米国大統領選の今後を読む
~米国外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏に聞く~

2020年3月05日

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HIR_1575.jpgジェームズ・M・リンゼイ/James M. LINDSAY
(外交問題評議会シニアバイスプレジデント(米国))

 アメリカは、大統領選挙の真っ最中にあります。スーパーチューズデーでは14州の代議員が決まりましたが、4月には90%の代議員の配分が決まってきます。現実的には、候補者は、バイデン、サンダースの2人に絞られ、バイデンが優位に立ったように見えます。


民主党候補者がトランプ大統領に勝つ可能性はある

 民主党の指名候補は11月にトランプに勝つことができるのか。その答えはYESです。理由は二つあります。

 一つは、アメリカ経済は堅調ではあるけれど、10年以上成長が続いているので、トランプ大統領の政策だけによって堅調なわけでもありません。ところが、経済は良いものの、それでも大統領の支持率は50%を下回っています。通常、経済が成長していて失業率が史上最低水準である時には、だいたい、支持率は簡単に50%を超えているはずですが、アメリカでは今、そうではない。

 なぜかといえば、大統領の振る舞い、あるいは党派で分かれているといったことが現状で、支持率が高くない。ということは民主党候補に機会があります。

 トランプ大統領は2016年、一般票数では勝っていないのです。

 世論調査では、それぞれの民主党候補とトランプ大統領の支持を1対1で比べていますが、それは信じない方がいい。アメリカのケーブルニュースなどではそういう議論をしていますが、それは意味がありません。政治学の問題としては、大統領選は一つの国レベルの選挙ではなく、50の州ごとのバラバラの選挙であることがポイントです。

 40の州についてはもう決まっているのです。一方で注目するべきところはミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン、アリゾナ、フロリダ、あと1つ、2つは言えるかもしれません。ポイントは、そうした地域は民主党、共和党がギリギリで競っています。僅差ですから、ほんの少しで共和党に行くか、民主党に行くかによって結果が変わる。

 大事なポイントはどれだけトランプ政権側の支持者がどれだけ投票に来てくれるか。後は、民主党の候補者が、どれだけ有権者を引っ張り出して投票に向かわせることになるのか、それで決まるのです。


仮に民主党が勝ったとしても、アメリカの外交が劇的に変わることはない

 皆さんの関心は、11月の大統領選後、米国はどうなるかです。

 アメリカの選挙は、アメリカの外交にとても影響を及ぼします。ドナルド・トランプの外交は、クリントン元国務長官の外交とは違う。ジョージ・W・ブッシュの外交は、アル・ゴアが仮に就任した場合の外交とはとても違った。一方で、アメリカの外交は、選挙の結果にあまり影響を及ぼさない。外交で投票する有権者はいません。今回の選挙もそうだと思います。有権者が気にかけるのは外交ではなく、どちらかといえば国民投票的なものです。

 そこでは、トランプに対する評価や、アメリカ経済が元気かどうか、あるいはアメリカ経済の方向の方が重要でしょう。

 もし民主党が勝てば、外交が大きく変わるのではないかと言われていますが、そう予測するのも不思議ではありません。私の懸念は、民主党政権になると、魔法にかかったように、いきなり全てを修復してくれるかもしれない、との期待があることです。しかし、先日の「東京会議」で議論をしましたが、民主党が勝ったとしても、どれだけ速く、もしくはどれだけ大きく米国の外交が変わるかはわかりません。

 特に中国について、民主党はトランプ政権や共和党と同じくらい、中国の行動には批判的です。民主党側の討論は、中国の説明責任を追及するという論調であるよりは、「トランプ政権は、なぜもっとアメリカの友好国・同盟国と手を結んで中国を追及しないのか」という議論です。これは、日本などでも、よく聞かれる意見です。だから、もし民主党政権になったとすれば、これは結局、東京、ベルリン、パリ、ロンドン、オタワなどで同盟国・友好国に声をかけ、「一緒にやろうと」と。それが中国へのプレッシャーになる可能性はあります。
 
