【座談会】日本の育児環境を考える 「育児サービスにおける規制緩和の問題点」

2002年5月15日

shimada_h020425.jpg島田晴雄 (慶応義塾大学経済学部教授)
しまだ・はるお

1965年慶應義塾大学経済学部卒業。70年慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。74年ウィスコンシン大学博士課程修了。慶應義塾大学経済学部にて助手、助教授を経て、82年より教授。2000年より東京大学先端科学技術研究センター客員教授兼任。01年9月からは内閣府特命顧問として、小泉政権の政策を補佐。労働経済学専門、エコノミスト。専門は労働経済、経済政策。主な著書は「明るい構造改革──こうすれば仕事も生活もよくなる」。2人の娘(共に成人)の父親であり、2歳の孫が1人いる。

okina_y020315.jpg翁百合 (日本総合研究所主席研究員)
おきな・ゆり

1982年慶應義塾大学経済学部卒、84年同大学院経営管理研究科修士課程を修了し、同年日本銀行入行。92年日本総合研究所調査部副主任研究員、 2000年より現職。01年9月より02年3月まで慶應義塾大学大学院特別招聘教授を兼任。著書に「情報開示と日本の金融」、「金融の未来学」など。4歳の男児の母。

kawamoto_y020328.jpg川本裕子 (マッキンゼーアンドカンパニー・シニアエクスパート)
かわもと・ゆうこ

東京大学文学部社会心理学科卒業。オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。旧東京銀行を経て、1988年にマッキンゼー東京支社入社、95年 -99年パリに勤務、99年から日本勤務。主な著書に「銀行収益革命」等。現在、金融庁「日本型金融システムと行政の将来ビジョン大臣懇話会」委員、国土交通省社会整備審議会委員などを兼任。11歳と8歳の男児の母親。

nemoto_n020425.jpg根本直子 (スタンダード&プアーズ 金融サービス部ディレクター)
ねもと・なおこ

早稲田大学法学部卒業。シカゴ大学、 IL 経営学修士(MBA)。日本銀行に入行。金融産業調査などに従事。1994年、スタンダード&プアーズに入社。金融機関グループヘッドとして、日韓の金融機関の分析を担当。共著に「日本の金融業界2002」。12歳、8歳の2人の男児の母親でもある。

概要

金融ビッグバンは一体、何を目指して行われたのか。実際に市場を使う人々にとって日本の金融・資本市場の利便性は高まったのか。ベンチャービジネスを起業した30代から40代の若手実業家が、起業資金の出し手や投資家をめぐる環境の経験を踏まえ、市場の問題点やビッグバンの評価を行った。経済の活性化にはビジネスを切り開く挑戦と成功例。それを評価する議論が必要であり、その裾野は広がっていると三者は口を揃えた。

要約

日本の公的保育サービスは「児童福祉法」の定めにより、「保育に欠けたる」国民を対象としてきた。しかし高度成長期を経て、中・高所得者層の割合が増加し、各家庭が求める保育サービスの質は多様化した。また、女性の社会進出が進み、求められる保育サービスの絶対量も増えた。現在の保育サービスはそういった大きな変化に対応しきれていない。

対応の遅れの原因は、公的サービスを高所得者層に開放してしまったため、公的資金が効率的に配分されていないことだ。公的サービスは低所得者に与え、高所得者が求める多様なニーズに対しては、民間が競争し適正な価格で保育サービスを供給すべきである。ただし国は、規制緩和によって保育サービスへの新規参入の機会を民間に与えるとともに、国はサービスの質を確保することも忘れてはならない。そのためには、現場を知らない行政官僚がトップダウンで規制するのではなく、保育の現場に権限を与え、実質的な規制をする必要がある。

また、日本の企業のあり方にも問題がある。企業は社員に長時間労働を課し、休暇も少ないために、安心して子育てに励むことができない。上司の印象やオフィスにいる時間といった曖昧な要素が評価のポイントになる業績評価体系が、社員を必然的に企業に拘束するからだ。社員を仕事内容で評価する裁量労働制の導入など、まずは業績評価体系を変えなくてはいけない。

今後、規制緩和が進み、労働分配率の低下とともに各家庭の所得が減っていくことは間違いない。必然的にとも働きの家庭が増えることになる。夫婦が協力して子育てをするのはもちろんのこと、子供がいるいないにかかわらず、公立保育園などを中心に、地域の住民全員が保育・育児に参加する社会基盤・価値観をつくっていかなければならない。


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金融ビッグバンは一体、何を目指して行われたのか。実際に市場を使う人々にとって日本の金融・資本市場の利便性は高まったのか。