被災地の経済復興に何が問われているか

2011年6月14日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は東日本大震災後の東北での雇用問題、そして日本全体の雇用問題について議論しました。

ゲスト:
山田久氏(日本総研調査部主席研究員)

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月8日に放送されたものです)
ラジオ番組の詳細は、こちらをご覧ください。


「被災地の経済復興に何が問われているか」

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。さて、被災地の復興の議論は始まっているのですが、まだまだ具体的な動きが始まってないという状況です。ただ、今回の被災地の復興というのは、私も非常に気になっていたのですが、雇用の場である産業をどう復興させるかという課題もやはり大きいのですね。被災者の生活の再建というのは、やはり雇用の場が本当の意味で確保できないと、なかなか実現できない。
 しかも原発の問題で、やはりエネルギー問題で電力供給が今後ちゃんと動かないのではないかという話もありまして、そういう問題も含めますと、日本の産業なり、経済が、あの震災以降、1つの大きな転機を迎えているような感じがするのですね。
そういう風な被災地の経済的な復興ということをどう考えればいいのか。この辺りを1回議論してみたいなと思ったのですね。そこで、今日はスタジオにゲストを呼んでおります。
言論NPOのマニフェストの評価でもいろいろ力になっていただいているのですが、雇用や産業の問題に非常に詳しい日本総研調査部主席研究員の山田久さんです。山田さんよろしくお願いします。

山田:よろしくおねがいします。

工藤:ということで、今日は日本総研の山田さんと「震災後の東北地域、または日本の経済復興に何が問われているのか」を、一緒に考えてみたいと思っております。
 さて、山田さん、被災地ではまさに職場を一瞬で失ってしまって、かなり失業されている方が非常に多くて、報道では、失業手当の申請が11万を突破したという話になっていまして、雇用という問題が非常に大きな問題になっているのですが、この雇用という問題では、今、先ず何を考えていくべきなのでしょうか。


雇用の「受け皿」をどうつくるか

山田:今回は非常に甚大な影響があって、雇用の受け皿全体がなくなっているという状況なのですよね。その中で雇用をつくるというのは、そう簡単な話ではないわけですね。一時的にキャッシュ・フォー・ワークということが最近言われていて、例えば、瓦礫の処理などのように、復興の事業をするために被災者を雇って、一時的な雇用をつくるという話が出ているのですが、これも1つのやり方です。ただ復興が本格的に立ち上がるまで、やはり一定の時間がかかると思います。2年、場合によっては3年くらいかかるかもしれません。そうすると、そういう一時的な雇用だけでつないでいけるのかという問題があるのですね。で、今のまま、あまり計画なしにやっていると、生活費がどうしても必要になってきますと、特に若い世代を中心に、もう被災地から出ていって、バラバラになっていって、数年後、実は被災地の人口が大きく減ってしまうような、そういうリスクがあると思うのです。

 私が最近、考えているのは、就職付きの集団移転という風なことです。これは何かというと、例えば東北地域は、水産業が盛んですけれども、水産業が盛んな地域というのは、今回の被災地以外にも、太平洋沿岸での地域で南にも色々ありますけれども、その中には、今回、被災地は大変なので、1年なり2年間、漁師さんを受け入れて、一緒にしばらく働こうという風なところも、もしかしたらあるのかもしれませんね。そういう風な声があれば、行政がうまくコーディネートしていって、例えば、現地の復興が本格化するまでの間、1年なり2年、とりあえずみんな一斉に集団でそちらに移って、漁師の仕事をする。で、その間に色々と現地の復興のあり方を考えていくわけですね。
 その方が、本格的に将来どうするかを、議論できますから。今のようにあまり計画なしにやっていますと、被災地の復興自体も中途半端になってしまう。そういうことを今、少し考えたらいいのではないかと思うのです。

