言論外交の挑戦

世界の自由貿易体制の維持と、新しい日中の経済産業協力「第14回 東京-北京フォーラム」経済分科会 報告

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 経済分科会では、「世界の自由貿易体制の維持と、新しい日中の経済産業協力」をテーマに議論が行われました。

 司会は日本側が山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)、中国側が魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)が務めました。両国のパネリストは以下の通り。

【日本】大橋光夫氏(昭和電工株式会社最高顧問)
河合正弘氏(東京大学公共政策大学院特任教授)
中川淳司氏(東京大学社会科学研究所教授)
中曽宏氏(株式会社大和総研理事長)
船岡昭彦氏(三井不動産常務執行役員)
神子田章博氏(日本放送協会解説主幹)
宮田孝一氏(株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役会長)
守村卓氏(株式会社三菱UFJ銀行顧問)

【中国】魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)
傳成玉氏(中国人民政治協商会議第12期全国委員会常務委員)
張燕生氏(国家発展・改革委員会学術委員会研究員)
方立明氏(元中国銀行業監督管理委員会副巡視員)
樊綱氏(中国経済体制改革研究会副会長)
李暁氏(吉林大学経済学院兼金融研究院院長)
于偉氏(高偉達ソフトウェア株式有限公司董事長)
陳有鈞氏(中国建銀投資有限責任公司総裁補佐)


 分科会の前半では、「国際貿易の現状と自由貿易体制を維持発展させるための課題」をテーマに、中曽氏の基調報告から始まりました。

nakaso.jpg 中曽氏は米中貿易摩擦の影響について、直接的な経済の下押し効果だけでなく、金融市場のセンチメント悪化を通じた投資・貿易のペースダウンについて指摘。各国・地域の経済が相互依存関係を深める中で、自由貿易の堅持は不可欠である、と語りました。

 また、中国はこれまで自由な資本フローを制限してきたものの、投資ニーズが高まっていく中で、今後、中国政府が国際金融のトリレンマにどのYKAA9541.jpgようにバランスよく対応していくかが課題であるとしました。

 さらに、中曽氏は、日中間の金融協力が実体経済の相互補完関係をサポートする重要な取り組みであるとしたうえで、実践的で意味のある日中間の通貨スワップ協定の締結を望むとして、日中間で協定の締結を促進することを促しました。


kawai.jpg 続いて河合氏は、自由貿易体制の維持のために必要なこととして、第一にトランプ政権の自国第一主義の貿易政策は、国内の労働者の不満が背景にあることから、こうした人々に対する社会保障政策、第二に、多角的な国際協力関係がますます重要になってくるとして、RCEPなどの地域レベルでの経済協力やWTOの機能強化の必要性に言及しました。さらに、3つめとして、中国が経済改革を行い、真の意味での市場経済国となる必要があると語りました。

YKAA8533.jpg 中国側の基調講演者である張燕生氏は、中国はグローバル化に向かって進んでいくとし、日中で協力してアジア経済をリードしていくことに意欲を示しました。また、アメリカが自国に有利な貿易体制を作ろうとしていることに対し、アメリカに依存しない自由で開放的な市場を作り、自由貿易体制を維持することが求められているとし、第三国での日中協力の可能性についても触れるなど、後退するアメリカに代わり、自由貿易体制の旗手となることに意欲を示しました。

YKAA9425.jpg 続いて樊綱氏は、米中貿易戦争は企業の心理に影を落とし、経済成長のスピードを鈍化させる懸念がある一方で、アメリカへの対抗心から、改革をより一層推し進める機運が高まっているとの中国国内の現状を説明しました。さらに、日中がリードし、妥結できる国から段階的にRCEPの調印を進めていくことも検討すべきではないかとの提案を行うなど、これまで以上に、中国国内での様々な改革や、日中が協力して域内の経済連携の妥結を推し進めていくことなどに積極的な姿勢を示しました。

 以上の基調報告を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。


自由貿易体制維持のための方策

 日本側からは、アメリカが行っている一方的な制裁関税はWTOのルールに違反しており、日中で説得していく必要性があることを確認しました。その上で、真に自由な貿易体制の維持のための方策について踏み込んだ議論が交わされました。

miyata.jpg 宮田氏が、自由で公正な貿易を守るという原点に立ち帰ってWTO改革に取り組む必要があると口火を切ると、中川氏からは電子商取引や投資に関してWTOのルールの立ち遅れが顕著であるため、新たなルールを協力して考えていく必要があるとの意見が出ました。

k.jpg 一方、神子田氏は中国と日本・アメリカ・欧州の間で中国が市場経済国家であるかどうかに認識の違いがあることを指摘し、共産党の統制が民間企業に及ぶことは市場経済化に逆行するのではないかとの懸念を表明しました。

