日本の国民は、自国や世界の民主主義をどう考えているのか
~日本の民主主義に関する 世論調査/有識者調査~

2018年11月21日

1.日本の将来をどのように見ているか

 まず、日本の近い将来を予測してもらったところ、「今と変わらない」(34.2%)との回答が最多となるが、「今よりも悪くなる」との回答も32.8%にのぼり、両方の回答が3割を超えて拮抗している。「今よりもよくなる」は10.3%と1割にすぎない。

 一方、有識者では、「今よりも悪くなる」との回答が45.3%で最多となり、「今と変わらない」(34.9%)で続いている。「今よりよくなる」は14.0%にとどまっている。

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2.不安の要因

 次に、11の課題を提示した上で、どれに対して不安を感じているかを回答してもらった。

その結果、「不安(「とても」と「ある程度」の合計、以後同様)」という回答が最も多かったのは、「年金・医療などの社会保障」の91.6%だった。これに「急速な高齢化と人口減少」の89.5%が並びかけている。以下、「犯罪」(81%)、「財政破綻」(73.1%)、「政治のあり方」(72.9%)、「経済危機」(72.4%)、「経済的不平等」(71.1%)までが7割を超えている。「不安」という回答が最も少なかったのは、「メディア報道の質」だったが、それでも54%と半数を超えている。

 有識者の中では、「急速な高齢化と人口減少」との回答が91.9%で最多となったものの、「地方の将来」との回答が91.3%と拮抗している。これに「年金・医療などの社会保険」(88.9%)、「政治のあり方」(88.3%)が続いている。

 一方、世論調査で「不安」が最も少なかった「メディア報道の質」との回答は、有識者では84.3%となっており、異なる傾向が出ている。

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3.自国の民主主義は機能しているか

 日本の民主主義が「機能している(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」と考えている日本国民は、59.9%と6割近い。今年の5月から6月に行われた調査では、「機能している」は43.2%だったが、約3カ月で17ポイント増加したことになる。

 有識者調査では、日本の民主主義が機能しているのか、その満足度について尋ねたところ、「満足していない(「あまり」「全く」の合計)」との回答が54.7%と5割を超えた一方、「満足している(「ある程度」を含む)」との回答は42.5%にとどまった。

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4.民主主義体制を支えるどの機関を信頼しているのか

 民主主義体制下においては、それを支える役割を果たす様々な機関や組織が存在する。そこで、その中でどのような機関、組織を信頼しているのかを質問した。

 その結果、日本国民が最も「信頼している(「とても」と「ある程度」の合計、以後同様)」機関は、「自衛隊」であり、83.9%の人が信頼を寄せている。5~6月調査の72.8%からも11ポイント増加している。これに「警察」(73.2%、5~6月:67.1%)、「司法・裁判所」(71.1%、5~6月:65.7%)が続く構図はこれまでの調査と同様である。

 逆に、日本国民が最も「信頼していない(「全く」と「あまり」の合計)」機関は、「宗教団体・組織」(70.6%、5~6月:66.9%)である。これに「政党」(66.3%、5~6月:71.2%)、「国会」(61.9%、5~6月:67.4%)、「政府」(56.8%、5~6月:61.2%)、「メディア」(53.3%、5~6月:55.5%)、「首相」(52.5%、5~6月:57.4%)までが5割を超えている。

 有識者調査も世論調査と同様に、「信頼している」との回答が最も高いのは、「自衛隊」(73.2%)で、「警察」(69.2%)、「司法・裁判所」(68.0%)が続いている。
逆に、最も「信頼していない」機関は「宗教団体・組織」(77.3%)で、「政党」(71.5%)、「国会」(69.2%)、「労働組合」(65.7%)、「メディア」(62.8%)までが6割を超えている。

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5.政党に課題解決を期待できるか

 9月調査ではこれに関する設問を盛り込んでいないため、5~6月調査の結果を再掲する。日本が直面している課題の解決を、政党に「期待できない(「どちらかといえば」を含む、以後同様)」という日本人は59%(昨年58.7%)と6割近く存在している。有識者調査でも「期待できない」(65.1%)との回答が6割を超えた。

