【論文】危機を恐れていては、構造改革は進まない

2002年2月22日

sakakibara_e020222.jpg榊原英資 (慶応義塾大学教授)  
さかきばら・えいすけ

1941年生まれ。64年東京大学経済学部卒業。65年大蔵省入省。69年ミシガン大学経済学博士号取得。94年財政金融研究所所長、95年国際金融局長を経て財務官就任。99年退官後、慶応義塾大学教授就任。「グローバルセキュリティ・リサーチセンター」を設立しディレクターを務める。アジアを中心に世界の市場分析を行う。

概要

日本の経済危機は回避できないだろうと語る元大蔵省財務官の榊原慶大教授。短期的成果を期待する市場は構造改革の本質を理解していず、構造改革には与党の事前審査制度などの政治改革が必須だという。また、族議員主導の政策決定システムを破壊することが小泉首相の歴史的役割だとも語る。公的資本注入については、問題は銀行ではなく借り手企業にこそあると反論。指導力ある経営者によるリストラで経済競争力を回復できると話す。

要約

大蔵省財務官として金融ビッグバンを主導してきた経験を踏まえて、榊原教授は構造改革には常に危機が伴うと指摘する。危機を避けていては、構造改革は進まない。その点からも、経済金融危機を恐れて、不良債権の最終処理を先送りしているかのような小泉政権の姿勢には批判的だ。

日本の経済危機はすでに避けられない状況にあるというのが榊原教授の認識。マーケットからは構造改革のスピードを速めることが危機回避の唯一の道だという声が聞こえるが、構造改革とは戦後の高度成長を支えた「日本型資本主義」の制度そのものを変えることであり、それは明治維新にも匹敵する大改革だ。5年、10年といったタイムスパンで取り組むべきであり、短期的な成果を期待するマーケットは構造改革の本質を理解してないと榊原教授は見る。

構造改革とは制度の改革であるから、経済構造改革には政治の構造改革が先行しなければならない。政治の構造改革を進める上で最大の障壁になっているのは、与党の事前審査制度によって族議員が法案や予算の成立に隠然たる影響力を保持している点にある。族議員とそれに連なる既得権益保持団体は、常に既存の制度を守り、その改革を遅らせようとする。与党の事前審査を廃止し、政策決定プロセスから族議員と守旧派勢力の影響力を排除しないかぎり、構造改革は前に進まない。自民党の創造的破壊を掲げて総裁選に勝利した小泉首相は、族議員主導の政策決定システムを変えなくてはならない。「破壊」こそが小泉首相の歴史的役割であると榊原教授は鼓舞する。

金融危機を避けるために、公的資本を注入し銀行を国有化せよとの議論については、「問題は銀行ではなく、借り手側の企業にある。その問題を放っておいて、銀行に資本注入しても意味がない」と反論。カルロス・ゴーン氏による日産再建策を例に引きながら、経営者は強い指導力を発揮し、リストラを果断に進めるべきだとする。リストラによって収益が回復すれば、株価は反転し、それが日本経済全体に好影響を及ぼす。それしか、経済競争力回復のシナリオはないし、それを実行するポテンシャルが日本にはまだあると語る。


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 日本の経済危機は回避できないだろうと語る元大蔵省財務官の榊原慶大教授。短期的成果を期待する市場は構造改革の本質を理解していず、構造改革には与党の事前審査制度などの政治改革が必須だという。また、族議員主導の政策決定システムを破壊することが小泉首相の