 さらに、「米中対立」という言い方がありますが、トランプ政権の行動は、それと少し違うように見えるかもしれません。トランプ政権は、基本的には人権について中国政府を批判していません。とりわけ香港について批判していない。新疆ウイグルでも、トランプ政権は批判していない。ただ、もし民主党になったら、それは大きく変わるでしょう。これももう一つ、米中間でストレスが上乗せされる要因です。

 ただ、仮に政権交代があった場合、民主党政権はほぼ間違いなく、初期の段階は内政にフォーカスを当てます。選挙キャンペーンでもそれを主張しているわけですから、勝ったらまず内政です。つまり、最初の100日は、外交は優先ではない。例えば国務長官を各国に送って挨拶することが大事、というくらいのことです。そもそも、米国のモデルでいえば、5月、6月、7月と時が経たないと政権の人が埋まりません。

 次に民主党は、トランプ大統領の外交に対するアプローチの現実に直面します。否が応でも、イランの核合意、WTO改革、対中国政策に来年の一月には対応することになる。民主党の大統領になったからと言って、JCPOA(イラン核合意)に戻るのかどうか。戦略的、国内的な理由で、それは簡単ではないでしょう。おそらく、民主党に替わった場合、特にフランス、ドイツ、英国といった米国の同盟国が賛同できるようにイラン側から情報を要求するのではないか、と考えます。

 そうすると、単に民主党が勝ったからといって、来年1月以降、多くの問題で、敵対国、あるいは最も親しい同盟国との緊張関係が消えると思ってはいけません。


今、アメリカで起こっているのは、
 相手に対する嫌悪感からくるマイナスの党派分断

 今、アメリカでは党派的な分断が進んでいます。正確に言えば、マイナスの党派分断、つまり、自分の支持政党が良いというのではなく、相手に対する嫌悪感によって分断しているのです。トランプを多くの人が今なおなぜ支持するかと言えば、エスタブリッシュメントの目に指を突っ込んでいる、エスタブリッシュメントが嫌がることをしていることが、支持を集めているのです。この点は興味深いと思います。あるいは、トランプを支持する人の他の理由として、裁判所では保守的な裁判官がいい、という声が多く、大統領は実際、そういう裁判官を選んでいます。あるいは、株価が史上最高になっているのがうれしいとか、401kの投資収益が上がっているとか、様々な理由で支持者はトランプをサポートしています。

 サンダース上院議員については、アメリカ政治のそうした構造の現実が影響してきます。サンダースが大統領になったとすれば、野心的な内政をやろうとするでしょう。例えば、メディケア・フォー・オール、全員が医療を受けることができるようにする。もしそれができれば、医療はアメリカ経済の大きな部分を占めることになりますが、ただ、大統領は一人でそんなことができるわけではありません。議会が賛成してくれる必要があります。ただ、アメリカの上院の現実を考えれば、スーパーマジョリティを取れないと議会は通りません。

 中道派のバイデンに、撤退した候補が支持を表明しているのは、こうした分断的な政治の状況への懸念もあります。バイデンの穏健的なスタイルの政治実務者としての役割を期待する向きもありますが、バイデン候補が難しいのは、もう時間がないということです。あと一カ月で代議員のほとんどが決まりますが、これからの指名イベントの動向から目が離せなくなっている。かなりの確率で想定すべきは、7月にミルウォーキーで行われる、コンテステッド・コンベンションです。保証はできませんが、その可能性は高いと思います。


トランプ大統領が勝利しても、共和党が上下両院を支配できなければ、
 国際政治のルール、国内政治の重力という制約からは逃れられない

 トランプ大統領が再選になった場合どうなるのか、と日本人はよく質問します。トランプ大統領がもしここにいたら、きっとこのように言うでしょう。「自分はいつも予見不可能だ」と。トランプ大統領は、予見不可能であることが自分の力だ、と思っているのです。また、今、トランプの周りにいる人たちは、トランプ大統領を抑制する人ではありません。ティラーソン国務長官やマティス国防長官、マクマスター国家安全保障担当補佐官やケリー首席補佐官などは、基本的にトランプ大統領にアドバイスをしていたわけですが、今、周りにいる人たちは、そういうことをしません。