工藤:ただ、被災地の漁師さんや何かの動きをみると、やはり自分たちの誇りというのですかね、自分たちの地域をとにかく早く復旧して、そこの中で現場に行って、カツオを捕りにいきたい、と。そういう動きでやっていかないと、心のマインドというか、モチベーションが維持できないのではと思うのです。そこの兼ね合いですよね。つまり今のまま復旧してやっていくことでいいのか、もっと未来志向で考えるのであれば、一時的に山田さんの言われるようなそういう計画的なことも必要だと。この辺りはどうお考えですか。

山田:それは、本当に被災者の方がどう考えるのか、ということだと思うのです。それから、被災の状況にもよると思います。比較的軽微なところだと、現地に当然残ってできますけども、本当に壊滅的なところになってくると、先程申し上げたようなことも少し考えていく、これは当然、あくまでも被災者の方々の主体的な考え方が重要ですから、1つの提案として、そういうことがあるのかなということです。


当面の雇用対策はもって一年程度

工藤:そうすると、当面はまず失業している人が沢山いて、今仕事がないわけですから、先程おっしゃったように、被災者の人達が復旧の色々なお手伝いをするところにお金を流していくという仕組みとか、それから失業手当とか、雇用調整の助成金の期間を長くして、まだ倒産していないのですが、仕事がないのですから、その従業員をサポートするとかいろいろあり得ますよね。

山田:それも当然ありますね。とりあえず被災して、でも何とか事業をできるところもありますけれども、放置してそのまま売り上げが減ってしまうと、倒産しますから、いわゆる雇用調整助成金ということで、従業員の給与の何割かを助成する制度ですね。こういうのは、やはり大胆にやっていく必要があります。

工藤:そういう失業手当とか、雇用調整の助成金というのは、だいたい何年くらいできるものなのでしょうか。

山田:制度としては、ざっくり言って、最長1年くらいというのが上限です。雇用調整助成金ですと300日ということですし、失業手当も一番長いケースで原則360日です。これは場合によったら、もうちょっと延長していくということも、考えていく必要があると思います。

工藤:すると、その期間に仕事を今後どう増やしていくのか、を考えていかないと、本当にどんどん人がいなくなってしまう可能性があるという局面にあるわけですね。僕も東北出身なので漁業・農業の復興が非常に大きいということは分かっているのですが、1つ驚いたことは、一方で部品工場の集積が東北にあって、それが今回被災したために、国内なり世界にも大きな影響があったということです。この状況というのは、もう1回立て直すというのは可能なのでしょうか。


東北の部品産業の回復は可能か

山田:今回は改めて、日本のモノづくりのあり方を考えさせられました。日本のモノづくりというのはインテグラル方式、つまり、擦り合わせ方式とよく言われます。特殊な部品をそれぞれ相対でつくっています。ところが欧米はモジュラーとよくいわれるのですが、要は部品の取り替えが結構柔軟にできます。ある意味、擦り合わせということに日本の強みがあるのですが、ある意味で非常にコストと時間のかかるやり方で、その中でも、実はそもそもそういう意味ではコストがかかるのですけれども、競争が激しいので、コストをできるだけ減らさないとダメだということで、ある工場とか、ある取引先だけに集中して生産をやってもらったり、あるいは在庫を極力減らすということをやっていました。

 そうすると今回のような大きな地震が起こってしまうと、余裕がほとんどありません。1つの工場がつぶれると、他では代替できない。それから、在庫がほとんどないですから、すぐ生産が止まってしまうという問題が出ました。これはバランスの問題なのですけれども、もう少し各地に分散していくとか、あるいは日本というのはいろんなものを国内でつくっているのですが、場合によれば、もう少し外に出せる部分については海外に出して行く。安いものとか、単純なものを外に出す。例えば今回も、場合によったらそういうところは外に出して、東北にある一定の地域、例えば仙台のあたりには東北大学があって、あのあたりはすごく研究開発も盛んですから、あそこに国家プロジェクトとして、かなりお金をつぎ込んで、そこで世界の最先端の環境技術に関連するようなIT分野の技術開発をしていく。そして、場合によったら海外も含めて、企業を誘致していくという、そういう特化型のことをしていく必要があるのではないか。それと部品の共有化ができるところは、どんどんそれを行っていくというような、生産体制そのものを今回大きく見直すということが問われているのではないかなと思います。

