む。公共事業費などは、なかなか執行が難しいということもありますが、8%ぐらいの余剰費が生まれてきて、最後にそれを無理やり使うというプロセスになっています。ところが、他国については、複数年度でそういった予算を見直して、効率が悪いものはどんどん切り捨てていく、というPDCAの制度が非常に機能しています。こういった予算の査定プロセスが必要で、それを経ることによって無駄がなくなってくるのだと思います。事業仕分けではなくて、PDCAというチェック機能を効かせる、ということがポイントだと思います。

 もう一つは、民間の活用、具体的にはPFIです。イギリスがマーガレット・サッチャー首相の改革の後にポンド危機が起こり、1994年にジョン・メージャー首相が導入した「ユニバーサル・テイスティング」という制度があります。これは何かというと、PFIで取れないような公共事業は、実際にもやらないということです。日本でも、空港や道路など、様々な公共施設について民間に営業権を委託することなどを進めていくと、国の施設の民営化と、それに関わる人件費がある程度黒字になっていきます。こういった取り組みを早く行う必要があると思います。ただ、そういう取り組みができたのは、イギリスではポンド危機がありましたし、カナダでも相当な危機がありました。また、ドイツも2002年の企業改革は、その前の東西ドイツ統一の際に、一時的に危機が起こりました。つまり、外圧や危機がないと思い切った大きな改革は、なかなか望めないということです。

高田:結局は、成長がないと難しいと思います。ただ、成長だけでできる、ということを申し上げるつもりもありません。そのために、消費税を上げることが必要になってくると思います。また、その消費税の増税ですが、10%ではまだ一里塚だと思います。むしろ、10%以上まで持っていける、まだ増税する余地があるということで、日本の国債は信認が保たれていると考えるべきだと思います。そのためにも、成長を伴いながらも、消費税を上げるのだという姿勢を常に示していかなければ、国債市場は持たないのではないか、と思います。

鈴木:成長が重要だ、ということはその通りだと思います。今回のアンケートでは、「ムダの削減」という回答が一番多かったということでした。財政プロパーの問題で申し上げると、「予算」はよく問題にされますが、「決算」はメディアを含めてあまり注目されません。企業であれば決算が重要になってきます。どういうわけか予算しか注目されませんが、PDCAサイクルを回すためにも、決算をもっとよく見ていく必要があると思います。

 それから、どうしても収支尻や負担増ということに関心が集まるのですが、歳出や税負担の中身が、本当に効率化しているのか、あるいは成長志向であるのか、といった点をもう少し議論していかないといけないと思います。ある人が「ムダ」といっても、ある人にとっては「ムダでない」というものが予算ですから、財政民主主義の中で財政再建をやっていくためには、そこをもう少しきちんと分析をしていくということが重要だと思います。

工藤:今日の議論で、私たちが今後、進めていくべき議論のアジェンダが見えてきました。予算項目の具体的な検証も必要だと思いましたし、社会保障も含め、様々な分野で中期的な展望というものが描けているのか、描いていくためにはどうすればいいのか、といった議論がないと有権者は判断できないと感じました。

 今日は、「政府予算案と日本の財政再建の可能性」と題して議論を行いました。今後も私たちが直面する課題について議論し、多くの人たちに判断材料を提供していきたいと思っています。皆さん、ありがとうございました。

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