民主主義を守るため、「アジア言論人会議」のような国際連携が重要 ~「第3回アジア言論人会議」非公開会議報告記事(9月4日)~

2017年9月04日

170904_02.jpg 9月4日、「民主主義の試練をどう乗り越えるか」と題して、「第3回アジア言論人会議」が東京都内の国際文化会館で開催されました。午後からの公開フォーラムに先立ち、午前中には非公開の円卓会議が行われ、「アジアの民主主義の課題と展望―世論調査から見る民主主義の評価―」をテーマに議論が交わされました。

 冒頭、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、言論NPO、インド・オブザーバー研究財団(ORF)、インドネシア・国際戦略研究所(CSIS)、マレーシア・ムルデカセンター、韓国・東アジア研究院(EAI)の5団体が協力し、5カ国合計約7,000人から回答を得た民主主義に関する世論調査結果のポイントについて、「今回の調査結果では、欧米で動揺している民主主義について、アジアの民主主義国でも民主主義の在り方が問われている局面にあることが、明らかになった」とした上で、以下のように説明しました。


【世論調査結果のポイント】

欧米のみならず、アジアの民主主義国でも民主主義の在り方が問われる局面に

・「民主主義はどんな他の政治形態よりは好ましい」と回答する声が各国で4割超と最も多くなるなど、依然、民主主義に対する信頼は根強いが、「一部、非民主主義的な形態でも構わない」、「どんな政治形態でも構わない」という回答も増えている。
・自国の民主主義について、「機能していない」という声もそれぞれ無視できない程度、存在する(日本は約4割、インドは約3割、マレーシアでは半数以上)ほか、政治のリーダーシップに関する設問でも「多少非民主的でも強いリーダーシップが重要」とする回答が増加し、特にインドでは4割近くになっている。
・「自国の民主主義は機能していない」理由について、最も多い理由は「政治は選挙に勝つことだけが自己目的となり課題解決に取り組んでいない」や「政治、行政の汚職」を指摘する国民が多い。
・民主主義のシステムを支える様々な組織や機関への信頼についても、選挙で選出される政治家で運営される「国会・議会」や「政党」、また政治を監視すべき「メディア」への信頼が低く、「軍」や「警察」への信頼が高い。
・「政党に課題解決を期待できるか」との問いでも、日本の約6割、韓国の約5割、インド国民の約4割が「期待できない」と回答している。特に、日本については、自国の将来を悲観的に見る声が半数近くになっているが、こうした課題解決を政党に期待できる、という回答は2割にすぎない。

⇒詳細な世論調査結果はこちらから


昨年、民主主義の姿として各国で一致した4つの点

AR3_0090.jpg こうしたポイントを踏まえた上で工藤は、昨年行われた「第1回アジア言論人会議」では、民主主義の発展段階や国情は異なっていても合意することのできる民主主義の姿として、「国民が自由に意見を言い、選挙制度をはじめとする諸制度の中で政治参加する仕組みがあるか」、「制度を通じて、諸課題の解決に向けたサイクルが機能しているか」、「こうした仕組みが国民から信頼されているか(汚職や選挙制度の問題)」、「市民が、主権者、主体者として政治に関わっているか」の4点で一致していたことを改めて振り返りつつ、「今回の調査結果を、これらの4つのポイントから見て皆さんはどのように考えるか」と問いかけ、ディスカッションがスタートしました。


民主主義の揺らぎに対して、説得力のある言葉で説明すべき

 まず、「民主主義の後退」については、多くのパネリストから指摘がなされました。そこでは、欧米の民主主義大国が政治、経済、社会など様々な面で混乱していること、さらにそれらの後を追って民主化した新興民主主義国にも混乱が見られること、それとは対照的に中国をはじめとする非民主主義国家では好調な経済など高いパフォーマンスを見せていることなどの要因から、「民主主義が魅力的に見えない、と多くの人々が感じるようになってきている」との指摘が相次ぎました。

 他にも、ポピュリズムの問題や、民主主義の恩恵が人々に行き渡っていないこと、自らとは異なる集団に対する「不寛容」の姿勢が広がっているなど、民主主義の揺らぎが見られる中、民主主義を守るために必要なこととしては、「それでも民主主義こそが国民の福祉や生活を向上させるための最も良い体制であることを、説得力のある言葉で説明すべきだ」との声が寄せられました。

AR3_0283.jpg また、非民主主義国家の経済が好調であることは、民主主義に問題があることの証左ではなく、民主主義と自由主義経済の問題を切り離して考えるべきとの意見も相次ぎました。そこでは、「あくまでも政府による分配の問題だ」といった意見や、「インドネシアもインドも、これまで民主主義体制の下で高い経済成長をしてきた。逆に、高い成長を誇ってきた中国も今は様々な問題が顕在化してきている」などの指摘が見られました。


民主主義を支える諸システムとそれに対する国民の評価をどう読み解くか

 続いて、今回の調査結果で顕著だった傾向として、民主主義のシステムを支える様々な組織や機関の中で、選挙で選出される政治家で運営される「国会・議会」や「政党」、また政治を監視すべき「メディア」への信頼が低い一方で、「軍」や「警察」が高かったことに話題が及ぶと、今回調査を行った5カ国では、軍が政治に関与しないからこそ支持されているといった見方や、あくまでも安全保障や治安の維持といった面に対する信頼であり、民主主義の担い手としての信頼ではないといった見方が寄せられました。

 また、政党に対する信頼が各国で低い点については、課題解決能力の低さだけでなく、「東南アジアでは政党に対して公的な投資をしてこなかった」ことも一因とした上で、いかにして政党を育てるかという点からの提言がなされました。

 さらに、メディアに関する問題としては、SNSを始めとする新しいソーシャルメディアに対する関心が集まりました。そこでは、人々の認識形成において、既存の主要メディアよりもソーシャルメディアの影響力が大きくなり、そこから発信されるフェイクニュースの悪影響も飛躍的に増大していることや、宗教団体をはじめとする権威主義的な勢力が、自らの勢力を拡大するためにソーシャルメディアを積極活用し、非民主的な価値を広げている現状など、各国の事例が紹介されました。

AR3_0184.jpg 宗教団体に関連して、東南アジアの複数のパネリストからは、政府が人々の不満を解消するための行動を取らなかった結果、急進的な宗教団体が国民世論を取り込み、大規模デモを動員するようになってきているとの解説もなされました。


民主主義を守るためには、自国のみならず国際連携が重要であり、
「アジア言論人会議」のような動きが重要になる

 そして最後は、様々な問題を抱える中、民主主義を守るために今、求められることは何かについて議論が交わされました。

 そこではまず、「人々は民主主義に対して不安を持ちながらも、その根幹を変えることは決して望んでいない」ものの、「民主主義を支えるはずの市民やメディアは分断され、民主主義の根幹を守れる状況にない」といった問題提起がなされました。

 これについては、ソーシャルメディアに対して情報源を明確にすることを義務付けるなど、フェイクニュースを生産させないようにするためのチェック機能向上などの具体的な提言が出されるとともに、それぞれの国の市民社会の中だけで民主主義を守ろうとするのではなく、そうした動きを国際的に連携させ、それを政府レベルの連携にまで引き上げていくための動きとして、この「アジア言論人会議」のような動きを充実させていくべきとの意見も相次ぎました。

AR3_0372.jpg 意見交換を経て最後に工藤は、「非公開会議で議論された内容を午後の公開フォーラムでさらに掘り下げて議論したい」と、午後からのフォーラムへの意気込みを語り、非公開会議を締めくくりました。

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