工藤:なるほど。つまり、日本の製造業では擦り合わせ型で、きちんときめ細かいような部品をつくる人たちが東北にいたのだけど、もともと部品が代替できるような規格されたもの、他の人でもつくれるような形にする動きが背景にあった、と。しかし、今回の震災を経て、そうしたリスクがかなり高まったので、部品工場が東北だけではなくて、どこかに行ってしまう可能性、危険性が出ているということですね。だからこそ、政府が何かをそこに、製造業の再生につなげる動きをやっていかないと、部品工場は、分散してしまうのではないか、と。

山田:逆に言うと他にとられないようなくらいの、非常に高度な部分とかね、特徴のあるところにお金を集中していくことで、東北に残していくということなのではないでしょうかね。


美しい絵を描くだけでは実効性はない

工藤:なるほど。でも、政府はまだそのことを、だれも考えてないでしょう。するとね、まさに今、震災後の雇用を維持し、さらにその中で新しく、次の雇用をつくるという点に関してみれば、政府や経済界ももっと真剣に考えないと、ダメな局面なのではないですかね、このままいくと。

山田:そうですね。ですから、復興会議とかで色々なアイデアは出ているのですけれども、思っている以上に厳しい部分が実際あると思います。
それは何か美しい絵を描くだけで、自動的に都市や産業が再生するのではなくて、私はそういう意味ではさっき申し上げたように、本当に国家プロジェクトでかなりのお金なりリソースを投入する部分と、実際はあの辺りは、やはり水産業なり農業が中心ですから、農業・水産業の新しい姿ですね。何か、理想的なことだけではなくて、いわゆる6次産業化の部分を地道につくっていくような、その2本柱で実際に進めていくしかないのではと思っています。


工藤:ちょっと話が飛ぶ感じになると思うのですが、福島の原発事故以降、今後、この国のエレルギーが原発に依存することはかなり難しいなと思っています。やはりエネルギーをどんどん投下していくような産業構造というのが、日本自体で持たないのではないかと。もうそれも全部変えていかなくてはならないのではないか、という議論が一部で始まっています。震災は、東北の話だけではなくて、日本経済そのものの大きな変化を促している、ということなのでしょうか。

山田:そうだと思いますね。特にエネルギーの問題というのが、今回、非常に大きな問題として出てきましたね。実は地方経済をどう再生していくかということ自体は、震災前からあった問題なのです。これが改めて今回出たということなのです。これは日本の産業構造全体を冷静に考えていったときに、例えば、新興国のキャッチアップということがどんどん出てきていますから、何でもかんでも国内でつくるということは難しくなってくる。先程申し上げたように、比較的単純なものはむしろ思い切って外に出していく。日本のものづくりの所は、国も一緒に関与する形で、本当に先端の技術を国家プロジェクト的にやっていく。その1つとして東北で、環境技術プラスIT部分の所で、集中的にやったらどうかという話ですね。

工藤:ただそれは経済界がもっとそういう発言をしてないとダメですよね。山田さんと僕だけが話していても、なかなか経済界でそういう議論が出てこない。

山田:そうですね。これはかなり大きな変革になってきます。それと、雇用の問題というのは、日本で大きな問題ですね。既にある雇用を実は変えないとダメなのですね。単純労働の所はどうしても減ってしまう。もっと流通分野だとか、モノづくりでも技能のあるところに移ります。そうすると、たとえば職業訓練の在り方などを大きく変えないとダメなのです。ところがそこの部分がなかなか全体として進んでないわけです。産業を変えろということは、雇用の在り方を変えるということですからね。


