「2008年 日本の未来に何が問われるのか」 / 発言者:北川正恭氏(全5話)

2008年1月18日

第1話:文明史観的転換点に立って、地方分権による国のつくり直しを

 福田政権になって改革の停滞ということも言われているようですが、今の日本は改革の途上にあると思います。ウェブ2.0というものがありますが、それもやがて3.0、4.0へ移行します。SuicaやEdyといったもので何もかもできてしまう社会がやってきています。こうした世の中は、我々が子どものときの世界とは全然違います。いわゆるハードウェアであった情報が、ソフトウェアとして流通して、すべてそれで間に合う時代です。結果として、例えば時間と空間という概念が本当になくなり始めました。私は、時代の変遷というものは、科学文明の転換がまず先に来て、そして進歩した技術に合わせて経済体制、政治体制、あるいは社会体制が対応していくものだと思っています。

 工業社会によって、こういう爛熟した、成熟した社会になりましたが、これを次の世代に移すのは、ある意味で「情報」だと思います。

 では、例えば工業社会になればどのような変化が訪れるかというと、かつて明治維新の廃藩置県の時点で、江戸詰めの武士が自分の国へ帰ったときの日本で一番人口の多い県は石川県でした。その次が新潟県、その次が愛媛県、東京は96万人程度で15番目です。一次産業が中心であった時代は、農地や漁場のある限られた地域に人口が分布しました。しかし、工業社会では、機械がそうした制約を取っ払ってしまいました。ですから東京は130年経った今日、1200万人の人口です。このような東京一極集中は、工業社会が必然的にもたらしたものです。

 そうして今度は情報社会や知価社会ということで、いよいよ新しい文明が来ているわけです。そこでは、この国で本当に東京ばかりに集中して大丈夫なのか、地域は本当に生きていけるか、という最大多数の最大幸福も考えなければなりません。現在は文明史的転換の途中にあります。改革が行き過ぎて小休止になったというのが今の段階ですが、日本は、あるいは世界は、科学技術に追いつくための政治インフラや経済インフラを整えなければ、良い全体最適の社会になりません。

 現在、地方では人口が減少し高齢化社会が進み、未来に対する不安が台頭しているという状況があります。そうであれば、この文明史的転換点の解決策を考える切り口としては、語弊を恐れずに言えば、やはり集権国家から分権国家へとパラダイムを思い切り変える、あるいはシステムを変えるということが求められているのだと思います。そう思って、私は運動してきています。

 それはどういうことかというと、成熟した社会では価値観はひと通りではありません。未成熟、未開発の段階では、給料をたくさんもらい、豊かな生活をするという経済的豊かさにすべてが収斂していました。ところが、産業革命のおかげでみな豊かになって成熟しました。そうなると、新しい価値やその多様化に対してどう応えるのか、そのための政治システムをどうつくるかということが問われます。これに対しては、近接性の原理、すなわち、近いところで対応する政府がなければいけません。1億2000万を一手にというわけにはいきません。例えば富岡の製糸工場、八幡の国営・官営の製鉄所というもの、それは集権の見本でしたが、その反対をやらなければ、いわゆる多様な価値にきめ細かく答えていくことはできないと思います。

 そうなると、集権国家では東京集中をベースにした仕組みしかつくれないから、これはまずいということになります。1国2制度や多制度であらざるを得ません。国という単位で見て、例えば、東京の役割は何なのかと考えたときに、全ての役割を東京に集める集権ではなく、東京には例えば金融市場の管理といった役割を持たせるなど、国のつくり直しをもう1回やり直すべきなのです。しかし、いわゆる近代工業国家、殖産興業、富国強兵という神話がまだ生きています。そうではなく、お互いにそれぞれ、九州には九州の役割、東北には東北の役割などと、きちんと創意工夫を行って、適切な体制にしていくということが必要です。

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発言者

北川正恭氏北川正恭(前三重県知事、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表)
きたがわ・まさやす
profile
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。83年衆議院議員当選(4期連続)。95年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改善を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、早稲田大学マニフェスト研究所所長、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表。

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