「2011年度予算は未来に向かう予算なのか」
  -ON THE WAY ジャーナル 2011.1.12 放送分

2011年1月12日

 放送第15回目の「工藤泰志 言論のNPO」はゲストに慶応大学経済学部教授の土居丈朗さんをお迎えして、年末に言論NPOが行ったアンケート結果でも評価が低かった政府の予算案について議論しました。
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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― 2011年度予算は未来に向かう予算なのか

 
(2011年1月12日放送分 18分31秒)

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「2011年度予算は未来に向かう予算なのか」 

工藤: おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る、ON THE WAY ジャーナル、毎週水曜日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
 さて、既に新しい年が始まっています。今年は、この国の未来を決めるための基礎固めの年にしたいと先週、私は言ったのですが、相変わらず政治では、依然として内閣改造とか、小沢さんをどうするかとかごたごた続きです。だけど、この1月に僕たちが本当に考えないといけないことは、この国の予算の問題なのですね。今月開催される通常国会で、予算を決められるかが焦点になっています。私たちはこの予算について、この間議論してきましたけれど、日本が財政破綻しないために、また財政再建に対する道筋をきちんと描いているのか、さらには私たちの約束についての実現がどの程度、政府が真剣にこだわっているのか、ということを、きちんと考えなければと思っています。
 今日は、この予算を考えるときに、この国では無くてはならない先生がいまして、今メディアでも引っ張りだこなのですが、慶應大学の土居丈朗教授に、スタジオに来ていただいています。土居さん、今日はよろしくお願いします。

土居: よろしくお願いいたします。

工藤: さて、番組では、ご意見やご感想、取り上げて欲しいテーマなどをお待ちしております。色々とメールがかなりきているのですが、その内容が全部本格的なものでして、これを説明するためには、1番組とらなければいけないので、今日は勘弁してもらって、必ず改めてやりたいと思っていますので、よろしくお願いします。皆さんもご意見・ご感想をどんどんお寄せください。番組ホームページの水曜日、工藤泰志のページにいっていただいて、そこでメールやツイッターでよろしくお願いします。
 ON THE WAY ジャーナル、「言論のNPO」今日のテーマは「政府の予算案、何で言論NPOの評価はこんなに低かったの」という形で、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。


言論NPOの評価は21点

 昨年の暮れに、僕たちは100日評価を発表しました。菅改造内閣発足後100日というのは、12月25日のクリスマスの日だったのですが、その後の27日に評価を発表しました。財政分野での評価は100点満点中21点でした。21点は低いかどうかと言ったら低いに決まっているのですが、他の分野も低いので、相対的に低いかと言われれば、真ん中ぐらいの点数でした。だけど、やはり菅政権は、まさに強い財政をつくり、財政再建をきちんとやるということを、少なくとも参議院選挙の時には言っていましたので、私たちは、かなり厳しく評価したという感じなのですね。今日は、土居先生もいらっしゃいますので、僕たちの評価は厳しかったのですが、この100日について、まず土居先生の感想はどうだったのかということを、一言お願いできますか。


中身は非常に説明不足

土居: 確かに、昨年の6月に菅政権は財政運営戦略というものを出しました。ここでは、いくつかのことを決めているのですが、まず1つは、平成23年度予算案の歳出の大枠、つまり国債費を除いた歳出全体を71兆円に押さえること、それから、国債発行額について44兆円を下回るようにすること。それから、2015年までにプライマリーバランの対GDP比を半減させて、2020年までには黒字化するということをいっていました。前2者については、最初の関門になっているのですが、これは何とかかろうじてクリアしました。そういう意味では、一応点数をあげてもいい点だと思います。ただ、その他の中身ということになると、71兆円の枠に収めることで精一杯という感じがあって、社会保障費の高齢化によって増える自然増の部分については結局野放しにされ、その辻褄合わせに四苦八苦したという状態です。本当はもっときちんと説明をすれば、私ならばそれなりに説明できる部分はあるのですが、全然菅内閣としては説明をしていない。例えば、法人税を減税して、所得税の内、高所得者の給与所得控除を縮小した。この1つをとってみても、その2つは学者からすれば整合性がある、と政権交代の前から言っていたことだったりするのですが、その説明たるや、企業には優遇して高所得者のような取れるところから取る、みたいな雰囲気すら漂わせている程度にしか、残念ながら菅内閣は説明できていません。それから、確かに、公共事業を削減し、教育費は全体としてはちょっと減っていますが、メリハリをつけている面はあるのですが、それについての説明はほとんどないような状況です。いい予算をつくっているようにも見えるのですが、中身は非常に説明不足、さらにはマニフェストとの整合性もきちんと説明できていません。


