日本の政治はどこに向かうのか

2011年6月15日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は日本の政治に詳しい、コロンビア大学教授のジェラルド・カーティスさんをスタジオにお迎えして、日本の政治はどこに向かうのか?震災後の政治はどうなっていくのか?を議論しました。

ゲスト:
ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学教授)

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月15日に放送されたものです)
ラジオ番組の詳細は、こちらをご覧ください。


「日本の政治はどこに向かうのか」

工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は、私、言論NPO代表の工藤泰志が担当いたします。

 さてこの間、日本の政治ではとても大きな動きがありました。この収録は6月9日なので、放送日には日本の政治が大きく変わっている可能性があるのですが、間違いなく菅政権は退陣に向かって動いていまして、退陣後は大連立を志向する動きが、日本の政治で始まっています。こうした大震災を契機にして日本の政治の混迷というか、変化をどう考えなければいけないのか、ということが今日のテーマです。

 さて今日は、テーマに沿った絶好のゲストにスタジオに来ていただいております。コロンビア大学教授で、日本の政治にも非常に詳しい、ジェラルド・カーティスさんです。カーティスさん、よろしくお願いします。

カーティス:おはようございます。

工藤:ということで、今日は、カーティスさんをお迎えして、「日本の政治はどこに向かうのか」ということでお送りしたいと思います。
 さて、菅政権は不信任決議をめぐる騒動から退陣という方向に進む、政治の世界に大きな変化が起ころうとしています。こういう政治の状況を、カーティスさんはどう見ていらっしゃいますか。


日本の政治に当面、希望は持てない

カーティス:20年ぐらい前から日本は政治の過渡期に入って、冷戦時代も終わり、1990年頃から西洋に追いつくという目標を達成し、その後バブルがはじけました。それから、どうすればいいのかということを、未だに探っていますよね。「創造的破壊」という言葉があります。「破壊」の段階が長すぎて、創造性のない党となっているのだけど、もう少ししたら新しいものが生まれなければならないのですね。長期的に見れば、何とかなるだろうと思うのですが、今年、来年に日本の政治がよくなるかと言われれば、全く希望は持てません。菅さんが近いうちに辞めるだろうし、もしかしたらこの番組が放送されている時には、既に辞めているかもしれないけど。ただ、私はその後、多分、大連立はしないだろうと思います。

工藤:しないと思っていますか。

カーティス:してもしなくても、次の政権が長期政権になる可能性はゼロですよね。ごく短いもので、その後、総選挙を経てどうなるのか。政党再編が行われるのかどうかはわかりませんけど、当分、落ち着いた大胆なことのできる政治は生まれないと思います。今の状況を一般の日本人は困っているし、中でも誰が一番困っているかというと、東北の被災地にいる方々ですね。彼らを助けるような政策がつくられないし、残念ながら、その現状が近いうちに変わるとは思えません。

工藤:なるほど。カーティスさんは被災地へ行って、現地を歩いたということが報道にも出ていましたけど、被災地は瓦礫の山で避難所に行っている11万人ぐらいの人達も、これからの生活に対して、非常に不安を感じていると思います。僕たちも、もっと市民がボランティアにいこうという動きを展開しているのですが、まだまだ足りなくて、遅れているという状況です。そういった被災地の現実と、日本の政治という問題を比較して、現地でどのように思われましたか。

カーティス:1つは、日本の政治との関係というよりも、ボランティアが東北の色々な所でもの凄く活躍していますよね。多分、50万人ぐらいの人が関わっています。また、外国人のボランティアも結構きています。

工藤:そうですね。外国人が瓦礫処理をやっている姿を、この前写真で見ました。


被災地に見られる変化の兆し

カーティス:私が岩手県の大船渡に取材に行ったら、HANDS ONというNPOの外国人の人達がボランティアをやっていました。そうしたら、20年前の僕の学生も来ていました。長く教えていると、学生が色々なところに現れてきますね。彼も、投資銀行で金儲けをして、引退して東京に住んでいて、それで日本のために何かしたいということで、大船渡に住み込んでやっています。

 そういうことは非常にいいことだと思うのですが、被災地の方々の話を聞いていると、全く希望が持てないという話が非常に多い。その希望を持たせることは、政府の仕事なのですね。菅さんの問題だったのは、国民に言葉を伝えるためのコミュニケーションが足りないことです。もちろん、言葉だけでいいわけではないのですが、まず政府が、あなた方の苦しみを理解している、だから、必ずやりますから希望を持ってくださいと言うことが必要だと思います。

 この間、アメリカのミズーリ州で竜巻がありましたが、オバマさんが直ぐに現地に飛んで行って、「our government is with you」、政府が一緒にがんばるから、希望を持ってがんばりましょうと言うわけです。そうしたら、ミズーリ州は共和党支持者が多いところなのですが、もうオバマブームなのですね。それがリーダーシップなのです。それが菅さんにはない。谷垣さんにあるかと言われれば、そうは見えない。では、次に総理大臣になり得る人に、本当のリーダーシップがあるかと言われてもないと思います。では、どこにそのリーダーシップがあるか。日本の地方の政治家、首長にはそのリーダーシップがあると思います。僕が行った南三陸町、あるいは南相馬市、大船渡市などの首長たちは、本当に現場で闘っているから、何が必要であるか分かっているのですね。

