政治改革の目的の是非も含めた総括、そして、民主主義の全面的な点検を始めるタイミングに ~設立18周年記念フォーラム開催に当たって~

2019年11月19日

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DSC03938.jpg 言論NPOの工藤です。
 今日は、私たちの議論に舞台に来ていただき、ありがとうございます。
 考えてみれば、私たちはこの数年、設立記念日のフォーラムの度に、民主主義を議論してきました。


民主主義の危機に立ち向かう新しい一歩を、東京で始めたいという思い

 「世界の民主主義は困難に直面し、壊れ始めているが、日本の状況もそれとは無関係ではない」。これが私たちの一貫した主張でした。今回は少し、私たちの狙いは異なります。

 既に議論の段階は終わった、ということです。

 私たちはすでに多くの研究者と、日本の民主主義を構成する仕組みの全面的な診断作業に取り掛かっています。これらの作業とオープンな議論を通じて、日本の民主主義の修復と、さらなるバージョンアップに向けた改革案を社会に提案したい、と考えています。

 私たちのこの民主主義の修復の強い思いに応え、元NATO議長でデンマーク首相をも務めたラスムセンさんら、世界の民主主義を守るために取り組んでいる多くの有識者が、この記念日に駆けつけてきてくれました。多くのゲストに拍手を頂ければと思います。


 私たちはこの5年、世界やアジアのシンクタンクと連携して、民主主義の調査や議論を行ってきました。この日本で、民主主主義の議論を本格的に行っているのは、残念ながらそう多くはありません。こうした問題に私たちが挑んでいるのは、日本の民主主義を強くすることが、私たち言論NPOの設立当時からのミッションだということだけではありません。

 日本の世界的な役割や使命に応えるためです。世界は、米中の経済対立やデジタルテクノロジーの争いで分断の危険性が高まっています。その中で、民主主義自体が困難に直面しています。

 ルールに基づいた自由秩序をアップデートし、多国間主義と民主主義を守り、発展させる。

 日本はそのために強いリーダーシップを発揮する局面なのです。

 2年前、私たち言論NPOは、G7加盟国にインド、ブラジル、インドネシアなどの世界を代表する10カ国の民主主義の国のシンクタンクと共同で、「東京会議」を立ち上げました。

 自由と民主主義の危機に、世界が力を合わせるべきだからです。

 今日の特別フォーラムが、来年3月に行われるその東京会議のプレ企画として行うのは、その前に民主主主義に危機に立ち向かう、新しい一歩を、この東京で踏み出そうと、私たちは考えているからです。

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「政治からの市民の退出、世論の分断」

世論調査結果から分かったのは、世界と同じ問題に直面している日本の姿

 1990年代に、世界ではイタリアと同じタイミングで、日本も政治改革に取り組みました。派閥主導ではなく、政党本位、政策本位の政治、そして政権交代が可能な競争型民主主義の実現が、その目的でした。

 その総括は、しっかりと行う必要があります。ただ、私たちが直視しなければならないことは、今の日本の民主主義はこの時とは全く異なる、新しい危機の局面にいるということです。94年の政治改革で、首相への集権化は実現しましたが、その弊害が議論される状況になっています。

 政権交代が可能な、競争型の民主主義は、全く展望が見えません。しかし、私たちが、今、真剣に考えるべきことは、代表制民主主義の多くの仕組みが、国民の信頼を失い始めている、ということです。

 先日、私たちが発表した今年で二回目となる世論踏査では、国会や政党を信頼する人は、2割程度しかなく、日本の将来課題の解決を、7割が政治や政党に期待できない、と回答し、5割近い人が、政治家を自分たちの代表とは思っていない、と回答しています。

 日本の政治に大きな変動はまだ見られませんが、政治からの市民の退出、そして世論の分断。まさに、世界の民主主義国が直面している、民主主義の困難は、この日本とも無関係ではなかったのです。特に、若い層の政治不信は、極めて高いものです。

 私たちは、かつての政治改革の目的が正しかったのかも含めて、民主主義の全面的な点検やその総括を始めるタイミングにいる、と考えます。

 今日行う、私たちの議論は、全てこうした強い危機感と使命感に基づいたものです。

 今日の議論のテーマは、「民主主義の再建に問われた私たちの責任」です。

 それでは、議論を始めたい、と思います。ご清聴、ありがとうございました。