「今回の選挙で各党は日本の課題にどう向かい合っているのか」共産党編

2017年10月17日

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評価委員と公約を更に深堀りする

笠井亮:共産党政策委員長
聞き手:
湯元健治(日本総研副理事長)
工藤泰志(言論NPO代表)
⇒ 共産党の公約説明
⇒ 代表の工藤が公約に切り込む

 第一部、第二部に続いて、言論NPOの評価にかかわっていただいている湯元健治氏(日本総研副理事長)にも加わっていただき、共産党の公約を掘り下げてみたいと思います。

第三部:経済政策、社会保障の財源をどう考えているのか


kudo.jpg工藤:それでは湯元さん、専門的に突っ込んでください


人口減少により内需だけでの税収確保が難しい中、
  高齢化で自然に増えていく社会保障財源をどう賄うか

yumo.jpg湯元:日本経済の問題を見ると、一つは、先進国の中でも最高のスピードで高齢化が進んでいます。今の高齢化比率も26%で先進国最高だし、これから2060年代にかけて40%までいくということですが、他の諸国でも30%まで届かないということなので、これからの数十年間は物凄い高齢化で社会保障が足りないという状況が、どの党が政権を握っても起きてきます。

 二つ目に、社会保障の財源をどう確保していくかについて、基本は経済成長、あるいは増税をして税収を増やすしかないと思いますが、増税に耐えられるだけの経済強化をしなければなりません。その点、日本の場合、内需拡大は重要ですが、それは簡単ではありません。なぜなら、人口が減っているからです。そうすると、内需を強化しながら、外需も強化する。そのためには企業の国際競争力も強化していく必要があります。そうしないと、中国、韓国、台湾などが追い上げてきて、日本もうかうかしていると大変だという局面にあります。

 そんな中で、共産党のマニフェストを見たとき、確かに消費増税には反対ですが、他の増税によって17~23兆円の財源を確保しています。これだけ財源を明確に掲げている政党は他にはないので、これは評価できます。しかし、共産党が掲げている17兆円というのは、自公政権が削った社会保障を元に戻すとか、格差を縮小するとか、教育無償化するとか、そういった課題に対する対応を意識して書かれていると思いますが、それプラスαで、本来何も改革をしなくても、高齢者数が増えるだけで増える財源というのがあります。これは、17兆円を消費税換算すると、7~9%規模です。ということは、消費税は17%。何もしなくても、私の計算ではそれくらいにまで上げる必要があるということですが、どうなのでしょうか。

ka.jpg笠井:まず、健康で長生きし、高齢者が増えることは良いことだという認識が前提にあります。それに加えて、少子化によって支える側が少なくなるという問題はありますが、まず、少子化の克服については、雇用とか、働き方とか、そのように少子化の克服ができる施策が必要です。

 海外に調査に行ったときにも、フランスで少子化が本当に深刻になったときは、第3子に対する支援を強めるということをはじめとして、政府が支援に乗り出したということも効いていました。当時厚労省から出向でフランスに調査に行った専門家がいますが、それらも含めて、少子化をどうするかという国家規模の取り組みが必要です。

 それから、今、社会保障について、政府が行っている自然増の抑制の4600億円だけでいいというわけではなく、年金の問題もあるので、そこのところはしっかり考えたい。

 それから、そうは言っても高齢化で社会保障がかかるだろうということですが、その財源として、消費税なのかということも問われます。消費税は、所得の低い人に負担が重い、良くない税制だし、立憲民主党も、10%は今はダメだと言っています。一方で、法人税はどんどん下げている。財源提案でも書きましたが、景気回復して、国民の所得も増えて、社会保障の抜本的改革をやれるということになると、消費税よりも、累進的(所得の低い人ほど負担が軽い)という点で、所得税となります。所得税で6兆円、安定的な経済成長により10年間で20兆円。景気回復で国民所得が増えたところで、所得税を上げて累進にするということで、消費増税をしないということです。さらに、先ほどの、大企業や富裕層への優遇税制をやめて応分に負担を求めることを考えています。

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法人税の引き下げ競争をやめるよう国際協調すべき

湯元:では、何の税で増税していくのでしょうか。日本は非常に厳しいグローバル競争にさらされていて、ヨーロッパも法人税を下げて競争力強化をしてきました。アメリカもトランプが20%まで下げると言っていて、イギリスも大きく下げました。その中で、社会保障を元に戻すということを提案されています。

 社会保障の財源はどこから生まれるかというと、グローバル競争に勝ち抜いて、外から相当の金を稼いで、経常収支を生み出していくことで、初めて家計にも所得が生まれるのです。そうすると、所得の源泉である企業に重い負担を課すと、国際収支上非常に厳しくなるし、難しいと思います。スウェーデンは社会保障がものすごく充実していますが、その源泉は消費税の25%、あるいは住民税である。非常に高いが31%もある。国民がこれに耐えられるかはまた別ですが。一方で、法人税は22%まで下げています。

 つまり、スウェーデンでは国民が納得していると思いますが、企業が稼いでくれて初めて社会保障が成り立つという考えです。他の社会保障が充実している国も基本的にそのような考えを取っているので、法人税を増税している国はほとんどありませんが、どう考えているのでしょうか。もちろん、格差の是正の観点からはあり得ますが、国際競争力を落とすという観点はどうでしょうか。

笠井:法人税については、実質的な企業負担は、世界的に見ても非常に軽いと思います。それから、法人税も各国がお互いに下げ合ってやっていくのはどうなのかという問題も、これは日本だけでなく国際協調も出てくると思うので、そこは日本政府も役割を果たすべきです。どんどん下げればいいというものでもないし、その部分で努力すべきです。