工藤: 今、土居先生に基本的なおさらいというか、評価をしていただいたのですが、これから僕も聞きたいこともありますので、議論を進めていきたいと思います。今日は、こういう形で、土居先生と予算案について話していきたいと思います。


何のための財政運営戦略なのか

 早速なのですがこの予算案を見て、まず、菅さんは財政再建をやらないといけないだろうということを言って、それに踏み込むために財政運営戦略をつくったわけですね。だから、予算案を見ると、財政運営戦略は実現した、ということですよね。でも、財政運営戦略が何のためにあるのかというと、日本の財政を再建することです。つまり、財政の中で非常に過大な借金が累増して、規律が働いていない。この問題を何とか変えて、最終的な国際公約である2015年のプライマリー赤字のGDP対比の半減、2020年のプライマリーバランスの黒字化、という目標があると思うのですが、今回の予算案はそれとの整合性ということで、道筋が非常に見えない。それだけではなくて、去年もそうなのですが、今回も税収を上回る借金、これは僕たちが家計レベルで考えても、自分の家計の収入よりも毎年借金が多い、ということはマズイのではないかと思うじゃないですか。今回もそうなってしまっている。だから、結果としてどんどん借金が拡大していく構造が今回も止められなかった。これについては、どう見ればよろしいのでしょうか。


土居: 結局の所、政治主導と言っている割には、党内の目に見えない反発を恐れて、及び腰になっているというところだと思います。例えば、2015年、2020年というのは、確実に衆議院議員も参議院議員も、1回は選挙をしなければいけないというぐらいのことは分かっているので、自分の任期中ではないかもしれないとか、もう1回選挙する時に新しく何かを言えば、2015年とか2020年までの目標を達成するような方策を、その時になれば考えられるかもしれないという淡い...

工藤: 誰かがね。自分ではなくて。


土居: そうそう。淡い期待があって、そこはアグリーするわけです。ところが、目先の来年度予算とかいう話になると、確実に自分は衆議院議員や参議院議員であって、それをきちんと自分の手で、賛成するなら賛成する、反対するなら反対するというふうにしないと、有権者から突き上げを食らうということは分かっている。ということになると、歳出については増加圧力、税収については増税反対圧力がくるということになるわけですね。そうすると、結局歳出の大枠を71兆円と言っているのですが、確かに平成23年度予算というレベルで言うと、それなりの妥当性があるかと思うのですが、次の24年度、25年度についてもこの3年間連続して71兆円以下にすると言っているだけでは、全然プライマリーバランスは改善しないのですね。余程、景気が良くなって、税収が増税せずとも大きく増えるということでない限りは、プライマリーバランスは改善しないという動きになっているわけです。結局のところ、それが分かっていて、党内をきちんと説得する必要があるのにやっていない。こういうことじゃないと、プライマリーバランスは改善しないのだから、申し訳ないけれど来年、再来年と協力してほしい、歳出削減に協力してほしいとか、もっともっときちんと浸透させていかなければいけない。そのためには、ある意味で恨みを買うとか、嫌われ役にならざるを得ないという人が、閣内にいないといけないわけです。ところが、そういう汚れ役、嫌われ役がいなくて、結局自分もいい顔をしようと思っているところがあるから、結局は緩い歯止めしかかかっていない。それが、財政健全化のための道筋とは、必ずしも整合的にはなっていない、ということになっているのだと思います。


工藤: 僕から見ていると、官僚は悪い悪いと言うのだけど、政治が政治主導で今までの昔の政治と違うのは、自分たちの意思で財政再建をちゃんと動かせようと。さっき、汚れ役と仰っていましたが、そういう人たちがいないと成り立たないわけですよね。でも、見ていると、官僚の方が、財政当局の方が何となく色々と縛りをかけて、このままいったら日本は破綻してしまうかもしれないけど、それを押さえていて、かろうじてそのレベルは何とか守られている。しかし、政治の意思で、本当に財政再建をして、何かをするというビジョンなり、そのための道筋が全く見えないために、このままいったら、ダメになってしまう感じがしてしまうのですよ。


