課題解決力賞 講評

2016年12月15日

1. 審査の視点

 課題解決力賞は、基本的に課題解決力について、自己評価とそれが適切になされているかを基準に審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度把握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、アウトカムを意識した活動をしているかなどの視点から審査いたしました。このほかに、市民性や組織力の評点が極端に低くないかどうかも加味しました。

2. 審査結果

(1)ノミネート団体

「SOS子どもの村JAPAN」

 「SOS子どもの村JAPAN」は、子どもの権利尊重を基本として、親の養育を受けられない子どもたちを支援している団体です。虐待など家庭に恵まれない子どもたちの状況に留まらず、その対応策としての里親制度が十分に普及、機能していない日本の現状を明確に認識していることが応募書類の自己評価の内容から伝わってきました。そして、子どもの成長と里親制度の普及という2つの大きな目的について、具体的なアウトカム目標を設け、取り組んでいるところを高く評価いたしました。現状把握も明確であることから、このアウトカム目標に基づき、進捗や成果の測定を行う環境を作ることができるでしょうし、それを実現していただきたいです。ただし、SOSが目指す改革の大きさに鑑みれば、虐待や貧困など我が国における子供の問題に関するデータ、里親制度の普及、法的整備など、変えるべき現状、制度を記すとなおよかったと思われます。

「「飛んでけ車いす」の会」

 「「飛んでけ車いす」の会」は、日本で再利用されない車いすを整備して、途上国に行く旅行者が手荷物として運搬し、現地の個人や団体に届ける活動をしています。車いすを送るだけではなく、それを受け取った人々の生活の変化を把握しようとしているという点で、アウトカムを目的として成果を把握しようとしています。車いすを必要とする障害者の個人のニーズのみならず、当該障害者の暮らす地域やコミュニティのニーズまで把握しようとしていれば、なお良かったと思われます。

「フードバンク山梨」

「フードバンク山梨」は、消費期限内でまだ安全に食べられるが販売できない食品の寄贈を受け、それを生活困窮者や施設・団体に無償で配布している団体です。フードバンク政策や国レベルでの法制化を視野に入れた政策提言活動も行っており、貧困問題の解決に寄与しようとしている点が評価できます。同時に、既に団体として認識している課題ではありますが、人々の食品に関する習慣や行動の変容を促すべく、食品ロスの問題にもより積極的に取り組めれば、さらに大きな成果につながると思いました。

「にじいろクレヨン」

 「にじいろクレヨン」は、東日本大震災の被災地において子どもの居場所作り事業を実施している団体です。日々の活動から、子どもたちの声や地域の変化を細かく汲み取り、行政や他団体との協議や内外の専門家も活用しながら被災地の子どもたちを取り巻く環境の改善に取り組まれている点は評価できます。一方で、子どもたちの健全育成、新たな子ども支援団体の育成をアウトカム目標として挙げていますが、対象となる子どもがどのような状態になるとめざすべき健全な状態といえるのか、より具体的な情報や説明があれば、なお良かったと思われます。

「介護保険市民オンブズマン機構大阪」

 「介護保険市民オンブズマン機構大阪」は、特別養護老人ホームなど介護施設で暮らす人々の声を聴き取り、その要望を代弁して施設に伝える「市民オンブズマン活動」を展開しています。市民オンブズマンによる評価を通じて、閉鎖的になりがちな介護施設に風穴を開けようとしている点や、改善点のみならず優れた点を指摘し、施設側のモチベーションを上げようとしている点などが評価できます。1000回以上に及ぶ介護施設訪問調査を行っていますが、そのデータや利用者のアンケートデータが蓄積されていないでしょうか。これを用いて、進捗や効果、あるいは改善が必要な点やその進展を数字やグラフなどでわかりやすく伝える工夫をすることで、より多くの理解者を得ることができるように思います。また、それは、関西以外の団体にも貴重な情報を提供してくれることでしょう。

(2)課題解決力賞

「SOS子どもの村JAPAN」

 以上ノミネート団体の中から慎重に議論を重ねた結果、課題解決力賞は「SOS子どもの村JAPAN」に決まりました。課題認識の明確さ、目標設定の具体性など、課題解決の基本となる点をしっかりと押さえた上で、実績を積まれている点が高く評価されました。


3. 今後に向けての期待

 エクセレントNPO大賞4回目を迎え、課題解決賞にノミネートされた団体は、いずれも、アウトカム、すなわち事業の対象となる地域や人々への効果や影響を目指した活動をしており、課題解決を意識する団体が増加していることが感じられました。一方、目標を設定し、それを数値化された適切な指標で管理するという点では課題が残るようです。確かに、貧困や福祉施設が抱える課題など、構造的な課題に対し、一つの団体で解決策を提示することは難しいかもしれません。しかし、アウトカムをベースにした中長期の目標を立て、そこに至る段階での目指すべき変化や効果をより具体的に定義した上で、それぞれの達成度合いをより具体的に整理すれば、より有効な計画を立案できると思われますので、今後に期待したいと思います。

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