言論スタジオ

政治はなぜ原発政策から逃げるのか

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2014年12月6日(土)
出演者:
橘川武郎(一橋大学商学研究科教授)
山地憲治(地球環境産業技術研究機構研究所長)
藤野純一(国立環境研究所主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



遅れるエネルギー政策

工藤泰志工藤:今日は、安倍政権のエネルギー政策をどう評価するか、ということで議論を行います。原発も含めたエネルギー政策、それとエネルギーの問題についてどのような戦略を練り、それに向けてどう対処してきたのかがメインテーマになります。ゲストは、まず地球環境産業技術研究機構研究所長の山地憲治さん、一橋大学商学研究科教授の橘川武郎さん、そして国立環境研究所主任研究員の藤野純一さんです。

 安倍政権は、震災復興を進めてきましたが、原発などエネルギー政策というのはアベノミクスにも関連していますし、非常に重要な政策領域だと思います。ただ、所信表明演説などを見ると、政策目標がどこにあるのかということがなかなか分かりにくい。よく原発依存度を減らすということが繰り返し言われるのですが、それが目的なのか、と私自身は考えてしまいます。基本に戻れば、安倍政権の衆議院選挙の時のマニフェストで、国民にどういう約束をしたのかということが重要になると思います。自民党のマニフェストが言っているのは、「現在および後世の国民生活に責任を持てるエネルギー戦略を確立する」ということです。安倍政権に求められているエネルギー政策の課題と、これに対して安倍政権は何を実現したのか。まずは総論ということで、山地さんからいかがでしょうか。

山地:安倍政権は自民と公明の連立政権です。ですから、自民党がマニフェストで言ったことが、政権の中では公明党の調整を受けたという感じは持っています。エネルギーに関しては、今年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画に結果が反映されているというのが常識的な理解だと思います。ただ今回の基本計画の作成プロセスを見ると、基本政策分科会という総合資源エネルギー調査団の審議会レベルの結論が昨年12月に出ましたが、都知事選もあり、閣議決定は4月まで伸びました。その間、調整が難しかったということが、エネルギー政策の難しさを表しているのではないでしょうか。やはり、中心になるのは原子力で、原子力は重要なベースロード電源であり、規制委員会が基準に妥当すると認めたものは速やかに稼働すると言っておきながら、長期的に原子力低減を可能な限り目指すと言っているのは、公明党との連立の影響が強いという風に考えています。

工藤:都知事選を経て調整がいろいろ大変で、時間がかかったということなのですが、あの時は何を調整しなければいけなかったのでしょうか。

山地:今までのエネルギー基本計画ですと、2030年がターゲットなのですが、一次エネルギーの構成も含めた2030年のエネルギー源の構成、特に電源構成を出してきているわけです。例えば2010年の前回のエネルギー基本計画だと、原子力で50%、再生可能エネルギーで20%という構成にして、温暖化対策を非常に意識したものだったのですが、その数値がやはり出せません。再生可能エネルギーについては20%という数字をさらに上回るというところまで書き込んだのですが、原子力がどうしても決められない。そこが大変な問題です。

工藤:安倍政権というのはそれに対し、何をやっていたのでしょうか。

藤野:自分は温暖化のシナリオを作る立場で、そのエネルギー政策を決めていくところを担当していたのですが、例えば去年のワルシャワCOP19で、鳩山政権時に掲げた1990年比で2020年25%減という目標を撤回し、2005年比3.8%に見直しました。その時は、原子力発電所の再稼働が不透明だったので、原発は0%という仮定でシナリオをつくりました。ただしそれは、我々がずっとやってきたシミュレーションの結果を、政府なりで勘案して出されたという数字ではあるのですが、電源構成のベースが決まらないので、我々が提案するにしても、より具体的な提案にするための前提が、なかなか得られづらい。やっと今、産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)と中央環境審議会(環境相の諮問機関)の合同の温暖化の合同会合が始まりました。しかし、そこで電源構成の数字の議論となると、いろいろな想定をやっていかないといけない、そうした課題が残ったままで、方向性が見出しにくいのが現状です。