問われているのは日本の雇用や産業構造の転換

工藤:そうなってくると、日本の雇用なり産業構造の大きな転換の時期に、この震災は流れを変えるようなひとつのきっかけになってしまった、ということですね。ただそうは言っても、被災地から見れば、間違いなく今被災している人が、どんどんいなくなるのではなくて、被災地の中で働く場がちゃんとできて、生活を取り戻していくという流れをどうしてもつくらなくてはいけない。そうなってくると、やはり今みたいな国家的な議論が必要だと同時に、さっき言ったような農業とか漁業でこれまで働いてきた人たちが現場に戻りながらでも、それが次世代にもつながる仕組みも作らなくてはいけないということになるのですかね。

山田:そうですね。だからそれは2本柱ですね。国家プロジェクトのところと、もう1つはやはり農業・水産業中心に、現地の人々が主体的に考えないとダメなのですね。中央でいくら議論してもダメで、あくまで中央は地域のバックアップなのですね。だから、やはり被災地の人々が主体的に考えていける仕組みを早くつくらないと。中央で議論しているだけでは、やはりダメなのだと思いますね。

工藤:この前この番組に来ていただいた元岩手県知事で、総務大臣もやられていた増田さんが、被災地を回ると中央の議論が非常に遠く感じる、と。つまり、自分たちはまさに雇用もないし、生活がどうなるかわからなくて、不安を感じているのに、何かこう中央にいくと夢みたいな話だけをしている。そのことを非常に気にしていたのですね。
 今の山田さんの話も、現実的な話で、雇用と言っても日本経済そのものがかなり厳しい、大きなチェンジというか、変化の局面にあって、だからそんな楽観する話ではないよ、と。それでも東北の雇用を守るということになると、よほど覚悟を固めないといけない、という話ですよね。今は地域の人たちはかなり困っているのだけど、自分たちのことについて考えるような段階、ステージに入ってこないと、中央との議論がつながっていかないし、流れが変わるような1つの転機がつくれないような気がするのだけど、どうでしょうか。東北は、何とか経済的な復興ができていくと思っていますか。


東北復興は現場主導で新しいモデルに挑むべき

山田:今回、震災を経てよく言われるのが、「つながり」っていうのですかね。地場のつながりとか、あるいは底力というようなことを、改めて再認識されていると思うのです。実際それはあると思うのです。もう1つは、一部でそういう議論も出ていますけど、地方分権の流れで、今、中央で議論しているのではなくて、東北を思い切って、一種の分権特区ではないのですが、分権をやって現場主導の流れをつくる。今は大変な状況だけれども、何とかしようと思われている方は沢山いらっしゃると思いますから、そういう方を中心に、東北から始まる分権というのを実現して、これまでとは全く違う産業モデル、史上初のモデルみたいなものを是非つくっていただきたいなと思いますね。

工藤:わかりました。やはり被災者の人生再建、生活再建というのは、最終的には雇用によって固まるわけですね。そうなってくると今、一人ひとりの被災者に寄り添って、何としても早く立ち直ってほしい、という動きをみんなでサポートしなくてはいけないのですが、最終的には雇用の場をどうつくるのか、ということをかなり考えなくてはいけないという段階にきたなということを改めて今日は感じました。
これは1回くらいで終わるような話ではないので、さらにいろいろな形で議論を進めたいと思っております。
 ということで今日は時間です。今日は山田さんと震災後の東北地域の雇用の問題を、産業構造を含めて、どのように変えていかなくてはいけないのか、ということにまで言及するような議論をやってみました。皆さんはこれを聞いてどう考えたでしょうか。ではまた来週。今日はどうもありがとうございました。

山田:ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は東日本大震災後の東北での雇用問題、そして日本全体の雇用問題について議論しました。
ゲスト:山田久氏(日本総研調査部主席研究員)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月8日に放送されたものです)
ラジオ番組の詳細は、こちらをご覧ください。