 では、再選後はもっと予見不可能になるか、それとも伝統的な規範に違反するような行動をするか、ということですが、第2期においても、本当の意味での制約は残ります。

 一つ目は、国際的な分野においてです。大統領はよく机をたたいて要求をしてきましたが、あまり大きな成功は収めていないのです。

 彼が気付いたのは、多くの場合、今までの大統領が成功できなかったのは交渉が下手だったからというわけではなく、すべてのカードを自分たちで握っていたわけではないことです。中国との交渉においても、かなり深い目的があった。つまり、中国経済を大きく再構築したかったわけです。例えば、トランプ大統領は「関税戦争には簡単に勝てる」と言いました。でも、2年経って、果たして関税戦争が簡単なものか、ということには疑問があります。つまり、中国は中国として力、レバレッジを持っていて、それを実施してくるからです。

 また、アメリカとカナダとメキシコの貿易協定に関しても、大統領は「革命的」と言っていますが、「革命的」とはとても言えないものです。合意に至るまでに、彼自身が反対したTPPの要素をずいぶん取り込み、いろんな妥協もしています。そうやって初めて、民主党の支持も得ることができたわけです。だから、民主党も最終的には「これでOK」と言ったわけです。

 同じように国内においても、大統領は規範を超えるかというと、大統領自身は法案を通過させることに苦労しているのです。例えば、ヘルスケア、医療の問題を取り上げてみます。トランプ政権は一体何ができるのか。アメリカの医療に関して、現実の問題にどのように答えることができるか。今のところは、提案さえ全く出てきていないのが現状です。議会をどうやって通過させることができるか、わかっていないからです。

 ですから、第2期になったとしても、国際政治のルールを逸脱できるか、アメリカ国内の政治の重力を避けることができるか。もちろん、大統領選で大勝したら、そして共和党が上下両院とも支配すれば、もっとできることが増えるかもしれませんし、現実的には難しい状況は、変わらないでしょう。


誰が大統領になろうと、アメリカの要求を明確にして、
各国から「YES」という答えを導き出す必要がある

 ただ、日米関係について言えば、私の推測ですが、トランプ大統領は日本に対して、もっと厳しく迫ってくると思います。

 いわゆる、ホストネーションサポート、つまり在日米軍駐留経費負担をもっと払えと言ってくるでしょう。この脅しを実際にかけてくると思います。バイデンが民主党の大統領になった場合には、日本に対して在日米軍駐留経費負担を求めるというプライオリティーは低いと思います。大きな要求を立てたとしても、日本政府は本当の意味で言っているのか、ということで懐疑的に事に当たるでしょう。

 トランプ大統領が大統領になる前からそうでしたが、しばしばアメリカというのは大きな声でテーブルをバンバン叩かないとみんなの注意を引き付けることができない、ということがあるわけです。日米関係においても1980年代を見れば、レーガン政権は、かなり力を込めてやってきました。日本国政府はその要求を必ずしも配慮したわけではありませんが、レーガンがドンドンとテーブルを叩いたことによって、ようやく前向きな結果を得られたわけです。

 トランプ大統領は今レバレッジを作っているわけです。でも、それを一貫性がある形で実行するやり方をわからず、自分に対して問題があると思ったときはそれを撤回したりする。それが中国とのフェーズ1のディールにも見られましたし、北朝鮮に対してもそうでした。同じようなことが、イランの核合意でもあります。他にも色々とあります。私が心配なのは、オバマ大統領は、ノードラマ・オバマと言われました。何も劇的なことが起きないと言われたものです。でも、怒りを見せなければいけないということはあります。要求を満たさなかったら、ペナルティがあるぞ、ということを言わなければいけない時もあるでしょう。

 ですから、次の大統領が誰であったとしても、このような基本的なダイナミクスを理解して、力強い要求をしながら、同時に明確にそれに対応するために、こっちにはこういうことをする準備がある、ということを見せることができれば、米国は、世界のルールベースのリベラルな秩序を回復させることができると思います。アメリカとしては何を要求しているのか、ということを明確にして「YES」という答えを得られるようにしていかなくてはならないのです。