日本とインドネシアはアジアの民主政治のために何ができるのか

2015年3月20日

 3月20日、言論NPOが主催する「戦後70年、東アジアの『平和』と『民主主義』を考える」と題した2日間にわたる国際シンポジウムが開幕しました(協力:外務省 助成:国際交流基金アジアセンター)。初日は「アジアの民主主義をどう発展させるのか」をメインテーマに議論が進められました。


 冒頭、あいさつに立った代表の工藤は、「『平和』と『民主主義』の2つのテーマが、今、アジアや世界で様々なチャレンジを受けている。『平和』については、特に、北東アジアでは未だ近隣国間で神経質な展開が続き、平和のための秩序が創られているわけではない」ことを指摘しました。一方で、民主主義について、タイでクーデターにより軍事政権が樹立されていることに触れ、「アジアの国々でデモクラシーは困難な局面にあり、それは日本のデモクラシーについても同様である。こうした課題を改善すべくためにも、デモクラシーの課題を共有し、今一度原点に立ち返るためにも、今、議論を開始しなければならない」と今回のシンポジウムに至った問題意識を語りました。


セッション1:日本とインドネシア、2つの民主主義を再考する

 続いて「日本とインドネシア、2つの民主主義を再考する」と題し、日本側から明石康(国際文化会館理事長、元国連事務次長)、鹿取克章(前インドネシア大使)、見市建(岩手県立大学総合政策学部准教授)、川村晃一(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター副主任研究員)、インドネシア側からハッサン(元インドネシア外務大臣)、ラヒマ・アブドゥラヒム(ハビビセンター所長)、フィリップ・ベルモンテ(インドネシア国際戦略研究所政治国際関係部長)の各氏によるパネルディスカッションに入りました。


民主主義へ移行したが、今後はどう機能させるかがインドネシアの課題

 最初にインドネシア側を代表してハッサン氏が同国の民主化について、韓国で起こった通貨危機がインドネシアに広がり、その結果、大きな変革に至った経緯を説明しました。インドネシアでは、危機の前の32年間、軍事政権下にあり、通貨危機後は軍事政権に対するアンチテーゼとして、①民主主義の進行と推進、②人権の尊重、③汚職の削減、血縁主義への決別、④地方政府の自治強化を提案し、これによって経済の危機に対処したことを紹介しました。その上で、「私たちは自信を持って、軍事政権から民主主義へ移行したと言える。しかし、まだまだ課題は存在している。民主主義は選挙だけではなく、実際にそれが機能しているか、人々の生活に寄与しているか示さなければいけない」と指摘し、世界で最も大きなイスラム国であるインドネシアが、不断の努力で民主主義を機能させようとしていることを語りました。


国民の意思形成にメディアの果たす役割は重要に

 続いて、日本側を代表した明石氏は「真の民主主義の達成のためには、国民の意見を政治に反映させることが重要である。そうした国民が意見を形成するためにも国民に、必要十分な情報と、情報を分析したものを提供することが必要となる。そのためにも、メディアの果たす役割は非常に重要である。こうしたことを通じて、いかに調和し英知を生み出し、そうした英知を政治に反映させ、政府が何を実現できるかが重要である」と指摘しました。また、言論NPOの活動にも触れ、「こうした地道な活動が、日本における国民の意思形成に寄与し、偏狭、あるいは排他的なナショナリズムの台頭を抑え、アジアにおける平和と安定をもたらす」と語りました。


インドネシアに根付く強固な市民社会

 この後、ディスカッションに移り、冒頭、工藤が「インドネシアでは『機能する民主主義』をどのように達成しようとしているのか、と問題提起しました。  これに対しエラワン氏は「インドネシアでは民主主義を制度として根付かせるにはまだ課題がある。制度改革のプログラムが国民にきちんと伝わっておらず、国民の間でもコミュニケーションが足りない。民主主義こそが唯一の解決策として、国民の信頼を醸成しなければいけない」と述べました。
 また、アブドゥラヒム氏は「インドネシア独自のものとして機能しているものに市民社会が強いことがある。民主化への移行前の1998年以前から学生、主婦らが関心のあるテーマで集会を行うなどしたことが、結果的に民主化を引っ張っていく原動力となった。こうした強固な市民社会が元々あるので、昔に戻ることはないだろう」と補足。

