【論文】みずほは統合を考え直すべきではないか

2002年6月12日

kawamoto_y020328.jpg川本裕子 (マッキンゼーアンドカンパニー・シニアエクスパート)
かわもと・ゆうこ

東京大学文学部社会心理学科卒。オックスフォード大学大学院経済学修士課程修了。旧東京銀行を経て、1988年にマッキンゼーアンドカンパニー東京支社入社、95-99年パリに勤務、99年から日本勤務。主な著書に「銀行収益革命」等。現在、金融庁「日本型金融システムと行政の将来ビジョン大臣懇話会」委員、国土交通省社会整備審議会委員などを兼任。

概要

金融業の経営に詳しいマッキンゼー・アンド・カンパニーの川本裕子氏は大手銀行の合併統合にどれほどのメリットがあるのか、という懐疑的な立場から議論に参加した。川本氏はその効果について批判的な分析をしながら、言論NPOのレポートが統合を是として議論している点に問題提起。むしろ「みずほ」は解体も視野にいれてこそ再生する。現経営陣は残されたエネルギーを割いて、なぜ統合に向かわなくてはならないか、について今一度、疑問に答える必要があると主張した。

要約

「みずほ」の2年7ヵ月にもおよぶ統合プロセスで常に問題視されてきたのは、経営トップの危機感の希薄さと統合効果に対する当事者の甘い自己評価自体への疑念であった。経営陣の認識が現実とかい離し、その運営でも経営のガバナンスが効かなかったことは、言論NPOのリポート通りであろう。リポートはその前提として「みずほ」の統合度を高めることを是として問題提起をしているが、むしろ統合そのものに論点のひとつがあると私は考えている。そこであえて今一度、一般的な銀行の統合、合併の効果について分析するところから議論に参加してみたい。

まず合併統合のメリットは、一般的にコスト側で実現される。規模の経済が働くことによって単位当たりのコストが引き下げられるからだ。しかし、その効果は資金量10兆円を超えると、日本の都市銀行はすでに合併、統合による規模の利益はほとんど得られないというのが、数値分析の結果である。それが得られなくても最大のコスト項目のシステムコストを下げられればコスト削減に貢献するが、その場合は1つのシステムに片寄せする場合である。そうしなかった「みずほ」の場合は世界的に見てもまれなケースだろう。店舗の統廃合は効果の上がる分野だが、それに伴う口座移管などの作業量と時間は想像を絶するものになろう。これに対して収入側のいわゆる統合効果は銀行界ではほとんど期待できないことが明らかになりつつある。逆に統合、合併は顧客や優秀な人材の流出などで元来コストを伴うものであり、より大きな価値創造がなければほとんど統合の効果はないものになる。

以上の認識や、さらにリポートで示された問題の根深さを考慮した場合、今後も「みずほ」は統合銀行として活動をしていくことができるのか、の根本的な疑問に行き着く。むしろ、解体を視野に入れて新しい枠組みに見直すぐらいの決断が必要なのではないか、と私は考える。


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 金融業の経営に詳しいマッキンゼー・アンド・カンパニーの川本裕子氏は大手銀行の合併統合にどれほどのメリットがあるのか、という懐疑的な立場から議論に参加した。川本氏はその効果について批判的な分析をしながら、言論NPOのレポートが統合を是として議論している点に問題提起。