工藤:最終的には遅れていると理解していいのでしょうか。

藤野:遅れています。

工藤:橘川先生、どうですか


選挙の争点から外される電源ミックス

橘川:原子力基本計画に、まず重要なベースロード電源と書いてあります。しかし、原発依存度は可能な限り減らすと書いてある。しかし、確保していく規模を見極めると書いてある。二つの"しかし"が入ると、何を言っているのかわからない。というのは電源ミックスを決めていないからです。なぜ決められないかというと選挙対策で、選挙で原発の数字は言わない方がいいというのが、2012年の総選挙、2013年の参議院選挙、2014年の都知事選でもそうでした。争点から外すというのが基本的な自民党の戦略ですから、今度の選挙でも外してくると思います。ミックスを決められない理由として、よく言われるのが、規制委員会の再稼働の動向が見えないから、まだ言うタイミングではないというのですが、これはおかしな言い方で、三条委員会で規制委員会ができたわけですから、原子力規制政策とエネルギー政策を分けて、それぞれきちんと決めるという話なのに、規制委員会に丸投げするということは、規制政策とエネルギー政策の間に橋をかけてしまうことなので、この考え方自体が僕はおかしいと思います。かなり厳しい評価にならざるを得ません。

工藤:民主党政権の第三次基本計画で電源ミックスを決め、何基作るとか決めました。今回なぜ、電源ミックスが確定できないのですか。

山地:福島事故で、国民は原子力に対してものすごく不安になっている。ただ一方、エネルギー政策の基本目標である三つのE(安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)を考えると、原子力はどうしても維持せざるを得ない、と政策的には判断できると思っています。人々の原子力に対する不安と、政策的に必要な原子力ということの間に折り合いがつかない。そういうことだと思います。

工藤:確かに世論なり、一般の国民の理解の問題もあるのですが、今の政権としては、どうしたいのかという姿勢はどうでしょうか。どっちの方向にしていきたいと思っているのですか。

山地:橘川先生の繰り返しになりますが、事故経験ということもあるし、自民党の中にも原子力に対する異論のある方が結構いますから、政治的になかなかまとめられない状況なのでしょう。

工藤:では、エネルギー政策として、ベストミックスを作ることは可能なのでしょうか。

橘川:十分に可能だと思います。今、原発をめぐる世論というのは面白いのです。中長期で聞くと、即時ゼロというのは少数派で、将来ゼロ、当面、減らしていくというのがおそらく多数派です。ところが、再稼働に賛成か反対かを聞いたときには反対の方が多いのです。再稼働反対というのは即時ゼロということですから、国民は一見矛盾しているようなのですが、私の理解するところ国民は分かっていて、とりあえず、ある程度は使わざるを得ない。しかし、今の政府のやり方はちょっと姑息で、コソコソしてミックスも言わない。やり方が嫌だから、再稼働は嫌だということになっているのではないでしょうか。

工藤:どちらにせよ、しっかりスタンスを決めて国民に説明にすればいいのに、それがどっちもどっちで、わかりにくくなって引きずられているのですね。


決めない先に待っているもの

橘川:そうです。決めないというのが政権の本質だと思います。統一地方選挙までミックスは決まってこないのだと思います。それが安倍内閣のエネルギー政策を評価するときの一番の問題点だと思います。

藤野:決めないうちに決められなくなってしまうところもあって、仮に原発の再稼働する、しないにしても、ずっと待っていることによって、仮にもう少し動かしたいと思っても、稼働年数の問題などもあり、動かせる原発の数が減ってしまうかもしれない。もっと難しいのは、現状でも、もうあまり動かせない原発も相当あるようで、その中でベースロード電源としていくならば、新しく作らなければならないかもしれない。責任あるエネルギー政策を考えるときに、それも一つの議論の争点だと思います。今の状況だと、まず再稼働の問題があり、どの原発から動かしていくかという問題についても、きちんと議論する。一方で再生可能エネルギーや他のエネルギー電源との兼ね合いの問題がある中で、再稼働という問題も本来あるはずなのですが、シングルイッシューにずっとなっていて、結局、化石エネルギーに頼るしかない、という麻薬依存度が高まっているという危険な状態なのかなと思っています。