 一方で、ベルモンテ氏は「インドネシアは15年の民主主義で成果は残したが、まだ政治改革、経済改革は必要である。特に、民主主義が機能するたえには、国民からの信頼が重要だが、まだまだ汚職が行われている」と、民主主義を機能させるために、まだまだ課題があることを指摘しつつ、引き続き改革を進めていく決意を語りました。


日本がインドネシアから学ぶべきこととは

 ここで日本側から発言した鹿取氏が、インドネシアの民主主義から参考になる点として「インドネシアは300の民族、300の言葉がある多民族国家であり、宗教もイスラム教が9割ほどで、キリスト教、仏教なども認められている。そうした社会では、寛容性が非常に重視され、相手の立場になって考えることが大事になる。自分と違う人を理解しなければ、社会の発展はできない。つまり、多様性の中の統一が必要となる」と語りました。また、「彼らには、民主主義を守るためのファイティング・スピリットを感じる。民主主義は戦わなければ維持できないのだ」とインドネシアから日本が学ぶべきものも数多くあることを紹介しました。

 同国の大学で研究員の経験のある川村氏は「東南アジアの民主主義国といえばインドネシアだけだが、東南アジアにおける民主主義の先進国として他国に『教える』のではなく、その価値を『共有』しようとしている。共有する態度、それがインドネシアの民主主義のカギだと思う。いずれの政権も連立政権だが、特定の宗教などを排除せずに取り込み、独自の制度で権力を分有している。そうした制度設計について、4回も憲法改正し、選挙ごとにトライ&エラーを繰り返している。多民族国家で自分たちの民主主義を目指すために、柔軟な態度で制度設計している」と分析しました。  また、『新興大国インドネシアの宗教市場と政治』の著作がある見市氏は「民主主義は競争を前提にしていると同時に、社会的な亀裂も前提としている。亀裂が深刻になると紛争に繋がることが多々あり、インドネシアも民主化を進めていく過程で宗教間の対立もあった。しかし、スハルト体制など権威主義時代に国民統合が進み、亀裂が深刻にならなかったのが理由ではないか。また、経済発展とともに格差も広がっているので楽観視できないが、地方都市も都市化が拡大し、中間層が広がり続けていることが、多民族国家であってもインドネシアが分裂しない理由になっているのではないか」と指摘しました。


インドネシア新大統領の課題とイスラム諸国で広がる民主主義の価値観

 3月22日に来日するインドネシアのジョコ・ウィドド大統領については、「国民からの期待が大きかったが、就任(14年10月)後4カ月が経ち、このままでは無理ではないかという雰囲気になってきた。かなり長く続けなければ達成できない公約もあるので、それらを現実的な期間でどう実現できるか、それをきちんと説明する国民とのコミュニケーションが必要だ」(エラワン氏)、「経済成長の維持と格差の是正が一番大きな課題」(鹿取氏}、「インドネシアの大統領はリーダーシップを発揮しにくい制度設計となっているため、政治的エリートと議論し、妥協も必要である。エリートとの関係をいかに打開するか、それが今後の課題だ」(川村氏)との意見が続きました。

 最後に「イスラム国」などイスラム教過激派によるテロ行為については、アブドゥラヒム氏から「民主主義の価値観がイスラム諸国で広がっている。これを実証していく模範となり、私たちがグローバルでの過激派での対処で役割を果たしていきたい」と語り、セッション1は終了しました。

セッション2:アジアの民主政治のための言論と民間の役割

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