 「期待できる(「どちらかといえば」を含む)」は18.1%にすぎず、しかも昨年の22.5%から減少している。一方、有識者の3割を超える人が「期待できる」(32.0%)と回答しており、世論調査よりも割合としては高い。

 それでは、なぜ「期待できない」のか、その理由を尋ねたところ、「選挙に勝つことが自己目的化し、政治家が課題解決に真剣に向かい合っていない」(38%)と、「政党が政策を軸にして集まっておらず、選挙に勝つための野合に過ぎない」(37.1%)の2つが並んでおり、当選すること自体を目的化している政党と政治家の姿勢に対して厳しい目が向けられている。また、「政党の選挙公約が形骸化し、国民に向かい合う政治が実現していない」も30.8%と3割を超えている。

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6.民主主義を発展させるために重要視すべき価値

 日本の民主主義を発展させるために最も重要視すべき価値を3つ選択してもらったところ、最も回答が多かったのは、「基本的人権の保障」(34.9%)である。これに「公正・公平な社会・政治制度」(33.4%)、「経済発展、経済的豊かさ」(30.3%)、「社会、秩序の安定」(29.9%)、「経済的平等」(27.2%)が3割前後で続いている。

 なお昨年調査では、「民主主義を構成する要素で何が最も重要か」という設問において、単数回答で選択してもらったところ、「公正・公平な社会・政治制度」(19.8%)、「基本的人権の保障」(17.1%)の順であった。

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7.民主主義を機能させるために、改革が必要な部分

 次に、日本の民主主義をより機能させるために、どの部分の改革や立て直しが必要となるのかを尋ねた。その結果、「議会/国会」が63.3%で最も多く、これが突出している。次いで、「行政」(41.3%)、「政党」(32%)、の順となっている。

 これに対して、有識者の最も多くの人が「議会/国会」(59.9%)の改革や立て直しが必要だと回答しているのは世論調査と同じだが、これに続くのが「政党」(54.7%)、「メディア」(51.7%)で5割を越え、「選挙制度」(42.4%)、「市民社会」(40.7%)が4割を超えるなど、世論調査に比べて、分散傾向にある。

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8.自由・平等か、国や社会の安定か


 
 民主主義の価値は、個人の自由と政治的平等が保障されることである。一方で、自由や政治的平等よりも国や社会の安定を重視する声もある。そこで、今回の調査ではどちらを重視するかを尋ねた。

 その結果、「国や社会の安定」が42%で、「個人の自由と政治的平等」(31.4%)を上回っている。

 一方、有識者では「国や社会の安定」は29.7%にとどまり、「個人の自由と政治的平等」(63.4%)との回答が6割を超え、世論調査とは異なる傾向を見せている。

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9.世界の民主主義の状況をどう見ているか


 
 現在の世界の民主主義の状況をどのように見ているか尋ねたところ、「民主主義における問題は頻出しているが民主主義の価値自体が否定されたわけではない」との見方が30.5%(5~6月:33.2%)で最も多い。これと「一部の国・地域を除いて、世界の民主主義は盤石である」の7.9%(5~6月:10.1%)を合計すると4割近くが楽観的に見ていることになる。有識者調査でも最多の回答は「民主主義における問題は頻出しているが民主主義の価値自体が否定されたわけではない」となったが、その割合は51.2%と半数を超えた。

 これに対して悲観的な見方は、「ポピュリズムの傾向や権威主義が台頭し、民主主義は明らかに後退局面を迎えている」(7.2%、5~6月:6%)、「民主主義は多くの国で十分に機能しておらず、民主主義に懐疑的な見方が高まっている」(15.1%、5~6月:10.2%)の2つを合計しても22.3%と2割程度である。ただ、その割合は3カ月前から増加している。さらに、「わからない」という人も39.2%(5~6月:39.8%)存在している。

 一方、有識者では、30.8%が「ポピュリズムの傾向や権威主義が台頭し、民主主義は明らかに後退局面を迎えている」と回答し、「民主主義は多くの国で十分に機能しておらず、民主主義に懐疑的な見方が高まっている」(14.0%)を加えると、悲観的な意見も4割を超えている。