YKAA9349.jpg 于偉氏は神子田氏の懸念に対し、ネットや報道に出てくるような事例はまれであり、党による直接的な指導はあまりないとの現状を説明。方立明氏は、金融業務に関する外資の参入規制を緩和するなど、金融分野でも対外開放が進んでいることなどに触れ、中国の改革開放への信念の強さを強調しました。

 河合氏は「中国製造2025」において、中国企業にのみ補助金を与えることはWTOのルールに抵触するとの見解を示しました。これに対し傳成玉氏は、条件を満たせば他国企業に対しても支援を行うと強調し、魏建国氏は、中国は未だ発展途上国であり、市場化に向けての支援であるとの見解を述べ、WTOルールには違反しないと主張しました。

 こうした中国側の意見に対して大橋氏は、中国は経済大国として責任ある行動を行うよう求めました。

nakagawa.jpg 中川氏からはRCEPの締結について、早期に妥結するためには条項ごとに移行期間を設けて合意をすることも考えられるという提案がされると、船岡氏からも、WTO改革を推し進めるのと同時に、国際社会の変化に合わせた新たな貿易秩序の構築も必要なのではないかとの意見が出されました。


知的財産保護をめぐる課題

 大橋氏から、知的財産権の保護に関して中国は改善すべき点があるとの指摘がなされると、傳成玉氏は、中国国内でも大企業が中小企業から知的財産権の侵害を受けており、中国国内の企業同士でも管理監督が行き届いていない現状を説明し、改善点が存在していることを暗に認めました。

YKAA9203.jpg 一方、張燕生氏は知的財産の国際的な定義が不明確であることが課題だと述べ、傳成玉氏は、中国はオリジナルを生み出せる段階に向かって成長している途上であり、知的財産権の問題は改善しているとの見解を示し、日本側に同意を求めました。


経済大国・中国が抱える企業債務というリスク

 中曽氏は、中国の企業債務が増大し、日本のバブル期に匹敵するレベルになっていることを指摘し、中国が抱える脆弱性に懸念を表明すると、河合氏も、米中貿易摩擦の影響をカバーするために中国が公共投資を拡大する方向に動いており、企業の債務問題を悪化させる可能性があると述べました。

 これに対し張燕生氏は、債務残高対GDP比が下がってきているとしながらも、中国では家計の貯蓄率が高いため、企業の資金調達は銀行の融資を通して行われる。それが企業債務増大の要因であると述べました。


中国は、米中間での対等な協議を望む

 この後、パネリストと会場の間でディスカッションが行われました。会場からは、アメリカの政策は中国の封じ込めを狙っているのではないかとの見方が日本ではあるが、中国側ではどう考えているのかという質問が出ました。

 これに対し、魏建国氏は、そうした日本の見方に同意した上で、アメリカによる中国の封じ込めは今後も続くと考えられるが、アメリカに屈して上下関係に収まるのではなく、対等な協議を行わなければならないと回答するなど、活発な議論が交わされました。

yamaguchi.jpg こうした前半のディスカッションを踏まえ、日本側の司会である山口氏は、自由貿易の堅持に向けて日中が協力し、RCEPなどの枠組みを通してアジア全体に広げていくことでは合意ができた、とする一方で、知的財産の保護や、中国の市場経済化の度合い、債務のリスク等に関しては日中間で認識の隔たりがあったとの総括を行い、前半を締めくくりました。


 続いて行われた経済分科会の後半部分は、「世界経済の自由貿易や多国間主義の発展を前提に、アジアや世界の持続的、包摂的な経済成長のために、日中経済分野の協力は、どのような分野でどのように行っていくべきか」というテーマで、中国側の傳成玉氏より基調報告がありました。


中国は、日本との経済協力に大きな期待を寄せている

YKAA9195.jpg 傳成玉氏は、一帯一路構想における第三国での日中協力の可能性を提示しました。特に日本の金融機関は中国企業とすでに協力関係を結んでおり、企業の経営状況もよく把握しているため、主導的な役割を期待すると述べました。

YKAA9237.jpg 続いて李暁氏は、トランプ政権は世界のルールをアメリカに有利なように再構築しようとしていると批判し、米中貿易摩擦はアメリカとアジアの貿易摩擦に他ならないとしました。さらに、李暁氏は日本のアジア諸国への対外直接投資が増加していることに触れ、アジアにおけるサプライチェーンの構築・深化において日中が協力できる余地は大きいと述べ、最後に日中のFTA、RCEPの早期締結が望まれる、と日本との経済協力に秋波を送りました。


