言論NPOとは

理事紹介:冨家 友道

冨家 友道(三井住友アセットマネジメント株式会社 事務システム戦略部 兼 企画部 理事)
profile
1956年東京生まれ。東京大学教養学部卒。みずほ証券(株) ITグループ統括部長。埼玉大学 客員教授。上武大学 客員教授 1996年アンダーセンコンサルティング 金融インダストリー部門 パートナー。1998年金融監督庁参事。2001年 アーサーアンダーセン パートナー。


『選択』のための議論を提供したい

Q. 言論NPO代表工藤との出会いはどのようなものですか?

 工藤さんとは、彼が「金融ビジネス」にいたときに、日本の不良債権処理や銀行の統合などについて、インタビューや議論をして一緒に考える機会が増えて仲良くなりました。 金融というのは、実体経済が行き詰ってくるとひずみが出てくるものです。その行き詰まりに直面したとき、日本は非常に大きな選択をしなければなりませんでした。しかし、その選択のための議論をする場所がなかった。日本の将来を左右する「選択」をするための議論の場所を作らなければいけないと、そういう思いで、「言論NPO」を作らなければいけないなという話を工藤さんとしていました。


Q. 冨家監事から見て、代表工藤とはどんな人ですか?

  工藤さんは、こだわりが強くて、非常にまっすぐに進みたがる人ですね。自分がこうだと思ったことには絶対にぶれない。また、編集者として、趣旨が伝わるように議論を組み立てたり、何が新たなアジェンダなのかということについてしっかりとした意識を持って取り組んでいると思います。議論形成において工藤さんが特定のコミットメントを受けることは非常にまずいのですが、その辺に関しても、ジャーナリストとしてのインデペンデンスをきちんと守ってくれる人だと思います。

 ただ、工藤さんは結構くそまじめだから肩に力が入りすぎることがあるので(笑)、たまには息抜きが必要だと思いますね。ただ、まだまだ力を抜くわけにはいかない状況なのが難しいところです。


Q. 言論NPO設立のきっかけは何だったのでしょうか?

 「言論NPO」という名前は、皆で色々考えたんですけど、あんまり他に思いつかなかったというのが正直なところです(笑)。もともとどういうものをやりたかったかというと、「日本は大きな変化をしなきゃいけない」というときに、従来は議論がないままに、誰も選択をせず、ごく一部の人が勝手に方向を決めていってしまう。さらに最近はそうして一部の人が方向を決めることすらしない。そういう状況が戦後60年以上続いた結果、日本は"思考停止"の状態に陥ってしまっているんですね。つまり、この国は「アウフヘーベン(矛盾・対立する事象や立場を統合し、より高次な段階へと導くこと)をする議論の仕方」というのに慣れていないんですよ。ちまたで「議論」と言われているものは、実は自分の思い込みを一方的に言っているだけのことが多くて、まったく違う主張を持った人が徹底的に議論するということはほとんど行われていない。それゆえに、「お前か俺か、どっちが正しいか」みたいな言い合いしかできず、進歩がなくなってしまう。そうではなくて、やはり議論の結果、一段上に上がれるようにしたいと思ったのが根底にあります。


Q. 「選択」のために議論をするということですが、ここでの「選択」とは、何をどう選ぶことなのでしょうか?

 ここで言う選択というのは、究極的には「日本の将来に対する我々の価値観の選択」です。つまり、「どのような社会を目指すのか」という価値観、例えばアメリカのような勝者と敗者がはっきり分かれるがチャンスは平等というフェアネスを持つ社会か、それとも全員が同じ給料、同じ待遇で均質的に平等に生きる社会か、という風に、ある価値観の下での社会とはいったいどのようなものなのかということが提示され、議論され、それを見て国民は自分の将来の生活と照らし合わせて、価値観を選ぶということです。


Q. では、その「選択」において言論NPOが果たす役割とは何でしょうか?

 いま、日本はこの国の将来を選択しなければいけないタイミングに来ていると私は思っているのですが、その決定は誰かが勝手にしていいものではありません。国民が、主権者として選択しなければいけないのです。では、どうすれば選択できるかというと、やはりちゃんとした議論がなければいけないわけで、そういったものはどこで作れる可能性があるのかということですね。つまり、全然違う立場の人が議論しあうという場所に欠けているわけです。そのような場所を提供するのが言論NPOの役割だと思います。

 思考停止や自分とその取り巻きだけの思い込みでは進歩がないし、本当の意味での議論がない。違いをわざわざ見つけて議論をしなければ、進歩が始まらないですから、そういう場所を作るのが非常に重要です。だから言論NPOは、「誰が来てもいいですよ。ただし、特定の意見につくことはありません」という姿勢なんです。だけど、その先には「答えを出していきたい」という思いがある。僕たちは、皆が答えを出していくための議論を提供していきたいと思っているんです。

 したがって、私が務める監事という役は、そういう特定の党派性に偏っていないかということをチェックするという役割を担っています。


Q. ご趣味は何ですか?

 大学時代からファゴットをしていて、今もアマチュアオケでときどき演奏しています。実は言論NPOの理事の松田氏とは大学の同期で、彼と一緒に演奏したこともあるんですよ(松田理事はチェロ奏者)。彼は体格が大きいから、演奏中に指揮者が見えなくて大変だったのを覚えています(笑)。


Q. 言論NPOのサイトを訪れた方に対して、メッセージをお願いします。

 日本は大きな転機に来ていると思っています。皆でどっちに行けばいいのか。これはやはり一人で決められることではないので、皆さんで、ちゃんとした議論をして決めなきゃいけないと思っています。ぜひ、皆さん、一緒に言論NPOで議論をしていきましょう。



インタビュアー:
インターン 弓岡美菜(東京大学)