出し手受け手双方の良識が悪貨を駆逐する/松井 道夫(松井証券株式会社 代表取締役社長)

2010年2月21日

松井道夫氏松井 道夫(松井証券株式会社 代表取締役社長)

1953年長野県生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、日本郵船を経て87年義父の経営する松井証券に入社。95年より現職。経済同友会幹事、規制改革会議委員。著書に『おやんなさいよ でもつまんないよ』ほか。


 『悪貨は良貨を駆逐する』。エリザベス一世財政顧問であり、シティー繁栄の元となった王立取引所創始者のトーマス・グレシャムの言葉(彼が言ったのかは疑問)は言論の場にもいえることである。情報通信革命の進展下、WEB上では匿名掲示板が花盛りであり、動画情報のコンテンツもデジタル化してリアルタイムで検索可能(GOOGLE)となる時代が到来した。こうした情報の中には玉が混ざっているとはいえ、数の上では圧倒的に石が多く、質の高いコンテンツは質の低いものに淘汰されるという現象は今後益々進むのであろう。だからといって、こういったものを無くせと言うつもりはない。又無くせるものでもないだろう。パンドラの箱は開いたのである。素人参加の何が飛び出すか分からない生放送的なものと、プロの綿密な計算の上に演出されたものと、どちらを世は受け入れるのであろうか。そもそも視聴率とか発行部数などといった商業主義そのものの指標が大手を振って歩くことが限界に来ていることを、今のマスコミは真に分かっているのだろうか。「じゃあ、一体どうすればいいと言うのか」と開き直っているのが現状だろう。低俗なTVバラエティー番組や、記者クラブという不可解な仕組みの下での大本営発表的記事に触れるにつけ、20世紀的マスコミが断末魔の叫びをあげているのを実感するが、さりとて、そのオルターナティブが判然としない中で『悪貨が良貨を駆逐する』という現象が今顕在化している。

 英国BBCの人気シリーズ【モンティー・パイソン】のずっとファンであるが、一見ドタバタ番組風でも「金に汚く、偽善者の集まりで、大衆迎合的ファシズムの芽となる政治屋たち・・・との誤解を与えるつもりはありません」というナレーションに、シニカルな英国文化の本質を見せ付けられた故のファンなのであるが、一方で、政治や経済ネタで、タレントや評論家やらが眉間に皺寄せて展開されるトークショウには全く関心がなくなり、最近はTVや新聞から随分と遠ざかった生活を送るようになってきた。私のような凡人はそういったものに影響され易いことを知っているが故の自己防衛行動である。とはいえ日々の生活やビジネスで一向に困った覚えはない。情報は世に溢れかえっている。必要なのはフィルターである。フィルターを訳せば良識なのかもしれない。出し手受け手双方の良識が相互作用してフィルターを創る。良識を計るリトマス試験紙が民度である。この民度というのは、ある意味、人間活動の舞台である広義のマーケットの成熟度を指すものであり、どんなマーケットにも所謂『市場の失敗』というものが付き纏い、幾多の『市場の失敗』を経験した上でマーケットは成熟していくものである。マーケットと言えば資本市場を想起するが、例えば、今大量に発行されている日本国国債が悪貨かどうかは、最後はマーケットが判断する。又、戦後実質社会主義体制の下での資本主義ごっこをしてきた中で成長してきた日本株式市場においても、その未熟さゆえの『悪貨が・・』現象が後をたたない。これもいずれマーケットが判断する。その際、社会は相当の痛みを経験するが、それも成熟の為と思うより他ない。言論というマーケットでも同じことが言える。論壇の力が嘗て程無くなってきたというのはマーケットを無視した統制的考え方であり、マーケット自体が情報革命という大革命により根本的に変質してきたということである。そうした新しいマーケットに悪貨が大量に入ってきて良貨を駆逐しているのが現状であろうが、一方で世間の良識がこれを放置しておくことは無いというのが楽観主義者の私の考えである。

『悪貨は良貨を駆逐する』。エリザベス一世財政顧問であり、シティー繁栄の元となった王立取引所創始者のトーマス・グレシャムの言葉(彼が言ったのかは疑問)は言論の場にもいえることである。情報通信革命の進展下、WEB上では匿名掲示板が花盛りであり.....