SDGsや人口問題、環境問題などに配慮しながらの日中連携を

ohashi.jpg 日本側の基調講演者である大橋氏は、環境問題に関して国家の利害を越えて協力が必要であると提言しました。さらに、日中両国が直面している人口問題に関して、将来的に地球が許容できる人数を越えてしまうことが予想される中で、各国が個別に対処している状況を改め、協力する必要があると語りました。さらに、日中の産業協力において、地球温暖化、水の確保、大気汚染の防止を主眼に置きながら、経済発展できるモデルの必要性を主張しました。

 続く宮田氏は、日中の持続的な経済成長のためには持続可能な開発目標(SDGs)の視点が肝要であると述べました。YKAA9336.jpg日本においては二年前にSDGs推進本部を設置し、経団連、全国銀行協会を中心に取り組みを進めており、中国企業に対しても環境保護に取り組んでいる企業への貸出金利の優遇や、新エネルギーを使った自動車を開発する企業に投資するファンドの設立などの実例を紹介しながら、日中共通の目標としてSDGsを意識しつつ、ビジネスで協力していくことが大切だと語りました。


中国は、電子決済事業、金融機関の協力など、具体的な取り組みに期待

YKAA9356.jpg 続いて于偉氏は、デジタル経済の分野で日中協力の可能性があるのではないかと提案しました。中国では電子決済事業で成功事例が生まれていることを取り上げ、IT企業の日本での上場や、中国の電子決済事業者と日本の金融機関の協力の可能性を訴えました。

 また高齢化に対する取り組みや、金融分野においては日本企業との協力ができるのではないかと、今後の具体的な取り組みに期待を寄せました。

 以上の基調報告を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。


ITを用いたビジネスや、高齢者層向けのサービスなどでの協力を

morimura.jpg 守村氏は、金融分野のイノベーションは日本よりも中国において進んでいるとし、日中の金融機関が協力してアジアの金融インフラを作ることが重要だと語りました。さらに、ITを用いた協力の事例として、ブロックチェーンを用いた貿易実務の効率化を紹介。また、中国企業の技術革新に日本の金融機関が協力することに意欲を見せつつも、情報開示の点で改善の余地があるとの懸念を示しました。

funaoka.jpg 続けて船岡氏は、日中両国で高齢化が進む中、健康寿命の伸長が重要であると語り、IoT技術を用いて、パーソナルデータを長期間収集・分析し、ケアに役立てるサービスを紹介しました。また、環境問題への対応は企業から家庭に広がるとし、街づくりでの協力にも言及し、具体的な課題に関する日中間の連携や協力の可能性を示唆しました。

 樊綱氏は、中国では高所得で貯蓄の多い世代が高齢化しつつあり、高齢富裕層向けのサービスへのニーズが高いことを指摘し、これまでに比べ高齢層の消費に期待できるため、こうした分野で日中企業の協力が望まれると、期待を寄せました。


 一帯一路での日中協力について、まずは様々な課題の透明性確保を

 中川氏が一帯一路での日中協力について、資金調達の透明性の確保が課題だと口火を切ると、河合氏は相手国の債務の積み上がりについて懸念を表明し、相手国が返済できない場合の対応を慎重に検討するため、パリクラブへの加入を求めました。続いて、方立明氏はデータの透明性確保の方策として、アジア金融協会等のプラットフォームを利用し情報共有ができるのではないかとの提案を行いました。

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日中のみならず、アメリカも入れた対話の重要性を指摘

 神子田氏は、かつての日米貿易摩擦とバブルの経験を振り返り、地道な対話を通して相手国の情報を知ることの重要性について語りました。そして、日本が仲立ちとなり、日米中でのマクロ対話を行うことを提案。これに魏建国氏も呼応し、対話の機会を増やすことの重要性を強調しました。

 後半でもパネリストと会場との間でディスカッションが行われ、中央と地方の発展を均一に行うための方策として、投資環境、ビジネス環境を改善し、国内外の投資を呼び込むことが重要であるとの意見が出されました。また、第三国での日中協力について、中国側からは共同入札や工場等の共同経営についての意見が出る一方で、日本側からは技術力を提供するような形での協力以外は難しいのではないかとの意見も出るなど、一概に「協力」と言っても、日中間での認識のズレも明らかになりました。

YKAA9486.jpg 最後に、分科会の締めくくりとして、魏建国氏は、日中両国から積極的な発言があり、様々な良い提案があったとし、次の話し合いに向けて意欲を高めたと総括し、経済分科会を締めくくりました。

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