【vol.56】 小川是×保岡興治×村松岐夫『マニフェストの策定と実行過程の課題(3)』

2003年11月25日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.56
■■■■■2003/11/25
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  ■クオリティ誌『言論NPO 2003 vol.3――マニフェストと日本の争点』■

      総選挙の争点と注目を集めるをマニフェストを総力特集。
   「政策評価委員会」を立ち上げ、過去2年間の小泉改革の分野別に評価。
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●INDEX
■ 『有権者と政党に緊張関係』 工藤泰志 (言論NPO代表)
■ 座談会 小川是×保岡興治×村松岐夫  司会:曽根泰教、工藤泰志
  『マニフェストの策定と実行過程の課題 第3回』


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■ 『有権者と政党に緊張関係』 工藤泰志 (言論NPO代表)
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●マニフェスト選挙の意義と課題

マニフェスト(政権公約)を軸に政権選択が問われた先の選挙は、有権者と政党との
間に新しい緊張関係を構築するという点で大きな意味を持つものであった。

小泉政権は一応、信任はされたが、もはや自民党内の改革争いだけでは国民の強い支
持は得られず、党が掲げる理念、納税者の生活実感に伝わる説明義務、実績を問われ
ることがはっきりした。政権を争う政党は現政権の批判だけではなく、それを上回る
政策パッケージ、改革への理念の提示、政権の実行能力を問われた。有権者の選挙で
の選択はその点で極めて合理的な判断の結果ともいえる。

私たちは今年の夏、選挙での各党のマニフェスト評価に先立ち、小泉改革の実績評価
を行い、結果を公表した。その際に実施した各政策分野での評価案に関する有識者ア
ンケートでは、今回の選挙とほぼ同様の結果が出ている。

小泉氏の改革姿勢は評価できるが、それに実績が伴っていないという結論である。首
相の指導力と同時に抵抗派を党内に有する体制内改革の限界を指摘する声も多かっ
た。つまり、ぎりぎりの及第点であり、有権者が今回の選挙で示した民意、「もう一
度だけ様子を見たい」との声である。

小泉氏個人への期待よりも実績をこれからは評価するという厳しい見方は、マニフェ
ストの登場と政権選択の受け皿が生まれ始めていることの裏返しの現象でもある。

小泉氏が掲げる改革が進むためには二つの課題があると私たちは指摘してきた。党内
や「官」の硬直してきた政策決定プロセスや社会保障などに代表されるすでに行き詰
まった従来型システムを破壊するだけでなく、それを作り替えるための首相の指導
力。さらには改革に伴う国民負担についての国民への説明である。

選挙戦ではマスコミが年金や道路問題でのその再設計と負担を争点化させ、ある程度
深まった。だが、本来は政党自身が率先してその実態を国民に説明し、解決策を提示
するべきものである。

この点では消化不良のまま選挙は終わったが、だからといって公約の不明確さが免罪
されたわけではない。こうした公約実行と政策目標と達成手段の明確化のため、政権
へのプレッシャーを今後も強めなくてはならないし、その実績での有権者も次の選挙
は政権を選択する必要がある。


●政府は自己評価の年次公開を

マニフェスト選挙は有権者と政党の間に緊張感をもたらし、政策本意の政権選択とい
う新しい政治の可能性を生み出しはした。だが、これはあくまでもまだ初めの一歩を
踏み出したに過ぎない。選挙での公約が実際に連立与党、政府の政策となり、その実
行が評価され、監視され、それを踏まえて国民が投票するという循環が動き出さない
と、本当の意味でのマニフェスト型政治の実現はできない。

私たちもその実行を適時、的確に評価して有権者への判断材料を提示する作業に取り
組むつもりだが、こうした民間の動きを広げるためには、政党側も評価可能な政策の
実行プロセスとそれに伴う国民への情報開示のあり方を再構築すべきである。

私たちが先に行った小泉改革の実績評価はその作業が容易ではなく、政策当事者や専
門家などの協力を得ても半年近くも要した。政党と各官庁、経済諮問会議と各審議会
の「同床異夢」の構造が評価作業を難しくし、測定するために必要な情報が積極的に
開示されていないためだ。

メディアも評価の視点からそのプロセスに報道の重点を置くことが必要だが、政治側
もマニフェストを選挙戦術だけに活用するのでなく、国民との契約との観点から実行
の枠組みを提示すべきであろう。

そのためにも首相主導の政策実行の仕組みと審議会などの再構成、政策課題ごとの閣
議、法案策定の情報開示や予算・決算の在り方の見直し、各公約の工程表を提示する
必要がある。さらに政府には政権公約の達成を示す自己評価書の年次公開を求めた
い。

                    (03/11/18 毎日新聞夕刊より転載)

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■ 座談会『マニフェストの策定と実行過程の課題 第3回』
  小川是 (日本たばこ産業会長)、保岡興治(衆議院議員)、
  村松岐夫(学習院大学教授)
       司会 曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)、工藤泰志 (言論NPO代表)
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マニフェスト型政治に向けて政治や行政は本当に変わるのか。内閣と与党、官僚シス
テムなど実行過程についての論点は何か。自民党・保岡議員は、官僚の限界を超えた
総合的な政策設計に向けて政治の改革が進展していると現状を評価。行政学者である
村松教授は、重要テーマを評価する民間機関の必要性を強調する。元大蔵事務次官で
ある小川氏は、権限とミッションの所在を明確にした政治のリーダーシップの下で公
務員の志が生かされることへの期待を表明する。


●実行体制の仕組みをどうつくるか

曾根 次に、具体的にマニフェストの実行体制をつくるためには仕組みをどう変えた
   らいいのか、どこを動かしたらいいのか。それから、実行を担保するものとし
   てどうチェックするのかということをお聞きしたいのですが。

