問われているのは国民一人ひとりの当事者意識

2014年6月25日

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問われているのは国民一人ひとりの当事者意識

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:工藤さん、お久しぶりです。いよいよ7月18日には2回目の日韓未来対話、9月末には「第10回 東京-北京フォーラム」が開催されますね。これから、言論NPOによる民間外交が大きく進展していくと思いますが、これまでも工藤さんから言論外交、あるいは民間外交の意義についてお話を伺いました。

 ただ、昨今の国際情勢を見ていると、ウクライナ、シリア問題を皮切りに、どうも政府をベースにした外交、安全保障のディメンジョンが変わってきているような感じがします。そうすると、工藤さんのおっしゃっている民間外交の意味も変わってくるのではないかと思うのですが、そのあたりをお聞かせいただけますか。


政府間外交の環境づくりに向けた民間側のチャレンジ

工藤:今のご指摘は重要だと思います。2カ月前にワシントンを訪問して多くの人たちと色々な議論をしてきました。その後、韓国や北京に行ってさらに議論をしたのですが、私たちが取り組んでいる民間外交が非常に難しい局面に来ている、と考えています。特に、ワシントンでは、ウクライナの問題が最大のイシューでした。その議論では、これから市民がグローバルに展開し、課題解決について考えていくというものではなく、まさに今、地政学的な対立が世界で幅を利かせている、という指摘がほとんどでした。

 しかし、私は、そのことに同意はするものの、どこか違うなという思いで話を聞いていました。なぜかというと、確かに外交・安全保障というのは政府が行うものですが、特に東アジアではその外交が機能していないわけです。安全保障の枠組みというのは、単なる防衛という観点から形成されるのではなく、その上に外交があってこそ安全保障の枠組みがつくられるのです。しかし、東アジアに関してはその「外交」がない中で、その隙間を私たちが取り組んでいる民間外交、民間対話が埋めている状況です。こういった局面の中で、集団的自衛権を含めた軍事的な、つまり防衛的な枠組みだけの議論が先行してしまう。私は集団的自衛権の行使容認は必要だと思っていますが、外交が不在の中で抑止力だけを高める、という問題だけを提起すると、今度は抑止力のジレンマに陥ってしまいます。つまり、抑止力の拡大を競い合う中で外交が機能せず、緊張感だけが生まれてしまう。

 確かに、色々な対立があり、地域的な不透明感は存在するのですが、だからこそ外交の力というものが問われているのだと思います。その外交が、政府間外交で機能しないとすれば、今、その環境づくりのために私たち民間がチャレンジする局面ではないか、と思っています。

田中:今、おっしゃったように政府の外交を否定しているわけではなく、その環境をつくっていくことが民間の役割である、とのことですが、具体的に工藤さんはそれをどのようにつくっていこうとお考えですか。


健全な「輿論」が国境を超える時、課題が解決に向けて動き出す

工藤:特にアメリカの人たちと議論をしていて感じることですが、一番の問題意識としては、北東アジアは今後対立しかないのだろうか、ということです。例えば、日本も将来的にまだまだ発展しなければならないし、東アジアの中で大きな役割を果たし世界的に貢献していかなければいけない。一方で、中国も国内的には非常に大きな問題を抱えていますが、経済的には発展して、アジアの中で一つの大国として位置づけられている。韓国にも大きな役割があるとして、そうした国同士はこれから対立しかないのだろうか、本当にそれでいいのだろうか、と私は思うわけです。政府間の対話が全く行われない状況の中で、東シナ海の上空では日中両国の航空機がニアミスを起こし、両国の国防関係者、自衛隊関係者がお互いに批判し合う、という状況がずっと続いているわけです。こういった状況は、どうすれば解決できるのだろうか、ということを私たちは考えなければならなくなってきているわけです。

 私は今のように対立だけを促進し、相手だけを批判していくという構造は、おそらくソリューションを生まないと思っています。例えば、東シナ海上に緊張があるならば、この事態は危ないからすぐに協議をしようと呼びかけたり、実際に動くことが政府の役割だと思います。ただ、政府が動けないとすれば、民間レベルで、一歩でもいいから先に議論したり、その議論の内容を多くの国民や市民に伝えることで、多くの人たちが、これはちょっとまずいのではないかとか、こういうこができないだろうか、というような考えをつくり出すことが重要ではないかと思っています。要するにこれは「世論」をつくり出すという問題なのです。やはり、不健全な今の状況を変え、問題を解決していくためには、健全な輿論をつくり出し、政府間外交の環境をつくっていくことが必要だと思います。そうであるなら、言論NPOも一つの大きな役割を果たせるのではないかと感じています。

 私は、デモクラシーをきちんと機能させたいということで、言論NPOを13年前に立ち上げました。健全な輿論が機能する動きというのは、まさにデモクラシーそのものなのです。民主主義というものが機能するために、輿論を大事にしていく。その輿論が国境を越えて、色々な国の人たちとも合意をして協力し、課題解決に向かい合う環境をつくっていくべきだと思います。特に、平和や紛争回避という点で、手を握っていかないと、さっきも言いましたが、非常に厳しい地政学的な対立が前面に出てくる状況では、緊張だけが高まってしまう。この流れを私はどうしても変えたいと思っています。

 今回行われる韓国、そして中国も含めて、流れを変えるための対話を公開して、多くの人が見守る中でやりたいし、それを多くの人に伝えたい。その中で、この状況を解決しよう、という大きな流れをつくりたいと思います。

田中:「課題解決」を一つのキーワードにして、それをオープンな議論の場で実践することによって、「世論」にアプローチし、それを「輿論」に変えていく、ということを実現したいということですね。


「輿論」から「世論」へ 

工藤:政府も政治家も今、存在している課題を解決することに対する責任があり、そうしなければいけないと思っている人は沢山いると思います。しかし、主権を争うようなことに関しては、譲れない、という問題が出てきます。だからこそ、別な声が必要なのです。やはり、一つの声だけが取り上げられるというのは非常に危険だと思います。多面的、多様な意見が社会の中にあり、その意見やソリューションの大きな方向性は、あくまでも平和や多くの人にとって必要な目的、利益を実現するための声に集約化していくべきだと思います。それはやはり、市民や民間でないとできないと思います。

 言論NPOはそのために取り組んでいかなければ、と思っているし、これからかなり難しい局面になりますが、ようやく勝負というか、それに向けて取り組みが本番を迎えるな、と感じています。

田中:言論NPOはクオリティの高い議論を行うことを、立ち上げ当初からミッションとして掲げています。そして、輿論をつくるという点に関しても、ある程度のアウトプットが出てきていると思うのですが、やはり民主主義の議論をしたときには、世論に結び付けていかないといけない、という大きな課題がありますね。

工藤:そうですね。集約はあくまでも、国民一人ひとりの当事者意識なのです。その問題を多くの人たちが考えてくれないと、デモクラシーは強くならないし、課題解決もできない。多分、日本の未来なり、東アジアの将来を考えると、私たち有権者の立ち位置が問われてくると思います。だから、そのための環境づくりを少しでも私たちはやりたいと思っていますので、是非、多くに方々に力を貸していただきたいと思っています。

田中:輿論から世論へ、というところに関しては、なかなか苦戦していると思います。ただ、決して折れずに頑張っていただきたいと思います。

工藤:はい、頑張ります。