【対談】経済手術の教訓韓国から学べ

2003年1月04日

anzai_t021010.jpg安斎隆(アイワイバンク銀行代表取締役社長)
あんざい・たかし

1941年生まれ。63年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。85年新潟支店長、89年電算情報局長、92年経営管理局長、94年考査局長を経て、同年日本銀行理事就任。98年日本銀行理事を退任、同年日本長期信用銀行(現・新生銀行)頭取就任。2000年同行頭取を退任後、同年イトーヨーカ堂顧問に就任。01年より現職に就く。

fukagawa_y021010.jpg深川由起子 (東京大学大学院総合文化学科教授)
ふかがわ・ゆきこ

早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。日本貿易振興会海外調査部、長銀総合研究所主任研究員等を経て、98年より現職、2003年から東京大学大学院総合文化学科教授。2000年より経済産業研究所ファカルティ・フェローを兼任。米国コロンビア大学日本経済研究センター客員研究員等を務める。主な著書に『韓国のしくみ』(中経出版)、『韓国・先進国経済論』(日本経済新聞社)等がある。

概要

底なしの株価下落、一向に減らない不良債権の山、疲弊しきった銀行――いま日本の金融システムが重大な局面にさしかかっているのは間違いないであろう。金融危機を回避するために、私たちは何をどのように改革しなければならないのか。日銀のアジア担当責任者を務めた安斎・アイワイバンク銀行社長と、深川由起子・青山学院大学経済学部助教授の2人が、90年代末に金融危機を経験した韓国のケースから具体的な対策を引き出す。

要約

すでに日本の金融システムは重大な局面に陥ろうとしている。小泉政権が内閣改造を機に、不良債権処理を加速させる姿勢を鮮明にしたことは、金融危機が目の前に現れつつあるということを認識したからであろう。今ここで打つべき手を打たなければ、日本経済はさらに深く沈むことになる。迫り来る金融危機を回避するために、どう対処すればいいのか。

その1つの解答は、隣国・韓国にあるかもしれない。韓国は90年代末、短期支払い債務が政府の外貨準備高をはるかに上回り、ウォン崩壊の憂き目を見た。ところが、「国際通貨基金(IMF)の厳しい指導の下で構造改革を行い、2000年以降は成長に回帰した」(深川)のである。実質的な改革が進められたのは98年から2000年まで、韓国のその3年間の過程を検証していけば、日本が何をどう構造改革すべきか教訓も得られるはずだ。

韓国に見る教訓の最たるものは、「韓国は先送りを許さなかった」(深川)ことであろう。企業と金融を一体で構造改革し、しかもそれを時限付きで実行した。そうして「マーケットの信用を得るように動いていった」(安斎)のである。強力な政府介入もあった。金大中大統領は「痛みの共有」を国民に求め、一時的な痛みを乗り越えれば再生の出口があるということを示した。

日本と韓国では政治・経済にさまざまな相違があるから、韓国に見る教訓をすべて日本の構造改革に生かすことができるとはかぎらない。だが、日本の改革の現状を見る限り、「今やもう先送りはできないという局面に来ているのに、危機感がなさすぎる」(安斎)。国民はひどい現状からの出口も見えなければ、政府から「こっちが出口だ」というメッセージを聞くこともない。韓国の構造改革には危機感も出口へのメッセージも明確にあったのだ。小泉政権の描く、手術の決断は、そうしたメッセージを伝えながら進めなくてはならない。


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底なしの株価下落、一向に減らない不良債権の山、疲弊しきった銀行――いま日本の金融システムが重大な局面にさしかかっているのは間違いないであろう。