【対談】需要創出型構造改革と雇用問題を考える

2002年2月22日

suzuki_k021125.jpg鈴木勝利 (全日本金属産業労働組合協議会議長)
すずき・かつとし

1942年生まれ。57年東芝入社、82年東芝労働組合書記長、88年電機労連(現・電機連合)書記長、96年電機連合(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)中央執行委員長、 連合副会長。96 年電気通信審議会委員、98 年物価安定政策会議委員、98年中央労働委員会委員、2001年現職に就く。02 年電機連合会長に就任。

shimada_h020425.jpg島田晴雄 (内閣府特命顧問、慶應義塾大学経済学部教授)  
しまだ・はるお

1965 年慶應義塾大学経済学部卒業。70 年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。74 年ウィスコンシン大学博士課程修了。慶應義塾大学経済学部にて助手、助教授を経て、82 年より教授。2000 年より東京大学先端科学技術研究センター客員教授兼任。01 年9月からは内閣府特命顧問として、小泉政権の政策を補佐。専門は労働経済学、経済政策。主な著書は「明るい構造改革...こうすれば仕事も生活もよくなる」。

概要

内閣府特命顧問として雇用問題を担当する島田・慶大教授と労働界きっての論客として知られる鈴木・IMF-JC議長が「構造改革と雇用問題」をテーマに対談した。政府サイドと組合サイド、と一見対立する立場にある2人だが、需要創造の必要性、セーフティーネットやワークシェアリングのあり方といった重要な論点では、驚くほど問題意識は一致した。政府対応を待つより、労使主導で実施できる雇用対策を急ぐべきという点でも2人の意見は共通する。

要約

財政支出削減、不良債権処理などを柱とする構造改革を進めると失業率はさらに高まるというのが世間一般の認識だ。これに対し、昨年夏、内閣府特別顧問に就任し、雇用問題も担当する島田・慶大教授は、530万人の雇用創出案をまとめた。島田氏の特命顧問就任によって、政府は需要創造の重要性をかなり意識するようになっている。一方、労働界きっての論客として知られる鈴木・IMF-JC議長は、530万人の雇用創出までにはタイムラグがある、構造改革は雇用セーフティーネットとパッケージで進める必要があるとする。政府の雇用政策が効果を生んでいない根本的な原因として、鈴木氏は縦割り行政の問題を指摘する。すなわち、転職情報、職業訓練、就職斡旋が一体化していないために、雇用ミスマッチを解消できないというのである。

しかし、鈴木氏は右肩上がりの経済が終えんし、成熟社会を迎えた日本では、今までのような低い失業率を維持するのは無理ではないかと、重要な問題を投げかける。その現実を踏まえたうえで、人々が安心して生活できる社会をどう実現するかが今、問われている課題だと指摘する。

この指摘について、島田氏も全面的に同意する。その際、平均失業率10%前後でも人々が豊かに暮らしているヨーロッパが参考になるという。短期的な雇用対策としてのワークシェアリングではなく、社会構造的なワークシェアリングの実施である。ヨーロッパでは、パートタイムを含めた介護労働に退職者や女性が従事し、男性が家事や育児を担当するという社会分業の例がいくらでもある。その際にポイントとなるのは、パートタイマーを含めた社会保障制度の整備である。

この点について、すでにパートや派遣など非正規雇用者の比率が27%に達した日本では、機会均等の原則からもぜひ全労働者をカバーする社会保障が必要だと、鈴木氏も同意する。さらに両者は産業界全体での人材プールによる職能ミスマッチの解消、労使双方の失業保険拠出率アップなどの案を出し合いながら、政府に頼らない雇用対策でも積極的な意見交換を行った。


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 内閣府特命顧問として雇用問題を担当する島田・慶大教授と労働界きっての論客として知られる鈴木・IMF-JC議長が「構造改革と雇用問題」をテーマに対談した。政府サイドと組合サイド、と一見対立する立場にある2人だが、需要創造の必要性、セーフティーネットやワークシェアリング