【論文】みずほに見る日本的経営の欠陥

2002年6月12日

nakai_s020222.jpg中井省(日本証券投資顧問業協会専務理事)
なかい・せい

1945年生まれ。68年東京大学法学部卒。同年大蔵省(現財務省)入省。ニューヨーク駐在領事、財務官室長、証券取引等監視委員会総務検査課長、銀行局審議官、国際局次長、財政金融研究所長を経て、2000年より現職。主著「やぶにらみ金融行政」。

概要

みずほのシステム障害を犯した経営陣の失敗の原因は何か。「ロジスティク」の軽視と「戦略の欠如」は、旧陸軍と同じ過ちだと元大蔵省の銀行局審議官で現日本証券投資顧問業協会専務理事は指摘する。問われているのはコーポレート・ガバナンスの欠如だが、言論NPOの報告書を読んだ中井氏は、主張する。株主の経営チェック機能を高め、金融庁の監視を強めるしか、このような強大な金融機関の企業経営の怠慢をやめられないと。

要約

みずほ銀行のシステム障害は、戦前の旧日本軍の失敗とよく似ている。両者に共通するのは、「ロジスティクの軽視」と「戦略の欠如」だ。旧日本軍は日露戦争の成功体験にとらわれ、能力の高い下士官に頼って兵器の近代化を怠ったばかりでなく、精神主義に陥ってロジスティク(兵たん)を軽視した。日本の銀行でも事は同じで、優秀な担当者により大過なくシステム開発が進められた。しかし、抜本的な改革が必要とされる激動の時代に突入した後も現場任せで、指揮官すなわち経営陣が明確な指示を与えなかった。その理由は2つ考えられる。1つは、銀行の出世コースにおいてシステム開発部門は常に傍流だったため、経営陣にシステムの問題の重要性を理解できる者がいなかったこと。もう1つは、サービス残業が慢性化しコスト計算が曖昧になっていたため、システム部門の残業が急増する異常事態に経営陣が気付かなかったことだ。

3行合併後のシステムを1つに統一する際、どのシステムが新時代に適合するのかという戦略的な視点からではなく、内部の主導権争いの妥協策として決定されたことにおいても、旧日本軍の犯した失敗を踏襲している。これは日本企業全体に共通する問題で、要するにコーポレート・ガバナンスの欠如が問われているのだ。危急存亡の局面でトップのリーダーシップが発揮されないばかりか、そういった怠慢な企業経営を株主がチェックするシステムが発達していない。

これらの問題の背景にあり無視できないのは、みずほ経営陣の危機意識の欠如だ。3行合わせて150兆円にも上る資産規模をもつ巨大企業は「too big to fail(大き過ぎて潰せない)」ゆえ、そこに経営陣の慢心が生まれた。解決策は2つある。

1つは株主の経営チェック機能を高めること。もう1つは監督当局すなわち金融庁と日銀による監視を厳しくすることだ。外部の専門家から成るチームを編成し、調査に乗り出すなど、具体的で実効的な対策が望まれる。


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 みずほのシステム障害を犯した経営陣の失敗の原因は何か。「ロジスティク」の軽視と「戦略の欠如」は、旧陸軍と同じ過ちだと元大蔵省の銀行局審議官で現日本証券投資顧問業協会専務理事は指摘する。問われているのはコーポレート・ガバナンスの欠如だが、言論NPOの報告書を