小川 私は2つだけ申し上げたい。1つは、内閣人事です。政治家はなぜ政治家になる
   んだといつも問いかけたいわけです。私は、国を動かしたいからだという思い
   が最大の動機だろうと思う。そのためには政権を取らなければいけない。だか
   ら、党として選挙に勝たなければいけない。勝ったら、自分はその地位につき
   たい。それがかなわないときには、こういうことをやりたいということだと思
   います。今の我が国の憲法や行政組織法や内閣法は、それを想定しているのだ
   と思います。最後は総理大臣の責任で、何としても政権党のリーダーである総
   理が人事の責任を持って行うべきと思います。

   2つ目は、官僚が政党に直接接触するというのはまことにおかしいことだと私
   は思っています。しかし、自分が役人の間は、慣習法に従ってやっていまし
   た。私は自民党に仕える公務員ではないにもかかわらず、事実上それに近いこ
   とになっていた。公務員になった以上、私が党員であるということは全く別の
   問題だと思います。ですから、行政官と政党との関係をどうしたらよいか、現
   状に対する問題としてあると思う。官も政党もせっかく動き出しているわけで
   すから、その方向をしっかりつくっていく必要があります。

曾根 とても重要なポイントをご指摘になっていただきました。公務員と政党との関
   係は日常的な接触が日本では無制限に許されていますが、イギリスでは慣習法
   的にそこを制約してルールとルートを決めています。つまり、大臣・副大臣経
   由か、もしくは委員長に手紙を書く形で自分の選挙区の要望などを訴えるとい
   うイギリス型はもう1つのパターンです。イギリスでおもしろいのは、マニ
   フェストを書く段階になりますと、総選挙から1年半ぐらいたったところで
   しょうか、接触解禁になる。野党側も接触できるようになる。つまり、野党側
   も具体案になると大蔵省の資料とか情報が必要ですので、フィージビリ
   ティー・チェックをかけるために野党も接触できるようになる。もちろん与党
   側もできる。このあたりが非常に重要なポイントなのだろうと思います。ある
   意味で自民党は自分の手足として官僚機構を使っている。それが議員内閣制だ
   と言う方も随分おいでになるのです。村松先生、制度論としてどうお考えで
   しょう。

村松 憲法によれば、どちらもありです。多分禁じてはいないと思う。ですけれど
   も、公務員の一定条件下における政権党を含む政党への接触禁止はあり得るこ
   とだと思うのです。眞紀子法案というのが一時あって、一部方向性として似た
   ものがありました。政党、特に政権党と公務員の間に、今までの本当に密度の
   高い協力関係も必要だった時期があるわけですが、むしろ今は秩序がある方が
   いいということで、いろいろなルール化の方向を模索するという方向へ踏み出
   すべきであると思います。

曾根 政党の方は、公務員との接触の問題は保岡先生が大分ご苦労なさったと聞いて
   いますが、先の改革案で一番反対があったところはどこだったのでしょうか。

保岡 私たちが先にまとめた案は非難ごうごうの中でまとめたのですが、皆さんが考
   えるよりマイルドで、現状を前提としている案でした。それでも反対が強かっ
   た。

   日本では政治家が果たしている大きな役割に陳情をこなすという役割がありま
   す。どうしても地方の住民のニーズを吸い上げて、それを中央政府につなぐ役
   割は国会議員の役割になっている。これはある意味では民主主義でもある。こ
   れをやめることは、日本における政治のダイナミズムを失わせることにもな
   る。憲法でそれが許されるのは、行政のチェック機能が国会にはあって、それ
   を実行するのも国会議員ですから、そういう意味で制度的にも担保されている
   わけです。公務員との接触は、個別の政治家の陳情であったり、あまりにも地
   域性にこだわるものであったりする。そういうところは国会議員の良識や節度
   で整理しなければならない。

   ただ、当時は、鈴木宗男さんの問題やいろいろな問題が一気に噴き出した時期
   でしたから、政務官や副大臣、大臣などの政治家が陳情を処理することで、良
   識のある陳情に変化しないかと提言したのですが、それにしてもダイナミック
   な変更で、その3人に代表させて受け付けるというのは現実にはなかなか大変
   なことです。

   曾根 個人の公約をお書きになる議員の先生方という問題を指摘しましたが、
   個々の選挙区において、選挙は自分の後援会で自前でやっているので、党では
   ないという意識が非常に強い。議員の方々が各選挙区でどのくらいフォローし
   ているのかというと。これは市会議員がやることじゃないかというぐらいの細
   かい手当てを地元でしていると思いますが、そのこととマニフェストという大
   きな方向性とを、どう調整したらいいのか。大変難しいと思いますが。

保岡 国会議員にありとあらゆる陳情がくる。しかも、県知事も市長も放棄するよう
   な住民の説得も、我々が出かけていって住民と協議しながら公共事業のあり方
   を決めていく。国会議員が主導しないと地域が動かない。これは地方分権が徹
   底していないことの結果です。

小川 さっき私が官僚と政党の関係を申し上げたのは、今のような執行面の問題では
   ありません。それは最も重要な議員の機能だと思いますから、手続をどうする
   か。透明性を確保すればやり方は幾らでもある。私が申し上げたかったのは、
   政策の企画立案、政党が掲げた政策は、内閣を組織して、そこを通じて行政を
   動かすべきだという意味です。

   もう1つ、マニフェストをつくるときに公務員との接触をどうするかとか、
   フォローはどうするか。私の頭の中には与党とか野党を別に考える考え方がな
   いものですから、したがって、野党のときにもどういう接触をするかというこ
   とも、執行面の問題とは別に検討するべきです。


                          ──次号へつづく──

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