工藤:山地さん、ベースロード電源という言葉はどういうことなのでしょう。

山地:これを巡って去年の暮の審議会の答申のころから表現を変えているのですが、電源構成というのは、電気は瞬時、瞬時でバランスを取らなければいけない。最大ピークの時にも合わせて設備を持っていなければいけないのですが、ピーク対応は夏のごく一部の時だけで、夜は需要が少ない。夜もずっと動かしている、これがベースロード電源です。午後のピーク時間帯だけ動かすのがピーク電源、夜は止めて昼間の需要に対応するのがミドルロード電源と、稼働パターンで分類してだいたい三つの電源があります。基本政策分科会の時に基盤となる重要なベースロード電源と言って、ベースロードのベースのところが基盤と重なっていて、言葉の遊びをしているように思えました。経済的に言っても、固定費が高くて燃料費が安い原子力は、いったん建てればずっと連続して運転するのに適している電源。ベースロードという基底負荷に対応する電源であるというのはある意味当たり前なのです。

 エネルギー基本計画には「確保していく規模を見極める」書いていながら、そこに着手できていないというところが一番の問題です。つまり、「確保していく規模がある」ということは、原子力を維持するということを言っているのですが、その規模の水準に関する議論がまったく進んでいないということです。

工藤:エネルギー基本計画を作った時にはそういう機運はあったのでしょうか。

橘川:民主党の時にはいくつかの案が出て、具体的な議論はしました。ただいずれにしても、先ほど藤野さんが言われたように、2015年のパリのCOP21までには二酸化炭素の削減目標を決めなければいけないので、来年の地方選挙と11月末の間にミックスが決まってくるのだと思います。


問われる電源ミックス案と最終処分場所

工藤:選挙を過ぎた後に出るのですね。そうなってくると、世論を意識している割には、国民に説明していないのではないでしょうか。

山地:今回の総選挙で、各政党がミックスの案を明確に出して議論するというのが民主主義のルールだと思います。参議院選挙も都知事選も今回もみんな同じです。

工藤:小泉さんが顔を出した都知事選というのは、影響しているのですか。

橘川:背景には小泉さんが指摘した高レベル放射性廃棄物の問題がありました。原子力の安全性というのは高レベル廃棄物の問題が引っかかっているのでしょうね。

工藤:最終処分場所の問題の答えが出ていない状況の中で、原発を考えるのは難しいのではないか、とよく言われるのですが、これはどう考えたらいいのでしょうか。

山地:放射性廃棄物の最終処分は、世界的には地層処分、地表から300メートル以深の岩石の中に閉じ込めて、最終的には人が管理をしなくても安全性が確保できるようにということになっています。ただ、それに対しても安全、安心が問われていて、特に高レベル放射性廃棄物の場合は何万年というオーダーについて大丈夫かと言われています。これは誰も確実に大丈夫だとは言えない。どの程度なら受け入れられるか。原子力安全に対する全体的な不安が高まっている中で、特に高レベル放射性廃棄物の問題は、非常に難しい。

工藤:そうですね。2万年とか3万年になると将来が分からない。それを不安と思う心情はわかるのですが、そういう問題を安全ではないと決めつけていくのか、それともリスクがあるものも共存して考えられるかどうか。そういった正攻法の議論が必要だと思います。

藤野:すでに我々は原発を動かしていますから、そもそも放射性廃棄物は既に存在しているのです。それを可能な限り安全性の高い方法で保管なり、処分していくというのが基本です。原発事故を境に、専門家の威信が揺らいだというのはあるかもしれませんが、しかし丁寧にそれを言えるのも専門家の役割なので、そこをきちんとやっていくということなのかなと思います。そのうえで、もうすでにある廃棄物をどうしていくのか、考えていく必要があると思います。

山地:人間が管理する場合にも安全が問われますが、高レベル廃棄物処分では人間の手を離れても大丈夫かということが問われてより難しくなっています。当面の対応としては管理しておけばいい。学術会議では暫定保管とい概念を出して、その間に時間をかけて検討しましょうと提言しています。私は、これは正攻法の一つだと思っています。

橘川:まったく同意見です。とりあえずは、追加エネルギーなしで空気の対流で冷やせる中間貯蔵を現実的には発電所の中に作って、それの保管費用を電力の消費地の人たちが払うという仕組みを作り、それで稼げる数十年から百年のうちに、最終処分の技術を高める。これが基本的な国際的な方向性で、日本が今すぐやらなければいけないことだと思います。


再稼動の問題の結論は

工藤:自民党のマニフェストをベースに具体的な評価に移ります。一つは再稼働の問題です。安全性というのは規制委員会が専門的に判断し、三年目に結論を出すということでした。二年前の総選挙の時に掲げている言葉ですから、あと一年です。あと一年で原発の再稼働は順次判断して、結論を出す。この判断はうまくいっているのかどうか。そして三年の間に、再生可能エネルギーを最大限に導入して、その促進を図るということを合わせて言っています。

