【座談会】社会保障制度の抜本改革、将来像は未だ見えない

2003年11月07日

oshio_t031008.jpg小塩隆士 (東京学芸大学教育学部助教授)
おしお・たかし

1960年生まれ。83年東京大学教養学部卒業後、大阪大学にて国際公共政策博士号を取得。83年より経済企画庁、91年よりJPモルガンに勤務する。94年立命館大学経済学部助教授、1999年より現職。主著に『教育の経済分析』『社会保障の経済学』などがある。

nishizawa_k030826.jpg西沢和彦 (日本総研調査部経済・社会政策研究センター主任研究員)
にしざわ・かずひこ

1965年生まれ。89年一橋大学社会学部卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。98年さくら総合研究所へ出向を経て、2001年組織変更により日本総合研究所調査部。専門分野は社会保障。著書『年金大改革』、共著『税制・社会保障の基本構想』がある。

nakamura_m031008.jpg中村実 (野村総合研究所研究理事)
なかむら・みのる

1949年生まれ。73年に一橋大学卒業後、野村総合研究所に入社。87~89年には、米国経済担当エコノミストとして、ニューヨーク事務所に勤務。資本市場調査部、経営調査部など経て、97年研究創発センター・研究理事に就任。2000年より経済同友会保障改革委員会主査。主な共著に『日本再生への処方箋』など。

yumoto_k031008.jpg湯元健治 (日本総研調査部 経済・社会政策研究センター所長)
ゆもと・けんじ

1957年生まれ。80年京都大学経済学部卒業後、住友銀行入行。84年日本経済研究センター、92年日本総合研究所に出向。98年経済戦略会議事務局に出向。2001年日本総合研究所調査部、金融・財政研究センター所長兼主席研究員。02年より現職。大蔵省主税局「税制研究会」委員、日本銀行エコノミスト懇談会メンバー。

概要

小泉総理は自らの任期中は消費税率の引上げはないと断言した。しかし、年金など日本の社会保障制度は維持可能なのだろうか。そもそもこの問題を考える視点は何なのか。3人の専門家が議論に参加し、小泉内閣の社会保障制度改革を評価した。経済財政諮問会議の場や厚生労働省の改革案など議論が活発化していることは大きな前進だが、国民負担の問題も含めたトータルな視点や具体的な方向性などは未だ踏込み不足であり、評価は極めて厳しいものとなった。

要約

従来は厚生労働省の専管事項だった社会保障問題についても、小泉政権ではマクロ全体を統括する経済財政諮問会議からボールが投げられた。しかし、蓋を開ければ、この問題でも諮問会議はプレーヤーの一人に過ぎず、医療、年金、介護をその財源である税も合わせて一体的に論ずることへの期待にも十分応えられず、議論も抽象的なレベルにとどまっている。年金改革については、世代間格差の是正、国民年金の空洞化(保険料未納者の拡大)への対応、積立金の運用をどうするかの3点が取り組むべき課題だが、骨太方針はいずれの論点についても曖昧である。年金問題は、政治的に国民の合意形成をどう図るかが問われているが、小塩氏は、そもそも超長期の制度設計は民主的な意思決定過程に馴染まないとし、望ましいデザインを描き切る説明責任への覚悟が問われるとする。西沢氏は、世代間格差を是正するためには、40歳代以上の給付カットや負担増で得られた財源をそれ以下の世代につけかえる必要があり、有権者の大半を敵に回すリスキーな覚悟なくして改革は進まないとする。中村氏は、若年層の投票率の低さが問題であり、50歳代以上の世代が子や孫を守るために自らの給付カットを決意するキャンベーンが政党から出ることが重要だとする。厚生労働省案の中で最も注目されている保険料固定方式でも世代間格差は是正されず、特に人口の低位推計で試算すれば、今後高い保険料を負担していく世代の給付は極めて低いものになるのであり、少子化対策を始め様々な具体的な対応が急務であるにも関わらず、それらは極めて不明確なままだ。小泉内閣の社会保障政策に厳しい点をつけた西沢氏は、払えないような約束よりも払えるだけに給付をとどめて国民に安心感を与えることの方が重要だとする。中村氏は、給付の削減と現役世代の負担軽減を政党が明快に発言すべきであり、ジャーナリズムも責任あるオピニョンを持つ時期であると主張する。小塩氏は、小泉総理自身がこの問題にどの程度関心があるか疑問であるとし、郵貯の民営化などよりも社会保障改革で国民を納得させることの方が急務だとした。


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小泉総理は自らの任期中は消費税率の引上げはないと断言した。しかし、年金など日本の社会保障制度は維持可能なのだろうか。そもそもこの問題を考える視点は何なのか。3人の専門家が議論に参加し、小泉内閣の社会保障制度改革を評価した。