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【vol.40】 横山禎徳 論文『日本の対アジア戦略をどう構築すべきか 第1回』

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.40
■■■■■2003/08/05
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●INDEX
■ 論文 横山禎徳(社会システムデザイナー)
  『日本の対アジア戦略をどう構築すべきか 第1回』


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■ 論文『日本の対アジア戦略をどう構築すべきか 第1回』
  横山禎徳(社会システムデザイナー)
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先のイラク戦争は世界の与件が大きく変化したことを物語っている。今や「大国の混
迷の見本」となった日本は、こうした外的な環境変化だけではなく、内的環境の変化
の中で、国家戦略の見直しの時期を迎えている。現在、フランス在住の横山禎徳氏は
国家戦略の立案の枠組みを提示、その中で日本が持つべきアイデンティティの一試案
として、日本がアジア諸国の「Thought Leader」になることだとし、そのギャップ
を埋めるための日本の強さの徹底活用を主張する。


●対外戦略の持つ多面性

東京にある英国大使館とフランス大使館の場所をご存知だろうか。英国大使館は千代
田区の内堀通り沿いにある。皇居に面し、春にはその塀に沿って桜が咲き乱れる。内
堀通りを通る人の多くはあれが英国大使館だと知っている。一方、フランス大使館は
港区の表通りから入った細い道に面している。敷地内には広い芝生の立派な庭がある
のだが、ロケーションはあまりよくない。多くの人はどこにフランス大使館があるか
知らないだろう。

俗説では、江戸末期に幕府と薩長が争ったときにフランスは幕府を支援し、英国は薩
長側についたため、勝てば官軍で、明治政府から英国はその大使館の敷地取得に便宜
を図ってもらったが、フランスはそれに関しては不利だったという。真偽は知らな
い。しかし、国の対外戦略がそのような長い時間軸と歴史的因果関係を持って語られ
る一例である。

最近のイラク戦争におけるフランスの対応も、複雑な側面がある。オットマン帝国崩
壊直後、現在のトルコからイラクへの地域の権益に関して英仏間の協定ができてい
た。そのサイクス・ピコ合意(1916年)までさかのぼって理解すべきだとフランスの識
者は指摘している。その歴史的背景をもとにフランスは戦闘機などの武器の売却、民
間交流などイラクとの比較的親密な関係を最近まで維持してきた。シラク大統領が平
和主義者だという単純な見方はできない。サダム・フセインによる圧制からイラク人民
を解放することを、アメリカは大義名分として主張した。しかし、その陰に、世界第
2の埋蔵量を誇る石油権益、そして戦後の国家再建などのいろいろな権益の問題に対
して、戦後処理の過程で誰がどのように対処するかの問題が厳然として存在してい
る。

イラク戦争に対する大規模な反戦デモは世界各地にあり、アメリカ国内やイギリスで
も盛り上がった。しかし、ブッシュ大統領とブレア首相はそのような動きを無視して
開戦に踏み切った。戦争中も多くの国で反戦デモが大規模に行われた。サダム・フセ
インの政府を倒すのに戦争という強引な手段が必要かについての納得感がなかったの
が原因だ。このように、一般市民の素朴な感情と国家の意思とは、一国の対外戦略と
いう場面では乖離しがちである。

それだけでなく、国対国という抽象的なレベルであるにもかかわらず、中心にいる権
力者の個性や信条、そして、その権力基盤の安定性などが、国家安全保障、そして地
政学的判断に大きく影響することも分かっている。とりわけ今回のイラク戦争では、
ジョージ・W・ブッシュの個人的なキリスト教的信条が強く表現されたこともあり、
イスラム教対キリスト教という宗教的対決の側面が拡大する可能性もある。日本に
とってイスラム教と、今回の場合のイラクは遠い世界であり、日本政府は、国内の反
戦感情は強いにもかかわらず、安保体制と北朝鮮の動きなど、その置かれている地政
学的立場からアメリカ支持を表明した。「解放軍」になるためには「侵略軍」になること
も辞さないというアメリカの意志表明は北朝鮮を追い詰める結果になるであろうし、
その先行きの不確実性は日本の安全保障の新たな問題である。

サダム・フセイン体制の崩壊が明確になった4月9日のニューヨーク・タイムズは、喜
ぶ群集をかき分けて前に出てきた黒い伝統衣装をまとった老婦人が指を天に向け、「ま
だ終わっていない。まだ何も分からない」とレポーターに叫んだことを伝えている。ア
ラブ世界は、今回の結果をアンビバレントな感情をもって受けとめた。アラブ諸国だ
けでなく、全世界は今回の結果を人道的、国際法的正当性と武力的正義との間で、感
情を含めてどう納得すべきか分からなくなっている。

このように、一国の対外戦略は一筋縄ではいかない多面性をもっている。時間軸だけ
とっても超短期から超長期までの側面を扱わないといけない。その間に世界観のパラ
ダイム転換が何度か起こり得ることをこの目で確かめた。これらのことを十分理解し
た上で、日本は世界の中でどのようなプレゼンスを築くべきか、そのためにどのよう
な対外戦略をとるべきかの問いに今、速やかに答えないといけない状況にある。


●「アジア諸国」の定義

中でも、相互影響が直接的である近隣諸国に対して日本がどういう存在であるべきか
をはっきりさせることは、極めて重要な課題である。近隣諸国の中核は一般に言うと
ころのアジア諸国である。加えて、日本海の対岸にあるロシア、そして、太平洋を隔
てて対面しているアメリカをも含めて考えるべきだろう。ハワイ州はシンガポールへ
行くのと同じ5~6時間で行ける距離にある。

ここで「アジア」という表現は慎重に扱うべきである。「アジア」というまとめた見方
が意味を持つ場合と持たない場合の両方があり得る。「アジア」とはそれぞれの多様
な宗教と文化、そして人種構成を持ち、異なった経済の発展段階にある国々の総称で
あり、共通項は必ずしも多くないことは既に何度も指摘されている。また、イギリス
において長年「アジア人」とはインド人のことであったように、どこの国までが含まれ
るのかという点で「アジア」の外延はあいまいだ。私たちの普通の感覚では、イン
ド、そして、オーストラリア、ニュージーランドも入らない。

しかし、一方で、「アジア」という捉え方が意味を持つ場合もある。例えば、海運にお
いて「アジア域内」は20年前までは北米、およびヨーロッパ航路に対する付随的
フィーダー航路という扱いであったが、今では、「アジア域内」の航路は世界的に重
要な存在になっている。「アメリカス」に比べるとやはり定義があいまいな「ヨー
ロッパ」が意味を持つ範囲内で、その対比において「アジア」というくくりもあり得
る。

このような視点に立つと、「アジア」は各国ごとの分析と理解が必要なのは当然である
が、一方でいくつかのグループの集まりと見ることもできよう。その場合、政治的、
経済的、軍事的、その他何を基軸にして議論するかの目的に応じてグループの構成国
を変える必要があるだろう。ここでの議論では、近隣諸国という意味も含めて「アジア
諸国」と呼ぶことにする。


                          ──次号へつづく──


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