 一方で、中長期的な電源のミックスということを確立する。これは遅くとも十年以内です。この辺りは非常に数値や年限を区切った上で設定されています。三年以内に結論を目指す再稼働の問題はかなり遅れていますが、それを担当する事務的な体制も統合され確立されているので、今後スピードアップが図られるのではないかとも言われています。しかし、現実的にあと一年というのは、かなりこの目標達成は難しい状況になっているのですが、どうでしょうか。

山地:再稼働問題というのはやはり、民主党時代の政治的な判断から生まれたと思います。玄海原発を再稼働させるときに、ストレステストということを言い出して、結局、それ以降は止まったものが全部再稼働できないという状況になってしまいました。これはドイツと比べると非常に端的に違います。ドイツは、7基止めましたが9基は動いたままで、いずれ脱原発だというプログラムを組みました。そのことによって、原子力が今、動いているわけです。我が国はまったく動いていない。これは電力会社を非常に厳しい経営状況に追い込んでおり、我が国の経済も厳しい状況になっています。非常にまずい政治的判断だったと思います。まずそこが問題です。だから現政権はそういう意味で気の毒ではあります。同時に、我が国にとって初めてである三条委員会による安全規制という独立した規制機関を持ったわけですから、そこの意見を尊重してやっていかなければならない。原子力の信頼回復の唯一の機関です。ただ、そこの判断を待つ、ということで遅れている。私はプラントの安全性というよりも、活断層など地盤・立地条件ばかりを個別に議論していると思うのですが、国民の信頼回復のために必要なプロセスかな、と思って我慢して待っているところです。

工藤:藤野さん、どうでしょう。再稼働は、実現していないわけですよね。

藤野:そうですね。川内の原発の話があった時、10月に水俣に行ったのですが、住民感情はそれぞれでした。ただ、政治的判断が求められる中で、選挙の時には争点にあまり出していない。三年以内といったのは政権ですし、そこへの責任感ということについては、もうちょっとしっかりやらないと三年間では間に合わないと思います。

工藤:規制委員会は安全性の基準に基づいて審査するわけですが、それで再稼働のゴーサインを出すのでしょうか。そもそも、再稼働について規制委員会が判断するのですか、政府が判断するのですか。

山地:再稼働は地元の合意に基づいて政府が判断すると考えています。

工藤:そうすると、規制委員会の役割は何ですか。

橘川:前提条件です。

工藤:政府が判断するなら、それは首相が判断するのでしょうか。


問題を先送りする無責任な政府の態度

橘川:最後は首相です。そもそもこのマニフェストはおかしいと思います。規制委員会で通過したものしか再稼働させないと言っているわけですから、前提条件は規制委員会の判断なのです。それを三年以内に全部決まるように手を打つというのは、規制委員会に手を突っ込む話になるので、こういうマニフェストの書き方自体がおかしいと思います。それを置いといたとしても、政府のエネルギー政策として、どれくらい原子力が必要なのだという話は全然言わない。これも無責任で問題だと思います。ただ、結果からいきますと今の48基を、40年経つと廃炉にするという基準はやはり大きな意味を持っていて、最終的に再稼働させてくれと手が上がるのは30基くらいで、実際問題は元に戻す再稼働ではなくて半分くらいが"動かない再稼働"になると思います。2030年の末だと、建設中のものも含めて20基くらいが"動く再稼働"である、というのがだいたい見えてきた数字だと思います。具体的に言えば、川内に続いて2015年にどんなに進んだとしても、高浜、玄海、伊方まで行けば、最大限進んだと言えるのではないでしょうか。しかし、まだまだ問題は先送りされます。

工藤:その決定のメカニズムはきちんと描かれていますか。

橘川:川内のやり方でだいたい見えてきたのですが、まず規制委員会が許可を出します。続いて地元、今回の場合だと県と立地する市町村だけですが、その了解を取る。そして最終的に、その了解の過程で政府がコミットする、というやり方が見えてきました。

工藤:最終的な判断では、政府も発言しなければいけませんね。

橘川:野田内閣の時は野田首相自身が大飯3号機、4号機の時に発言しました。今回は、安倍首相は発言していない。この辺はスタンスの違いだと思います。

工藤:統一地方選挙まで話が出ないとすれば、再稼働の政治判断は統一地方選挙後になるということでしょうか。

橘川:それは規制委員会の基準と地元の話し合いの進み具合です。統一地方選挙は4月ですから、あるとしても、現実には高浜原発の3、4号機くらいがあるかないかだと思います。