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10.民主主義の今後

 民主主義の今後について予測してもらったところ、「わからない」と判断しかねている人が39.2%(5~6月:34.7%)おり、これが最も多い。

 ただ、「民主主義は様々な問題に直面しているが、人権や政治的な平等など民主主義を支える中心的な価値自体を否定する大きな流れにはならない」も39%(5~6月:35.9%)と4割近く、これと「民主主義に代わる仕組みはなく、民主主義は今後も世界の中心的な制度として機能する」という見方の13.8%(5~6月:17.7%)を合計すると、民主主義という政治システムが今後も存在し続けると考えている人は52.8%と半数を超える。

 これに対し、「ポピュリズムが一般化し、民主主義は信頼を失い、後退していく」(3.1%、5~6月:3.1%)、「民主主義はすでに魅力的な仕組みではなく、権威主義の台頭など民主主義とは異なる統治制度が増える」(4%、5~6月:2.6%)という民主主義の衰退・滅亡を予測する見方はそれぞれ1割に満たない。

 有識者では、「民主主義は様々な問題に直面しているが、人権や政治的な平等など民主主義を支える中心的な価値自体を否定する大きな流れにはならない」(55.8%)との回答が半数を越え、「民主主義に代わる仕組みはなく、民主主義は今後も世界の中心的な制度として機能する」(15.1%)が続いている。

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11.民主主義は好ましい政治形態なのか

 民主主義は好ましい政治形態といえるのか、その評価を尋ねたところ、「民主主義は望ましい政治形態ではない」という回答は3.7%にすぎなかった。

 ただ、「国民が満足する統治のあり方こそが重要であり、民主主義かどうかはどうでもいい」が32.2%で、「民主主義はほかのどんな政治形態より好ましい」の32%を上回っている。さらに、「わからない」の31.8%も合わせると、非民主的体制を容認したり、民主主義に対して確信を持つことができていない人の割合は6割を超えることになる。

 有識者調査では、「民主主義はほかのどんな政治形態より好ましい」との回答が7割を超え突出しており、「民主主義は望ましい政治形態ではない」との回答は0.6%にすぎない。

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12.強い政治リーダーは必要か

 現在、国際秩序の不安定化の中で、強い政治リーダーを国民が求める傾向にある。そこで、日本の政治指導者のリーダーシップのあり方について質問した。

 その結果、「あくまでも民主的なプロセスを重視し、その中でリーダーシップを発揮すべき」という回答が46%で最も多いが、昨年の56.1%からは10ポイント減少している。逆に、昨年から10ポイント増加したのは「わからない」(29.2%、昨年:19.6%)で、政治リーダーのあり方を判断できていない日本国民が増加している。

 もっとも、「自国の経済や社会がより発展するのであれば、多少非民主的でも強いリーダーシップを持っても構わない」という回答は20.4%であり、昨年(21%)から変化は見られない。

 一方、有識者の7割を超える人が「あくまでも民主的なプロセスを重視し、その中でリーダーシップを発揮すべき」(72.1%)との回答が突出しており、「自国の経済や社会がより発展するのであれば、多少非民主的でも強いリーダーシップを持っても構わない」(15.7%)、「強いリーダーシップこそが重要であり、民主的であるかどうかは重要ではない」(1.2%)は合わせても2割に満たない。

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13.アジアの民主主義国家はどこか

 最後に、アジアの中で民主主義国家だと思う国を選択してもらった。

 その結果、最も多いのは自国「日本」の64.3%で、これが突出している。ただ、これに次ぐのは、事実上一党独裁体制を敷き、建国の指導者一族が支配し、報道・言論の自由などが広範に制限されている「シンガポール」の21.4%であり、「韓国」(19.6%)よりも多かった。
 
 有識者も最多となったのは「日本」で82.6%で8割を超えた。これに続く形で、「韓国」(48.3%)、「マレーシア」(47.7%)、「インド」(46.5%)が4割を越え、「シンガポール」(37.2%)、「フィリピン」(36.6%)、「インドネシア」(34.3%)が3割を超えて続いている。

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調査の概要

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