【論文】みずほ問題で浮かび上がる銀行経営ビジョンの欠如

2002年7月11日

齊藤誠 (一橋大学大学院経済学研究科教授)
さいとう・まこと

1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学博士号取得。ブリティッシュ・コロンビア大学などを経て、2001年より現職。主な著書に「新しいマクロ経済学」「金融技術の考え方・使い方」「先を見よ、今を生きよ」など。

概要

言論NPOの報告書は大規模なシステム障害がコーポレート・ガバナンス欠如の当然の帰結だったことを雄弁に示したが、その裏側の銀行経営に対するビジョンの根本的欠如も指摘されなくてはならない。一橋大学の齊藤誠教授はその視点から「みずほ」の建設的なリストラクチャリングの可能性を提案する。金融の機能分化が進む中、先見性のある経営ビジョンで将来の金融システムを先取りすることにこそ「みずほ」の活路があると思えるからである。。

要約

言論NPOの調査報告書は大規模なシステム障害がガバナンス不在の当然の帰結であったことを雄弁に示している。筆者も基本的に賛成だが、日本の銀行経営が直面している状況に引き寄せれば、その裏側には銀行経営に対するビジョンが根本的に欠如していたことが浮かび上がる。日本だけではなく先進資本主義諸国が直面している課題は、情報技術や金融技術の飛躍的な進歩に伴う金融機能の分化に対して、銀行経営を有効に転換していくことである。その過程で銀行組織の解体や統合が当然起こってくる。「みずほ」で象徴的なのはシステム障害が決済機能にかかわる部分で起こったことである。銀行が提供する決済サービスはその運営費用や事務コストに対して適正な手数料が徴収されていない。決済サービスは銀行収益に対して補完的な役割を担う可能性があり、その位置付けは経営戦略上も重要になる。「みずほ」に統合後の決済サービスを戦略的にどう位置付けるかの議論がなく不採算部門という認識だけがあったとすれば、縄張りとかメンツという後ろ向きの発想だけが幅を利かせ、ぎりぎりまで決済システムの導入に人や金を張り付けないという事態になっても不思議ではない。決済サービスをめぐっては、コンビニやインターネットなどでも新しい動きが始まっている。それに対する明確な経営ビジョンがあれば、今回の統合は決済サービスに対する新たな手数料体系を顧客に提示する絶好の契機となった。金融機能の分化の動きは家計向きだけではなく企業向けでも急テンポで進んでおり、大きな目で見れば融資と預金残高における銀行のオーバープレゼンスの解消を伴うことになる。こうした機能の分化にどう対応するのか、その戦略的なビジョンこそ日本の銀行に問われている。「みずほ」もそれを先取りするリストラクチャリングを目指すべきである。そのためにはさまざまな前提条件も必要になるが、革新的なビジョンに基づきそれを進めるところに「みずほ」の活路があると考える。


全文を閲覧する(会員限定)

 言論NPOの報告書は大規模なシステム障害がコーポレート・ガバナンス欠如の当然の帰結だったことを雄弁に示したが、その裏側の銀行経営に対するビジョンの根本的欠如も指摘されなくてはならない。一橋大学の齊藤誠教授はその視点から「みずほ」の建設的なリストラクチャリング