財政再建に向けた政治の強い意志が感じられない

土居: 私もそう思います。つまり、よくある予算絡みの俗説で、財務省陰謀説とか、財務省主導説というのはあるのですが、その裏返しは何かというと、政治家が汚れ役になっていないことだと思います。つまり、省庁横断的に、こういうビジョンのためには、メリハリ付けをすると。優先順位の低い予算は申し訳ないけどカットする、というような嫌われ役を買って出ないといけないわけですね。それが嫌だから、結局その嫌われ役を財務省に押しつけて、財務省も頼まれているから、もしくはある種の自分たちの力を誇示するということも含めて、出ていって抑制をするとうことをやっている。極端に言えば、財務省の官僚がやっている程度にしか抑制できない。

工藤: そうですね。だから、政治は無責任ですよね、完全に。

土居: そうそう。本当は、政治主導というのは、省庁横断的にやってこそ政治主導だと思うのですね。ところが、今の政治主導というのは、各省の三役が省内で自分の意見を通すために、省庁縦割り丸出しで政治主導をやっているということです。

工藤: これ、色々な人たちにちゃんと説明しなければいけないのは、この菅政権が任期上続く2013年まで、支出にキャップをかけるような枠組みはきちんとやろうと言っているわけですね。しかし、それをやったからといって、2015年、つまり任期満了2年後のプライマリー赤字という目標とは、全然連動していないということですよね。

土居: そうです。


消費税の増税頼みなのに、その説明もない

工藤: この前、内閣府の試算を見ていたら、8兆円ぐらい足りないという試算でした。ということは、消費税を値上げして初めて成り立つということです。しかし、政治家は消費税の増税を今恐くて言えないから、その間はちゃんとやりますよ、ということに過ぎないわけですよね。

土居: そうですね。一番鍵になってくるのは社会保障だと思います。つまり、もう消費税を10%ぐらいまでに上げないといけないだろうなという腰だめの見通しは、自民党も民主党もできてはいるのです。ところが、それを言っただけではだめだというのが、この前の参議院選挙の結果だったわけです。つまり、まず税率がありきで、その中身がなしというのは、国民は受け入れないと。そうすると、後はコンテンツをきちんと提示しないといけない。そういう時期にきているわけです。

工藤: そうですね。今回予算の一律削減の時に、シーリングに戻しました。やはり、社会保障の自然増が毎年1.3兆円増えることは容認する。そして、他のところを切り詰めて、切り詰めたところから、特別枠1兆円とやったわけですが、この仕組みもうまく成功しなかった。しかし、この論理の組み立て方が変ですよね。社会保障は大事にするということはわかるけど、それをどうやって効率的にやるかというビジョンを示さないといけない。社会保障は毎年1.3兆円ずつ増えていくわけですから、10年で13兆円になってしまう。そうなったら、他の予算がなくなってしまうじゃないですか。こういうことも非常に綱渡り的な感じがするのですが、どうでしょうか。

土居: 明らかに言えることは、自民党の厚労族と言われていた方々は、その分野については非常にエキスパートではあったのですが、業界と癒着しているのではないかと疑惑があったので、風評をかったところがありました。一方で、民主党の中の社会保障の専門家を見ていると...

工藤: あんまりいないでしょ。

土居: もちろん、いないというのはあるのですが、もう1つは、ここが足りない、ここをもっと充実させてほしいという不満の声を聞いている専門家が多い。

工藤: それだったら、自民党と似ているじゃないですか。

土居: ところが、自民党はここを削らないでくれ、ここの診療報酬も守ってくれという部分も請け負っていた部分もあるわけです。

工藤: なるほどね。

土居: だから、本当はここの部分はちょっと余分ではないか、こっちは足りないのではないかというところを、きちんと余分なところを削って、足りない部分を埋めるということをしないと、社会保障というのはうまく回らないわけです。それが残念ながら、民主党内の専門家でもそこまで把握している人がいないので、削ってもいいところは削ればいいのに、足りないところばかりつけている。


5兆円の補正をなぜ組んだのか

工藤: だから、どんどん増えていくという感じになってしまうわけですね。
 時間が無くなってきたのですが、1つ土居先生に聞きたいのは、昨年の11月に5兆円の補正予算が組まれているわけですね。そこで、僕たちが気になっているのは、あの時は日本の経済がデフレスパイラルでどんどん落ち込むというわけではなくて、経済はかなり良かったわけですね。じゃあ、その5兆円は何のために使ったのか、その中身を見てみると、例えば、本来は成長戦略など本予算で使えるようなことが、前出しで使われているわけですね。もしくは、その5兆円があるのであれば、本予算をもっと削れたのではないか、ということが言えると思うのですが、その辺りはどうでしょうか。あの補正予算は、国会対策のためにやったという議論があるわけですよ。

