【論文】日本のデフレは金融的な現象

2002年12月11日

黒田東彦 (財務官)
くろだ・はるひこ

1944年生まれ。67年東京大学法学部卒業。71年オックスフォード大学経済学修士取得。67年大蔵省入省。87年国際金融局国際機構課長、91年主税局総務課長、92年大臣官房参事官(副財務官)、97年国際金融局長を経て、99年財務官に就任。著書は『財政・金融・為替の変動分析』『政策協調下の国際金融』『国際交渉-異文化の衝撃と対応』。

概要

財務官の黒田東彦氏は、日本の不良債権処理の成功は日銀がデフレを本気で止めようとするのかにかかっている、と主張する。持続的な物価の下落は金融的な現象に過ぎず、日本社会にビルトインされたデフレマインドを覆すためには、日銀が伝統的な金融政策の大転換を図るべきだと考える。黒田氏が期待するのは日銀が物価安定目標を設定し長期国債の買いオペを物価が安定するまで続けること。物価の下落が続く限り、新規の不良債権は増え続けるからだ。

要約

世界経済は今、三つのリスクを抱えている。一つは世界的な株下落であり、その影響で中南米諸国の大半が通貨、金融の危機的な状況に陥っている。これらはいずれもアメリカのITやニューエコノミーバブルの調整がその背景にある。さらに現段階ではまだ何とも言えないが、アメリカのイラク攻撃やそれに伴うテロリストの不穏な動きなど安全保障上の問題が起こる可能性がある。私はアメリカに端を発した世界的な株安やその影響は底なしの状況で推移するとは思っていないが、こうしたリスクに注意を払いながら経済運営を行わなくてはならない状況になっている。日本が今、最優先に取り組まなくてはならない政策目標は不良債権処理とデフレを止めることである。不良債権処理は竹中大臣のリーダーシップで進められようとしており、基本的な方向は正しいと考えるが、持続的な物価の下落が続く以上、不良債権を処理しても新規の不良債権は増え続ける。現在の日本のデフレを巡っては中国の要因や過剰設備、規制緩和などの要因なども確かにあるが、成長率のサイクルとは無関係に長期にわたって持続的に物価が下がり続けるのは、このデフレはやはり金融的な現象であり、金融政策でしか直せないと考える。しかも、デフレマインドが経済の中にビルトインされてしまっている。そうしたマインドを覆すには、日銀が物価安定のための目標を設定し、その実現のために強い決意を表明すること、そしていかなる金融政策手段も使うということをコミットしなければ状況は変えられないだろう。これまでの伝統的な金融政策が効果を持たない以上、それを大転換させ、物価が安定するまでマネーサプライの伸び率などをターゲットに長期国債の買いオペを続けるべきである。それを決断するのは日銀である。物価の安定は政府にはできず、日銀しかできない。物価安定やデフレ退治は基本的には日銀がやるものであり、だからこそ物価安定は日銀法の第一目標に書かれている。


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財務官の黒田東彦氏は、日本の不良債権処理の成功は日銀がデフレを本気で止めようとするのかにかかっている、と主張する。