市民賞 講評

2016年12月15日

1. 審査の視点

 市民性の評価基準は、主としてボランティアと寄付者へなど、団体の活動に参加する人々への配慮に関するもので構成されています。ボランティアについては、参加の機会が開かれていること、それがわかりやすく発信されていること、参加方法や活動内容について工夫がなされていることが審査のポイントとなりました。寄付者については、寄付受領のお知らせや活動報告などがきちんとなされ、信頼を築くための努力がなされているかがポイントとなりました。そして、ボランティアと寄付者と団体が、共有して取り組む社会課題の理解を促す努力も問われました。

 第4回エクセレントNPO大賞では、新たに第二次審査としてクラウド・ファンディングを導入しました。ここでは市民からの共感を得るための発信の工夫など、「市民性」にかかわる成果をみることを主な目的としました。ページ閲覧数、目標達成率、コメントなどのデータを参照して、審査をしました。

2. 審査結果

(1)ノミネート団体

「特定非営利活動法人子育て支援コミュニティプチママン」

 福島のこどもたちと遊ぶボランティアを、将来の保育士や幼稚園教諭を希望する学生に焦点をあてながら幅広く募集しています。また、こうしたボランティアの都合や予定に応じられるよう、また、多様な利用者の課題に合わせたプログラムの工夫がなされています。長期失業者をボランティアとして受け入れるアイディアは時代の要請にもかなうものですが、その後の成果や、どのような工夫や配慮が必要なのかをより具体的に示すとなおよかったです。また、自己分析でも、HPやリーフレットに関する課題を挙げていますが、その対応策を示すと次の改善につながると思います。

「特定非営利活動法人アスクネット」

 ボランティアの気づきなど成長の機会を、活動の中に意図的・計画的に取り入れようとしています。これは、ボランティア参加者の成長を後押しし、市民性を育んでもらうために大事な視点で、その成果が、ボランティアの継続性やより積極的な参加の状況として表れていると思いました。ただ、どのような気づきや変化があったか、それをどのように把握しているのかを記していただければ、より鮮明に説得力をもって成長の様子が伝わると思います。またそうした記録を積み重ねることで、活動成果をより具体に把握でき、さらなる改善や新たな発見につなげられると思います。

「特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部」

 ボランティアを「往環者(おうかんしゃ)」と名付け、地域づくりのメンバーとして位置づけてともに活動を進めようとしています。そして、ボランティアの方々の間で、構成メンバーとしての自覚が生まれているようです。こうした力強い関係を築くためには、ボランティアへの説明、フィードバック、気遣いなどきめ細やかなコミュニケーションが必要であったと思われますし、その成果が現れてきているのでしょう。さらに具体的に、ボランティアとのコミュニケーションで心がけていることやその方法などの工夫について記して頂ければ、その魅力がより伝わってきたと思います。また、その内容は、ボランティアの育成目指す他の団体にも貴重な参考情報を提供してくれるはずです。

「特定非営利活動法人ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY」

 活動への積極参加を促すため、会員にはソーシャルアクションへの参加を、寄付者には活動現場での見学を勧め、実現しています。一般的には、寄付者へは報告で終わってしまうことが多い中、一歩進めて、先ず現場をみて課題を知ってもらえるような工夫を凝らしています。また、ボランティア経験者には、外国人支援を行う公的機関に同行してもらい、作業を通じて机上では分からないリアリティを体験できるよう考えられています。このように、ボランティアにもキャリアアップが必要で、そのための精神面・技術面での成長を促す試みを、団体の責務ととらえていることを高く評価したいと思います。できれば、会員、寄付者、ボランティアとどのような議論の場をもっているのか、どのような反応や変化があったのかその成長の様子がわかるような記載があればよかったでしょう。そうしたデータを蓄積することで、団体自身が述べている「机上で業務をしているだけではわからないこと」を、より鮮明に説明できるようになると思います。

「さぽうと21」

 「さぽうと21」は、1979年にインドシナ難民を助けることを目的に創設された団体の国内事業を引き継ぐかたちで1992年に創設されました。前進の活動も含めると37年の歴史があります。設立以来、この活動の殆どがボランティアによって支えられてきました。そして、現在も100名がボランティア登録しており、ボランティア運営についての実績、評判や社会的信頼がしっかりと定着していることが窺えます。ボランティアが継続的に参加し、活動を支える戦力として機能するためには、ボランティアを支える仕組みが必要となります。「さぽうと21」では、ボランティアのコーディネートを担当する専門スタッフを2名配置し、ボランティアの応募、受付、面談、交流会、その後のケアまで、個別に丁寧に対応し、継続率を維持・向上させるように努力しています。会員・寄付者・ボランティアへのきめ細かな対応の実践内容は他団体にも共有しうるものが豊富に蓄積されていると思われます。

「特定非営利活動法人ACE」

 第二次審査のクラウド・ファンディングにおいては、どの団体も大変熱心に活動を伝え、寄付の呼びかけをされていました。その成果は寄付総額に顕著に表れており、総額1,250万円を超える金額になりました。

 中でもACEは281人の方々から546万3千円を集めました。ページビューも17,632件となり、寄せられた多くのコメントからも、知人や友人の輪から広く一般の方々の声へと広がっていることがわかりました。児童労働に関心のある人々が、寄付の呼びかけを通じてアクションを起こしたことも窺えます。ACEはボランティアや寄付者に対し、メディア、アニメーション、講演会、チョコレート販売など様々な方法を編み出して、児童労働問題を知ってもらう努力をしており、その広報の効果を見出だすことができます。但し、児童労働の問題の解決には、道のりは遠く、こうした関心の高まりをどう解決に結びつけてゆくのかは、本団体のみならず、この問題に着手する団体に共通の課題でもあるでしょう。

(2)市民賞

 今回は、市民賞を2団体選ばせていただくことになりました。

 「さぽうと21」「特定非営利活動法人ACE」です。
 今年は1団体に絞ることが難しく2団体としました。その背景には、新たな試みであるクラウド・ファンディングの成果を検討したことがあります。エクセレントNPO基準を満たしていることを前提に、クラウド・ファンディングという手法を通して市民の共感を得るという視点を加え、慎重に議論させていただいた結果です。

3. 今後に向けての期待

 応募された団体は、いずれも寄付者やボランティアを単なる資金や役務の提供者としてではなく、団体の参加者や構成員として捉え、丁寧にフィードバックしている様子が伝わってきました。しかし、ボランティアが組織のメンバーとして有効に活躍するためには、精神的な励ましと同時に技術面での成長の後押しや個々のボランティアに効果的に働いてもらうためのマネジメントが必要になります。逞しく優しい市民性を社会で発揮していくためにも、この点は更なる課題ですが、今回ノミネートされた団体には参考になる例が多くありました。

 また、今回は、初の試みでクラウド・ファンディングを審査に取り入れました。人々の共感が寄付というアクションにつなげるためには、相当な努力や働きかけが必要であったと思います。その内容を解明するのも「エクセレントNPO」運営側の課題だと思っております。

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