工藤:確かに、現場で闘っている人達は強いですよね。単なる議論ではないですから。

カーティス:そう、こういうものが必要だということで、各論になるわけですよ。東京の政治家たちに会うと、総論ばかりで心が東北に行っていません。政治家が視察に行っても、30分ぐらい話を聞いて、ヘリや新幹線に乗って東京に戻るでしょ。現地は偉い人が来たからという対応をしなくてはならず、地方の首長にとっては、ただの迷惑にしかすぎませんよね。

工藤:そうですね。僕も被災地に入っているボランティアの人たちと色々議論をしているのですが、そういう人が言うことも同じで、中央の政治家が視察に来ても、ほとんど役に立たないと。必ず省庁に取り次ぐとは言うのだけど、その後、連絡がきたことはないというのですね。

カーティス:現地に行って、写真を撮ってもらって町長に会いましたと、東京に戻って、選挙民に言えるぐらいのことでしょう。


工藤:僕は、もう1つ感じたことがあって、この震災こそ日本にとってのチャンスではないか、と初めは思っていました。

カーティス:チャンスですよね。

工藤:まさにそこで、国民との合意を形成して、ちゃんと課題に対して政治が取り組むという流れをつくれないかと思っています。

カーティス:僕が東北に行って、一番思ったこと、また、今までの僕の考え方が変わってきたことは、地方分権のことです。お金と権限を地方に渡して、地方に任せれば今のシステムよりもうまくいきます。


中央の政治は意味のない権力闘争

工藤:今まではそうは思っていなかったのですか。

カーティス:もちろん地方自治は大事だと思っていたのですが、これまではかなり抽象的だったのです。今回、被災地に行ってみたら、例えば、ある町に1億円渡すことになったとして、今のままだと農水省関係は3000万円、厚労省関係は2500万円というように、それぞれ官庁が担当することになるのですね。そうではなくて、町長に1億円を渡して、必要なところに使ってくださいということになると、絶対にうまくいきますよ。日本の国民は、もっと地方自治を求めるような運動をするべきだと思いますね。

工藤:なるほど。そういう現実を見て東京に戻ってくると、中央の政治は分裂というか、いがみ合って退陣騒動になって、不信任案の決議をやっている。

カーティス:しかも、その騒動が政策の争いではなく、意味のあまりないただの小さな権力闘争ですね。

工藤:この状況下で、日本の政治は権力闘争しかできないというのは、それなりに理由があるわけですよね。

カーティス:この国をどういう国にすればいいかというビジョンを持っている政治家がいないということですよね。

工藤:それは、ズキンときているのですが、そうなってくると、日本の政治をどうするかというよりも、被災地や日本が直面している課題を解決しなければいけないので、解決するための政治をどうつくっていけばいいのか、ということなのですが、変化の兆しはありますか。さっきは、あまり希望が持てないとおっしゃっていましたが、そうすると、これからこの国はどうなっていくのでしょうか。


大事なのは日本人の意識改革

カーティス:この東北の大震災が、日本の政治を変える絶好のチャンスだと思います。変えようとしなければ、亡くなられた方々に対して、本当に申し訳ないという気持ちになるべきだと思います。日本には色々な改革が必要だと思いますが、一番大事な改革は日本人の意識の改革だと思います。

工藤:それはどういうことですか。

カーティス:物の考え方。やはり、何でもかんでも中央政府に求めるとか、あるいは、そんなに大したことをしなくても、色々な人間関係で、次の選挙もこの政治家に票を入れる。そういう形で、政治家達を甘やかすから、政治家の方も許してもらえると思ってしまう。だから、有権者と政治家の間に緊張感が足りないのですよ。それから、国民がもっと政治家たちを厳しく監視して、色々な方法で変化を求める、その声を永田町に届けるようにしないといけないと思います。


危機こそが新しい「リーダー」を生む

工藤:よく、日本ではなぜデモが起こらないのだと言われます。つまり、有権者は自分達の投票がどういうことをもたらすのか。これは自分達の問題だと、感じていると思います。ただ、全く行動がないというわけでもない。被災地に多くの人がボランティアで行くということは、単なる評論家ではなくて、自分達で何かをしたい、という動きですから。

カーティス:日本の一般の人達、若い人達も、週末にボランティアに行くために、金曜日の夜に仕事が終わってからバスに乗って、土曜日の朝の6時ぐらいに現地に着いて、2日間、瓦礫の処理をする。そういう人達が数多くいます。それだけ、この国をよくしたい、困っている人を助けたい、この素晴らしい価値観が日本人にはあるのですね。

