民主主義の危機を乗り越えるべく、率直な意見交換が行われた非公開対話

2016年8月19日

⇒ 8月20日非公開会議 報告
⇒ 日本、インドネシア、インド3カ国による公開フォーラム レセプション報告
⇒ 「アジアの民主主義は後退したのか~世論調査にみるアジアの民主主義の課題と挑戦~」報告
⇒ 「世界の民主主義はどのような試練に直面しているのか ~グローバリズムと民主主義の試練~」
⇒ 日尼印3カ国の民主主義に関する世論調査結果公表 記者会見報告
⇒ 「世界のデモクラシーは後退したのか?」日本・インドネシア・インド3か国共同世論調査結果


030A0017.jpg 8月19日(金)午前、東京都内の国際文化会館において、日本・インドネシア・インド3カ国による公開フォーラム「世界のデモクラシーは後退したのか?~アジアの民主主義国はこの試練にどう立ち向かうのか~」に先立ち、非公開会議が行われました。

YKAA0343.jpg まず冒頭で、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、アメリカ大統領選挙の「トランプ現象」や、イギリスがEU離脱を決定した国民投票結果などを踏まえて、途上国だけではなく世界全体が「民主主義の危機」に直面しているとの認識を示しました。

 その上で工藤は、今回の対話を「単なる民主主義の仕組みの話ではなく、課題解決に挑む言論空間をつくるための対話にしたい」と述べ、午後から始まる本番で議論すべきテーマについて、各パネリストから意見を募りました。


民主主義と効率性をどう調和させるか

YKAA0229.jpg インドネシアのパネリストからは、これまでアジアにおいては「経済発展と民主主義がうまく調和してこなかった」と振り返り、その背景には「効率的に経済成長をしていくためには、(意思決定がスムーズなので)権威主義的な方が良いと考えられてきた」ことがあると語りました。しかしその一方で、これまで権威主義的な体制の下、驚異的な経済発展を遂げてきた中国の成長スピードが鈍化してきたことを踏まえ、「権威主義的な体制も必ずしも経済成長に良いとは限らないことの証明だ」と指摘しました。

 そして、これからアジアで民主主義を普及させていくためには、成熟した民主主義国家である日本やインド、さらにはイスラム教と民主主義を両立させたインドネシアの知見を共有していくことが重要であると語り、その意味でも今回の対話には重要な意義があると強調しました。


YKAA0119.jpg インドのパネリストはまず、同国の中産階級においては権威主義的な政権によって大きな経済成長を遂げてきたシンガポールに注目が集まっていると解説。そして、「民主主義は例えば、インフラ整備を進める上では役に立たないかもしれない」とガバナンスの効率性の問題点は確かにあると語りました。しかし同時に、権威主義的な体制下では腐敗が起こりやすく、それが原因でしばしばインフラ整備が止まってしまうという事例も紹介し、「権威主義的にガバナンスを『ショートカット』するのではなく、反対派の声にも耳を傾けながら、時間をかけて議論をして決めていくというプロセスこそが、長い目で見れば結局良い結果を生むことになる」と民主主義の意義を語りました。


 これに対し別のインドネシアのパネリストも、「民主主義は単に権力をマネージするためのテクニックではなく、シビリゼーションのアイデアであり、時間をかけ、経験を積まないと機能しない」と語り、短期的な成果を追求すべきではないとの見方を示しました。

 これらの発言を受けて工藤は、「我々は直面する課題を解決していかなければならないが、しかし一方で、多くの市民が政治参加する民主主義は意思決定スピードが遅いため非効率な面もある。これをどう両立させるかは考えなければならない大きな論点になる」と語りました。


どのような視点で民主主義を問い直すべきか

YKAA0161.jpg その後も、インドネシア、インド両国のパネリストたちからは、「それぞれの地域の特性を加味しながら『機能する民主主義』の骨格を考えなければならない」、「一部の利益のみを代表するようなリーダーが出てこないようにするためには市民社会全体で理性的な議論をする必要がある」、「多くの人が参加する民主主義においては、必然的に考えが異なるグループが複数できることになる。民主主義を機能させるためには、その相互の『信頼』を涵養することが不可欠であるが、そのためには何をすべきか」、「日本もインドネシアもインドも、多くの世代が権威主義的な体制を経験しておらず、『民主主義はそこにあって当然』と考えている。その中で民主主義の意義を改めて問い直すような議論が必要ではないか」など示唆に富む指摘が相次ぎました。


グローバル化と民主主義の試練

YKAA0284.jpg 一方、日本のパネリストは、「先進国は『民主主義と経済発展は両立する』と言ってきたが、世界金融危機を受けてこれが崩れてきている」と語り、その背景として金融を中心とした「グローバル化」を挙げました。そして、そのグローバル化時代の競争下では、先進国で貧富の格差が拡大しているが、各国の政府はそれを上手く是正できておらず、それに不満を抱く国民が「政党など既存の民主主義の枠組みでの解決ではなく、直接民主主義的な解決を要求している。その中では政府は増税など国民受けの悪い政策をやりにくくなっている」と語り、「ポピュリズムの危機」を指摘しました。その上で、先進国がそうした状況を打開する道筋を示せないと、これからグローバルな市場に参入する途上国でも同じ問題が起こり得ると警鐘を鳴らしました。


民主主義を考えていく上で鍵となるのは「中間層」

YKAA0091.jpg 続いて、別の日本人パネリストはまず、「『経済発展によって中間層が発達し、それが政治に参加していくことで民主主義がさらに進んでいく』という仮説があったが、この20年間、世界全体のGDPは2倍以上増加したにもかかわらず、民主主義国家は増加していない」というデータを提示しました。その上で、「アメリカやイギリスではグローバル化の恩恵を受けていない中間層が、アジアの途上国では経済発展を政府任せにしてきた中間層が、それぞれ民主主義に対して否定的な見方をしている」と語り、この中間層の問題を考えていくことが、民主主義の問題を解決していく上での鍵となるとの見方を示しました。

 意見交換を経て最後に工藤は、グローバリゼーションとそれに伴う民主主義の試練や、民主主義を普及させるためには何が必要か、民主主義を機能させるためにどうすればいいのか、などを午後の対話で掘り下げて議論したいと抱負を述べ、非公開会議を締めくくりました。

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