【論文】持ち株会社は法的責任隠ぺいのシステムか

2002年6月12日

uemura_t020607.jpg上村達男 (早稲田大学法学部教授)
うえむら・たつお

1948年4月東京都生まれ。早稲田大学大学院研究科博士課程修了。専修大学法学部教授、立教大学法学部教授を経て、97年より早稲田大学法学部教授(現職)。専攻は商法証券取引法。主な著書に「インサイダー取引規制の内規事例」、共著に「金融ビッグバンー会計と法」。

概要

われわれ言論NPOが今回提出した調査報告書「経営のガバナンスはなぜ失われたのか」に対して、早稲田大学の上村達男教授からコメントが寄せられた。ほとんどのマスコミがみずほホールディング社長・前田晃伸氏の経営責任追及に躍起になっている中、ガバナンスの欠如についてわれわれの報告書が問題提起していることを評価しながらも、持株会社の特殊性が前提とされていないことを指摘。法的責任の所在を明確化するのが急務だと主張する。

要約

言論NPOが提出した調査報告書は、3行統合に伴う権限と責任の分散により、ガバナンス機能の弱体化が生じていることを指摘しており、経営者の責任という従来型の問題に安易に還元することなく、問題を的確に把握している点で評価できる。しかし議論の前提として、個別企業単位と持株会社におけるガバナンスの区別が明確ではなく、この点を分けて議論することも、コーポレート・ガバナンスの議論を発展する上で不可欠であると考える。

大まかに言って、持ち株会社のメリットは2つある。1つは、子会社に自律性・独立性が生まれ、意思決定の分散が可能になること。もう1つは、ホールディングによる高度な戦略的経営を展開できることである。みずほホールディングスの定款にある目的事項に「子会社とする会社の経営管理」とある通り、銀行業務の責任はあくまでみずほ銀行社長にある。にもかかわらず、実際、みずほ銀行社長の責任問題は表面化していない。

こういった事実は、日本の持株会社が抱える根本的な法律問題を暗に、しかし明確に示している。その問題とは、「法的責任主体と対社会的責任主体が一致していない」ことである。日本では親会社が日常的に子会社を支配し利益を吸収しているが、子会社の債権者に対して親会社取締役は商法上責任を負っていない。また、子会社取締役が債権者に対して直接責任を負うことはありえない。株主代表訴訟により子会社取締役が責任を負う可能性はあるかというと、株主は 100%親会社だから、それもありえない。さらに、親会社の株主が子会社取締役に対して代表訴訟できるかというと、彼らはあくまで親会社の株主ゆえ、その権利をもたない。要するに、日本の現行商法上、持株会社は法的責任隠蔽のためのシステムでしかないのである。

海外に目を向けると、持株会社制度は行政上の不都合を乗り越えるための避難的措置として使われているくらいで、親会社子会社の責任はたいてい一体である。持株会社の多大なるメリットを活かすためにも、欧米並みの企業結合法制の整備は急務である。


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われわれ言論NPOが今回提出した調査報告書「経営のガバナンスはなぜ失われたのか」に対して、早稲田大学の上村達男教授からコメントが寄せられた。