 ですから、時間はかかるでしょうけど、諦めるのは一番いけないことだと思います。諦めないで、できることをやる。だから、ボランティア活動をしたり、選挙の時にちゃんと候補者をよく見て選ぶとか、そういうことが必要だと思います。まあ、色々あって時間はかかると思いますが、僕は、地方から日本の政治は変わってくると思うのですよ。

 既に、地方にはいい意味でも悪い意味でも、キャラクターある政治家が多い。そして、やはり危機はリーダーを生むのですね。今、永田町に本当のリーダーがいないというのは、危機意識がないからいないのであって、東北の町長とか避難所のリーダーには素晴らしい人が沢山います。危機の時に、リーダーが自然に生まれてくる。ですから、地方のそういうリーダー達が生まれてきて、彼らが何かの形で中央に影響を与える。そのためには、マスコミの役割が非常に大きくなってくると思います。


 日本のマスコミは、政局の話ばかり書かないで、もっと客観的に、今、宮城県なら宮城県の知事が考えていること、南三陸町の町長がやろうとしていること、それに対する官僚の抵抗、日本の政権にいる政治家達の鈍感さ、それを書く必要があります。そうしたら、国民に正しい情報が伝わり、それに対して国民が色々な形で政治家にプレッシャーをかけると思うのですよ。僕もマスコミの友達は多いし、一生懸命やっている人は多いのですが、何か組織となるとやり方が古くなるのですね。夜回り朝駆けまでやって。

工藤:メディアも立ち位置を、国民側、市民側に移さなければダメですよね。

カーティス:そうですね。
工藤:まだ、政局側にありますよね。
カーティス:ありますね。永田町の中にいるということですね。

工藤:永田町の中にいて、自分の正義を出すのだけど、結局、それは政局の動きをただ補完しているだけだから話にならない。
 カーティスさんは日本の政治家を沢山知っていると思いますが、全然ダメだという感じなのですかね。それとも、何か変化は始まっているのでしょうか。

カーティス:世代交代が行われつつあるから、次の総理大臣は、今の総理大臣より若い人だと思います。多分、50代でしょう。また、5年先で言うと、民主党の中には野田、玄葉、細野などたくさんいますよね。この1年半、2年近く、大臣、副大臣、政務官を経験して、「on the job training」ということをやっているのですね。ですから、まだリーダーには見えないのだけど、もう少ししたらその中からいいリーダーが生まれてくるのではないかと思っています。


有権者との間に緊張感を取り戻すべき

工藤:最後にカーティスさんに聞きたいのですが、僕たちは政治が、衆議院を解散しないことを被災地のせいにするなと言っています。今やれと言っているわけではないのですが、国民が選挙権を行使できるチャンスを提供しないと、国民は政治を見ているだけしかできないわけですね。解散についてはどうお考えなのでしょうか。

カーティス:多分、菅さんの次の政権は選挙管理内閣だと思います。ですから、選挙は半年以内にあるんじゃないの。あった方がいいのですよ。

工藤:あった方がいいですよね。

カーティス:このままではどうにもならない。しかし、選挙をやっても、参議院は選挙がないから、ねじれは無くならない。

工藤:結果によってはねじれない可能性もあるのだけど。

カーティス:ただ、もう一度国民に審判をしてもらって、それで新しい政権が国民側に立って、政策をつくれるような再出発が必要かもしれないね。

工藤:つまり、国民が何回も政治家を選ぶことによって、新しい政党なり政治家の像が、だんだん国民に伝わってくる、そういうプロセスを経ていかないと、新しい政治の体制にいかないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

カーティス:それはその通りだと思います。ですから、この創造的破壊の段階にある日本の政治を、早く過程を目的地に持っていくためには、やはり政党再編は必要で、それから税金の問題、社会保障の問題、東北の復興政策をどうするかということを決めなくてはならない。そのためにも政治が変わらないといけないわけですね。

 このままではどうにもならないから、解散して新しい政権が生まれて、もう少し責任感を持って色々とやれればいいと思っていますね。

工藤:なるほど。私も有権者や市民と政治家との間に緊張感を取り戻したいのですね。そして、政治家に変化を迫っていかなければいけない。僕たちは今、被災地の問題に非常に向かいあっていますが、その向かいあっていく気持ちを、政治や日本の未来に向かって、課題解決に動くという形に展開しなければいけないのではないかと思いました。特に印象に残ったのは、危機がリーダーを生むというカーティスさんの言葉ですね。確かに、この危機の時に、リーダーが出ないと、いつまでたってもリーダーが生まれないような気がしますので、ここから日本のスタートが始まるぐらいの気持ちを持っていっていいのではないかと思いました。

 ということで、今日は、コロンビア大学教授のジェラルド・カーティスさんをお迎えして、「日本の政治はどこに向かうのか」ということについて、かなり冷静な視点で語っていただきました。カーティスさん、今日はどうもありがとうございました。

カーティス:ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は日本の政治に詳しい、コロンビア大学教授のジェラルド・カーティスさんをスタジオにお迎えして、日本の政治はどこに向かうのか?震災後の政治はどうなっていくのか?を議論しました。