工藤:いずれにしても48基のうち再稼働するのが30基くらいだとすれば、安全審査もかなり厳しく、前とはかなり違うわけです。最終的にこれによってエネルギー政策はどうするかというのが分かった段階で、判断する局面にきているのではないでしょうか

藤野:そうですね。早め早めに自分たちの仕事のシミュレーションモデルを動かして、2030、2050年の二酸化炭素の排出量やエネルギーミックスを考えていく。原子力の未来については、だいぶ見えては来ていると思います。その中で足りない部分を、何で埋めていくかという議論に移っているのかと思います。まずは再稼働です。いろいろなことを考え、それを提示するのが我々の役目です。

工藤:再稼働の話はどんどん遅れているのか、それとも頑張り始めているという感じですか。


繰り返される"選挙でごまかす自民党"と"代案がない野党"という構造

山地:頑張り始めたと思っています。ただ、二年前に規制委員会発足の時に期待されたスピード感はないのは確かですが、川内の最初の例が一応プロセスをほぼ終えていますから、そこ以降は加速されていくものだと期待していますし、体制も整ってきたと思います。組織も全く新しい組織ですし、そこに時間がかかったのだと思います。また、政治家には選挙がありますから、皆さんが不安に思っていることを、いかに自分に政治信念があるといっても、落選する可能性があることはあまり言わないでしょうね。そこは、私は同情的です。

 一方、現在の燃料輸入増でわが国は大赤字です。そこに電力料金の値上がり、温暖化対策が重なる苦しい状況に対して、原子力をゼロにすると考える方もいるのであれば、そこで、どうすればいいのか、という代替案を出すということが大切です。

工藤:政治の中にそういう動きはないのですか。

橘川:圧倒的多数の自民党以外の政党は、原発を無くせ減らせと言っていますが、一言でいえば、電気代が上がってきている状況に対する具体的な対策案がない。その結果、選挙でごまかす自民党と代案がない野党という構造がまた今度の選挙でも繰り返されると思います。

工藤:国民が判断できない状況というのは、よくないですね。

藤野:社会保障にも似たようなところがあって、どんどんツケが残って、よくないと思います。

工藤:安倍政権は今までの政権と比べて、結構アジェンダ設定していて、評価も相対的に高くなるのですが、一方で判断が問われているわけです。

橘川:エネルギーでは全然高い評価は与えられないと思います。


太陽光に集中する再生エネルギー

工藤:再稼働の三年以内の結論というところと見合っているのですが、三年以内に再生可能エネルギーの最大限の導入と、省エネの最大限の推進を目標としています。この点、山地さんはどうお考えでしょうか。

山地:再生可能エネルギーについては、2012年7月、固定価格買取制度(FIT)が施行されましたが、施行後三年間、利潤に特に配慮するということがあって、これに配慮することで加速します。それから、もう一つ三年がありまして、エネルギー基本計画に、2013年から三年間と書いてある。再生可能エネルギーは特に太陽光に関しては劇的な効果がありました。この6月末くらいまでで7000万kWまで設備認定され、運転を開始したのも1000万kWを超えています。そもそも2010年のエネルギー基本計画の水準をさらに上回るというのが今回の目標でしたが、2010年のエネルギー基本計画の太陽電池の2030年の目標は5300万kWでした。ですから運転開始量ではまだ足りていませんが、設備認定量ではそれを上回り、FITの効果はありました。ただ、太陽光に集中しすぎている。これを調整する段階にあると考えています。

工藤:最大限の導入は進んでいるんですね。

山地:太陽光では進みすぎていると思います。

工藤:買取資金が料金に上乗せされるので、国民負担が重くなるのではないか、というブレーキがかかっていますね。

山地:基本計画でも、最大限の導入と同時に、賦課金による国民負担が過重にならないように、最適なバランスを取ると書かれました。その賦課金が、震災前の議論の時には年間5000億円くらいの賦課金の上限というだいたいの目安があったのですが、今年度で7000億円くらいの年間負担になって、今の設備認定量全部をもし運転開始すると、年間2兆7000億円になります。これは消費税1%くらいよりちょっと多いと思います。しかも20年続くので、これは非常に大きな国民負担になります。これに対応するのが緊急だと思います。

