【論文】日本の対アジア戦略をどう構築すべきか

2003年4月30日

yokoyama_y040316.jpg横山禎徳 (社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり

1966年東京大学工学部建築学科卒業。設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。 75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。東北大学、一橋大学大学院で非常勤講師も務める。

概要

イラク戦争は世界の与件が大きく変化したことを物語っている。今や「大国の混迷の見本」となった日本は、こうした外的な環境変化だけではなく、内的環境の変化の中で、国家戦略の見直しの時期を迎えている。現在、フランス在住の横山禎徳氏は国家戦略の立案の枠組みを提示、その中で日本が持つべきアイデンティティの一試案として、日本がアジア諸国の「Thought Leader 」になることだとし、そのギャップを埋めるための日本の強さの徹底活用を主張する。

要約

一国の対外戦略は一筋縄ではいかない多面性をもっている。そのことを理解した上で、日本は世界の中で、どのようなプレゼンスを築くべきかという問いに今、答えなければならない。特に、相互の影響が直接的である近隣諸国に対して、日本がどのような存在であるべきかはっきりさせることは、重要な課題である。近隣諸国の中核は一般に言うところのアジア諸国である。

明らかに日本は、対外戦略を含めた国家戦略の見直しの時期を迎えている。外的環境と内的環境の両方が、これまでの前提とは違った方向に変化し始めている。これまで、暗黙にであれ、明確にであれ、長年日本が戦略の前提としてきたことの、体系的な分析による早急な見直しを始めるべきだ。

日本が優れた新国家戦略を打ち出すためには、戦略を組み立てるための基本的枠組みが必要だ。その枠組みを共有しないまま議論を進めても、色々な信条と見解のぶつかり合いの中で議論が拡散してしまいがちだ。では、その目的を達成する戦略立案の枠組みは何か。それは、(1)日本の視点に立った世界の中長期的潮流の洞察 (2)日本の強さ弱さの客観的、分析的把握 (3)日本のアイデンティティ願望と主要な潮流とのギャップの特定 (4)日本の強さの徹底活用によってギャップを埋める選択肢の抽出 (5)日本の永続的優位確立の視点からの選択肢の評価と最適案の決定である。この5つのステップを議論の共通の枠組みとして受け入れ、そのステップごとに多面的な議論と仮説の抽出、その分析的検証を行っていけば議論は収束し、少なくとも第一段階の戦略と行動指針が導き出せるはずである。それをもとに継続的議論と幅広い認知、そして質の向上をはかるのがその後に続くステップである。

これらの具体的な考察や戦略的な選択肢は本文に譲るが、戦略立案の5つのステップを共有している限り、議論は拡散しない。そして、それらの選択肢を、それぞれ第5のステップである永続的な優位の確立につながるかどうかの基準で評価をすればよい。それによってアジア戦略、そして国家戦略の最適解が抽出される。


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 イラク戦争は世界の与件が大きく変化したことを物語っている。今や「大国の混迷の見本」となった日本は、こうした外的な環境変化だけではなく、内的環境の変化の中で、国家戦略の見直しの時期を迎えている。現在、フランス在住の横山禎徳氏は国家戦略の立案の枠組みを提示、