湯元:大企業への優遇税制で一番大きいのは研究開発税制ですが、こういうものこそ本来イノベーションを起こし、国際競争力をつくるために必要だと思います。それを全廃でいいのかは本当に議論が必要です。

笠井:全廃かどうかは別として、今のやり方は相当優遇しています。


実質賃金上昇に必要な生産性向上をどう実現するか

湯元:共産党の切り口は、マニフェストを見ると一番重視しているのは、格差の拡大にどう対応していくか、所得をどう再配分していくかということで、これは国民の中でも意識が強いので良いと思います。一方で、格差は是正しつつ、一定の成長もする必要があります。実質賃金が減っているということも事実ですが、実質賃金を上げるには、理論的には生産性を上げるしかありません。どうしたら生産性を上げられるか。働き方改革は、従業員の過重労働を抑える目的もありますが、単純業務に時間をかけすぎて付加価値が出ない今の状況に対して、生産性をもっと引き上げろということが、それが働き方改革の最大の目的だと思いますが、そういう意味で、どのように生産性を引き上げれば良いかについてお聞きしたいです。

笠井:やはり、そこで働いているのは人間なので、きちんと休息も取って、(退社から翌日の出社までに一定間隔を空ける)インターバル規制などもありますが、それも含めて一日の労働時間とか、人間らしく働けるようにすることが必要です。今は逆に、長時間の過密労働で生産性が低いという問題が起きています。普通に8時間働きながら、生産も増やしていくという社会になることが必要です。


グローバル化は否定しないが、経済主権を守るためルールは必要

工藤:昔は共産党の考えがかなり現実離れしているという考えがありましたが、今は現実をぶつけているので、納得できる議論もあり得ます。ただ、そのつじつまが合っていないということに疑念があるだけです。例えば、共産党は、開放された自由経済を認め、グローバル化の中でも、それを維持しつつ、国内の利益のために、格差を是正したりするために動いています。それは世界もそうです。ただ、貿易の入り口のところを保護的にするとなると話は違いますが。

笠井:我々はグローバル化は否定しません。ただ、その中でも経済主権はあるし、この前TPPでさんざん議論になりましたが、そのあたりでの調整は必要です。全部投げ出して、農業を投げ出してしまってどうするのか、と。逆に資本主義国の中でもきちんと農業をやっていけるということで、それを保護主義だからダメだと言うのではない、グローバル化の中でやっていくというのだから、各国それぞれ得意の分野があり、お互い調整しながらやっていくということなのです。ただ、少なくともルールは必要です。強い輸出国から入ってきて、一気につぶされてしまいます。

 だから、TPPでもアメリカ主導でどんどんやっていっていいのかということで議論があり、実際にアメリカが脱退してもう入らないということになりました。トランプ政権は、むしろ二国間でやって自分たちがもっと有利な形になるようにということで、二国間FTA(自由貿易協定)などを進めています。それから、トランプ政権になってから最初の日米首脳会談がありましたが、実際には、より強い国が自分たちの国に有利になるように圧力をかけるのが現状です。それに対して、これだけは譲れないということで頑張るというのは重要だと思います。

工藤:あと、国際的な秩序については、グローバルな自由とか多国間主義は守ろうという意思でしょうか。つまり、民主主義、自由といったところです。例えば、中国が南シナ海で問題を起こしていますが、法の支配などについてはどうでしょうか。

笠井:これは当然守ります。国際的な秩序は守った上で、どうするか、ということになります。それから、市場経済の中で私たちがどのようにやるかという問題があって、同じ資本主義でもヨーロッパでできてなぜ日本でできないのかという問題があります。EUは苦労もしていますが、働き方の問題とかいろいろあって、フランスやドイツで勉強しても、欧州でできてなぜ日本でできないのかという問題があります。将来どのような社会体制になるか分かりませんが、そこでルールがある資本主義というか、国民一人一人がきちんと生きていけるような社会経済を目指すのは当然のことです。

工藤:かなり現実的な話ができて驚いています。共産党が本当に政権を取るとき、綱領の問題があって、志位委員長は綱領をかなり柔軟にしていると聞いていますが、共産主義といっても世界にそのような国はなく、実際には宗教のようになっています。


まず安倍首相の横暴を正した後、どんな社会をつくるか国民合意で考える

笠井:今までに共産主義国があったかというと、自分は違うと思います。ソ連も共産主義ではありません。ソ連でも議論しましたが、社会主義の名でこんなことをされたらたまらないと批判していたら、結局ソ連も崩壊しました。歴史上、共産主義の国はありませんでした。我々は、科学的社会主義とも言っているが、かつてのソ連型とか、中国型とも違う考え方です。これまでの日本の経済社会を踏まえながら、どうなるかを考えたときに、将来的に、科学的社会主義、共産主義ということがあるだろうと思います。生産手段の社会化ということをやっていくことも考えていますが、それは将来の話で、まず現実的には、国民合意でどのような社会をつくるかは考える必要があるし、意見を出し合う必要があります。今度の総選挙では安倍さんの横暴を正して、政治、民主主義を国民の手に取り戻すのが出発点です。その先どうするかは、また意見を交わしながら考えたいと思っています。

工藤:特に2025年問題に対するプランも出してほしいと思います。

笠井:それは先ほどもけっこう言いましたが、みんなで考えながら出していきます。経済活動の中で企業の役割と責任ということもあります。私は、大企業にとっても我々の提案がプラスになると思います。働き方なども含めてそうだし、大企業への応分負担の問題によって、国民の懐も温まり、内需も増えるということもあります。それから、この国でこれだけ人口と勤勉さがあって、その日本の経済力を生かすということはあります。そのことは大企業にもプラスになります。

工藤: 長い時間ありがとうございました。

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