工藤:これは電気料金に上乗せされるんですよね。

山地:電気料金とは別に、電気料金と一緒に回収されます。


バランスの取れた再生可能エネルギー発電を

藤野:FITは劇薬だったのかなと思います。ただ、その劇薬をどう御すかというところについては、メガソーラーばかり入っていて、御しきっているのかなという不安があります。一方で、先にメガソーラーばかりが接続したために、地域で再生可能エネルギーをやろうという中小の企業や地域のコミュニティの接続ができにくい状況になっています。こうしたところに、先手を打つべきだったのではないかと思います。地域での参入をやっていくというのがもう一つの理念だった気がするので、そこのケアは引き続き必要だと思います。

橘川:発電電力量の最大限というのは進んだと思いますが、もう一つの目標、発電電力量の費用対効果の最大化というのは、まったく政策が実現しそうにないので、5段階で評価すると、着手して動いたのだけど目標達成は難しいというので、2点だと思います。

工藤:今の話は、たとえば政策を動かす時に、まず動かしてみて、課題が出て修正するのか、それとも予見されているものであれば、ある程度システム的に大きく全体設計をしてからということでもあるですが、そういう意味での再エネの爆発的な展開というのは、違う方向だったのでしょうか。

山地:再エネは手綱がうまくとれていないと思います。まず、原子力に対する代案として、再生可能エネルギー推進への国民の合意は強固だったわけですから、ほとんど反対なく政策が通ってきたわけです。その中でFITという政策が成立しました。ではFITという政策の手綱はどのように引くかというと、買取価格なのです。ところがこの価格を原価プラス利潤、しかも、当初三年は利潤に特に配慮して、と手綱の引きようがない形にしてしまった。本来は政策の手綱を上手く使って、再生可能エネルギーの中でもポートフォリオを組めるように調整していく必要がある。とりあえずラッシュがおきている太陽光への対応をまず行うのですが、いずれにしてもFIT法の改正をしてバランスのとれた再生可能エネルギーの発電の在り方を目指す必要があると思います。法律改正については今後1、2年かかる必要があると思います。

工藤:ということになると、この二年間で、いろいろと動いたのですが、課題も見えてきて、取り組みが問われているという段階ですから、順調に達成に向かっているという言い方にはならないですよね。3点の可能性が大きいですね。

工藤:省エネについてはどうですか。

山地:日本はもともと省エネ優等生と言われてきました。これは産業界の話で、民生部門には問題があるとされてきましたが、震災後は、電力の節電意識はかなり定着してきたと思います。むしろこれからは、単に需要を減らすだけではなく、ピークを減らしたり、負荷のパターンを変えるという方向に新しく行っています。スマートコミュニティの形成とか、新しい方向が出ていると思っています。但し、少し期待先行だと思います。


短期的でない将来の電源構成ミックスを語れ

工藤:原発再稼働の見通しも見え、再エネの課題も見えてきた。その中で、持続的な電源構成ミックスを決めるということが、いつも先送りされているのではないか。この点について山地先生はどう思いますか。

山地:この点、鍵を握るのは原発だと思います。原発の40年制限制については、震災後バタバタと決まってしまった感があるので、これについては規制委員会で早めに見直すようにしたらいいと思います。この40年という数字に合理性はあるのか。ドイツでは発電電力量で決めています。落としどころとしては40年から60年というところに落ち着くと思います。本来は、原子力をどれくらい使うのが望ましいのかという議論をしていくべきだと思います。

工藤:そこは、本来であればエネルギー基本計画を策定するプロセスの中で必要ですよね。しかし今回はその議論がなされなかった。

山地:今回、議論が十分にはされてなかったと思います。議論ができない状態だったのではないでしょうか。

藤野:温暖化のシナリオをつくる時にも、エネルギー基本計画をある種、下敷きにしてやってきたのですが、こちらも現状をみながら案を提示していかなければならないと思っています。いつ再稼働するかどうかという短期的な話だけでなく、50年先の日本のエネルギーミックスをどうしたいのかという話をもっとするべきだと思います。日本の基本的な衣食住を考えると、エネルギーは極めて重要です。