土居: 明らかに政治的な意図を多分に含んでいるとしか思えないですね。
工藤: でしょ。でも、あれは財政運営戦略プランをつくった後ですよね。

土居: そうです、後です。だから、結局、自民党時代から相変わらずということなのですが、補正回し、補正で逃れると。シーリングをはめているのは、あくまでも当初予算までで、補正予算は枠外ということになって、この予算は、当初予算でシーリングがはめられて認められなかった各省の不満を、ガス抜きするために補正でやっている。

工藤: でも、それだったら財政再建を本当に厳しく、覚悟を決めて国民に説明していると言えないよね。

土居: そうですね。だから、私も菅内閣になる前ですが、国家戦略室の中にあった予算編成の在り方に関する検討会のメンバーに加わったのですが、その時にも直接大臣以下に申し上げたのは、補正予算を含めたシーリングをはめずに、当初予算だけだと補正予算で逃れられてしまうと。ところが、残念ながら菅内閣ではできなかった。


マニフェストは実現できないのに修正もしない

工藤: できなかったということですね。最後に、マニフェストなのですが、菅さんは国会でマニフェスト実現については誠実に取り組むと。できなければ、国民にちゃんと説明しますというふうに代表質問で説明しているのですね。今回見ていても、3.6兆円をマニフェストで使ったのですが、一昨年の衆議院選挙の公約と比べると4分の1ぐらいです。できないのだったら、できないで説明したほうがいいと思うのに、依然それを説明しない。あたかも、それがまだ続いているかのごとく幻想を維持している。それだけではなくて、今回ペイアズユーゴーという形で、財源がないものはやらないというルールに変えたのに、そのルール変更についても国民にちゃんと説明していません。僕は、マニフェストをそのまま実現しろと思っているわけではないのですよ。ちゃんと優先順位をつけて、できないことはできないと言って、国民に伝えないといけないのにそれもしない。これはどうですか。やっぱり、点数は低くなってしまいますよね。


土居: つまり、正直に言って得るモノと失うモノがあると。できないモノを意固地になって守っていることによって、得することと損することがあるとすれば、比較衡量してどうするかということを判断すればいいのですが、まず比較衡量している形跡がない。更には、今の私の見方では、正直に言った方が得るモノが多いと思うのですが、そういう判断もしていないから、なかなかマニフェストをやるのだか、やらないのだか。生かさず、殺さずという形になっているという気がしますね。


工藤: 僕はね、財政再建をするということは、当然国民に対して、ある程度の負担を今後必ずお願いすることになるし、公共サービスの低下につながることもあるかもしれないと思っています。だとすれば、政治側として、こういうことについて規律を持ってやるのだというかなり強い、そこまでやるのか、とこちらの側が驚くぐらいのことがないと、国民は信用できないでしょ。


土居: そうですね。だから、欧米の政権交代というのは、むしろそうなのですよね。自分たちの党を支持してくれなかった人に対する予算は、申し訳ないけど削りますよとか、そういうメリハリがあって初めて、政権交代だと思います。悔しかったら、今度の選挙で勝ってみろ、というようなくらいの覚悟がないと、予算のメリハリづけはできない。八方美人になってはダメだということだと思いますね。


バラまきで満足する時代は終わっている

工藤: ただ、土居先生が初めに言っていましたけど、財政再建は国際公約ですから、欧米も非常に厳しいのですが、政権は自分の任期とか、目先の選挙とか、今年統一地方選挙があるとか、それだけで政治を繰り返していたら、この国は本当に終わってしまうと思うのですよ。これでは話にならないので、菅政権、少なくとも今の日本の政治は、政治にまず責任を持ってほしい。その上で、国民にちゃんと説明して、国民との信頼関係を回復しないと、ダメだなと。で、この問題が、まさにこの1月に国会で話し合われるわけですよね。徹底的に話し合わないといけないときに、内閣がどうとか、政治的な議論だけで終わってしまったら話になりませんよね。最後に一言お願いします。

土居: やはり、国民はばら撒きだけでは満足するという時代は終わっているので、政治が財源と、政策の中身をきちんと国民に示す。それで評価を受けるという覚悟を、政治家は持ってもらいたいですね。


結局、未来が見えない予算としか言いようがない

工藤: ということで、今日もまた時間になりました。また熱い話になったので、時間が足りなくなってしまったのですが、今日は土居先生と、政府の予算案について議論しました。この予算案は未来を切り拓く予算だったのか、について色々議論しました。多分、皆さんの中でも色々な考えがあると思うので、意見を寄せていただければと思います。私たちは、今年も、こういう形で議論をしていきますので、またよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。

土居: ありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

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