橘川:エネルギーミックスについては未着手なので、5点満点中1点だと思います。これは確信犯的につくってないわけで、総選挙、参議院選、都知事選、また総選挙、次の統一地方選までつくらないので、単に決められないという話よりも、もう少し強い、決定しないという方針だと思います。私は山地先生よりは、やや社会的受容性を考えて原子力の40年運転停止規則というのは強く影響力を持つのではないか、そう考えると2030年で原子力は15%くらいで、それから、民主党政権の最中に三党が議論して一致していたのがコジェネ(熱電併給)で15%、再エネは自民党が21%以上、公明党が35%といっているので30%くらいになると思います。そうすると火力が40%、これくらいのミックスが決まってくるのではないかと思います。

工藤:日本の将来に関係するエネルギーの在り方を議論する場は政府内のどこにあるのでしょうか。

橘川:基本政策分科会だと思います。

工藤:それは基本計画をつくる母体ですよね。そこではエネルギーミックスをつくろうという話はないのですか。

橘川:私は委員なのですが、建前上は早くつくろうと言っています。しかし、現実の委員会の開催ペースを考えると明らかに統一地方選挙まで決まってこない形になっています。

山地:この4月にエネルギー基本政策分科会の答申を受けてエネルギー基本計画はできたものの、数値が具体的に決まっていない。今は小委員会や分科会で議論が行われているのではないでしょうか。現在は各論をつめている段階だと思います。

橘川:私は化石燃料の資源・燃料分科会の座長なのですが、この分科会ではミックスの話をしないということで進んでいますので、他の小委員会でもミックスの話はしていないのではないでしょうか。私は確信犯的に決定の期日をのばしていると思います。

工藤:各論はいつ固まるのですか。

山地:私は新エネルギー委員会の委員長を務めていますが、FIT法の法律を変えなくてすむ事項を年内、年度内には長期的な運用の在り方を考え、並行して2030年までの導入量と国民負担のシミュレーションを年度内に終わらそうと思っています。

橘川:やっぱり統一地方選までないのですよ。

山地:ただ、問題は、再生可能エネルギーはFIT法という政策手段を持っていますが、原子力の場合は推進するといっても、誰がやるのかという担い手の議論が不足していると思います。かつては、電力会社は強い組織でしたが、今や、かつての安定的な経営ができていない。そこを考える必要があります。単に数値を出しても実現の目処がたたない。数値と実現の方法は同時並行で進めていくべきだと思います。

工藤:橘川さんとしては1、0点といったところですか。山地さんはどうですか、2点ということですか。

山地:2点の定義にもよります。小委員会を設けて着手はしています。


評価の高い電力システム改革、次の課題は

工藤:電力システム改革、これもいろいろな形で動いているのですが、これに対してはどう思いますか。

山地:評価できるところはいっぱいあると思います。その中でも原子力など政策的に進めなくてはならない電源をシステム改革の中でどう進めて行くのかということは今、議論しています。しかし、そこは慎重に議論していく必要があると思います。

橘川:電力システム改革、及びガスシステム改革は、安倍政権は積極的にやっていると思います。原子力政策に比べてはっきりした姿勢でやっていると思うので、私は3点ないし4点の評価になると思います。

工藤:特にここが、というところはありますか。

橘川:2015年は発送電分離がまだ決まっていないで、山地先生がおっしゃっていた電力会社の体力との関係で議論の余地があると思いますが、少なくとも政権の意思が一番、はっきり見えるのはこのシステム改革の部分だと思います。

藤野:動きは見えていると思うので、今度はプレーヤーがどう動くかだと思います。日本の中だけで、プレーヤーの資金が十分かという時に、外からどう資金を持ってくるか。外為法では電気事業にはお金を突っ込めないので、外からの投資を持ってくるようなことをやるのかどうか。その時に原子力、水力、地熱のようなとこまでに投資が入ってしまうと、日本の政策に非常に関わるので、FITの二の枚にならないようにする。一方で外資が入ってこないと、言われてルールは作ったけれど参加する人がいないと思うので、そこのところが次の段階として残っているかなと思います。

工藤:担い手の中に外資を取り入れるという議論がないと、5点はいかないと。

藤野:市場の中で投資が間に合うかが大切です。

工藤:安倍政権のエネルギー政策についてかなり辛口な評価となりました。政治の責任を考えるということが全ての政策で必要だと強く実感しましたが、その政治を決めるのは私たち有権者なので、しっかり考えていきましょう。どうも有難うございました。

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